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2010.11.23 (Tue)

続・君と綴る文字 1


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卓袱台の上には所狭しと、食べ物が並べられていた。
「旦那様、準備は全てできました。」
診察を終え、母屋へとやってきた夫に琴子は笑顔を向ける。
「ああ。」
疲れた体を伸ばしながら、その傍へ座る直樹。

「でも、本当に買ってきた物ばかりでよろしいんですか?」
「お前の作った物なんて出してみろ。俺の仕事が増える。」
「そんな…!」
「でも全員医者だから自分で自分を診察させればいのか。」
「ひどい。」
あまりの直樹の言いようである。

今日は医院の診察は午前中で終了。
これから直樹の医学部時代の友人たちが遊びに来ることになっている。それで琴子は朝から掃除をしたり、食べ物の準備をしたりと忙しい時間を送っていた。


「入江ー!来たぞー!」
二人がそのような会話をしていると、玄関から男性の声が聞こえて来た。
慌てて二人は出迎えに向かう。



「来たぞ、来たぞ!」
「どこだ?お前の細君は?」
友人たちの訪問の目的、それは直樹の結婚したばかりの妻の顔を拝むことだった。

「お前がとうとう年貢を納めたとはな。」
「医学部時代は女遊びなんて興味も持たなかったくせに。」
「で、どこだ?」
友人たちは玄関先をキョロキョロと見回す。

「ああ、君、君。奥様は?」
玄関で手をついている琴子に、そのうちの一人が訊ねた。
「まだ支度が済んでいないのかい?」
「あ、あの…。」
戸惑う琴子。どうやら目の前にいる琴子がその奥様だとは思っていないらしい。

「入江、お前の大事な新妻はどこだ?」
立っていた直樹に声がかかる。
「ここ。」
「ここ?」
直樹が指した方を友人たちは見た。
「ここってどこだ?」
「そこに座っているだろ。」
友人たちは再び、指された方を見る。

「あ…?」
「…いらっしゃいませ。」
琴子は居心地悪そうに、丁寧に挨拶をした。



「すみませんでした!!」
居間に通された友人たちは、揃って琴子に頭を下げた。
「まさか、目の前にいたとは!」
「いいえ。お気になさらずに。」
琴子は笑顔で酒を用意している。

「琴子。」
酒を並べ終えた琴子に直樹が声をかけた。
「向こうで休んでいていいから。」
「はい。」
言われなくとも、邪魔をするつもりはない。
琴子は素直に居間を出て行った。

「…女中かと思ったんだ。」
居間を出た琴子の耳に友人の声が飛び込んでくる。
「まあ、元はそうだし。」
直樹は正直に答えた。

元々はこの家に女中としてやってきた琴子である。それが縁あってこうして直樹と夫婦となれ一緒に暮らしているのだから嘘ではない。
むしろ、琴子にとっては、直樹が正直に女中だったと隠さずに言ってくれて安心している。

「お前が選ぶ女だから、かなりのもんだと思ってた。」
―― かなりの…もん?
それはどういう意味だろうと、つい行儀悪いと恥じつつも琴子はその場から動けなくなってしまった。

「そうそう。絶世の美女っていうか。」
「お前自身が眉目秀麗という言葉が似合う男だもんな。悔しいけど。」
「きっと自分と釣り合う女を選ぶんだろうなと俺たちは考えてたんだ。」

それは遠回しに、自分と直樹は釣り合わないと言われているも同然だった。

「でも可愛い奥さんだった。」
誰かが琴子を庇ってくれた。
「そうだな。ちんまりとしていて、素直そうだし。」
―― ちんまり…。
どうも褒め言葉に聞こえない。

「色気はないけど、いい奥さんそうだ。」

―― 色気はない…。

琴子はトボトボと、部屋へと向った。

元は直樹が寝室として使っていた部屋で、今は夫婦の寝室となっている部屋。そこに置かれた鏡台に向う琴子。



「確かに色気はないけど…。」
琴子が鏡台に向って落ち込んでいる頃、直樹は友人たちを相手に話をしていた。

「俺は気に入っている。あいつよりいい女はそうそう見つからない。」

直樹の堂々とした惚気に、一同は呆気にとられた。

「入江が…そんなことを言うなんて。」
「おいおい、結婚って人間を変えるって本当か?」
「何とでも言えよ。お前ら、うらやましいんだろ?」
直樹は酒を片手にニヤッと笑う。
「こいつ!!」



居間でそんなことが起きていることなどつゆ知らず、琴子は一生懸命、字の練習に励んでいた。

「さいくん…。」
「びもくしゅうれい…。」
先程耳にした言葉を、一文字一文字しっかりと、ひらがなで書いていく。
大分上達したが、まだまだだと自分でも思う。


「いろ…け。」
その文字を書き、琴子は溜息をついた。
「…どうしたら身につくのかしら?」



買い物の帰りに、琴子は足を止めた。そこは文房具店である。
「よかった、まだあった!」
ウィンドウの中を覗き、歓声を上げる琴子。そこには素晴らしい造りの万年筆が飾られていた。
「旦那様によくお似合いだと思うんだけどなあ。」
決して派手ではないそのデザインは、直樹の好みにかなっていると琴子には自信があった。

直樹は琴子を信頼し、財布を全て預けている。琴子はそこから日々の買い物などをする。そしてその中から自分の好きなものを買ってもいいという許可も得ている。
だから、買おうと思えば買えないことはない。
だが、それは直樹が稼いだお金で買うこととなり贈り物とは言えない気がする琴子。
「女中から奥さんになって、お給金もらえなくなったからなあ。」
つい、おかしなことを考えてしまう。
しばらくその万年筆に見とれた後、直樹の診察が一段落する時間だということに気がつく。
「いけない!早く戻ってコーヒーの準備をしなければ!」
まだしばらく売れないようにと万年筆に祈りをささげて、琴子は急ぎ足で歩き始めた。



家の門の前で一人の男がうろついていた。
「あの…。」
琴子は声をかけた。男が振り向く。
「医院に御用ですか?」
「あ、ああ。」
男はばつの悪そうに返事をする。
「でも、受付時間は終わってしまったみたいで。」
「往診の御依頼か何かですか?」
見た所、男は元気そうである。
「あ、いや。」
「それじゃあ…?」
すると男は突然、胸を押さえ始めた。
「ああ…!苦しいっ!!」
「ええ!?」
買い物かごを放り投げ、琴子は男に近寄った。
「だ、大丈夫ですか?」
「うん…平気。持病だから…。」
「持病!?」
それならなおさら平気ではないのではと、琴子はますます心配になる。

「そう、持病なんだ。」
男はすくっと立ち上がり、姿勢を正した。そして琴子の両手を握った。
「…可愛い子を見ると胸が苦しくなる持病。」
「へ!?」
「そしてこの胸の苦しみは、可愛い子に口づけしてもらえればすぐに治るんだけど。」
そう言いながら、男は口を琴子の口へと近付ける。
「あ、あの!!」
焦る琴子だが、手を取られて動けない。
「大丈夫、すぐに終わるから…。」
「困ります!」
どうしようと思う琴子。段々と近付いてくる男の顔。
―― 旦那様!!
心の中で琴子が助けを求めた時、けたたましい音が聞こえたと同時に、男の顔が突然ガクッと崩れ落ちた。

「…何が持病だ!」
崩れ落ちた男の後ろで、直樹が一斗缶を手に立っていた。

ittokan

「痛いなあ!」
どうやら殴られたらしい。頭を抱え、男は後ろを見た。
「医者のくせに暴力をふるうなんて!」
「ふるわれるようなことをしたからでしょう!」
「先輩に向かってその態度はないだろう!」
「こんなスケベ男を先輩だと思ったことは一度もない!!」

ギャーギャー騒ぐ二人。
「あ、あの…旦那様…こちらは?」
漸く、言葉を挟むタイミングを掴んだ琴子が直樹に訊ねた。

「ったく、自己紹介もしてねえのか。」
直樹は男にますます呆れ果てる。
「だって、患者だと思い込んでいるからさ。」
どうやら痛みが引いて来たらしい。男の顔には笑顔が戻っていた ――。












☆あとがき
『君と綴る文字』の続編は、結構前に話が浮かんでいたので…。

最近気がついたのですが、どうも私は入江くんと琴子ちゃんが出会って恋に落ちるというストーリーを書くことに生き甲斐を感じるらしいです(笑)
またそんな話を考えてみたいなあと思うのですが、どうも浮かばず(ほとんど出尽くしてしまったから仕方ないんですけれどね)。

浮かんでいた話を書いてみようかと思い、少し書いてみました。

「書かなければよかったーー!」ということになりそうな予感が大なのですが…。
(過去に何度もそういうことがあったので)
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18:00  |  続・君と綴る文字  |  TB(0)  |  CM(7)  |  EDIT  |  Top↑

*Comment

早速コメントを(笑)←水玉さましかわからないですね!スミマセン

「君と綴る文字」の続き、とても楽しみに(勝手に)待っていたので、とても嬉しいです\(^ー^)/

まさかガッキーが登場するとは!
しっとりしたお話に、ガッキー…
どーなるのーっ(>_<)
続き、楽しみに待ってます!
scor |  2010.11.23(Tue) 19:54 |  URL |  【コメント編集】

「君と綴る文字」の続編、わくわくします!
しかも、西垣登場なのかな?
続き、楽しみです!!
naotti3 |  2010.11.23(Tue) 22:12 |  URL |  【コメント編集】

★みんな失礼しちゃうわ!

水玉さんこんばんは~(*^_^*)

君と綴る文字の続き~~~\(≧▽≦)丿
楽しみにしていたんです~\(≧▽≦)丿

書かなきゃ良かっただなんて…σ(^◇^;)。。。
全くもって、ご心配ご無用ですょぉ!!!!どのお話も、続きが待遠しくて、ドキドキしているんですから(*^_^*)
いつも、次はどんな入江くんに会えるのか…そればかり頭の中がグルグル~重度の水玉さん中毒になっています~(*^_^*)
変●、ギャグ、ラブラブ…何でも有りのイリコト…いゃ、入江くんが大大大好きなんです……(^_^;)

おっと!いけない…本題に戻らなきゃ~

入江先生のお友達は、やっぱりお坊ちゃまだから、みんな琴子ちゃんを女中さんだと思ったんですね~(;_;)
でも、サラッと惚気て、堂々としてる入江先生カッコいい!(*^-')ノ
益々大ファンになったな!(*^-')ノ
ナッキ― |  2010.11.23(Tue) 22:41 |  URL |  【コメント編集】

★連載バンザイ!

私の中ではこのシリーズの琴子がいじらしさNo,1なんです。なのにそんな琴子ちゃんに言いたい放題な直樹の学友達!何で直樹怒らないんですか!?そして最後に登場された方はやっぱりあの方ですか?
祐樹'ママ |  2010.11.23(Tue) 22:47 |  URL |  【コメント編集】

実はここ最近、何度も何度もこの話を読んで復習していたんです!!
だからだからすっごく嬉しい!!!
水玉さんのお話で、がっかりしたことなんてありませんよ!!
どんどん浮かんできたものを書いちゃってくださいませませ♪

けどけど、続編が始まって嬉しいものの、まだまだ展開が見えてこない私。
いったいどんなお話になるのでしょう?
けど何だかにぎやかな予感。
続き楽しみにしていますね♪
ゆみのすけ |  2010.11.24(Wed) 09:47 |  URL |  【コメント編集】

★どんな音かな?

   こんにちは
続編 嬉しいです。 直樹のべた惚れが 琴子に伝わってないのが・・・ですが・・・。 一斗缶の側面か枠か角か・・・場所によっての怒りのドアイは?と思いました。叩いたら ドスケベとかの音が身体から出たりしてぇ~。身に染み付いてるから。 ンフゥフゥ~

   スケベ男 いやぁ~女たらしキングなんて、一人しかいないから 楽しみです。ニンマリ
吉キチ |  2010.11.24(Wed) 12:35 |  URL |  【コメント編集】

★コメントありがとうございます♪

コメントありがとうございます!!

scorさん
いえいえ!さぞ驚かれたことでしょうね!
私もコメントを入れ始めた頃、同じことをして「うわ!!」と驚いた覚えがあります!
そう、しっとりした話だったんです…よね。前は、確か。
もう一度そんな話を書いてみたいです…。
でも待っていて下さって、ありがとうございます!!
前の話は私も書いていてとても好きなお話だったので、それを汚さないようにしたいなあと思っているのですが…。

naotti3さん
ありがとうございます。
そのわくわく感を壊さないことだけを祈って、本当に祈って…頑張ります!!

ナッキーさん
そ、そうですか!?ちょっとだけ元気が出てきたかも…。
最近本当に、変な物ばかり書いていては失敗しているので…また今回も失敗するんじゃないかなって、不安でたまらなかったんです。
さすがに2年間、頑張りすぎたなと思い始めていて…。
山あり谷ありの話を書いてみたいっていう気持ちが今、すごく強くて、でも浮かばないって感じで、気ばかりがせいるって感じなんです^^;
ありがとうございます、励まして下さって♪
少し心が軽くなりました。

祐樹'Sママさん
私もそう思います!物置で暮らしてまで医院を守った女中さん…なんてけなげ!!
きっと入江くんの友達はものすごく大人っぽい奥さまが出てくると思い込んでいたんでしょうね(笑)こんなに可愛い琴子ちゃんなのに…ぷんぷん。

ゆみのすけさん
うわ~ありがとうございます!!
本当にゆみのすけさんにはいつもいつも励ましていただいて!
そのお言葉に調子に乗る私がまた今回も…^^;
楽しんでくださる方がおいでなんですから、頑張らないといけませんね!!

吉キチさん
側面でしょう!!(笑)
で、殴った後は、そこが凹んでいるに違いない…(笑)
いい音したでしょうね!
それにしても、どうしてこの家に一斗缶があるのでしょうか?

ぴくもんさん
色気なんて直樹の前だけで~←最高!!
そうですよね!!入江くんのツンデレも最高ですが、昼と夜、違う顔を見せる琴子ちゃんもたまらんですね~!!!←どこの親父だ?
ポッとほほを染めつつ、はじらいつつ…←まるでガッキーが乗り移ったかのよう
そして一斗缶、もちろん中身はからでしょう!!さすがに入江くんも持ちあげられまい!!(笑)
もうこんなしょうもない話を読んでくださるだけでありがたいです!!

紀子ママさん
ありがとうございます!!
きっと琴子ちゃんは華美な服装をしていないし、かいがいしく割烹着なんてつけて働いているから、女中さんに見えちゃったんでしょうね。
これで「私が妻です」と出てきたら…それは琴子ちゃんじゃない!!(笑)

まあちさん
ありがとうございます♪
本当、でもこれが琴子ちゃんなんですよね!
可愛いですよね、本当に!

佑さん
本当にそう言って下さる方が多くて…皆様に愛される琴子ちゃんになって、二次に携わっているものとしてはとても嬉しいです♪

みづきさん
一応、画像をと思って(笑)
きっと「何、それ?」と思われる方もいるんじゃないかなと思って。
だから笑っていただけて、嬉しかったです♪

TOMさん
ありがとうございます!
前はとにかく、女中な琴子ちゃんが書きたくなって!!それで書き始めた話ですが、途中読み書きができない設定にしたら…とか思ってそうしてみたら、きれいにまとまって、自分の中でもbestな作品に仕上がりました。
その分、続編が…「ああ…」と思うことになるんですよね^^;「Daddy…」がいい例なんですけれど(笑)
しかも、前回の雰囲気はいずこへという感じになりつつありますし…。
こんな話ですがお付き合いいただけると嬉しいです。

meganeさん
きっと琴子ちゃんは、もっと頑張ろうと思って努力し続けているんだろうなと思って。
それに琴子ちゃんの文字を練習する姿が可愛くて可愛くて…♪
気の向くままに書いている駄文をそんな風に思って下さりありがとうございます!
水玉 |  2010.11.24(Wed) 21:49 |  URL |  【コメント編集】

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