2017年10月 / 09月≪ 12345678910111213141516171819202122232425262728293031≫11月

2010.11.29 (Mon)

続・君と綴る文字 5


【More】


琴子が西垣医院の手伝いをするようになってから、数日が経過していた。
相変わらず、琴子の主な仕事は掃除。あとお茶を淹れること。
「本当にこんなに楽なお仕事で申し訳ないなあ。」
そう思いつつ、今日も西垣医院へ向かう琴子。

「おはようございます。」
預かっている合鍵で裏口から入る。が、いつもなら「おはよう」と明るく迎えてくれる西垣の姿がそこにはない。
どうしたのかと見回すと、風呂場の方から物音が聞こえて来た。
「朝風呂に入っておいでなのね。」
そして、流しを見ると朝食の支度をした後が。どうやら西垣は朝食を食べた後、入浴をしているらしい。

流しにある食器類を洗っておこうと、琴子はたすきがけをした。
「でも、これくらいしかやることないのなら、女中さんなんていらない気がするけど。」
お皿を洗いつつ、琴子は首を傾げる。

その時、廊下を誰かが歩いてくる気配がした。
「おはようございます!」
洗い物の手を止めて、琴子は振り返った。が、
「え…?」
と、言葉を失った。

「あら…おはようございます。」
そこに立っていたのは、洗い髪も色っぽい、寝間着姿の美女だった。しかもその女性は、この間情熱的な口づけを交わしていた西条とは違う美女である。

「あ、あの…。」
なぜか顔を赤らめる琴子。その白く美しい首筋には生々しい痕が見えたからである。
それとは対照的に女性は堂々としている。

「おーい、東園さん…と、ああ、琴子ちゃん。」
西垣が現れた。西垣も寝間着姿であった。
「そっか、そっか。もう琴子ちゃんが来る時間だったか。」
西垣も堂々としている。琴子はどんどん小さくなるばかり。

「うふふ…。」
その東園と呼ばれた美女は笑い声を立てた。そして西垣を見て、
「…随分、うぶな子を雇っておいでなのね。」
と話すと、その首に抱きついた。
「おいおい。朝から…。」
口ではそう言いつつも、西垣はちっとも困っている様子はない。
「いいじゃない。だって…。」
東園は琴子が見ている前であるにもかかわらず、足を西垣の太ももへと絡ませる。
「…今夜、主人が戻ったらしばらくはお預けなのよ?」

―― しゅ、しゅ、主人!?

琴子は耳を疑った。ということは、この美女は…人妻!

「それなら御主人にご奉仕することだよ。僕にしてくれたみたいに…ね?」
西垣は東園の唇を指でなぞりながら、優しく語りかける。
「あーん、できるかしら?」
東園は西垣の目を見つめ、
「…あなたがもう一度、ここに口づけしてくれたら、考えるわ。」
と、甘えるように言った。
「もう、しょうがないなあ。」
西垣は東園の唇に自分の唇を重ねた ――。



「…朝からすごいものを見てしまった。」
西垣の診察室へ運ぶお茶を淹れながら、琴子は溜息をついた。
湯呑に注がれた緑茶を見て、ふと思う。
「どうして旦那様、コーヒーも淹れたらだめだなんて言うのかしら?」
コーヒーを淹れることは、琴子の唯一の特技である。直樹も琴子の淹れるコーヒーを美味しそうに飲んでくれる。
だからこそ、西垣にも淹れたいのだが…なぜだか、直樹がそれを禁じたので、こうして緑茶を淹れている琴子。
勿論、それは直樹が自分以外の人間に琴子のコーヒーを飲ませたくないという、また幼稚なヤキモチを妬いているからなのだが…琴子は知る由もない。

「丁度、予約の患者さんがお帰りになった頃ね。」
時計を確認し、琴子は立ち上がった。



「失礼しま…あっ!」
ノックして「どうぞ」と言われたので扉を開けた琴子だったが、中にはまだ患者がいた。

西垣医院の患者は女性ばかりであった。琴子が手伝いに来てから女性以外の患者は見たことがない。
それも全て…美女である。

「ああ、お茶だね。ありがとう。」
西垣は琴子に入るように言った。しょうがないので、琴子は中へ入る。
「ほら、南沢さん。診察は終わったよ?」
西垣が患者に声をかける。
「あら…もう、おしまい?」
南沢と呼ばれた女性は名残惜しそうに西垣を見た。
「そう、また来週。」
「あん…。」
南沢の声は喘いでいるかのようだった。琴子はお茶をどこに置いたらいいのか迷う。
それもそのはず。
西垣の膝に、南沢は横座りをして、抱きついているのだから ――。

「ほら、人が見てるから。」
「いいじゃない。いつものことだし。」
―― いつも、こんなことしてるんだ…。
お茶を持ったまま、茫然と立ち尽くす琴子。

「ねえ、先生?この間の女中さんはどうなすったの?」
「この間…ああ、あの子か。」
「もう…逃げられたんでしょ?」
西垣の耳に息を吹きかけながら、南沢は質問する。
「さあ…ご想像に任せるよ。」
「もう、嫌な人!」
そして南沢は、西垣の耳朶を軽く噛み、そのまま首へと唇を落とす。

これ以上見ていられない琴子は、お茶を置くとそそくさと診察室を後にしたのだった。



家に戻っても、琴子の脳裏からは西垣と東園、そして南沢の間に繰り広げられていた光景がまだ残っていた。
「おい、そこ間違っているぞ。」
新聞を読みながらも、琴子の字の練習を見ている直樹の声が飛ぶ。
「あ、いけない。」
慌てて琴子は間違えた字を消した。
「ったく、ボケッとして。」
呆れる直樹はまた新聞に目を戻す。
そんな直樹を琴子はじっと見つめた。

「あ、そうだ!」
突然琴子が声を上げた。直樹が琴子を見る。
「旦那様、脱いだものはちゃんとカゴの中へ入れて下さい。」
琴子は可愛く直樹を睨んだ。
「何だよ、突然。」
「だって、最近旦那様、ちゃんとして下さらないから。」
この所、きちんとしている性格の直樹が少しだらしなくなっていた。
いつもならきちんと脱いだ物は、洗い物のカゴの中へと入れるはずなのに、最近は脱衣場に散らかしている。
「子供じゃないんですよ?」
「へえ、お前に言われる日がくるとはな。」
「もう!」
琴子に睨まれても直樹は意に介さない。

実はこれは直樹がわざとしていることである。
西垣の元へ手伝いに行く琴子。琴子が西垣の世話を焼いているのが面白くない直樹は、わざと琴子の手を焼かせたいのである。

―― 我ながら、子供じみているとは思うけど。
自分に苦笑しつつも、琴子に叱られて喜びを感じる直樹であった。



―― 色気…かあ。
一方、色気がないことを密かに気にしている琴子。
―― 私も…やってみようかなあ…。
琴子は鉛筆を卓袱台に置いた。

「な、何だ?」
新聞を読んでいた直樹は、突然膝の上に乗って来た琴子に目を丸くした。
―― ええと、確か、あの人はこんな感じで…。
南沢の色っぽい横座りを実践したい琴子。
「おい、何する気だ?」
ガサガサと音を立てながら、新聞は琴子が動く度にぐちゃぐちゃになっていく。

「できた!」
琴子の歓声が上がった。
「…何が?」
直樹の怪訝な声が後に続く。
「何がって…。」
「お前の方がずっと子供じゃねえか!何をしたいんだ、お前は?」
「え?」
琴子は我が身を見た。なぜか直樹の声が後ろから聞こえる。本来なら横から聞こえるはずである。
「あ、あれ…?」
首を傾げる琴子。
「何があれ?だよ。」
色っぽく直樹の膝の上に横座りをする予定だった琴子なのに…なぜか、子供が親の膝に座るように、真正面を向いて直樹の膝に乗っていたのである。

「え、ええと…。」
困り果てる琴子。これでは甘い雰囲気になりそうもない。
「あ、あの、新聞!新聞が読みたかったんです!」
直樹が手にしている新聞を目にし、琴子は理由を見つけた。
「それなら、俺が読み終わってから読めばいいだろ。」
「だって…漢字が難しくて読めません…。」
確かに、今の琴子にはまだ新聞は難しい。そう言われて直樹は納得する。
「ここ!ここは何と書いてあるのですか?旦那様!」
適当に新聞を琴子は指さした。
「…○月×日、警察は夫を殺害しようとした罪で妻凸山凹代(23)を逮捕した。凹代は、夫がある身でありながら別の男と姦通し…。」
「ああ、いいです!やっぱりいいです!」
直樹の声を慌てて止める琴子。何と恐ろしい記事を読ませてしまったのか。
「ったく、面倒な奴だな!読めと言ったり、読むなと言ったり!」
直樹は新聞を乱暴に畳み、卓袱台の上へ放り投げた。

―― ど、どうしよう…このままじゃ…ちょっと悲しい。
直樹の膝の上で、琴子は懸命に考える。

―― あ、そうだ!あの人、西垣先生の耳に!
思い出すと赤くなるが、あれも色っぽかった。
琴子が直樹に同じことをしたら…直樹もちょっとは琴子を見直すかもしれない。

―― よ、よし!

琴子は決意し、クルッと後ろを向いた。

突然自分を見た琴子に、直樹は驚くと同時に噴き出した。

―― 何だ、こいつ!

勢い余って、琴子は唇をムニュッと突き出していたのである。

―― 何を考えているんだか…。

だが、何かに懸命になっていることは間違いない。一生懸命な妻が可愛くなってきた直樹は、その突き出された唇に素早く自分の唇を重ねた。

「ん…!」
琴子がその気なら、こちらも本気でこたえてやろうと、直樹も軽い口づけから、いつも…二人で一つの布団に入っている時に交わす深い口づけへと変化させた。

―― 大好きな、柔らかい琴子の唇の感触を思う存分味わう直樹。



暫くした後、直樹は琴子の唇を解放した。
すると、
「は…あっ…。」
と息を大きく吐き出したかと思うと、
「…もう…無…理…です。」
弱々しく呟くと、琴子は真っ赤になってそのまま、直樹の膝の間に倒れ込んでしまった。
「おい、琴子!?」
直樹の呼びかけにも、上せあがってしまった琴子は何も答えなかった ――。



そして…順調に過ぎるかのように見えた琴子の日常であったが。

「な、な、何なの、これは!?」

いつものように西垣医院を訪れた琴子は、目の前に広がっている光景に唖然とし、立ち尽くすこととなった。















♪あとがき
「こんなの、入江くんじゃない!!」とお叱りを受けることを覚悟しました。
なんだか、今回の入江くんはすごい…お子様仕様になってしまいました。ごめんなさいm(__)m
関連記事
13:00  |  続・君と綴る文字  |  TB(0)  |  CM(9)  |  EDIT  |  Top↑

*Comment

★凄いことに…

西垣先生が患者さんといちゃ×2(しかも大胆に・・・)しているとは・・・。
初心な琴子にはスッ~~ゴク・・・・・キョ~~レツッゥだったのでは・・・・。
しかもキョ~~レツなものを見せられた後に直樹で実践するとは・・・・。
何とまぁ・・・かわいらしい琴子なんでしょうね・・・・・。
西垣先生と患者さんにあてられたのかしら・・・・!!
最後から4行目辺りから凄いことになっているのでどうなっているのか・・・・・この後の続きがすっご~~~く気になります・・・!!
ゆう |  2010.11.29(Mon) 17:09 |  URL |  【コメント編集】

水玉さん、こんにちは♪

はい!(挙手)
5話で分かった事は東西南北の内、北○さんの登場がまだ無いと言うことです!!(笑)
そして、今のところ西垣先生はただの女性好きと言う事です~(笑)

__琴子ちゃんが唖然とし、立ち尽くす光景に答えが。。。???

____『家○婦は見た!』を、つい連想してしまいました!!

琴子ちゃんは何を見たのでしょうか???
続きお待ちしております!!~♪
あお |  2010.11.29(Mon) 17:13 |  URL |  【コメント編集】

★きゃ~(ノ>д<)ノ

水玉さま、こんばんは(゜▽゜)/

エロガッキーVS叱って宣言!M直樹ですかっ?!

初心な琴子ちゃんの行く末が気になります(笑)
あわわっw
scor |  2010.11.30(Tue) 01:37 |  URL |  【コメント編集】

★ 口から産まれた西垣先生

こんにちは
 西垣先生・・・ここまでくると、好き勝手やって下さい。そのうち刃がつく物が飛んでくるにぃ~。 (女)タラシの西垣先生・・・まだまだ 色々やってそう・・・
 何時まで、長生きできるかなぁ・・・。

 感化されつつある琴子だけど、必要ないと思うんだけどなぁ・・・。
直樹に、教えてもらった方が良いと思うけどなぁ。
 吉キチ |  2010.11.30(Tue) 11:37 |  URL |  【コメント編集】

★ゆうさん、コメントありがとうございます。

琴子ちゃんも結婚しているわけだから、そんなに驚くことではないかもしれませんが、でもやっぱり他の人が目の前でするというのは、びっくりなんでしょうね。
きっと何か感じるところがあって、入江くんを相手に実践してみたんでしょう。
そんな所が可愛いんですけれどね♪
最後から4行目…思わず数えに行っちゃいました(笑)
ただでさえ、何の変哲もないストーリーなので、もうひたすら、ひたすらあおりまくってみてます(笑)
水玉 |  2010.11.30(Tue) 23:21 |  URL |  【コメント編集】

★あおさん、ありがとうございます。

はい!正解!!(笑)

いえ、実は…あおさんからのコメントで『西』がつくということに気がついて←西条さん。
ああ、それなら東西南北にしようと思いました(笑)
でも結構難しいですね~みんな南条さん、東条さんと、条がつく名前になりそうで一生懸命、足りない頭で考えましたよ~(笑)

琴子ちゃんが何を見たのか…きっと入江くんの愛の巣では決して見ることのない光景だと思います♪
水玉 |  2010.11.30(Tue) 23:25 |  URL |  【コメント編集】

★scorさん、ありがとうございます。

scorさん、顔文字がいつも楽しいです!!(笑)
ありがとうございます!!
そして、叱って宣言って(笑)しかもそれでもMって(笑)
どんだけ困ったちゃんな旦那様なんでしょうか、入江くん!
水玉 |  2010.11.30(Tue) 23:28 |  URL |  【コメント編集】

★吉キチさん、ありがとうございます。

本当に、そのうち刃物が飛んできそうな勢いですよね!
でもそれでも懲りないんでしょうね、この人は…。
なんだか琴子ちゃんの目を通している「西垣物語」になりつつあります、この話(笑)
西垣先生に変なことを学ぶより、入江くんにお願いした方がいいとは私も思います。
その方が入江くんも喜ぶだろうし!
水玉 |  2010.11.30(Tue) 23:31 |  URL |  【コメント編集】

★拍手コメントありがとうございます。

拍手コメントありがとうございます。

まあちさん
そうですよね!愛する琴子ちゃん絡みだと、絶対お子様化しますよね!
私も同じ考えです。
そして…本当に西垣医院は何科の看板を掲げているんでしょうか?
産婦人科…いや、それじゃ患者はみんな人妻になってしまいますしね。

TOMさん
そうですか!!お子様で甘えん坊王子で嫉妬深い入江くんでいいんですね?いや、それを聞いて超安心しましたよ~。
これでどんだけイメージをぶち壊しても、もう私に恐れるものはなくなりました!
それにしても、うちの入江くんをカッコイイと言って下さるTOMさん…何と奇特な!!多分過去にそう言って下さった方は5本の指で収まるくらいの人数しかいない(笑)
それにしても、琴子ちゃんは外でも家でもお子様の相手をして大変だな(笑)

佑さん
実は…この横座りにチャレンジする琴子ちゃん、また違う機会に書く気満々な私です^^
ちょっとまだ可愛い琴子ちゃんを書き足りていないもので。
にしても『ガッキーはまた…』って(笑)もう何かする前提なんですね(笑)

紀子ママさん
そうですよ、琴子ちゃんはあの入江くんといつも一緒にいるんです~!一つ屋根の下で暮らしているうらやましい女の子なんですよ!
…と、珍しく入江くん賛歌を歌ってしまいました(笑)
お子様入江くん、今後も大放出の予定です(笑)

Foxさん
なんかFoxさんのコメントにて…間もなくガッキーの栄華が終わる予感を感じる私です(笑)
でもガッキー、華があると思うんですよ!だからいくつになってもモテモテなんだろうな。
ぜひ次回も楽しんでいただけますように!!
水玉 |  2010.11.30(Tue) 23:39 |  URL |  【コメント編集】

コメントを投稿する

URL
COMMENT
PASS  編集・削除するのに必要
SECRET  管理者だけにコメントを表示  (非公開コメント投稿可能)
 

▲PageTop

*Trackback

この記事のトラックバックURL

→http://suisen61.blog77.fc2.com/tb.php/962-ae6d755b

この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

この記事へのトラックバック

▲PageTop

 | BLOGTOP |