日々草子 何度でも恋をする 2

何度でも恋をする 2




「私が一目ぼれ!?」
夕食後、リビングで寛ぐ琴子は裕樹から告げられた事実に驚いた。
「…この人に?」
チラリと直樹を見る琴子。先程の失礼な態度を「言い過ぎた」と謝ることもなく、直樹は黙って新聞を広げている。だが平然と見えるその顔とは裏腹に「この人」という、またもや他人行儀な呼ばれ方にショックを受けていることは、ここにいる誰も気が付いていないだろう。

「そうだよ、お前がお兄ちゃんに一目ぼれをして、ストーカーしてたんだ。」
「ストーカーって、失礼な!」
「だって本当なんだからしょうがないだろ。」
「んま!兄弟そろって失礼な態度なのね!」
よくぞこんな兄弟と一つ屋根の下で暮らしていたものだと、琴子は思わずにいられない。

だが裕樹とて琴子を怒らせたくて話をしているわけではない。
一刻も早く琴子に記憶を取り戻してほしい。わざとはないとはいえ、自分が原因でもあるわけなのだから責任を感じている。
本当はもっと優しく琴子と接したいのだが、琴子があまりにも直樹へ冷たい態度を取っていることを見るにつけ、つい口はきつい言葉を発してしまう。

「琴子ちゃん、これ見て!」
紀子はテレビの前に琴子を座らせた。
「…コトリン?」
画面に映し出された文字を見て、琴子は呟く。
「ゲームですか?」
「そうよ、ほらご覧なさい!」
紀子は慣れた手つきで操作をした。
「これ…もしかして…?」
画面に映し出されたキャラクターを見て、琴子は目を丸くする。
「そうよ。これ、琴子ちゃんをモデルにしたコトリンというキャラクターなの!お兄ちゃんが作ったのよ!」
これなら思い出すのではないかと期待する紀子。

「嘘…。」
琴子は画面に目が釘つけとなっている。
「ね、そっくりでしょ?」
「本当だ…。」
そして琴子は直樹を見た。

「あなた…ゲームにまで使うほど、私のことをそんなに愛しているの?」
「…は?」
直樹は新聞から顔を上げた。その目は冷たい。
「もう…そんなに愛しているのに、何であんなひどいことを言うのかしら?」
琴子は照れた様子を見せ、もじもじとしている。
「誰が…愛しているだって?」
新聞を無造作に置き、直樹は立ち上がった。
「だって、こんなゲームにまでして。あ、でも…。」
直樹の怒りなど気にすることなく、琴子は指を口に当て考えるそぶりを見せた。
傍では、自分たちの期待する状況とは違った方向へと進んでいる二人を紀子と裕樹がハラハラしながら見ている。

琴子はまじまじと、直樹の顔を見て言った。

「ゲームを作るってことは…あなた、そんな綺麗な顔をしているのに相当なオタクなのね!」

紀子と裕樹の顔が真っ青になった。

「…勝手にほざいてろ!!」
直樹はリビングのドアをけたたまし音を立てて閉めて出て行った。

「…怒りっぽい人。何であんな人と私、結婚したのかしら?」
やれやれと琴子は肩をすくめた。

いくら琴子の記憶がないにしろ…さすがに紀子と裕樹はこの時ばかりは直樹に同情してしまった。



「あ…。」
風呂から上がり、鏡の前で髪を梳いていた琴子は入って来た直樹に戸惑った。
「ええと…あの…。」
戸惑う琴子を見て直樹も気がつく。
「安心しろよ。俺は違う部屋で寝るから。」
いくら記憶喪失とはいえ、これ以上あの無邪気な言葉に傷つくのはたまらない。直樹は部屋を出ようとした。が、
「あ、待って!」
と、琴子が直樹のパジャマの裾を掴んだ。

「…何?」
直樹は振り返る。
「あ、あの、私が違う部屋で寝るから!」
「え?」
意外な琴子の言葉に、今度は直樹が戸惑う。
「別に気を遣わずとも…。」
「違うの。」
琴子は首を振る。そして少し顔を赤らめなた。
「だってこのベッドで…その…私たちは…。」
何となく琴子が言わんとしていることが分かって来た。
「その…おしべとめしべの…。」
そこまで口にした琴子の顔は沸騰寸前となっている。
「おしべ…。」
そのたとえの凄さに直樹は思わず笑いそうになった。だが一方で、自分とそういうことをしていたベッドでは眠れないとやんわりと拒否された事実に打ちのめされる。

「分かった。俺がここで寝る。お前は客間を使え。」
ショックを受けたことを気付かれぬよう、直樹は素っ気なく言い、さっさとベッドへ入った。琴子が安心してこの部屋を出られるように。
「ありがとう…。」
安心して琴子は部屋を出ようとノブに手をかけた。が、開けずに振り返った。
「まだ何か?」
ベッドの中から直樹が機嫌の悪い顔を見せる。

「…あなたって、オタクかと思ったら少女趣味な所もあるのね。」
「何だって?」
「だってこの部屋、すごい女の子の部屋だもの。私の趣味ともちょっと違うし…ていうことは、あなたが選んだってことよね?」
「この部屋はお袋の趣味だ!」
とんだ誤解をされそうになり、直樹は怒鳴った。
「あ、そうなんだ。ならよかった。」
琴子はホッとした。
「だって…悪いけど、あなた、このベッドに似合わない。」
その瞬間、ベッドから枕が飛んできた。
「キャッ!」
枕は琴子の顔に見事に命中した。
「何するの!」
「さっさと出て行け!」
「もう乱暴なんだから!」
「イーッ」という顔を見せ、琴子は寝室を出て行った。



だが、客間のベッドに入った琴子の胸はなぜだか少し痛みを感じていた。
琴子が「違う部屋で…」と言った時の直樹の顔がとても悲しげだったことが気にかかる。
「あの人…あんなに悲しい顔をすることがあるのね…。」
心が15歳の琴子には、妻から違う部屋で寝たいと言われた夫の気持ちなど分からなかった ――。










☆あとがき
今回はどうも「入江くん可哀想」コールが聞こえます(笑)
でもこんな琴子ちゃんでも、私はやっぱり可愛いと思っちゃう…♪
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comment

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たまには

たまには入江君も、辛い思いをした方が良いと思いますよ。


記憶が無くて、他人行儀過ぎる琴子も少しだけ痛々しいですが。

 いつまで続くかな?

      こんにちは
 直樹も今の琴子の記憶も含め 分かってても 言葉にしない辛さは表情からも 分かるよねぇ・・・。
 琴子の発言・・・どっか一部には今まで言わなかった本音も隠されてるんだろうかなぁ? 
直樹もこの状態・・・続けば どうするんかな?  
入江君可愛そうコール・・・いつも琴子が追いかけるんだから たまには良いんじゃないかな?逆でもと・・・思っちゃいました。すいません。

わ~い☆

こんなお話まってましたーー!!
この直樹の悲劇ぶりが私を楽しませてるのがわかりますか!?(笑)いや、水玉さんならわかっていただけると!
琴ちゃんが部屋を変えてほしいと申し出たときの直樹の心の痛みがしめしめ!ってかんじですね!!
記憶失っても琴子ちゃんの抜けっぷりは健在のようで、かわいい限りです(^^)今まで散々ひどいことをしてきたんだからこんなお話もありだと思います~☆続きが楽しみです♪

面白すぎる~~~☆

琴子は記憶が無い事をいいことに、直樹に
言いたい放題ですね「オタク」や「少女趣味」など
直樹の気持ちはすっごくわかるけど直樹も琴子に
対して傷つけるような言葉を言ったんだから
これでおあいこ・・・・と言うことで大目に見てあげたらどうでしょうか・・・・・?
プロフィール

水玉

Author:水玉
『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
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