日々草子 君と綴る文字 12
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水玉

Author:水玉
『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
そっと見守っていただけたら嬉しいです。

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当ブログは、『イタズラなkiss』の二次創作をメインとしておりますが、時折管理人の趣味や日々の出来事についての記事も書いております。

原作者様や関係各位とは一切関係ありません。

二次創作については、いわゆる原作の隙間をぬった作品もありますが、主人公以外のキャラクターをメインとしたものや オリジナルキャラクターが出てくるものもございます。

そして、原作と違った時代(平安や明治やその他の時代を舞台にしております)、異なる設定(主人公を医者と看護師じゃない職業にしております)で書いてあるものが多いですが、原作を冒涜しているつもりは全くございません。

二次創作が苦手という方及び原作のイメージと合わないと思われる方はどうぞお引き取り下さいますようお願いいたします。

コメント及びメールなどでの苦情及び批判は公開、非公開を問わず、私へ告げることはご遠慮いただけますよう、お願い申し上げます。

このブログ及び掲載されている話が嫌いだと思われたら、黙ってあなた様の中から、このサイトの存在を消去していただけますよう、お願い申し上げます。

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君と綴る文字 12

―― その紳士は、入江医院の玄関に貼られた貼り紙を眺めていた。

「何か御用でしょうか?」
声をかけられ、紳士はハッとする。そこには女性が立っていた。
「あ、いや…この病院の院長の腕がいいと聞いて来たのですが。」
「申し訳ございません。現在院長は留守をしておりまして。」
女性――琴子は、頭を下げた。
「みたいですな。」
紳士は貼り紙を笑顔で指した。
「これは、あなたが?」
「はい。下手な上、ひらがなばかりで申し訳ないのですが…。」
恥ずかしそうに琴子が答えた。

「…この貼り紙によると、こちらは閉院したわけではないみたいですな。」
紳士は貼り紙に目を戻した。
「はい!もうすぐ、診察を再開することになると思います。」
弾んだ返事に、紳士は琴子を見た。その顔は本当に喜びに溢れている。

「あの、大丈夫ですか?」
琴子は紳士を心配する。
「え?」
「こちらにいらしたということは…お客様はお体の具合が悪いのでは?」
「あ、ああ…。」
紳士は戸惑った。確かに院長の評判を聞いて訪ねたとなると、体の具合が悪いと思うのは当然である。
「いや、その…わしではなくて。」
「まあ、そうですか。」
それなら、この紳士の家族が病気なのだろうかと琴子は思った。が、それ以上は事情もあるだろうから訊ねることはしなかった。


少し話がしたいと言う紳士を、琴子は庭へと案内した。
「このような場所で申し訳ないのですが。」
そう言って琴子は物置へ紳士を招き入れた。
「ほう…。」
物置の中に足を踏み入れ、紳士は驚きの声を上げた。
薄暗い裸電球がぶら下がっている。傍らには布団がきちんとたたまれている。小ざっぱりと片づけられた物置の居心地を、不思議なもので、紳士は悪いとは感じなかった。

「母屋は…院長先生…旦那様がおいでではないと。」
琴子は座布団を勧めながら、紳士へ謝る。
「いやいや。こちらが無理を言ったのだから。」
気分を損ねていない紳士の様子に琴子は胸を撫で下ろす。

「間もなく、母屋に旦那様と美しい奥様がおいでになります。」
「え?するとあなたは?」
「私は、お留守を預かる女中です。」
「女中さん…。」
「はい。」
そして琴子は、母屋から運んできたお茶を紳士へと出した。

「…院長先生、女中さんの旦那様はどのようなお医者様なのかな?」
お茶を飲みながら、紳士は訊ねた。
「とっても素晴らしいお医者様です!!」
琴子の迫力に、思わず紳士は湯呑を落としそうになった。

「患者さんに対する思いは誰にも負けないし、お金がない患者さんから無理に診察代を取ろうとしないし、夜中でも何時でも、急患の知らせがあったらすぐに駆けつけるし…。」
懸命に話す琴子を、紳士は黙って見ている。
「…それだけじゃないんです。いつも診察時間は大幅にずれるんですけど、あ、それは旦那様の診察がとっても丁寧だからなんですけど。でも空いている時間は難しいお医者様の本を読んで勉強していて…この近所に住んでいる皆さんは、みんな旦那様の患者さんなんです!」
興奮して話していた琴子は、紳士がポカンとしていることに気が付いて真っ赤になった。

「…すみません、つい興奮してしまって。」
「ああ、いやいや。」
紳士はニコニコと笑っていた。
「どうやら、すごい名医のようですな。女中さんの旦那様は。」
「はい…。」
真っ赤になったまま、琴子は頷いた。


「ところで、先程奥様がもうすぐ…と言ってたようですが。」
「ええ。」
「…失礼ながら、最初、あなたが細君かと思いました。」
「さいくん?」
「あなたが院長先生の奥様かと思ったんです。」
「とんでもない!!」
琴子はブンブンと手を振り、否定した。
「私はただの女中です。そんなことありません。」
「そうなんですか。」
紳士は不思議そうな顔を見せた。
「はい。旦那様は…とってもご立派なお家のご出身で。間もなく、同じようなお家のお嬢様と御結婚されるんです。」
「ほう…。」
「この間、お嬢様がこちらに見えて。はっきりとは仰らなかったのですが、多分、こちらでお二人でお暮らしになることが決まったのだと思います。そのための下見だったのでしょう。」
紳士は黙って琴子の話に耳を傾けている。
「…きっと、お嬢様が旦那様にお医者様を続けるよう、お願いして下さったんでしょう。よかった。旦那様のことをよく理解して下さるお嬢様で…。」
手を合わせて笑顔を見せる琴子。その笑顔は本心からのものだと、紳士は感じた。

「その…ご夫婦がいらしたら、あなたはどうするのです?」
穏やかに紳士は訊ねた。
「私はお暇を頂戴します。」
「そんな…!」
琴子の言葉に、紳士は驚く。
「あなたがこちらを守ってきたのでは?」
「守るなんて大層なことしておりません。」
琴子は微笑んだ。
「お相手のお嬢様は本当に素晴らしい方で。きっと旦那様を支えて下さいます。私は…用済みですから。」
「…。」
お茶が冷めますよと琴子に言われ、紳士は複雑な思いで湯呑を取り上げた。



「これは…?」
紳士は落ちている紙を拾い上げた。『山』『森』『海』などと、漢字やひらがなが沢山書かれている。
「すみません。それは私が文字を練習していたものです。」
琴子は恥ずかしそうに受け取る。

「字の練習…。」
「はい。」
琴子は不思議な気分を感じていた。この紳士には、なぜか何でも話せる気がする。
「私、こちらに来たばかりの頃、読み書きが全くできなかったんです。」
「ほう…ですが、あの貼り紙を見ると、今は大分上達されたようですな。」
紳士は感心した。
「はい。旦那様が沢山教えて下さいました。」
また琴子の顔は笑顔になった。

「何も知らない私に、一からひらがなを教えて下さいました。“上手だ”“頑張っているな”と励まして下さりながら…。ひらがなを覚えたら、漢字も教えて下さいました。」
「…優しい旦那様のようだね。」
紳士も顔が綻ぶ。
「はい。とってもお優しい旦那様です。そのお優しさに恩返しをしたいといつも思っておりました。」
「だから…こうしてこの家を守っているんですね。」
「はい…私にできることは、それくらいですから。」
琴子は終始笑顔だった。



「…あれが家に毎日足を運び、直樹を待っていた子か。」
琴子に礼を言い、医院を後にした紳士…それは直樹の父、重樹だった。

突然、数年ぶりに姿を現した直樹に、重樹は驚いた。
しかも直樹は重樹に金を用立ててほしいと頼んだ。
自分に反抗し、勝手に医大に進んだ挙句に家を出て行った息子に、重樹は最初、取り合おうとしなかった。何度も出て行くようにと命じた。だが、直樹は一歩も動かず、黙って頭を下げ続けていた。

そんな息子に根負けし、一体何の目的なのかと何度も訪ねた。しかし、「人を助けたい」としか言わなかった直樹。直樹がバカな真似はしないということは重樹もよく知っていた。そして…その時の直樹の顔は今まで重樹が見たこともないくらいの厳しい顔をしていた。
ただ事ではない…そう思った重樹は、それ以上は何も訊ねず直樹を信頼し、言われた通りの額を用意した。
用意した金を持ち、直樹は家を一旦出て行った。

数時間後…直樹は戻って来た。そして戻って来るなり、「医者をやめ、家を継ぐ」と言い出したのである。

確かに、それは重樹が望んでいたことではあった。だが、直樹の考えが変わった理由を重樹は知りたかった。訊ねても答えは返ってこなかった。
そして、その日から直樹は…重樹の仕事を手伝い始めた。
それだけではない。たまたま、重樹を訪ねて来た大泉家の人間と顔を合わせた直樹は、乞われるがまま、沙穂子との縁談を進めてしまったのである。

その行動の早さには、重樹は何も口を出せなかった ――。



入江医院を後にした重樹は、近所でも医院の評判を聞いてみた。息子がどのように生活していたのか、琴子の話は本当なのかが知りたかったのである。
近所の人間は口を揃えて、琴子と同じ話を重樹に繰り返した。それを聞き、重樹は息子を誇らしく思い始める。

それだけではなかった。
「あの女中さんと結婚されるかと思ってたのに。」
近所の人間は溜息をついた。
「本当に先生と女中さん、仲睦まじくてね。」
「女中さんが決まった時間に、コーヒーを運んで来て。」
「女中さんが両手いっぱいに買い物をしていると、通りかかった先生が荷物を持ってあげたりと…本当にお似合いだった。」
近所の人間は、こぞって琴子と直樹の様子を、それは楽しそうに目を細めて重樹に語って聞かせたのだった。



近所で話を聞いた後、重樹は医院の方を振り返った。
「どんな子かと思って来てみたら…。」
ふとしたことから、重樹は直樹と裕樹の会話を耳にしてしまった。会話の様子から、直樹を慕う女性が、この家の前まで毎日足を運んでいること、その女性は自分の幸せよりも直樹の医者復帰を望んでいることを知った。
そして…直樹もその女性を憎からず思っていることも…。

重樹はその女性がどんな女性か、自分の目で確かめたかった。
もしかしたら、入江家の財産目当てなのかもしれない。殊勝な態度は見せかけで、直樹と沙穂子の縁談をぶち壊すことが目的、または…直樹の愛人にでもなるつもりなのかと疑っていた。

そして、今日、思い切ってその女性に会いに来た。
その女性は…心から直樹と沙穂子の幸せを願っていた。

金は恐らく、あの女中のために使ったのだろうと思う。その理由は余程切羽詰まったものであったことも。
琴子が直樹にせがんで金を用立てさせたわけではないということも、琴子と沢山の話をした重樹には分かっていた。

「あんないい子なら…直樹が必死になるのも無理はないな。」
顔を真っ赤にして直樹の自慢をしていた琴子を思い出し、重樹の顔はまた綻んだ。

「破談になったこと、まだ知らないのだな。」
直樹の結婚話が流れたことを、琴子は知らないらしい。
そして重樹は手を見る。先程、よろめいた所を琴子が手を取ってくれたのだった。
「妙に熱い気がしたのだが…。」
その琴子の手が熱かったことがm重樹には気になっていた。



数週間、琴子は姿を見せなかった。
裕樹は居ても立ってもいられなくなり、様子を見に家を出た。
直樹と沙穂子の縁談が破談となったことも、早く知らせたかった。それで状況が大きく変わったわけではないが、少しでも琴子の心を軽くしてやりたい。
そう思いながら歩いていると、向こう側から見慣れた姿がやってきた。
「琴子…。」
歩いて来たのは、琴子だった。

「しつこいと、自分でも思うのですが。」
裕樹と顔を合わせ、琴子は笑った。
「どうしても、自分の口から旦那様にお願いしたいんです。お医者様に戻ってほしいって。」

先程、見知らぬ紳士に直樹の話をしているうち、直樹はやはり医者が一番合っているということを伝えたいという思いが湧きあがってきたのだった。
それを自分の口で伝えたい。沙穂子がああして来たからには、きっと戻るつもりにはなっているとは思う。自分が今更言うことではないことも知っている。
だが、どうしても琴子は直樹に、自分の言葉で自分の気持ちを伝えたかった。

「旦那様はお家に…?」
そう言いかけた琴子の体が、突然裕樹の目の前で崩れ落ちた ――。



「何をしているんだ?」
琴子の元から帰宅した重樹は、書斎に直樹の姿を見つけた。
「それを…どうするつもりだ?」
重樹は直樹が手にしている物に気がつく。
「次の縁談を探しているんですよ。」
直樹は見合い写真を手にしていた。

入江家には直樹目当ての縁談が山のように来ていた。沙穂子との話は正式に決まっては居なかったので、世間にはまだ直樹は相手がいないことになっている。なので見合い写真は毎日のように届けられていた。

琴子と結婚できないのなら、誰と結婚しても大差はない。結婚し、子供を作れば周囲は丸くおさまる。直樹は自暴自棄になりかけている。
沙穂子に琴子を愛していることを見抜かれても…今更、琴子を迎えに行くことはできない。

「お前…。」
「ああ、この令嬢は俺の好みかな。」
父親の言葉など、まるで耳に入っていないかのように直樹は呟いている。

「お兄ちゃん!!」
そこへ裕樹が飛び込んで来た。珍しく息を切らしている。
「何だ、騒々しい。」
直樹は眉を潜めた。
「こ、琴子が…倒れたんだ…!そこの…道で…!」
直樹の手から、見合い写真が落ちた。
「体が…すごく熱くて…苦しそうで…。」
「どけ!!」
話の途中である裕樹の体を、直樹は突き飛ばした。その衝撃の強さに裕樹は転ぶ。が、直樹は弟に目もくれず、書斎を出て行った。


「やれやれ…。」
重樹は直樹が落とした見合い写真を拾い上げる。
「…やっと素直になりおったか。」
「親父…?」
裕樹はその場に座り込んだまま、重樹を見ていた。
「あのまま、ふざけたことを言っているようだったら、ぶん殴るところだった。」
重樹は笑いながら、大量の見合い写真をくずかごへ放り込んだ。
そして、
「きっとすぐに患者を抱えて来るだろうから…部屋を用意してやるといい。」
と、呆気に取られたままの裕樹に笑顔で命じた。



重樹の予想通り、数分後。
直樹は苦しむ琴子を抱きかかえて戻って来た ――。
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