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2008年12月05日(金)

秘密 第12話

水沢の気になる女性、それはやはり琴子だと直樹は確信した。

【More・・・】

何せ、何かと理由を付けて琴子の前に姿を表す。かと言って、熱烈なアピールをするわけではないので琴子は水沢が自分に深い関心を抱いていることなど全く気付いていない。
それに水沢が琴子の前に出てくるのは、別に琴子に会いたいという理由だけではなかった。琴子にしか懐いていない患者が、なぜか水沢にも懐いたという事情だからだ。その患者は薬をまじめに服用しないどころか、知らないうちに処分したりしているので琴子が手を焼いていた。その服薬指導に水沢は来るのだ。仕事という立派な大義名分があるので誰も何も言う訳がない。

それは、琴子は日勤で直樹は当直という日のことだった。直樹が小児病棟の中にあるプレイルームの前を通りかかった時、ガラス窓の向こうに琴子がいることに気がついた。琴子は勤務が終わっているので私服姿だった。どうやら勤務が終わったにも関わらず、担当の患者の遊び相手をしているらしい。しばらく見ていると琴子の周囲に他の子供たちも集まり始めた。声は聞こえないが、どうやら子供たちに本気になって相手をしているらしい。ムキになったり、笑ったりする琴子の姿は見ていて飽きない。

直樹は微笑ましくその光景を見ていた。が、次の瞬間、直樹の笑顔が消えた。私服姿の水沢がプレイルームに入ってきたのだった。どうやら琴子同様、常連らしく琴子と子供たちの輪にすぐに入ってしまった。そう言えば、琴子が水沢は子供の扱いが上手だと話していたことを直樹は思い出した。
「…あ、また来てくれたんだ。あの二人。」
誰かを思ったら、プレイルームのボランティアが直樹の傍に立っていた。
「結構、ここに来るんですか?あの二人。」
「ええ。相原さんも水沢さんも仕事で疲れているのに、よく顔を出してくれるんですよ。子供たちもよく懐いているし、こちらも助かってるんです。」
琴子がそんなに顔を出していることも驚いたし、水沢も一緒だということも驚いた。
「この間なんて、子供たちが相原さんたちに“いつ結婚するの?”って無邪気に訊いちゃって。子供たちの目にはあの二人、恋人同士に見えているみたい。でもこうやって外から見ていると、恋人というより、夫婦に見えますね。」
そう言ってボランティアは笑った。
二人の姿を見ていることが居たたまれなくなって、直樹はその場を後にした。

数日後、二人が家で顔を合わせた時、直樹は琴子のボランティアについて何も言わなかった。琴子が恥ずかしがって今まで話さなかったのだろうと察していたし、そのせいで仕事が疎かになっているということもなかったからだ。
それにこちらから口にして、水沢の話題を聞かされるのも嫌だった。

それよりも直樹が一番腹が立つのは、水沢の恋愛感情に琴子が全く気がついていないことだった。琴子の鈍感振りは今に分かったことではないが、今回ほどその性格が恨めしいと思ったことはなかった。
かといって、直樹が教えるわけにもいかない。どうせ言ったって琴子は頭から本気にしないだろう。かと言って、琴子が信じて水沢との関係がおかしくなっても困る。

結局直樹は何もすることができず、琴子と水沢が親しくしている様子を目にしても気にしないふりをするしかできなかった。やがてそれは、爆発寸前になっていく。でもその気持ちは誰にも言えない。そしてその捌け口は琴子にと向けられるという悪循環になってしまっていることに直樹は自分でも気付かなかった。

そして、直樹の爆発寸前の感情の矛先は夜に顕著に現れる。しかも、そういう夜が訪れる日の昼間は、病院でも直樹の琴子に対する風当たりが厳しい。この間なんて「相原」と呼び捨てにし、琴子を冷や冷やさせたものだった。
直樹の苛立ちの原因が水沢だということに、琴子は全く気付いていない。だからなぜ直樹が最近苛々しているのか、理由が分からないのだった。もっともこの時に、琴子が気づいていればこの後あんなことには、ならなかったのかも知れない。
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