日々草子 My Dear Wife 1

My Dear Wife 1


国一番の由緒ある家柄、名門イーリエ公爵家の当主、ナオキヴィッチ・イーリエ公爵は指輪を手にしていた。
「素敵な指輪!」
妻であるコトリーナが隣から見つめる。
「…やる。」
ナオキヴィッチは指輪を無造作にコトリーナへ差し出した。
「え?」
突然差し出され、オタオタするコトリーナ。
「や、やるって?」
「これは公爵家に伝わる指輪だ。」
「それでイーリエ家の紋章が入っているわけですね。」
お茶を運んで来た執事のシップが会話に加わった。
「紋章?」
「ほら、こちらですよ。」
シップがコトリーナに分かるように指で示す。
「このサファイヤを囲むようにこう…。」
「すごい!」
目を輝かせてシップの説明に耳を傾けるコトリーナにナオキヴィッチが説明を加える。
「これはイーリエ公爵夫人に代々伝わってきたものだ。だからお前が持っていろ。」
「そ、そんな!!」
コトリーナは受け取らない。

「だって…こういう大事な物はこんな、ティッシュをやるみたいな感じで渡すものじゃ…。」
「ティッシュってお前、もうちょっとましなたとえはないのか?」
呆れるナオキヴィッチなど無視し、コトリーナは両手を組む。
「こう、先生が渡した瞬間に光が差し込んで…岩がパチパチと割れて…天使がやってきて…。」

「それにしても見事な指輪ですね。」
「まあ、それなりに贅は尽くしているよな。」
妄想に耽るコトリーナを放置し、ナオキヴィッチとシップは指輪について話し続ける。

「それでね、先生が私の指にこの指輪をはめてくれた時に“パララ~パッパラララパララ~”というファンファーレみたいな音楽が流れて…。」
相変わらず妄想の世界に入り浸っているコトリーナ。
ナオキヴィッチはそのコトリーナの左手をサッと掴み、指輪をはめた。

「大事にしろよ。」
「ファンファーレがまだ鳴ってないけど…ま、いっか。」
コトリーナは現実に戻った。そして指輪をうっとりと見つめる。
「先生の奥様っていう証ね!」
ムフフフフと笑い、左手を上げクルクルとその場で踊り始める。
「というより、公爵夫人である証なんですけれど。」
「あいつ、いまだに公爵夫人だっていう自覚ゼロだからな。」
クルクルと踊り続ける公爵夫人を見ながら、公爵と執事は顔を見合わせた。



「…コトリーナ様は相変わらずですね。」
そこへやってきたのが、ユウキスキー。執事学校が休暇で遊びに来たのだった。
「母上は?」
ユウキスキーはキョロキョロと辺りを見回し、母であるこの家の家政婦、ノーリー夫人を探す。
「ああ、外出している。」
ノーリー夫人は今日から数日間、泊りがけで外出をしていた。
そこに玄関の呼び鈴が鳴り、シップが急いで向う。
「ユウキスキー、ママが恋しいんでしょ?」
「そんなわけないでしょう。」
「どうかしらねえ?」
コトリーナとユウキスキーがいつものようにやり合っていると、シップが恭しく手紙を手に居間に戻ってきた。

「旦那様、お手紙でございます。」
シップが手にしていた手紙を見て、ユウキスキーの顔が変わった。
「久しぶりに見る紋章だな。」
ナオキヴィッチは手紙を読み始める。

「どちらから?」
ナオキヴィッチが読み終えた頃を見計らい、コトリーナが声をかけた。
「オーイズミ伯爵家からだ。」
手紙を丁寧に封筒へ戻し、シップへ渡しながらナオキヴィッチは答えた。
「オーイズミ伯爵様?」
コトリーナは聞いたことがなかった。
「伯爵様が何か?」
ユウキスキーがナオキヴィッチに訊ねる。
「お体の調子を崩されて、ここ数日寝込まれているらしい。」
「もうかなりのお年でいらっしゃいますしね。」
どうやらユウキスキーは伯爵のことを知っているらしい。
「それで、俺に話相手になってほしいと。」
「先生が?」
「伯爵家とは古くからの付き合いでね。伯爵本人は非常に知識の深い方で…。」
「それならすぐに行ってさしあげて!!」
コトリーナはナオキヴィッチにすがるように叫んだ。その迫力にナオキヴィッチが驚く。
「御病気でさぞ心細いと思うわ。先生とお話することで少しでも御気分が和らぐのなら。」
コトリーナの心には、高齢の伯爵が一人寂しくベッドに寝ている姿が浮かんでいた。どんなにか寂しい思いをしていることだろう。

「いいのか?」
「ええ。私は大丈夫。シップさんやユウキスキーもいるし、おば様だって数日後にはお戻りだし。」
笑顔で頷くコトリーナ。
妻の言葉に甘えて、ナオキヴィッチはその日のうちにオーイズミ伯爵家へと向ったのだった。



「オーイズミ伯爵家へナオキヴィッチが?」
翌日訪ねて来たウェスト男爵は、ナオキヴィッチの留守の理由を聞き少し驚いた様子を見せた。
「ええ。先生もよくご存じの方みたいで心配していたから。」
コトリーナはニコニコと話す。
「ふうん…。」
そしてコトリーナはお茶のお代わりを取りに応接間を後にする。

「…コトリーナは知らないみたいだね。」
後に残ったシップとユウキスキーに男爵は心配そうに訊ねた。
「はい。」
ユウキスキーは頷く。シップが二人を交互に見て、
「何かあるんですか?」
と訊ねた。

「オーイズミ伯爵家と我がイーリエ公爵家は古くからの付き合いなんです。」
ユウキスキーがシップに説明を始める。
「はい、旦那様もそう仰っておいででした。」
「特にオーイズミ伯爵様はナオキヴィッチ様を実のお孫さまのように可愛がっていておいででして。」
「はあ。」
「…伯爵は自分の孫娘とナオキヴィッチを結婚させるつもりだったんだ。」
「ええ!?」
ウェスト男爵の言葉に驚愕するシップ。

「だがナオキヴィッチ本人がその気にならなかったんだろ?」
男爵はユウキスキーに確認する。
「はい。ナオキヴィッチ様はそのお話に気がつかないふりしておいででしたから。」
「勿体ないよなあ。」
男爵は溜息をついた。
「オーイズミ伯爵家のレディ・サヴォンヌといったら、当代一の貴婦人として社交界に名を馳せている女性だ。そんな素晴らしい女性を袖にするなんて。」
「そんなに素晴らしいお嬢様なんですか?」
シップは二人に訊ねる。
「それはもう。」
ユウキスキーは頷く。
「度々イーリエ家にも伯爵様とご一緒に遊びにいらしてましたので、僕もよく存じておりますが、美しさ、賢さ、優しさの全てを兼ね備えておいでです。」
「サヴォンヌ嬢が歩くとまるで蝶が舞うようだと言われ、男どもは皆息を呑んでその姿を見つめていたもんだ。」
「蝶が舞う…それは素晴らしい。」
シップは感嘆の溜息をついた。想像もつかない。
「ご趣味はピアノ、刺繍。」
「御令嬢の鑑のような方ですね!」
心底感心するシップだったが、ふと気がつく。

「では男爵様もサヴォンヌ様に夢中に?」
ウェスト男爵の女好きをよく知っているシップがもっともな質問をする。
「僕?いやいや!さすがの僕もサヴォンヌ嬢にはとてもとても手が出せない!」
男爵はとんでもないと手を振った。

「届いたお手紙なんですが、サヴォンヌ様の筆跡でございました。」
ユウキスキーの報告に二人の男は驚いた。
「驚いた!サヴォンヌ嬢はまだお一人か!」
「はい。そのようでございます。」
「あのような名門の御令嬢がまだお一人とは…。」
「うーむ」と男爵は唸る。

そして三人の間に何とも言えない空気が流れた。

「コトリーナはサヴォンヌ嬢のことは?」
男爵が言いにくそうに囁いた。
「いいえ、御存知ないはずです。ナオキヴィッチ様も何も仰らずに出かけられましたから。」
「そうか…。」
三人はコトリーナにはサヴォンヌのことは黙っていようと固く誓ったのだった。


が…。

(サヴォンヌ様…?)
扉の向こうでは、コトリーナが三人の会話を全て聞いていたのだった。


「蝶が舞うような…。」
そのまま応接間へ入らず、コトリーナは自室へと戻り鏡の前に立った。
蝶が舞うような姿のサヴォンヌとはどのような女性なのだろうか?そして…かつてその素晴らしい女性と結婚の話があったというナオキヴィッチ。

コトリーナは右足、左足とステップを踏んでみる。蝶が舞うような立ち居振る舞いをしてみるのだが、どうもそうは見えない。

「どすこーい、どすこーい。」
蝶が舞うステップが、なぜか四股を踏むようになり、ついそんな言葉が口から出た。
「これじゃ蝶じゃなくて、横綱の土俵入りだわ。」
無駄なことはやめ、コトリーナはベッドに仰向けに倒れた。

「そんなに素敵な方の所へ行ってしまったら、先生はきっと…。」
もうここには戻って来ないのではないだろうか?
「横綱より蝶の方がいいに決まってるもん…。」
寝返りを打ち、コトリーナはべッドに顔を埋めた。


「大変でございます!!」
翌朝、居間の花に水をやっているユウキスキーの元へシップが息を切らしてやってきた。
「どうしたんですか?」
如雨露を手にユウキスキーがシップを見る。
「こ、これが…寝室に!!」
シップが手にしていたのはコトリーナの置き手紙だった。

『しばらく出かけます。深さないで下さい。コトリーナ。』


「奥様が向かわれたのはあそこですよね?」
シップはユウキスキーを見た。
「間違いないでしょう。」
ユウキスキーはまだ朝だというのに、ぐったりと疲れた様子でソファに座りこむ。
そして、置き手紙の『深さないで』の部分に二重線を引き、『探さないで』と正しく書きこむ。

間違いない。
コトリーナは…オーイズミ伯爵家に向かったに違いない。











☆あとがき
『何度でも…』を書きながら、書きたくなった話です♪
これも短い話なのでご安心を…。
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comment

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早速新作♪

水玉さま、早くも新作をありがとうございます~!!

「ご安心を」といわれましても、水玉コレクションの中で、この公爵シリーズのイリコトは特に私を心配させます!
ナオキヴィッチの性格がどうも危なっかしいのです(笑)
でも、反対にコトリーナは特にかわいい顔しますよね!!

横綱と蝶!??
既に何たる不穏な動き!!!

こんばんは

蝶の様な振る舞い・・・・横綱の様な振る舞い・・・・・・何となく想像つく・・・。

琴子はオーイズミ伯爵家に直樹を行かせたものの、三人の話を偶然に聞いてしまった琴子は、直樹が行ったきりもう二度と自分のもとへ戻ってこないんじゃないかと思ってオーイズミ家に行ってしまったのかしらねぇ・・・?

まさか・・・伯爵って人は直樹と琴子を別れさせて自分の孫娘とくっつけようとしているのではないですょうか・・・?

だから孫娘は未だに一人でいるのでは・・・・?
(名前を書こうかと思ったのですがなかなか難しいですね…?)

私も琴子の立場だったら琴子と同じことをしていたかも知れないなぁ・・・・。

オーイズミ家の孫娘って人がどんな人なのかすっごく気になりますもん・・・。


でも・・・琴子の行動は何となく可愛い様な気がします・・・・・。


毎度毎度ギャグ路線を匂わせていながら、
しっかりとドキドキハラハラ、涙ポロリとなっちゃうこのシリーズ。
私、大好きなのよね。
ただ、カタカナが書けないので?今回も琴子、直樹で!!

実は私も小学生のとき、探さではなく深さと書いた記憶が・・・

私も琴子ちゃんだったら大泉家の方々気になっちゃうだろうなぁ
しかも、蝶と横綱・・・・
自分をみじめに思いすぎると琴子ちゃん何かしちゃいそうで心配!!
大丈夫よ!!琴子ちゃん、とっても魅力的だから!!

  ですよねぇ~

 こんにちは
コトリーナに ぶきらぼうに紋章入りの指輪渡してはめるんんもナオキウ``ッチらしい。  深さないでで下さい。 どんだけ焦ったんでしょうねぇ・・・

 ですよねぇ・・・心配で おとなしくできるハズがなく ナオキウ``ッチの様子見たら、大丈夫かなと想いつつ・・・この二人だから 楽しみにお待ちしてます。 自信もてばよいのになぁ・・・

続編ありがとうございます。

サヴォンヌまた難しい名前ですね!

ナオキヴィッチは、サヴォンヌのことなんて眼中にねいんでしょうが、やっぱりコトリーナは、気になりますよね?

まさか?結婚してるのに別れさせてまで結婚させようとは思いませんよね?

rinnnさん、ありがとうございます。

大丈夫、大丈夫♪
このシリーズ、元は本当にしょうもないギャグ満載(のつもり)なので!
だから前作に引き続き、肩の力を抜いてゆるりを読んで頂けたらと思います^^
確かに、rinnnさんがおっしゃる通り、このナオキヴィッチの性格は私が書く話の中でも一、二を争う嫉妬深さらしいですが…(よく言われます)。
そしてコトリーナちゃんはそれに反比例するかのように可愛いと自分でも思います!

ゆうさん、ありがとうございます。

琴子ちゃんは心配でたまらなくなって後を追いかけてしまったんですよ~。
行き先にそんなパーフェクトな女性がいると聞いたら尚更心配になるでしょうし。

昔婚約寸前までの関係だったと聞いたら、きっといても立ってもいられなくなったでしょうしね!

ゆみのすけさん、ありがとうございます。

毎度毎度ギャグ路線をめざしては、すべりまくっているこのシリーズ(笑)
そしてそれに懲りることのない私がここにいる~♪

本当に力抜いて書けるから、だから自分で書いていて楽しいんですよね!!
横綱って…琴子ちゃん。
あなた、そんなに太くないでしょうに…(笑)
恋する乙女は何もかもが不安になってしまうのよね、わかるわ~。

吉キチさん、ありがとうございます。

このぶっきらぼうな渡し方が、ナオキヴィッチらしいといえばそうなんですけどね!
コトリーナもあんまり気にしてないみたいだし。
珍しく?コトリーナに強敵を出してみました。
いつもいつも、ナオキヴィッチばかりが嫉妬してさぞ疲れるだろうと思ったので…。

kobutaさん、ありがとうございます。

別れさせる…なんだかすごい響きですよね!!(笑)
そうなったらもう、この話はギャグからサスペンスか昼メロに移行ですね!
大丈夫、基本ギャグなので安心して下さいね♪

拍手コメントありがとうございます。

佑さん
ありがとうございます~♪
私もまた可愛いコトリーナちゃんを書くことができて幸せです。
やっぱりいいなあ、このシリーズ、エヘヘ。

若草智紀さん
お久しぶりです!
そうですよね!!若草さんが以前下さったコメントに「サフォンヌ姫」ってありましたよね!確認してまいりました!!
どうりですぐに浮かんだ訳だ…。若草さんの「サフォンヌ姫」が記憶に残っていたから、「サヴォンヌ」というのが浮かんだんですね。
ごめんなさい、結果として勝手に使用してしまったような形になってしまって!!
お気を悪くされたら、名前を訂正しますのでご連絡いただけたらと思います。

紀子ママさん
そうなんですよね。
悪い人じゃないんですけれど、どうもヒロインの恋敵、しかも婚約寸前までいったから…なんだか敵視しちゃうんですよね。
でも使わずにいられない、このライバルさん。
そうですよ、シコ踏んでもコトリーナちゃんのことが大好きなはずなんですから!

Foxさん
ありがとうございます!!
大丈夫、ドナドナは今回は多分…ないかと(ちょっと物足りない私がいます(笑)
やっぱりコトリーナとくればドナドナがセットですよね!!
あとこれはどの琴子ちゃんにも共通しているんですが妄想癖!!
これも欠かすことはできません。
プロフィール

水玉

Author:水玉
『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
そっと見守っていただけたら嬉しいです。

※当ブログに掲載されている文章及びイラストの無断転載・使用はご遠慮下さい。

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当ブログは、『イタズラなkiss』の二次創作をメインとしておりますが、時折管理人の趣味や日々の出来事についての記事も書いております。

原作者様や関係各位とは一切関係ありません。

二次創作については、いわゆる原作の隙間をぬった作品もありますが、主人公以外のキャラクターをメインとしたものや オリジナルキャラクターが出てくるものもございます。

そして、原作と違った時代(平安や明治やその他の時代を舞台にしております)、異なる設定(主人公を医者と看護師じゃない職業にしております)で書いてあるものが多いですが、原作を冒涜しているつもりは全くございません。

二次創作が苦手という方及び原作のイメージと合わないと思われる方はどうぞお引き取り下さいますようお願いいたします。

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