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2010.11.20 (Sat)

別冊ペンペン草 26 ※次回へ続きます


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別冊ペンペン草(略して別ぺ)の看板漫画家、入江直樹には押し掛けアシスタントが一人いる。



「先生、お願いします!」
そのアシスタント、ローズマリー船津(もちろんペンネームである)は渾身の力を込めて描き上げた原稿を直樹へ差し出した。直樹から高評価を得たら、別ぺの漫画賞、『雑草賞』(賞のコンセプトは、踏まれても踏まれてもめげない漫画家の育成)に応募するつもりである。

二人の傍らでは、ローズマリー船津をプロに育てる気満々の琴子が息を呑んでその様子を見守っている。



数分後 ――。
「だめだな。」
読み終えた原稿を、直樹はテーブルの上に置いた。
「だめ…ですか?」
がっくりと肩を落とす船津。
「ああ。前よりはちょっとましになったけど、でも応募する段階じゃない。」
直樹は冷たく言い放つ。
「まず…いい所から。」
どうやらいい所が合ったらしい。少し船津と琴子の顔が輝いた。
「この間持ってきた、ニシンについての説明を5ページにわたって描いていた話よりはマシ。」
この間、船津はニシン漁にかけた昔の男たちとそれを見守る女の話(タイトルはそんまんま『ニシン漁』である)を描いたのだが、ニシンについての説明が長すぎると、ボツにされている。

「今度は普通の学生恋愛にしただけ、お前も身の程をよく分かってきたみたいだな。」
「はい!歴史大河ロマンはデビューしてからにしようと!」
「だが…。」
直樹は溜息をついた。
「だが…何?入江くん?」
琴子が訊ねる。
「だが、お前って、センスないよな。」
「せ、センス…。」
直樹の容赦ない講評は続く。どうやらもう「いい所」についての講評は終了したらしい。

「まずタイトル。何だよ、“骨と女”って。」
直樹はタイトルが描かれた原稿用紙をコツコツと叩いた。
「それは、だって骨格好きな女子高生が主人公で…それ以上相応しいタイトルはないかと。」
「そのまんまじゃねえか。どこのホラーだよ。」
琴子と船津はチラリとテーブルの上に置かれた本を見る。それは直樹の作品『それゆけ!ナオキン』の単行本。
「入江くんにタイトルをどうこう言われても…。」
ゴニョゴニョと呟く琴子。
「何か言ったか?」
その琴子を睨む直樹。
「いえ、何でもありません!」
琴子は慌てて口を閉じた。

「そして絵だな。これ!」
ページをめくり、今度は男子高校生の顔を叩く直樹。
「こいつ、学校で一番モテるって設定なんだろ?」
「はい。骨格も最高、顔も最高…。」
「この顔のどこが?」
船津の説明を遮り、直樹は冷たく訊ねた。
確かにそこに描かれた男子高校生の顔は、お世辞にも顔がいいとは言い難い。
「こんなのがモテるって言われても、読者は納得できねえよ。」
「…。」
「納得しねえと、読者はお前の話なんてすっ飛ばす。」
「…。」
船津はすっかり自信を失い、俯いたまま。



「入江くん…。」
それまで黙っていた琴子が口を開いた。
「何だ?」
「…あんまりだよ。」
「は?」
予想外の琴子の言葉に、直樹の眉間にしわが寄った。

「あんまりだって言ってるの!!」
琴子は顔を真っ赤にして怒鳴った。
「船津くん、一生懸命頑張ってたんだよ?入江くんのお手伝いしながら。それなのに殆ど褒めなくて、文句ばっかり!!」
「褒める所がねえんだから、しょうがない。」
「何でもいいから褒めればいいじゃない!褒めて伸ばすってことも重要でしょ?」
「こ、琴子さん…。」
船津がオロオロして、二人の間に入る。が、琴子と直樹は睨みあったままであった。

「バカバカしくて、付き合ってられない。」
直樹はソファから立ち上がった。
「時間、損した。下書きしてればよかったよ。」
「入江くん!!」
琴子が叫ぶ。が、直樹はそっぽを向いている。



「もういいよ、船津くん!行こう!」
琴子は船津を見て、その手を握った。
「い、行くってどこへ?」
「もっとちゃんとした先生の所!」
そして琴子は直樹を睨んだ。
「…勝手にしろ。」
直樹はそう言い残し、仕事部屋兼寝室へと消えた。



「こ、琴子さん…いいんでしょうか?」
オロオロしたまま、船津は何度も繰り返した台詞をまた繰り返す。
「いいのよ!あんな人、もう当てにするのはやめましょう!」
琴子はずんずんと歩いて行く。

そして、一軒の家の前で止まった。



「やあやあ、いらっしゃい。」
現れたのは、西垣マドレーヌ。直樹と人気を二分する別ぺの漫画家である。
突然の訪問にもかかわらず、西垣はにこやかに二人を出迎えてくれた。
「すみません、突然おじゃまして。」
そう言って、琴子は手土産を差し出した。それは琴子の愛する柿ピー。
「ありがとう。丁度良かった。これが焼けた所なんだ。」
西垣が出したのは、焼きたてのマドレーヌだった。そして、
「お土産に持って帰ってよ。なかなかの出来だから。」
と、ピンクやブルーのリボンでラッピングされたマドレーヌを渡される。
「男女逆…。」
思わず船津は呟いた。



自信があるだけ、マドレーヌの味は最高だった。
お茶を終えた後、西垣は「どれどれ」と快く船津の原稿を受け取ってくれた。



**********

その頃 ――。
「そろそろだな。」
下書きの手を止め、直樹は時計を見た。
「ったく、どうしようもない奴らだよ。」
文句を言いながら、直樹は机の上の受話器を取った ――。

**********



琴子と船津は緊張して、西垣が原稿を読む様子を見つめていた。

しかし、3ページを読み終えた後、
「だめだよ、これ。」
と、西垣は原稿を放り投げてしまった。
「ええ!?」
思わず声を同時に発する船津と琴子。
「どこがですか?」
ショックで口をきくこともできずにいる船津に代わって、琴子が訊ねる。
「どこが?」
西垣はチラッと原稿を見て、口を開いた。

「ベッドシーンがないじゃん。」

「は…?」
琴子は呆気にとられた。それは船津も同様であった。

「あのさあ、2ページ目でベッドシーン、もしくはお肌の露出がないとだめだよ!」
「お、お肌の…露出…。」
「当たり前じゃん!」
何を今更という感じの西垣は船津を見る。
「いい?読者ってのは刺激を求めてるんだよ?」
「はあ。」
「話が始まって3ページ以内に、ベッドシーンまたは露出がないと、読者は飽きる。もう読むのを飛ばされる!」
「そんなバカな…。」
思わず呟く琴子。
「何を言ってるんだい!琴子ちゃん!」
西垣は琴子を見た。
「いいかい?一にチラリ、二にポロリ。三、四がなくて、五にチラポロリ。これ、少女マンガの鉄則。」
「お言葉ですが、西垣先生。」
琴子が言い返す。
「別ぺですよ?良い子の別ぺですけど。」
「なあにが、良い子の別ぺだよ。」
西垣が笑った。
「今どきの女子中高生なんて、それくらいないと興味持たないって。」
「そんな…。」
西垣の持論に、何も言い返せない琴子。

西垣は船津を見た。
「うーん。どうやら君は…女性の裸体にあまり接したことがなさそうだな。」
「ら、裸体って!!そんな、破廉恥な!!」
船津は顔を真っ赤にして叫んだ。どうやら図星らしい。
「まあまあ。それは恥ずかしいことじゃないから。」
西垣は船津を制した。

「でも見たことがないんじゃ、生き生きとした絵は描けないなあ。」
そして西垣は琴子を見る。
「ここで、琴子ちゃんと実演しようか?」
「はあ!?」
今度は琴子が叫ぶ番だった。
「な、な、何てことを、西垣先生!!」
「だって、船津くんを育てたいんでしょ?編集の仕事じゃない。」
「んな馬鹿な!」
西垣は琴子の肩を素早く抱いた。
「僕たちの濃厚なベッドシーンを見せて…さ。」
「ちょ、ちょっと西垣先生!」
焦る琴子と船津。



その時 ――。

「西垣先生!!」
女性の声と共に、ドアが開かれた。
「ま、松本くん!!」
驚きのあまり、西垣は琴子の体から離れた。
現れたのは、西垣の担当編集、松本裕子である。
「仕事もされないで、何をやってるんですか!!」
美しい眉をキリリと上げたその顔は、普段の美貌はどこへやら、まるで夜叉のようになっている。



「あの電話の通りだったわ。」
西垣を机に追い立てた後、松本は溜息をついた。
「電話?」
「匿名の電話が編集部にあったのよ。西垣先生が仕事もせずに女と遊んでいるって。来てみたら案の定!」
「匿名…。」
一体誰だろうと、琴子と船津は顔を見合わせたのだった。



*********

「あいつらのやりそうなことなんて、お見通しだっての。」
再び下書きを始めた直樹は、一人呟く。
ここを出て二人が向ったのは、西垣の元に間違いないと思った。そして西垣が何をするかも、直樹には分かっていたのである ――。












☆あとがき
目次に『ニシン漁』なんてある少女漫画雑誌、確かに誰も読まんわな…。
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01:19  |  別ペ  |  TB(0)  |  CM(4)  |  EDIT  |  Top↑

*Comment

コメント一番乗りゲット~!(ゲットってもう古いんしょうかね…)

私はちょっと見てみたいですよ、少女マンガの「ニシン漁」(笑)タイトルだけ聞くと、ビジネスマンガみたいですけども……いや、ビジネスマンがにもないのかな。マグロ漁がテーマならありそうですが。
つづきが楽しみです♪
miyaco |  2010.11.20(Sat) 10:25 |  URL |  【コメント編集】

別ペアップ、嬉しいです!!
「骨と女」、最高のタイトルですね(笑)
題名だけでは、確かにホラーですよね~さずが、ローズマリー船津!
続き、楽しみにしています。
naotti3 |  2010.11.20(Sat) 12:51 |  URL |  【コメント編集】

★コメントありがとうございます!

コメントありがとうございます。

miyacoさん
いえいえ、古くはないと思いますよ!だって私、しょっちゅう使ってるし…(笑)
え、もしかして古いの?どうしよう(オロオロ)
ニシン漁は、私が昔とある漫画でそういうストーリーを読んで、すごい印象に残っているんですよね。それ以来、北海道へ旅行した時もガイドさんが「この辺はニシン漁がさかんで…」と口にしたとたん、窓から身を乗り出すように見たり、テレビの旅番組でやると見たりと…(笑)

naotti3さん
ありがとうございます!!
なんだか変な話になってしまいました。すみません。
「骨と女」ミステリー小説にはありそうなタイトルかも…。

佑さん
普通の人は読まないですよね。
自由研究か何かで必要な人くらい(笑)
ある意味、学習としては最高の漫画かも!!

まあちさん
うちにあった柿ピーを確認してみたら○幸でした!
亀○にくらべて、柿の種が大きかった気がします^^
船津くん、どうしても少女漫画がいいんでしょうね。その希望の背景に何があるのかは永遠の謎のような気がしますが…(笑)
一応、私も読むことはしますよ、『ニシン漁』(笑)一番最後になると思うけど(笑)やっぱり先に読むのは「ナオキン」でしょうかね~。

紀子ママさん
この話をUPした日、その歌がBSから(笑)
なんとタイムリーな!!
色々な意味で興味はわきますよね。でも対象読者の年齢層を考えると、採用は難しそう…(笑)


水玉 |  2010.11.22(Mon) 16:07 |  URL |  【コメント編集】

★ お見通し・・・

   こんにちは
直樹の場合は怒って育てようと思ってるのか?でも本心ズバッと一言っちゃいから ある意味育てるんだろうなぁ。
 
 さすが直樹全てお見通しだよねえぇ。 二人の行き先も時間の読みも
ナイス電話に松本さん・・・ 琴子救えたねぇ毒牙~ニコォ~ちゃうかぁ~
吉キチ |  2010.11.22(Mon) 16:36 |  URL |  【コメント編集】

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