日々草子 別冊ペンペン草 24

別冊ペンペン草 24



「おめでとう、船津くん!」
琴子が派手にクラッカーを鳴らした。
「ありがとうございます!」
なぜか船津本人もクラッカーを鳴らす。
「うるせえ…。」
ソファに座って直樹は眉をひそめた。

直樹の(押しかけ)アシスタントをしながら漫画家デビューをめざす船津(ペンネーム、ローズマリー船津)がこのたび、BクラスからB+クラスへとワンランク上がったのである。

「本当に…よかった。頑張ったね。」
琴子はまたクラッカーを鳴らした。

「頑張ったって…Bには変わりねえだろうが。」
何となく面白くない直樹が水を差す。
「んもう、入江くん!」
琴子は直樹の隣に座って抗議を始める。
「ワンランク上がるのがどんなに大変か分かるでしょう?船津くんはね、入江くんのアシスタントをしながら自分の作品をコツコツと仕上げて…もう努力の人なんだから。」
そしてまた、琴子は船津の傍へと戻り、
「デビューももうすぐだよ。そしたら…。」
と、お得意の妄想を始める。

―― 私が今日、この名誉ある賞を頂けたのは、担当編集者である入江琴子さんのおかげで…。
スポットライトを浴びながら、変なトロフィーを手にスピーチをするローズマリー船津。それを涙ぐみながら、
―― 船津くん、おめでとう…。
と見つめる琴子…。


「あ、琴子さん、これ。」
琴子は船津の声で妄想から連れ戻された。
「あ、これ…!」
船津が琴子に差し出した物、それは柿ピーである。しかもただの柿ピーじゃなかった。
「せんとくん!!」
その柿ピーはせんとくんがプリントされた缶に入った物だった。
「琴子さんがお好きなせんとくんと柿ピーをミックスさせてみました。僕の感謝の気持ちです。」
「…船津くん!」
琴子はせんとくん柿ピーを震える手で受け取った。

「…俺には何もなしかよ。」
ますます面白くなくなった直樹が文句を言うが、それは二人の耳に届かない。

「船津くん!必ずやドクダミ船津の名前を世に広めましょうね!」
「ローズマリー船津です、琴子さん!」
「どっちでもいいわ!」
そして二人は手を取り合って感涙を流した。


「…でもまあ、デビューした後が大変なんだけどな。」
手を取り合っている二人を横目に、直樹が冷たい声を発した。
「投稿時代はさ、デビューっていう目標があるけど。デビューしたらもうプロだし。」
「う…。」
直樹の言葉に、船津の手が琴子から離れた。
「デビュー後の第一作が勝負なんだよな。これがコケたら後は仕事ないし。」
「そ、そんな…。」
先程までの喜びはどこへやら、船津は力なくヨロヨロと床へ尻をついた。
「船津くん、しっかり!!」
心配する琴子。
「“あれ?ヒガンバナ船津ってデビューした気がしたけど、最近見ないな?”とか読者に言われるうちは花だけど。そのうちヒガンバナ船津の名前すら忘れられ…。」
「入江くん!ドクダミ船津だってば!!」
「…ローズマリー船津です。」
師匠にも覚えてもらえてないことが船津の落ち込みに拍車がかかった。

「大丈夫よ、船津くん!」
そんな船津を琴子は懸命に励ます。
「入江くんだってデビュー後は大変だったんだから!」
「ちょっと待て。お前と知り合った時、俺はデビューしてたぞ?」
直樹の訂正などに耳も貸さず、琴子は続ける。
「本当に、質屋へ何もかも持って行って、お米もないし、本を出せば反対運動…苦労したんだから!」
「それはお前が見ていた朝ドラだろうが!!」
「でも、そんな漫画バカな入江くんをここまで支えたのは、私なんだから。」
「俺はお前に支えて貰った覚えはない!」
「だから大丈夫。船津くんはこれからAクラスに上がってデビュー間違いないから!」
「琴子さん…。」
少し浮上してきた船津に安心し、琴子は直樹を睨んだ。
「入江くん!お祝いにアシスタント料上げてよ!」
「え?本当ですか?」
船津の顔が輝いた。
「…しょうがねえな。」
ここは琴子の言うことを聞いておかないとまずいかと直樹は空気を読んだ。
「…550円な。」
「…ありがとうございます。」
こうして、ローズマリー船津のアシスタント料は500円から550円(日給)にアップしたのだった…。



「さて、今度は入江くんの担当に戻ります!」
船津が帰った後、琴子は打ち合わせを始める。
「とりあえず、少しの間“それいけ!ナオキン”はお休みね。」
「ああ。」
「で、その間は新作をお願いすると。」
「恋愛ものかよ…。」
直樹は溜息をつく。新作は恋愛物でということになっている。
「こうね…読者が涙せずにいられない、純愛物がいいかなあ。」
「純愛ねえ…。」
「まあ、入江くんには関係のない言葉だけどね。」
ズバズバという琴子を、直樹は睨んだ。

「なあ…。」
一生懸命、今後のスケジュールを手帳とにらめっこしながら確認している琴子に直樹が声をかけた。
「なあに?」
「編集ってのは、顔が広いんだよな?」
「顔?」
「ほら、作家が考古学の話が書きたいと言ったら、その専門家に取材する機会を作ってくれたりさ。」
「…純愛と考古学?ちょっと無理あるんじゃない?」
琴子は首を傾げる。
「それはたとえだけど。」
「ああ、そういうことね。うーん…そんなに私は顔が広くないなあ。」
「それは知ってる。」
「じゃあ訊かないでよ。」
琴子は頬を膨らませた。
「だけど、編集はより良い作品のために協力を惜しまないんだろ?」
「うん…?」
直樹は琴子の傍にストンと腰を下ろす。
―― …!
直樹の意図が分かった琴子は、すぐにその場を離れようとした。が、遅かった。

「俺さあ、今度は…ちょっと大人のシーンを入れてみようかなって。」
「いや、別ぺは…よい子の別ぺっていうキャッチフレーズだから、そんなのいらない!」
「よい子の別ぺ?そんなフレーズ初めて聞いたぞ?」
笑いながら直樹は琴子の肩を抱き寄せた。
「だから…そういうシーンはご遠慮を…。」
「別ぺの読者層は高校生以上だろ?いまどきの高校生はそういうシーンの一つや二つないと面白がらないって。」
「純粋な高校生もいるから!」
直樹に肩を抱き寄せられ、足をバタつかせていた琴子だが、その唇が塞がれた。

「じゃ、取材協力よろしくな…。」
直樹は琴子を軽々と抱きあげ、寝室兼仕事部屋へと二人は消えた…。



「ちょ、ちょっと!!これは行き過ぎ!!」
数週間後、下書きを見て琴子は絶叫していた。
「お前、“ チラリ”ならいいって言ったじゃねえか。」
「これ“チラリ”じゃない、“丸裸”じゃない!!」
どうりで今回は自分の次回投稿作品に専念するようにと、船津を手伝わせなかったわけである。

「ほら、ちゃんと見ろよ、編集さん。」
「意地悪!!これ私じゃないの!」

原稿に描かれていた主人公の問題のシーンは…ほくろの位置まで琴子そのまんま。顔だけが違うといった具合で恥ずかしくて琴子は見ることもできない。
しかも二人の普段のベッドでの様子そのまま描かれている。依然、西垣マドレーヌの作品を手伝った際に直樹が描いたものよりも濃厚で具体的なものとなっていた。

「気のせいだよ、気のせい。」
直樹はそんな琴子を面白がっている。勿論、モデルにしたのは言うまでもない。

「せ、せめて胸とか…その他は隠してよ!!」
「しょうがねえな…じゃ、モザイクかけるか。」
モザイクは描くと面倒だとか言いながら、直樹はペンを握る。
「やめて!モザイクなんてかけたら余計変じゃないの!!」
琴子は真っ赤になって直樹の手を止めようとした。
「面倒な奴だな。じゃあ、葉っぱでいいか。」
「ちょっと、それもまずいって!」
ギャーギャー騒ぐ琴子に直樹は呆れる。
「どうせお前の胸なんて小さいんだ。紅葉で十分だな、隠すのは。」
「ほら、やっぱり私の胸なんじゃない!大体紅葉って何よ!もっと大きいわよ!紅葉でなんて隠れないくらい!」
「へえ…どれどれ、確認を。」
そう言って直樹は琴子の体を抱き寄せようとする。が、さすがに琴子がサッと身を引いた。

「せめて柿の葉サイズにして!」
「何誇張してるんだ。俺は正直にありのままを表現するのがモットーなんだ。」
それからも二人は騒ぎ続けた。

そして何とか、琴子の言い分が通り、あまり露出していないのに、なぜかドキドキするシーンに仕上がったのである。



そして…。
『別冊ペンペン草 11月号』は、看板作家入江直樹が新境地を開いたと評判を呼び、完売した。



「ねえ、これってあなたがモデルなの?」
同僚の松本裕子が琴子に件のページを見せる。琴子はつい目をそらす。
「んなわけないか。あの親父がこんなに素敵なことできるわけないものね。」
松本は一人納得する。
「…もっと過激だもん。」
琴子はつい本音を漏らした。
「え?」
訊き返す松本に、
「あ、いや、何でもない。うん、アハハ。」
と、琴子は笑って誤魔化したのだった。










☆あとがき
…ワンパターンそのものですな。
久しぶりに書いてみたんだけど…どうでしょう?
感想などお手間じゃなければお聞かせいただけると嬉しいです。
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comment

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読んでみたい!!!
琴子ちゃんのチラリズムシーン。。。ちょっとドキっとしちゃうわ♪

そう!入江君は嘘をつかない!!
仕上がった原稿は、柿の葉だったのだろうか??
それとも??

セクシー琴子ちゃん♪入江君だけには、とっても色っぽく成れるんだよね。うふふ♪


よ・読んでみたい・・・私も

グッ・ジョブです

こんばんは

わ・私も・・・、よ・読んでみたいかも・・・・・。見てみたいかも・・・。
大人の原稿なんでしょうね・・・・・・。
直樹の事だから、漫画の琴子はセクシーな琴子に書かれるのでしょうね!?
(とても色っぽく・・・・面白おかしく・・・・・)
隠れるところは、柿の葉では無くもっと大きな物になさったらいかがでしょうか・・・・!?

こんばんは、水玉さま。

私も皆さんの意見に賛同します。
みたい、見たいです。

別ぺの付録で良いので是非読みたいです。(笑)
完売という事ですが、特別に保存用を貸出してくださいね~。(笑)

今晩は~(*^_^*)
毎回楽しく拝見させて頂いていますが、拍手コメントできず申し訳ありませんでした…m(_ _)m
実は、最近、仕事をし始めましてチョッピリ忙しくしております~(*^-')ノ

大ファンの゛別ぺ゛嬉しいです~(*^_^*)

読んでみたい!!

以外ですね。琴子の秘密を漫画にするなんて。直樹の性格なら誰にも見せないと思ってたのに、プロ意識が強いと言う事ですかね。でも、船津君の日給が550円って、気の毒すぎる…

 続きを・・・。

こんにちは
直樹が最初の原稿出すなら・・・別ペから移動しないと・・・(笑)。
船津~何も貰えず、琴子~船津日勤アップ・・・安いなぁ・・・のお願いに
プチ嫉妬したのかな? 松本さんは、直樹が親父でなく、琴子と結婚を気づくのか そっちの反応に ワクワクです。

ゆみのすけさん、ありがとうございます

チラリズムですんでいるかどうか…それは別ペ25でちょっとだけ明らかに。
柿の葉サイズに誇張したのかどうか…。

そうそう、入江くんにしか見せない琴子ちゃんの夜の顔があるんですよね、きっと!!
だからいつも琴子ちゃんは遅刻しちゃうんだろうな。


kinchanさん、ありがとうございます

> グッ・ジョブです

ありがとうございます!

ゆうさん、ありがとうございます

一応、「よいこの別ペ」のルールは守ったはず…?
体だけ琴子ちゃんそっくりというのが、また色っぽそうですよね。
新境地を開いて、今後の入江先生の活躍がますます広がることでしょう。

琴子ちゃん、「柿の葉」だなんて、自分のことをよくおわかりで。

りきまるさん、ありがとうございます

あ~それじゃあ、近いうちに再録ということで!
もしくは、入江直樹珠玉の短編集とか出るかも!
…なあんて。
どんなストーリーなんでしょうかね。
別ペ…西垣先生の大河ロマンもあるしなあ(確かあったはず)
元気が出たら、久々にパス付考えてみますか(と、また調子に乗る。というかそんなこと誰も望んじゃいない)

ナッキーさん、ありがとうございます

おお、新しいことにチャレンジですね!
だから秋は、ユーキャンのCMとかがやたら流れているのでしょうか?
そういえば書店でNHKの語学講座フェアもやっているような…。

無理なさらず頑張って下さいね。
お忙しい中、コメントありがとうございます。

祐樹'Sママさん、ありがとうございます

いやいや、なんだかんだと自分と琴子ちゃんが円満なところを自慢したいんじゃないかなと。
でも顔は琴子ちゃん似にはしなかったはず!

> でも、船津君の日給が550円って、気の毒すぎる…
本当に…。
船津くん、違う師匠を考えた方がいいような気もする…。550円じゃお昼食べて少し残るか残らないか…。
漫画を書く道具も高いだろうに…。あ、入江くんからもらっているのかな?

吉キチさん、ありがとうございます

> 直樹が最初の原稿出すなら・・・別ペから移動しないと・・・(笑)。

本当ですよね。ちょっと読者の年齢層が高い雑誌に移籍?
そうなると琴子ちゃんももれなくついてくるのかな?

入江くんは完全に船津くんにプチ嫉妬してます。
だからこんなことに琴子ちゃんは…愛されているって辛いのね。

拍手コメントありがとうございます

拍手コメントありがとうございます

ぴくもんさん
クラスアップで日給50円アップ…デビューの時はもっといい物をもらえるといいですよね、船津くん♪
でも船津君というと2位、万年2位なのでやっぱりそう簡単にAクラスには上げたくないかなあ~。
本当に別ぺの入江くんは琴子ちゃんを困らせる天才ですよね。一体何回琴子ちゃんを恥ずかしがらせれば気が済むのか…。
家にこもりきりな職業だから、外に出ている琴子ちゃんを恋しく思う気持ちが強いのかも…。

佑さん
直琴軒は包丁で愛情表現してますからね、入江くんは。
別ぺは結婚してから入江くんが変わった…。
琴子ちゃん、こんな旦那さんでもいいのか???

紀子ママさん
見てました~!!一通り見ていたのは、『あぐり』以来です!
終わったことだし、これはネタに仕込んでやろうと…!
紀子ママさんもご覧になってたんですか?

ミチィさん
結局、どういう描かれ方になったのか…一応年齢制限は守っているはずの入江先生。
それにしても、琴子ちゃんも論点がずれているし…。
そういえば最近の別マはどの辺までOKになっているのでしょうか?私、LaLa系を時々買っている程度なので…ちなみにLaLaはそういうシーンはほとんど見ません…。

rinaさん
どの一言でしょう?「もっと過激…」でしょうか?
楽しんでいただけて嬉しいです。

すーさん
ありがとうございます。
私も久々に書いて楽しかったです。

まあちさん
せんとくん→奈良→柿の葉寿司…で、柿の葉にしちゃいました。
もちろん、ローズマリーと盛り上がる妻へのお仕置きですよー!
でも本当に、そんな扱いでもアシスタントをやめようとしないローズマリー…本当にかわいくなってきます。

るんるんさん
短編集として出るまでお待ちください!
でも、完売するほど…さすが入江くん。どんなジャンルを描いても成功する運命なんですね~。

Foxさん
そうなんです、よい子の別ぺは過激シーンはお断りなんです。
だから本当にぎりぎりで入江先生は描いたはず…!
プロフィール

水玉

Author:水玉
『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
そっと見守っていただけたら嬉しいです。

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当ブログは、『イタズラなkiss』の二次創作をメインとしておりますが、時折管理人の趣味や日々の出来事についての記事も書いております。

原作者様や関係各位とは一切関係ありません。

二次創作については、いわゆる原作の隙間をぬった作品もありますが、主人公以外のキャラクターをメインとしたものや オリジナルキャラクターが出てくるものもございます。

そして、原作と違った時代(平安や明治やその他の時代を舞台にしております)、異なる設定(主人公を医者と看護師じゃない職業にしております)で書いてあるものが多いですが、原作を冒涜しているつもりは全くございません。

二次創作が苦手という方及び原作のイメージと合わないと思われる方はどうぞお引き取り下さいますようお願いいたします。

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