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2008.12.05 (Fri)

秘密 第22話

「あ、今からお昼?」
琴子が水沢と会ったのはそれから数日後のことだった。
「そう。水沢くんも?」
二人はそのまま一緒に空いている部屋で昼食を取ることにした。もはや水沢は琴子が結婚していることを知っている。なので二人で食べたって直樹も怒ることはないだろうと琴子は楽観的に考えていた。


【More】

「…相原さんてさ。」
弁当をつつきながら、水沢が切り出した。
「何で入江先生と結婚していること、黙ってるの?」
それは何の魂胆もない水沢の率直な気持ちから出た質問だった。その質問を受け、琴子は答えに窮した。まさか“恋人ごっこ”をやりたいからとは、さすがに言い辛い。
「…まあ、いろいろ事情があって。」
それ以上は訊かないでほしいという感じで琴子は答えを濁した。
「いろいろ事情が、か。まあ訊かれたくないなら無理に訊かないけれど。」
水沢も琴子の気持ちを察してそれ以上は詮索しなかった。

「大学卒業してから結婚したと考えると、結婚して2、3年くらい?」
「あ、私たち学生結婚だから。」
「学生結婚!?」
琴子の答えに水沢はかなり驚いた。

「…もしかして子供がいるとか?」
「違う違う!子供はまだいないの。」
できちゃった結婚でもないのかと水沢は更に驚いた。
「それにしても、早くに結婚したんだね。」
「まあ、いろいろと…。本当は大学卒業してから結婚する予定だったんだけど。」
琴子はパンをちぎりながら答えた。
「けど?」
「…入江先生のお母さんが全て計画して、もう身動きとれなくなっちゃって…。」
何だ、それはと水沢は思った。余程、切羽詰った事情でもあったのだろうか。
「親族に病気の人がいて、花嫁姿が見たかった、とか?」
よくある結婚を急いだ理由を水沢は挙げてみた。
「ううん。昔も今も入江先生と私の家族はピンピンしてる。」
ますます分からない。

二人の出会いを一から説明するには時間が足りないし、説明したところで到底他人には理解できないだろうと琴子は思い、ポイントだけを簡潔に説明しているつもりだった。が、その説明の仕方がかなり水沢を誤解させていることに気づいていない。

「あの、お二人はお見合いか何かで…?」
「ううん、お見合いじゃないの。」
琴子がジュースを飲みながら答えた。
「ということは、恋愛…。」
「それともちょっと違うかな?」
恋愛とも言えば恋愛。しかし、何せ恋人として付き合った期間がないも同然なのである。だから、今恋愛期間を取り戻すべく、琴子は日々頑張っている。
「恋愛どうこうよりも、高校の時から一緒に暮らしていたから、私たち。」
「はあ?」
琴子の説明にますます水沢は頭を悩ませ始めた。あっさりと“家が地震で崩壊したので入江家にお世話になった”と言えばいいことなのだが、地震という言葉が震災で辛い経験をしている水沢の心を傷つけることになるのではと琴子は心配し、言わなかったのだった。

「両家公認で高校時代から同棲…。で、本人たちの意思関係なしに急いで結婚。しかも、見合いでも恋愛でもない。…借金のカタにでも嫁がされたとか?それとも、息子の将来を心配した母親が相原さんを気に入って、絶対に逃げられないようにする為に早くから一緒に暮らし始めたとか…?」
琴子の気遣いは見事に裏目に出てしまい、水沢は琴子顔負けの妄想を繰り広げていた。
「分からない…。」
思わず水沢は呟いた。
「じゃ、一緒に暮らしていくうちに、何となく結婚した感じ…?」
水沢が訊いた。
「そういう訳でもないけれど…。」
琴子自身も、どう説明していいか分からなくなっている。

「入江先生って、表情が変わらないから、一緒にいて大変じゃない?」
水沢は、琴子が直樹のことをどう思っているのか知りたくなった。
「昔に比べたら、結構表情は豊かになったのよ。」
琴子の答えに、水沢は再度驚いた。
「あれで!?」
「性格も丸くなったし。」
「嘘!?」
本当は琴子も人目をはばからず、直樹の良さを叫んで教えたいのだが、一応、落ち着いた妻を演じたいので冷静さを装っている。
「昔は本当に冷たかったな…。」
そう言いながら琴子の目は遠くを見つめ始めた。
「私が痴漢に遭っても、自意識過剰と言って信じてくれなかったし…。口から出てくる言葉は“うるさい”“しつこい”“バカ”ばかり…。優しい言葉なんて年に一回あるかないかだったし。あまりの冷たさに入江くんのお母さんに‟あんな冷たい男のどこがいいの“って何回言われたことか。」
そう言って、琴子は微笑んだ。
「…前に入江先生が話していた、相原さんと一緒にいた男性って、入江先生自身のことだったのか…。しかもあれは真実の2割くらいしか話していなかったみたいだ。そして実の母親にまで冷たい男と言われるって…。」
水沢は琴子の話を聞きながら、直樹が以前話した内容を思い出していた。

「あっ、私の話はどうでもよかったね。」
琴子は我に返って水沢に言った。
「それより水沢くんは誰か温かい家庭を築ける相手、いないの?」
琴子は矛先を水沢へと向けた。
「病院なんて女性多いから、いっぱいいるでしょ?それに水沢くんって人気あるからその気になればすぐ見つかるわよ。」
琴子の言葉に、水沢は微笑んだ。
「そうだね。ま、この人かなっていう人はいるんだけれど…。」
「えっ!いるの?誰?誰?」
琴子の目が輝き始めた。恋愛ネタは琴子の好物だ。
「…内緒。」
「え?相手教えてくれたら協力するのに!」
何も知らない琴子はがっかりした。

「…だって、手の届かない人だから。」
寂しそうに水沢は言った。その姿に琴子の胸が詰まった。
「そんな、手が届かないなんて、あきらめちゃだめよ!」
琴子の口調が強くなったことに、水沢は驚いた。
「あきらめたら、恋はそこで終わりなの!手が届かないなんて自分で思ったら負けよ、負け!」
まるで紀子の魂が乗り移ったかのように、琴子は水沢の手を握りしめた。
「水沢くんは本当に素敵な人よ。だから、絶対想いは伝わるわ!」
琴子の勢いに水沢は押されてしまっていた。
「私が応援してあげる!相手を言いたくないのなら言わなくてもいいから!絶対にその恋、成就させようよ!」
「…う、うん。」
水沢は琴子の様子が面白くて仕方なかった。
「こう見えても、私、今まで結構カップル成立させてきたのよ。だから、何でも相談してね!」
「そうだね、あきらめずに頑張ろうかな。」
水沢の返事に込められた意味など気づくことなく、琴子は満足してまた食事に戻った。
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