日々草子 頼りない紙切れに託して

頼りない紙切れに託して

2000年から10年が過ぎた…。
時代はパソコン、携帯電話、デジカメとデジタルまっただ中。

だけど、だけど…。
こんな時代だからこそ、手書き文字のよさが伝わるんじゃないだろうか?
丁寧に、一文字一文字書いた手紙…。その内容はきっと相手の心を打つ。


今日、仕事帰りに文具店にてレターセットを買って来た。
デジタル時代でも、本当に種類は豊富だった。
選ぶのに時間をかける。
だって…最愛の人への想いを綴る大事な便箋だもの。
「この色、好きかな?」
「縦書きと横書きはどちらが好きかな?」
選びながら浮かぶのは…最愛のあの人。

家に帰り、綺麗に片づけられた机の上に、買って来たばかりの便箋を広げる。
引き出しの中から取り出したのは万年筆。
今はやれゲルインキだ、消えるペンだと色々なペンが売られているけれど、昔ながらの万年筆も捨てたものじゃない。


あれも書きたい、これも書きたい…書いていくくちに想いは募る一方。
その想いはとても便箋数枚じゃ押さえることができない。

だけどあんまり枚数が多いと、読む前にうんざりされてしまう。
簡潔に、でも言いたいことは忘れずに…。

時々、「あれ?これってどんな漢字だったっけ?」と電子辞書を開くことも。
本当にパソコンに慣れてしまうと…簡単な漢字すら忘れてしまう。

だめ。書いているうちに感極まって来てしまう。
夜に書いた手紙は朝必ず読み返せというけれど、朝まで待たずとも今読み返しただけで…顔が火照り出す。

少し休憩…。






あー!!!
休憩から戻ってくると…机の上が大惨事に!!
犯人は…お前か!!

「こら!!チンチクリン!!!」
きちんとゲージに入れておいたはずなのに、いつの間にか抜け出しやがって!!

ああ…!!
書きかけの手紙が…便箋が…ズタズタのボロボロに…。

「こら!!」

ガジッ!

…くそう、また噛みやがった!!
お前、天才脳外科医の僕の手に噛みつくなんて…いい度胸をしてる!!

ああ、また!!
チンチクリンは机の上から書きかけの手紙をくわえていく。
そしてトコトコと歩いて行く。

向かった先は…。

チンチクリンがくわえた手紙を置いたのは…自分のトイレだった。
まさか…。

シャーッ!!

…手紙の上にオシッコしやがった、こいつ。

どういうわけだか、僕が入江先生へアクションを起こそうとすると邪魔をするようになった。
今朝、仕度をしながら帰りにレターセットを買おうと思っていたら…近所迷惑になるというくらい吠えまくった。

僕の入江先生への愛を邪魔するその姿…人間のチンチクリンそっくりだ。

だから手紙を書く時は邪魔されないようにと、ゲージに押し込んでおいたのに。
器用に扉を開けて出てくるとは。おつむは人間のチンチクリンより出来がいいらしいな。

と、そんなことを悠長に考えている暇はない。

早く手紙を書きなおさないと…朝になってしまう!!



朝日が眩しい。
チンチクリンをゲージへ押し込め、扉を開けることのないよう物差しで押さえた甲斐あって、何とか愛の手紙を完成させることができた。

うん、脱字、誤字なし!!
字も完璧!!この日のためにペン習字を習っておいて正解だった!

「ほら、出て来い。」
…目がすわっている。
まったく、どうしてこんな犬になっちゃったんだか。

あ、そうだった。
この犬、本名は「テレジア・エリザベス・エカテリーナ」だった…。




いくつになっても、ラブレターを渡すというのは緊張する。
入江先生は今日は消化器外科の先生と打ち合わせがあるから…ここを通るはず。
人通りが少ないこの通路、渡すには絶好の場所だ。

ドキドキ…。
ドキドキ…。

あ、来た!!

ああ…今日も素敵だ。白衣をひるがえして。
こんなに白衣が似合う人間は入江先生と僕くらいなものだ。

あ、近づいてくる。
どうしよう…どうしよう…。


「入江く―ん!!」
入江先生が来る反対側から、何かが僕にぶつかった。
「あ…。」
その衝撃の強さに、僕は手にしていた手紙を落としてしまった。

グシャッ!!

ああ…!!
僕の愛の手紙が…ゾウ足に踏み潰された…。

「入江く―ん!!」
「お前はうるさい!ここは病院だ!」
「だってえ…。」
ゾウ足の持ち主、チンチクリンと一緒に入江先生がこちらへやってくる。
僕はショックのあまり、物陰に隠れてしまった。

グシャッ!!グシャッ!!

再び、無残な音が耳に響く。
またゾウ足が…手紙を踏み潰した…。それも二回…右足と左足の両方で。

「ね、今夜は早く帰れそう?」
「手術が入るかもしれないからな。」
「そっかあ…。」
二人は僕と手紙に気がつくことなく、去って行った…。


僕は無残な姿となって手紙を拾う。
もう…宛名すら読めない。ていうか、どんな踏み方をしたら穴が開くんだ!?
あいつ、看護師だからヒールじゃないのに…!!
それだけ体重が重いデブってことか。
あのゾウ足め!!

そして僕の想いは、今日も入江先生に届かなかった…。




部屋に入ると、琴子は既にベッドの中で眠っていた。
「何だ、これ?」
俺の寝る場所に、何かが置かれている。

『入江くんへ
お皮れ様!!起きて待っていようかと思っていたのだけど、おそくまで起きていると入江くんから“朝、起きられないのに!”とおこられそうなので先に休みます。
…本当は入江くんの顔を見たかったんだけどな。
でも入江くんの寝顔を朝見られると思って我慢するね。
入江くんは本当にお医者さんの仕事が好きだから、がんばるのは分かるけど…少しでもいいから休んでね。体こわしちゃうと大恋だよ?
私も早く入江くんのお手伝い…一緒にまた手術室で動ける日をめざしてがんばるね!
おやすみなさい。             琴子』

「誤字3個…“お皮れ様”って何だよ。“大恋”…大変か。“動ける”意味は通じないこともないが、多分働けると書きたかったんだろうな。」

成長しない琴子の手紙に溜息が出る。
今思うと、高校時代に俺によこしたラブレターはよく誤字がなかったもんだ。

それに…これ何に書いてるんだ?
ルーズリーフって一体…。ま、琴子がレターセットなんて洒落た物を持っているとは思えないしな。手紙を書く相手もいないし…俺以外は。

このルーズリーフもきっと、裕樹から奪ってきたに違いない。
看護師の勉強をちゃんとやってれば、ルーズリーフの一枚くらい持っていそうなもんだけどな。

「少しは勉強しろ。」
俺は琴子の隣に潜り込んでコツンと頭を突く。
「入江く―ん…今日も私、入江くんを守ったよ…。」
…この寝言は恐らく…大蛇森先生とバトルをしている夢でも見ているんだろうな。
そういや、あの先生、最近大人しいな。気味が悪いくらいに。

「入江く―ん…大好き。」
「はいはい。」
俺はルーズリーフをもう一度眺めて…ベッドサイドの引き出しの中へとしまった。
…もう知り合って何年も経っているのに、結婚してからも数年経っているのに…手紙ってもらうと嬉しいな。

たまには返事でも書いてやるか…。

「おやすみ。」
半開きになっている口に軽いキスを落として、そのやわらかい体を抱きしめて俺も目を閉じた。











☆あとがき
※お題サイト様
≪プレゼント≫様

またもやお題サイト様からお題をお借りしてきました。

こちらのお題は…「純愛」に区分されているんですが見て行くうちに、「これは大蛇森先生の方がいいのでは…」と思って書いてみたら、結構スラスラと(笑)
大蛇森先生、純愛をささげていますもんね…無償の愛とはこの愛をさすんじゃないでしょうか?

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comment

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 こんにちは
 最初は琴子がと 思ったら大蛇森先生だったのねぇ。 懲りないなぁ・・・

 直樹にアタックしようとすると・・・レーダー察知してチンチクリン、琴子の 的確なブロックお見事です。 こてんぱんに やっちゃって・・・笑っちゃいます。水玉さん  二人は以心伝心してるのかと思うぐらい  お見事すぎる・・・。

 直樹も 琴子だから 嬉しいだろうなぁ・・・。
 大蛇森から 何かが届く事は まず 無いでしょう。(笑) 二人がいれば・・・
 

エライぞ

チンチクリちゃん、アナタは琴子の分身って位に大蛇森から直樹を守ってくれてるのね!

ありがとうね、これからも守って、阻止してね!

直樹はどんな返事を書いたのかな?

たまには好き位、言葉で言わないんだから書いてあげてね!

こんにちは

最初は琴子が直樹に手紙を書いているのかと思えば・・・・、大蛇森だったのね・・・!!
直樹には琴子がいるのだからアタックせずに、さっさと諦めればいいのに・・・・。
イケメンがいたら目の色変えてアタックせずに、まともな道に進めばいいのに、いつまでたったも、「大蛇森はホモだのゲイだの」と誤解されますよ。もっと、周りを見て・・・・・「男子ばかりではなく女子もいるのよ」とわからなきゃ・・・・。
チンチクリンも大蛇森が今から何をしようとしているのか・・・・・、わかるんだね、邪魔ばっかりするんですね・・・・。
チンチクリン・・・・・ナイスです!!

切ない恋。

こんばんは、水玉さま。

確かに大蛇森先生からしたら純愛ですよね。
でも、琴子を邪険にする大蛇森先生をみていると、
琴子に変わり、一言文句を言いたい。

報われない愛は、早く忘れて次の人を見つけるべし!!
琴子に勝てる愛情なんてなし。
琴子のパワーは尽きることなんてないんだからね。(笑)

大蛇森先生のシリーズとにかくハマりまくり。(笑)
脇役のチンチクリンがなにせ良い味だしいるんだもん。(笑)

ナイスです!チンチクリンちゃん(笑)

入江くんの身に危険が及ぶのをなにげに阻止しているチンチクリンちゃん、琴子ちゃんばりにナイスな働きをしてますねv

大蛇森先生は入江くんのことを諦める日は応援に来なそうですね(汗)

どんなにしても琴子ちゃんから入江くんを奪うのは無理でしょうが(笑)


琴子ちゃんのお手紙は、どんなに誤字脱字があっても入江くんにとってはスッゴく嬉しいラブレターでしょうねv

もし、入江くんが返事を書いたら琴子ちゃん…むせび泣きそう(笑)

久々に…♪

コメントありがとうございます♪

吉キチさん
最初は琴子が書いているという風にできたら…と思っていたので、そのお言葉を聞いて「エヘヘ」と笑っております。
本当に以心伝心という感じですよね、チンチクリンコンビ♪
どうしてこんなに飼い主に懐かないんだろう…(笑)
今迄は、大蛇森先生は人間のチンチクリンちゃんから防御すればよかったけど、今度は犬のチンチクリンちゃんという更なる強敵が出現してしまいましたからね。
ますます、入江くんへの恋路は遠のく一方です。

kobutaさん
チンチクリンちゃんと大蛇森先生のバトルは今後も続いていくんでしょうね…
本当に琴子ちゃんへ対する忠犬ぶりが素晴らしい…チンチクリン♪
入江くんの返事はきっと「誤字3つあり」とか一言だけなんですよ(笑)
でもそれでも琴子ちゃんは嬉しいんだろうな…♪

ゆうさん
それでも、大蛇森先生は入江くんをあきらめられないんですよ。
それくらい、入江くんが魅力的だから…。
また琴子ちゃん、大蛇森先生に恨みを買いそうなことばかりやってますからねえ…
その辺の恨みもあるんだと思います。
かといって…突然女性好きになられても…面白くない(笑)

りきまるさん
手を伸ばせば届くと思い込んでいるんでしょうね…大蛇森先生(笑)
本当に切ない恋です…報われることがないんだもん。
私も、先生の相手が琴子ちゃんだったら「大蛇森先生、可哀想だし…」とか同情心を起こしそうなんですが…さすがに入江くんと大蛇森先生のラブシーンは御遠慮申し上げたい(笑)
脇役のチンチクリン、これ出してから私もこのシリーズを書く楽しみが蘇りました!!

愛結美さん
チンチクリンちゃん…本当に素晴らしい名犬!!←琴子ちゃんにとっては
でもこんな犬でも見離さない大蛇森先生が…えらい!!
入江くんから返事(きっとルーズリーフどころか…パンダイの社名の入ったメモ用紙に違いない(笑))が来たら、琴子ちゃん額に入れて飾りそう!!
その前に病院のみんなに見せて回るか(笑)

佑さん
おー!!それを書くのをすっかり忘れてた!!
レターセットは薔薇の模様。それもかなりゴージャス風味。
大蛇森先生は自分の香水を振りかけて書いていたんですよ♪

誤字だらけの琴子ちゃんの手紙。
何も気にせず、スラスラと頭の中に入っていった
私の頭脳って一体・・・・・・

チンチクリンちゃん、とてもかわいいです♪
チンチクリンちゃんの行いで
大蛇森がイライラすればするほど、
私と、琴子ちゃんは大喜びですよ♪

実らぬ愛…

コメントありがとうございます♪

ゆみのすけさん
私もUPする前に、珍しく(おいっ!)何度も読み返して、誤字脱字に気を配りました(笑)
それでもあったらごめんなさい…。
チンチクリンちゃん、琴子ちゃんが乗り移ったかのような感じでしょ?
となると…大蛇森先生は琴子ちゃんと同居しているということに…?

Foxさん
ふられちゃったら…大蛇森先生は琴子ちゃんやパンプキンのようなガッツがないから、もう出番がなくなる~!!(笑)
それに、キモキャラに心を寄せる私としては(笑)、そんな可哀想な目に大蛇森を遭わせることができません~!!
実らぬ恋を永遠にしていてほしいです(笑)
でも私は…大蛇森先生に夢中になる琴子ちゃんも見てみたいかも…♪

そらさん
私、こんなポエムチックに自分のこと書きませんよ(爆笑)
最初に琴子ちゃん目線と思わせることができたらいいなと思って書いていたので、してやったりです(ニヤリ)
すみません…。
私もチンチクリン犬の本名、忘れていました(笑)
「エリザベスとエカテリーナ、どっちが先だっけ?」とか、前の話にさかのぼって確認しちゃいました(笑)

コメントありがとうございます

コメントありがとうございます

くーこさん
だから、私はこんなポエムチックなこと書きませんって!!(笑)
大蛇森先生の話らしからぬ出だしにしてみたのですが、成功したみたいで嬉しいです^^
今回も可哀想なエンディングとなってしまい…。
本当に犬を飼いだしたら、ますます入江くんとの距離が遠くなった気がします(笑)

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プロフィール

水玉

Author:水玉
『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
そっと見守っていただけたら嬉しいです。

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当ブログは、『イタズラなkiss』の二次創作をメインとしておりますが、時折管理人の趣味や日々の出来事についての記事も書いております。

原作者様や関係各位とは一切関係ありません。

二次創作については、いわゆる原作の隙間をぬった作品もありますが、主人公以外のキャラクターをメインとしたものや オリジナルキャラクターが出てくるものもございます。

そして、原作と違った時代(平安や明治やその他の時代を舞台にしております)、異なる設定(主人公を医者と看護師じゃない職業にしております)で書いてあるものが多いですが、原作を冒涜しているつもりは全くございません。

二次創作が苦手という方及び原作のイメージと合わないと思われる方はどうぞお引き取り下さいますようお願いいたします。

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