日々草子 My Dear Wife 6

My Dear Wife 6





人があまり来ない庭の片隅で、コトリーナとノーリー夫人は並んで座っていた。
「はい、おば様!」
コトリーナはあんパンを半分に分け、ノーリー夫人へ渡した。
「もうおば様ったら、先生に私のことばらしたでしょ?」
「え?」
「だって、このあんパン、つぶあんだもの。私の好きなつぶあん。先生が置いて行ってくれたに違いないわ。」
ノーリー夫人はあんパンを受け取ろうとしない。
「あ、そうか。」
コトリーナはしょんぼりとなった。
「ごめんなさい、おば様。私、ついセーラになった気分で。ほら、セーラも屋根裏部屋の御馳走をお友達のベッキ―に分けたでしょう?だからおば様にもって思ったんですけど。」
「あ、違うわ、コトリーナちゃん。」
ノーリー夫人は手を振ってそれを否定する。
「私はベッキ―役でも、ネズミ役でも、セーラの人形のエミリー役でも何でも構わないのよ?でもね、コトリーナちゃんの大事なあんパンを頂いていいのかなって思って。」
ナオキヴィッチからもらったという大事なあんパンを、自分がもらっていいのかとノーリー夫人は思ったのである。
「そんな!嬉しいことは分かち合ったほうがいいもの!」
「それじゃあ、いただくわね。」
ノーリー夫人はあんパンを半分受け取った。
「いただきまあす!」
コトリーナは素晴らしい御馳走のように、あんパンをあむあむと食べる。

「よかった。」
あんパンを食べ終わった後、コトリーナが呟いた。
「先生、私のことを忘れてたわけじゃないんだ…。」
「コトリーナちゃん…。」
「ちゃんと私のすきなつぶあんを置いて行ってくれた。私のことを覚えていてくれたことが嬉しい。」
何てけなげなのかと思うノーリー夫人。あんパン一つでこんなに感激する娘はどこにもいない。本当にあの偏屈変人ナオキヴィッチには勿体ないと、心底思う。

「まさか…!」
突然コトリーナの顔色が変わった。
「どうしたの!?」
「おば様…まさかとは思いますけれど…このあんパンが手切れ金ってことはないですよね?」
「手切れ金!?」
「まさかとは思うけれど、先生…サヴォンヌ様と結婚したくなったとか。で、このあんパンで離婚してくれっていう意味じゃないですよね…?」
コトリーナは「もう食べちゃったし、どうしよう…」と本気で心配を始める。
「先生に離婚されたら、私…保健所行きかしら?」
とうとう、高崎山からモンキーセンターから保健所まで行く考えになってしまったコトリーナ。完全に自分を猿だと思い込んでいる。

「大丈夫よ、コトリーナちゃん!」
ノーリー夫人はコトリーナの手をガシッと握りしめた。
「あんパン一個の慰謝料で離婚なんて冗談じゃないわ!もっと慰謝料をふんだくっておやりなさい!カントリーハウス、タウンハウス、勿論使用人たちもセットでもらいなさい!あ、私たちもコトリーナちゃんに付いていきますからね!」
「でもそうなると、先生は?」
「んまあ、コトリーナちゃんったら!」
ノーリー夫人はコトリーナを抱きしめた。浮気されてあんパン一個で追い出されようとしているのに、そんな薄情な夫を心配するその優しさが愛おしい。
「大丈夫。あの人はあのエロ男爵にでも引き取っていただきましょう!」
その時、遠く離れた場所でウェスト男爵は盛大なくしゃみをしていた…。



「大体、あのあんパンは何の意味があるのですか!!」
数時間後、ノーリー夫人はまたナオキヴィッチと対峙していた。
「この間、こしあんだったことを不満に思っているって聞いたから、今度はちゃんとつぶあんを置いてきてやったんだろうが。」
「そういう問題じゃありません!!」
ノーリー夫人はテーブルをバンと叩いた。
「あんパンを置いてくる余裕があるのなら、コトリーナちゃんと話をして、きちんと連れてくればいいでしょう!」
「あいつ、ぐっすりと眠っていたから、起こすのも気の毒かと思って。」
「そりゃあ疲れるでしょう。朝から晩までコマネズミのように働いているんですからね。」
「好きでやってるんだろ?」
「そんな訳ないでしょう!」
またテーブルを、今度は二回叩くノーリー夫人。

「もしかして…『小公女』のあの御馳走のシーンを再現したつもり?」
「一応。」
「やっぱり」とノーリー夫人は額に手を当てた。
「そっちが言ったんだろ?猿になって来いとか。さすがに猿はごめんだからな。」
「だったら、あんパンなんてみみっちい真似しないで、ドーンと御馳走を並べなさいよ!!」
テーブルを今度は三回叩くノーリー夫人。
「御馳走なんて用意したら、この家の人間にコトリーナのことがばれるだろ!」
「ばれたっていいでしょう!」
「どうせサヴォンヌ嬢には黙っておいてくれって、コトリーナから頼まれているくせに。」
ズバリ言い当てたナオキヴィッチに、ノーリー夫人は言葉を詰まらせた。
「周囲にばれずに用意できるのは、あんパンが限度だったんだ。」
「どうだか。」
ナオキヴィッチのことをノーリー夫人は全く信用していない。

「本当に早くこの家にコトリーナちゃんを紹介しなさいな。」
ノーリー夫人は少し落ち着きを取り戻した。
「今日だって、この家のメイド達が噂していたんですよ?」
「何て?」
「とうとうサヴォンヌ様は高崎山の猿に勝ったって!」
「猿?」
「傍にいるコトリーナちゃんがナオキヴィッチ様の奥様だって知らないから、みんな言いたい放題。それを黙って耐えているコトリーナちゃんが可哀想で可哀想で…。」
ノーリー夫人は鼻をすする。
「あんな失礼なメイド達だって分かっていたなら、サインなんてしてやるんじゃなかった。」
「まあ、確かに俺と出会った頃のあいつはどこの山から下りて来た猿かって感じではあったが。」
口ではそう言うナオキヴィッチではあるが、自分がコトリーナのことを「猿」と呼ぶのは愛情を込めているつもりである。自分以外の人間にコトリーナを猿呼ばわりされるのは腹が立つ。

「ナオキヴィッチ様!!」
ナオキヴィッチがそのように考えていることなど知らないノーリー夫人はとうとう10回テーブルを強く叩いた。
「とにかく、今から一緒にいらっしゃい!」
夫人はナオキヴィッチの手を引っ張った。
「どこへ?」
「コトリーナちゃんの所です!」



一方、コトリーナは屋根裏部屋で着替えをしていた。
掃除の途中、ドジをしてバケツの水で服を濡らしてしまったのである。
「先生…。」
下着姿になった時、指輪をまた見つめるコトリーナ。
「先生は本当にサヴォンヌ様に心変わり…ううん。初めからサヴォンヌ様が好きで私はただの気まぐれの相手だったのかしら?」
目にまた涙を浮かべていた時である。

「コトリーナ、着替えが終わったら…。」
部屋にメイドが入って来た。慌てて指輪を隠そうとするコトリーナだったが下着姿なので隠すことができなかった。
「それ…!」
メイドは指輪を見つけた。
「あ!」
「…これは!」
そしてメイドは声を張り上げた。
「みんな、来て!!」

何事かとメイド達がやってくる。
「あれを見て!」
メイドはコトリーナがつけている指輪を指さした。
「あれは…。」
「イーリエ公爵家の紋章!」
「あ、あの…。」
下着姿のまま、オロオロとするコトリーナ。
とうとう自分がナオキヴィッチの妻であることがばれてしまうのだろうか?

「この子、泥棒だったのよ!」
ところがメイドから発せられた台詞は意外なものであった。
「ええ!?」
コトリーナは驚く。
「公爵様から盗んだんだわ!」
「そんな!私は泥棒なんかじゃありません!」
いくらなんでもそれは酷過ぎる。コトリーナは抗議する。
メイド達はコトリーナを睨んだ。
「返しなさいよ!」
メイド達は輪になってコトリーナを囲み始める。
「違うわ!私は泥棒なんかじゃない!」
コトリーナは指輪を握りしめ、そして…輪の中を潜り抜け、下着姿で部屋を飛び出した。

「先生、助けて!!」
走りながら、コトリーナはありったけの声を振り絞って叫んだ ――。












♪あとがき
寄り道が過ぎたんで、少しはストーリーを進めなければ申し訳ないかと思って続きをUPします。
内容的にはちょっとマシになったかな…?
なんかセーラより可哀想になってきたコトリーナちゃんだわ^^;
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comment

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琴子がかわいそう・・・。

直樹がさっさと琴子が自分の奥さんだとオーイズミ家やメイド達に紹介しないから山猿だの泥棒だのと因縁つけられるのよ・・・!!!
早く琴子をたすけないと大変なことになってしまいますよ・・・。

変われるものなら変わってあげたい・・・。

あんパンが手切れ金って、どんな高価なあんパンなんですか!?真剣にそう思うコトリーナって可愛いすぎます。でも、もう限界でしょうね。メイド達からは悪口を言われ、挙げ句の果て泥棒扱いされるし、ナオキヴィッチ、早く助けてあげて。

コトリーナの危機だよ(><)

水玉さん、おはようございます

コトリーナが大変な事に。
泥棒扱いを受けてしまいましたよ。
ちゃんとナオキヴィッチが、コトリーナのことを紹介しないから。コトリーナが、呼んでいるよ
早く助けてあげないと。
しかし、コトリーナの妄想には参りますが。
この泥棒疑惑だけは、ナオキヴィッチが解決しなければ、ならないことですから。

水玉さん♪おはようございます♪

コトリーナ大好きなつぶあんのあんパンから、手切れ金を連想したのね。らしくて可愛い~(笑)
ノーリー夫人可愛いコトリーナの事となると熱くなり、二人の息の合った妄想とその対策!!(笑)
。。と。超カリスマ主婦と超不器用主婦。。。
二人の相性の良い訳がしっかり分かりました!!(笑)
”エロ男爵”って。。ノーリー夫人熱くなっているとはいえ。。。(爆笑)

愛情表現に不器用なお子様ナオキヴィッチ、自分以外の人間が大切な奥さんのことを”猿”呼ばわりする事には腹が立つのね。

コトリーナの叫び声ーーーーー

ナオキヴィッチ様汚名返上(『亭主失格』)してね~!!!

こだわりの訂正!

↑汚名『『亭主失格』返上してね~!!!

ズタボロな思いだろうなぁ・・・。

こんにちは
ナオキウ``ッチの愛込めて言う猿と メイドの猿は違うって・・・ふざけとんなぁ ボケ カス スカタン 腹が立つ
 
 ノーリー婦人に強制的に連れていかれるを拒否せんだのは 唯一にの救いかもしれないがぁ・・・
コトリーナが下着姿で追われてる場に遭遇ですよねぇ ブッタマゲルかも知れんが、きっちり先輩メードに
お仕置きを・・・よってたかって、猿に泥棒呼ばりなんだから
でもぉさぁ 

どっかでナオキウ``ッチにも チットだけあって欲しいです。 お仕置き・・・

コメントありがとうございます。

コメントありがとうございます♪

ゆうさん
確かに、さっさと紹介しないからこんな大変なことになってしまったのですよね。
子供っぽくすねたりしているもんだから…!!
でもコトリーナちゃんのガッツなら、きっとこの困難な状態も切り抜けることでしょう!!

祐樹'Sママさん
あんパンが慰謝料って、本当に聞いたことないですよね!!どんな高級というか、どんだけケチなんだ、このナオキヴィッチは!!
自分が愛されていることに気がつかず落ち込むコトリーナちゃん、可愛そうだけど可愛いくてたまりません!

tiemさん
この妄想がまたナオキヴィッチにはたまらないんでしょうね~。
それにしても泥棒扱いまでされて、本当にコトリーナちゃんの大ピンチなんですから、さっさと先生には出てきてほしいものですね。

あおさん
とうとう書いてしまいましたよ、『エロ男爵』…。
でも確かにその通りじゃないかなあって思って。
超カリスマ主婦はともかく、超不器用主婦って!!爆笑!
でもそんなコトリーナちゃんでもノーリー夫人は可愛くてたまらないんですよね。
ナオキヴィッチ様、言われっぱなしに終止符を打つ日が来るのか!
あおさんのこだわり、しっかりと受け止めましたよ~(笑)

吉キチさん
そうですね、ノーリー夫人に強制連行されることは拒否しなかったのは誉めてあげましょう!!(笑)
ナオキヴィッチへのお仕置き…確かにこれだけの目にコトリーナを遭わせたのだから必要かもしれませんね。

まあちさん
いえいえ、大丈夫です!ためておくのが一番体にもよくないですよ~。まあちさんがすっきりするのならそれが一番です!!
本当にノーリー夫人の信用を完全になくしてしまったナオキヴィッチ…でもコトリーナちゃんに優しくすれば一発で信用を取り戻せるんですけどね!!

紀子ママさん
私、セーラの主題歌歌えます!!本当に稀に見る…悲しげな歌でしたよね。
で、ゴルゴ!!思い出したー!!!
夏に新聞で「ゴルゴ死す」って見出しがあって、「ええ!ゴルゴ13が死んじゃうの!それが新聞ネタに!?さすがゴルゴ13!!」とか驚いて中身を読んだら…「猿か」と胸をなでおろした記憶があります。でもそれでもすごいですよね!
ちなみに母も私が読んだ後に「ゴルゴが死んだの!?」と驚いて「猿か」と呟いていました(笑)

佑さん
佑さんの「逃げて~」がすごくツボに入ってしまいました。
なんだろう、佑さんに「琴子ちゃん可愛そう」と思ってもらえると、すごくうれしい私がいます…(笑)

名無しさん
大丈夫です!!ちゃんと助けに来ますから(たぶん)!!
でももうちょっとコトリーナちゃんには困難な状況を与えてもよかったかも…。
コトリーナちゃん、メイド達に捕まる→下着姿で屋敷内の牢屋へ→ぼろ服与えられ、売られる→どっかで何かされている…とか???
そうなるとエンディングはいつになるんだろう(笑)
本当に琴子ちゃんが辛い目に遭う話って、ちょっと書いてみたい誘惑にとらわれますが、どうしても書いているうちに辛くてさっさと終わらせてしまっちゃうんですよね~。

Foxさん
猿呼ばわりまでされるなんて…本当にコトリーナちゃんにとっては大変なことばかり!
ここでナオキヴィッチが助けなかったら、一体だれが助けるのか!
それこそ離婚ですよ、離婚!!
プロフィール

水玉

Author:水玉
『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
そっと見守っていただけたら嬉しいです。

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当ブログは、『イタズラなkiss』の二次創作をメインとしておりますが、時折管理人の趣味や日々の出来事についての記事も書いております。

原作者様や関係各位とは一切関係ありません。

二次創作については、いわゆる原作の隙間をぬった作品もありますが、主人公以外のキャラクターをメインとしたものや オリジナルキャラクターが出てくるものもございます。

そして、原作と違った時代(平安や明治やその他の時代を舞台にしております)、異なる設定(主人公を医者と看護師じゃない職業にしております)で書いてあるものが多いですが、原作を冒涜しているつもりは全くございません。

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