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2010.09.28 (Tue)

忍ぶれど 8


【More】


別邸で出会った公達が帝であったということを知り、琴子は驚愕した。
「な、なぜ私にお文が?」
「それは姫があまりに可愛らしかったからでしょう!!」
紀子は自慢の娘の可愛らしさを帝が認めたと知り、嬉しくて琴子を抱きしめた。

「珍しかったからでしょう。帝…主上はいつも美しい女御の皆さまに囲まれておいでだから、山猿は見たことがなかっただろうし。」
「山猿…!」
琴子と紀子は直樹を睨む。
だが直樹とて、自由奔放な明るい琴子は一目で帝を虜にしたということはよく分かっていた。

文の内容は別に琴子を宮中へとは一言も書いていなかった。ただ、別邸での一時は楽しい思い出となっている…そのようなことが書かれていた。

「お返事は…?」
部屋に直樹と二人になり、琴子は訊ねた。
「相手は帝だからな。きちんとお返事をしないと。」
本当はさせたくはないのだが、そうもいかない。
「わかりました。」
琴子は素直に文机に向かい、筆を執った。
「是非蹴鞠をご一緒に…。」
「ちょっと待て!!」
直樹が琴子から料紙を取り上げる。
「何、失礼なことを書いているんだ!」
「だって、蹴鞠の精と私をお呼びなのですよ?」
「だからといって…お前はこんな見てくれでも一応は女なんだ!何が蹴鞠を一緒にしましょうだ!」
「もう…難しいなあ。」
琴子は文を書く気が失せてしまったらしい。その様子にどこか安堵する直樹。

「お兄様、代わりに書いて下さいませ。」
「それはまずいだろ。」
本当はそうしたい。だがそうもいかない。
「では何とお返事いたしましょう?」
「お文を頂戴し勿体ないとかその辺を丁寧に書いておけ。」
「はあい…。」
そして琴子は新しい料紙に向かう。
「ええと…私の美しさを褒めて下さり…。」
「待て!!」
また琴子の手を止める直樹。
「主上は一言も、お前が美しかったとか書いてはいない!」
「ええ?それは…主上が恥ずかしがられて書いておられないだけでは?」
直樹は琴子の両頬をまた引っ張る。
「お前って奴は…どんだけ図々しい奴なんだ!!」
「ひ、ひどい…顔が伸びます、お兄様!」
「大丈夫だ。もうこれ以上は大きくならないから。」
直樹はそんなことをしつつも、またどこかで安心していた。
大丈夫、琴子は帝の元へ上がろうなどという気はない。それに、帝も珍しくてからかいたくなっただけに違いない…。

「ほら、書き終わるまで見張っているからな。」
「はあい…。」
そして琴子は直樹に見張られつつも何とか返事を書き上げた。それは本当に無難な内容であった。

「ねえ、お兄様?」
返事を書き終わったのだから、一緒に碁を打とうと誘いながら琴子は直樹にすり寄る。
「何だよ?」
「お兄様も私にお文を下さっても…よろしくてよ?」
もじもじとしながら、直樹に近づく琴子。
「何で同じ家にいて、お前に?」
「まあ!同じ家の中にいても、お文のやり取りをするのは貴族のたしなみでしょう?」
「そういうのは、一人でまともな文を書けるようになってから言え!」
疲れたと言い、直樹は部屋を出て行ってしまった。



鴨狩帝はそれからも度々、琴子の元へ文を寄こした。その度に琴子は丁寧に返事をしていた。
「これは…本気で姫を?」
文の数が増えるにつれ、重樹と紀子はもしかしたら帝は本気で琴子を妃にと望んでいるのではと思い始めた。
「まさか、あの猿が?」
裕樹が両親の心配をせせら笑う。
「お姉様のことを猿だなんて呼ぶんじゃありません!」
紀子が裕樹を叱りつけた。

やがてその噂は少しずつ、他の貴族の間にも広まり始める。

「主上の元に差し上げるおつもりだったのですか。」
それなら自分など相手にされるはずはないと直樹に話す公達も現れ始めた。
「まだ…決まったわけでは。」
直樹はそう答えるのが精一杯である。

このままでは正式な話が出たら…断れなくなる。直樹の不安はどんどん増して行く一方だった。



「妹は楽しい姫だな。」
直樹を呼び、帝は笑った。
「…礼儀も何も知らない故、失礼も多いかと。」
「そんなことは全然ない。」
帝は否定する。
「…やはりあの時会った通りの姫だった。」
一度会った琴子の様子を浮かべる帝。その顔は…恋する男そのものである。

「あのような明るい姫が後宮へ入ったら、さぞ楽しいだろうな。」
「教養も何も身に付けてないため、とてもではございませぬが…。」
「そんなものを身に付けた女はもう飽きた。」
直樹の言葉を遮り、帝は強く口にした。
「私が必要なのは、こうして政事で疲れた体を優しく楽しい話で癒してくれる姫なんだ。」
「ところで」と、帝は話を変えた。
「中納言は最近、何か物思いに沈んでいるようだと噂されているようだが?」
「私が…ですか?」
突然自分に話が及び、直樹は驚く。
「…どこぞの女人に恋でもしているのでは?」
帝は楽しそうに直樹に笑いかけた。
「は?」
「女房達がそう話している。中納言の心を射止めた幸運な姫は一体誰なのだろうとな。」
「そのようなことは…。」
それは自分が恋をしているから、人もそう見えるのだろうと直樹は帝に言い返したかった。だが、相手が相手だけに、そこまでは言えない。


帝の前から下がり、一人になった直樹は外に出て木にもたれかかった。

―― 恋…?

このままでは、きっと琴子の元には入内を促す帝からの文が届くことになるだろう。断る理由はない。

直樹は懐から、扇を取り出した。それは琴子が心を込めて描いた扇である。
広げると、下手な月と亀が描かれている。

眺めていた直樹の口から、思わず歌が零れた。

「恋すてふ わが名はまだき 立ちにけり 人知れずこそ 思ひそめしか。」

琴子が手の届かぬ所へ行こうとしている今になって、直樹は初めて自分が琴子に恋していることに気がついたのだった…。



そして、鴨狩帝から入内を促す文が届いたのは、それから間もなくのことであった ――。





・入内:皇后、中宮、女御等になる人が正式に宮中へ入ること。
・女御:天皇の寝所に侍る女官。皇后、中宮に次ぐ位。
・中宮:皇后と同等の位の后。
・後宮:后が住む場所。

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*Comment

★気付いてしまいましたね

あぁ、やっと気付いたのね、直樹。。。琴子もまだぽわんとした天然な感じですね。今後が楽しみすぎる!!
きょろころ |  2010.09.28(Tue) 17:01 |  URL |  【コメント編集】

★認めたー!

ようやく直樹が琴子への恋心を認めましたね。さあこれからどうする直樹!!
今まで直樹は常に立場が上だったけれど、今回は鴨狩帝に逆らうことの出来ない地位だからどう動くかとても楽しみです。「貴婦人」では啓太は王家だったけれどよその小国だったし結婚しているという事実もあったけれども今回は…!?
どうなる?どうなる?

こんな緊張感のある話の間にワンパターンの話が入ると妙にホッとしますね。肩の力が抜けるというか、テレビのCMのようにその間に飲み物でも用意しょうか、トイレに行こうか的な…いえ別ぺの話の度にトイレに行っている訳ではなく、そんな余裕がうまれるという意味で…(汗)訳わからなくなりましたが、とにかく楽しみにしています。
nomari |  2010.09.28(Tue) 17:03 |  URL |  【コメント編集】

★とうとう…

こんにちは。おはやい更新でめちゃくちゃ嬉しいですが、コメントがなかなか追いつかずすみません(>_<)そして今、うったコメントを全部消してしまいました(T_T)泣~~~

今回、とうとうお兄様が自分の気持ちに気づきましたね。でもやっと気づいたのに、琴子姫のお相手が帝!つ、つらいですね~~あの和歌がすっごく切なかったです…(:_;)直樹と琴子姫の会話は本当に楽しくて、帝だけでなく、お兄様もすっかり琴子姫のいる世界の素晴らしさを感じていたんですよね…。入内後のことを想像すると、さぞや断腸の思いのお兄様だと思います。やはり自分だけの妹、いや「姫」でいてほしいですもんね!このきゅんきゅんせつない感覚は、原作の10巻に匹敵する感覚だと思います。あの時も、直樹は金ちゃんとの結婚後の琴子を考えて、もう絶対譲れないと思ったはずですもん!!…というわけど、本当にすごい展開になってきたお兄様シリーズ、直樹お兄様がどうでるか、めちゃくちゃ楽しみにしておりますo(^-^)o
chan-BB |  2010.09.28(Tue) 17:13 |  URL |  【コメント編集】

★きた~!!

水玉さん、こんばんは!
とうとう、とうとう来ましたね!直樹が自分の気持ちに気付く時が…!!

前と同じようなコメで申し訳ないですが、今回のライバル鴨狩はなんといっても帝。
しかも、今の今まで直樹は自分の気持ちに気が付いていなくて、変な言い方ですが、鴨狩帝の方が気持ちを伝える意味では一歩リードしてしまっているんですよね。

琴子は届けられる文に今はまだ事の大きさを感じていないけれど、このままでは外堀から埋められていきそう。直樹もそれは分かっている。そんな中で例の扇を出し詠んだ一句がなんとも悲しいです。

「恋すてふ…」の歌は、「忍ぶれど」とはまさに対で出てくる一首ですよね。
歌合わせでは帝がたまたま口ずさんだ歌が忍ぶれどだったばかりに負けてしまったこの句を直樹が詠んだその意味は…?色々想像が膨らんでしまいます。

今後も目が離せません!次回も楽しみにしています!!
ぴくもん |  2010.09.28(Tue) 18:12 |  URL |  【コメント編集】

★とうとう来ましたねぇ~!!

とうとう直樹は自分の本当の気持ちに気がついて琴子に恋心を抱いていて啓太に嫉妬をしているのね。
直樹は自分の気持ちに気づくのはもう・・・遅しぎたのではないでしょうか・・・。
でも・・・・琴子に対して「山猿」と言ってみたり、手紙を書くのに「ここで書き終わるまで見張っている」など・・・・とわざわざ、そこまでしなくても…。
そんなに啓太が琴子に近づくのが気に入らないのかしらね…?!
そんなに琴子が気になるのなら「琴子の首に縄をつけて括っとけ・・・・」と言いたいです。
(おかしいですかね・・・?)
本当に直樹はヤキモチを焼いているのかしらね・・・・?
自分の本当の気持ちを、琴子に伝えないと・・・
啓太の所に行っちゃいますよ、行ってからでは、もう遅いですよ…、取り返しのつかないことになりますよ…。
ゆう |  2010.09.28(Tue) 18:16 |  URL |  【コメント編集】

★切ないね

直樹が 自分の気持ちに気がついたら 帝である啓太が 琴子を好きになっていたなんて…
琴子の天真爛漫な姿は 直樹だけじゃなく いろんな人の ハートを つかんじゃうのね。
読んでて ドキドキ 切ない気持ちです!
二人の 幸せがこの先にありますように(^_^)
さくら |  2010.09.28(Tue) 20:29 |  URL |  【コメント編集】

★  あっちゃあ~ 

             こんばんは
 直樹・・・恋に気づいたが・・・時すでに遅し・・・だけど・・・なんか秘策を思いつけるんだろうか??? でも琴子の気持ちが 今ひとつ たぶんで淡さは持ってるだろうが・・・
      天然のかわいい山猿チャンだから・・・ どうなるんでしよぅか??? 
 帝も 琴子諦めないだろうし・・・どうなるんかな?
 琴子より、直樹が先に気づく恋も 楽しみです。 家族もまきこむ恋かな? 
吉キチ |  2010.09.28(Tue) 20:44 |  URL |  【コメント編集】

★辛いね

水玉さまこんばんは。

でたー!!水玉マジック!!!せつない気持ちNO.1!!!
やっと気持ちに気付いたけど、せつないですねぇ。
最近、気が気じゃない様子だったけど、いつもはポーカーフェイスの直樹がよっぽど態度にも出てたんですね。
帝に心配されるほど、思いつめているなんて!
しかも「恋すてふ…」の歌をまさか直樹が詠むなんて!!
「お兄様」と呼ぶ琴子が今更ながらかわいくてしかたないんでしょうね。。。

さあ、帝相手にどうする!?
琴子が行ってしまう!と思ってからの直樹の行動って、まさにあのときのような??
わくわくします!!
rinnn |  2010.09.28(Tue) 21:41 |  URL |  【コメント編集】

あ~
忍ぶれどの題名だけでも切なさいっぱいなのに
直樹さんの詠む歌が、これだなんて!!
切なさMAXですね♪


もう!!どうなるの??気になるわ!!
けどこの歌を木にもたれかかって詠む直樹って、とても綺麗で切なくて誰も近づけない雰囲気をもたらしていたんだろうなぁ~
ゆみのすけ |  2010.09.28(Tue) 22:07 |  URL |  【コメント編集】

和歌の意味調べました。やっと自分の気持ちに気付いたのに、琴子が手の届かない存在になってしまうかもしれないなんての。この時代、帝の命令は絶対なんでしょうか?琴子の無邪気な笑顔が今の直樹にはかえって辛いでしょうね。
祐樹'Sママ |  2010.09.29(Wed) 12:38 |  URL |  【コメント編集】

★ばか!

水玉さん更新ありがとう!
・・・って 直樹くん!君はおバカだ!
琴子を狩鴨に渡しちゃっていいの?・・・訳ないだろう~バカバカバカ~んんっと、いつもハラハラさせるやつだなぁ~
美優 |  2010.09.29(Wed) 17:46 |  URL |  【コメント編集】

★コメントありがとうございます

きょろころさん
そうです、やっと気がついたんです。
琴子ちゃん、確かにまだ天然で自分がいかに大変な状況になっているか分かっていない感じですよね。

nomariさん
すみません…笑ってしまいました。
トイレ…そうかあ!!これからの季節だと、CMの合間は「みかんを取ってこないと」という感じでしょうか?
私も書く前に「ああ、貴婦人と似てしまうなあ」と心配になったんですけれど、nomariさんのコメントを拝見したら、大丈夫かなという気持ちになれました。ありがとうございます。

chan-BBさん
ぽわわ~んとしている妹を相手にしていると、どうも調子を狂わせてしまうんでしょうね、お兄様。
入内しても、妹には変わりないけれど…でも他の男のものになるという事実を受け入れることができないんだろうなあ~。
琴子姫は自分のことをお兄様としか見ていないという思いもあるだろうし…。
最初にあれだけいじめてしまった手前もあるでしょうし…。

ぴくもんさん
気がつくのが一歩遅かったんですよね~お兄様。
最初その気がなくても、自分のことを好き、好きと言ってくれる人が現れると…その気になってくるっていいますしね。
ましてや、帝のお后になった方が幸せなのかなと思ってしまうでしょうし…。
色々なジレンマがあるんでしょうね…。

ゆうさん
首に縄をつけておけるものなら、そうしたいでしょうね…。でもそうもできないし…。
本人の気持ちを確かめられない以上、入江くんだって動けませんものね。
立場とかもあるだろうし。難しいものです。
憎まれ口を叩くのは、愛情表現の裏返しなんでしょうね、きっと。

さくらさん
帝や貴族なんて堅苦しい生活でしょうから、その中に突然現れた、天真爛漫なお姫様は皆の心をとらえてしまったんでしょうね。
お姫様の本心はどこにあるのか…。

吉キチさん
天然のかわいい山猿ちゃん…想像したら凄く可愛いですね!!
入江くんも無理に押し倒すわけにいかないでしょうし…。
天然山猿ちゃんが自分の気持ちに気がついてくれるといいんでしょうけど、天然だけに難しいのかも…。

rinnnさん
マジックって…!!そんな大層なものじゃ!!
いつも「お兄様、お兄様」と読んでくれていた可愛い妹が遠くへ行ってしまうと知った時、気がついてしまったんでしょう…。
このまま黙って行かせてしまうのか、どうか…。
そんな思いを抱いていたら、思わずぽろりと口から出てしまったんだろうなあ…。

ゆみのすけさん
『あさきゆめみし』にそんなシーンがあったような気がして…だからそんな入江くんを見てみたくて書いてみました。
入江くんの美しさだったら、確かに絵になるでしょうね…。
木だけが知っている、入江くんの本当に気持ち…。ちょっと切ないかもしれませんね。

祐樹'Sママさん
私も意味を調べた時、「せつない!」と思ってしまいました。だから使用しちゃいました。
本当に…今は大好きな琴子ちゃんの無邪気な笑顔が何よりも悲しいでしょうね、入江くんにとっては。

美優さん
大体、一度は「ばか」といわれる、うちの入江くん…。
でもそう言われると、嬉しい私がいます。

拍手コメントありがとうございます

まあちさん
そうそう、女の子がバービーで、アンタ山崎に似てるんですよね!
入江くん、帝への忠誠?を取るのか、それとも愛を取るのか…。

佑さん
そんなに佑さんに悲鳴を上げてもらったり、ドキドキしてもらえると嬉しいです。
いや~何か毎回審査を受けている気分なので!

紀子ママさん
やっぱりそう思いますよね?いつも琴子ちゃんばかり泣かされているので、たまには入江くんが困った様子をみたいなあって。
私、恥ずかしながらこの話を書くときにはじめて知りました。ちなみに一番先に覚えたのは「めぐりあひて…」です。

kobutaさん
たまにあるんですよ、本当にごめんなさい。
テンプレート変えてみたらどうかなと思って…どうでしょう?
パソコンの相性とかもあるのかもしれませんね。私も時々反応してくれない時があります。

るんるんさん
帝、やること早い。それが恋に勝利する秘訣なのかも…。
入江くんはそういう意味では…ある意味つつしみ深いのでしょうか???

Foxさん
自分から「手を引いてくれ」とは絶対言えない相手ですものね…でも入江くんならそれを言ってもおかしくないのかも…。
難しいところです。

水玉 |  2010.10.01(Fri) 16:37 |  URL |  【コメント編集】

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