2017年10月 / 09月≪ 12345678910111213141516171819202122232425262728293031≫11月

2010.08.16 (Mon)

君と綴る文字 4


【More】



「女中さん、お手紙だよ。」
すっかり顔馴染みとなった郵便配達人から、琴子はお礼を言いながら郵便物を受け取った。宛名に書かれた「入江直樹」という文字も今では見慣れたものとなっている。
「早く書けるようになりたいな。」
ひらがなで「いりえなおき」と書けるようになった琴子だが、漢字でも書けるようになりたい。

「ええと…。」
郵便物をきちんと持とうとした時、一通の手紙が落ちてしまった。
「いけない、汚れちゃう。」
慌てて拾う。が、拾ったその手が止まった。
その手紙は美しい文字で「入江直樹様」としたためられていた。女性からの手紙だと、琴子は直感で分かった。
「誰だろう…。」
この家に来て、3カ月が過ぎようとしている。患者以外で直樹を訪ねてくる女性はいなかった。
「もしかして…旦那様の特別な方かしら?」
妻はいない…と思う。いたら一人暮らしをしているわけがない。

封書の裏を見ようとした時、その手紙が琴子の手から取り上げられた。
「さっさと持ってこいよ。」
直樹が他の手紙もまとめて琴子の手から取り上げる。
「…すみません。」
直樹の背中を見ながら、琴子は家の中へと入った。

「大学からと、出版社から…これは新刊の医学書の宣伝だな。そして…。」
居間で郵便物を確認していた直樹の手が止まった。手元には、先程の達筆の手紙がある。琴子の心臓もドキリとし、コーヒーを置く手が思わず震えてしまう。
直樹はその手紙の差出人を確認することもなく、そのまま傍の引き出しへと無造作にしまった。

「…どなたからか、確認しないのですか?」
琴子は思わず口に出してしまった。
「ああ、分かっているから。」
その返事に、琴子の心は重くなってしまった。
「…気になる?」
そんな琴子の様子を見て、直樹が訊ねた。
「…大切な方なんですよね。確認しなくても、どなたからの手紙か分かるということなんですから。」
差出人の名前を見なくとも、その文字で誰だか直樹には分かっているらしい。それだけ親しい人物…大切な人物だということだということは琴子にも理解はできた。
「そうだな。大切な人だな。」
それだけ言うと、直樹は、琴子が淹れたコーヒーをすする。琴子はいたたまれなくなり、台所へと逃げてしまった。


それから少し経ったある日のこと。
「ごめんください。」
玄関からの声に、琴子は出て行った。玄関先に立っていたのは…見るからに暑苦しい様子の、おかっぱ頭の男だった。
「入江さん、いる?」
その男は青木と名乗った。大して暑くもないのに、汗をだらだらと垂らしている。
「もうすぐ、午前の診察が終わりますので…。」
一体誰だろうと思いながら、琴子は青木を居間へと通した。

コーヒーを運んできた琴子を、青木はジロジロと見つめる。その視線は、以前にここを訪ねてきた直樹の弟、裕樹とは違い、何だかいやらしい感じがする。
「あまり好きになれない人…というか、一緒にいたくないなあ。」
人を見かけで判断してはまずいとは思うが、どうも好きになれそうもない男だと琴子は思った。

「…まったく、入江さんもさあ。」
琴子が淹れたコーヒーを飲みながら、青木が口を開いた。
「…こんな女を囲っている暇があったら、患者の数もこなせばいいのに。」
「囲って…って!」
青木の言葉に、琴子は怒りで顔を真っ赤にした。
「私はこの家のただの女中です!」
自分で口にしながら、「女中」という言葉に、琴子の胸がかすかに痛んだ。
「女中?あんたが?へえ…?」
青木は更に琴子をジロジロと見る。

琴子が居心地の悪い思いをしていた時、診察を終えた直樹がやってきた。
「やあやあ、どうもどうも。」
愛想のいい笑みを浮かべる青木。直樹はあまりいい顔をしていない。青木の前に座ろうとした時、そこに置かれたコーヒーに気がつく直樹。
「あっちへ行っていていいから。」
直樹の分のコーヒーを運んで来た琴子に、直樹はそう命じた。琴子は気になりながらも、言われた通りに下がった。


色々話をした後、青木は帰って行った。
一緒に見送りに出た琴子は、
「あの…お友達ですか?」
と直樹に訊ねた。
「誰が!」
冗談じゃないと直樹は続ける。
「よかった…あの顔で旦那様のお友達だなんて言われた日には…。」
胸を撫で下ろす琴子に、
「顔で友達は作らないだろ。お前、結構酷いことを言うな。」
と呆れる直樹。だが、思わずそう口に出してしまうくらい、琴子は青木という男が嫌いになっていた。

「あいつは、この家の持ち主だ。」
「ええ!!」
直樹の言葉に琴子は仰天する。ここが借家だということは直樹から聞かされていたが、まさか持ち主があの男とは…。
「なぜ、あんな人に借りちゃったんですか?」
「あんな人って、お前さっきから随分失礼なことを…。」
だが大家をあいつ呼ばわりしている自分も同じだと思う直樹。
「最初は気のいい爺さんだったんだ、ここの持ち主。」
だが、その後その老人がこの家を青木の父親に売ってしまい、息子である青木が管理しているのだと直樹は琴子に説明した。

「では、青木様という方はお金持ちなんですね。あんな外見でも。」
相変わらず青木について辛辣な言葉を口にする琴子。
「まあな。父親がそこそこ儲けている資産家。あいつはアホの二代目って奴だ。」
「そうですか。」
そんなことより、直樹には気になっていることがあった。
「お前、どうしてあいつにコーヒー出したんだ?」
空になったコーヒーカップを見ながら直樹が少し不満そうに訊ねる。
「え、どうしてって…だってお茶は私、上手に淹れられないし、コーヒーは旦那様が褒めて下さいましたから。」
「だからって…。」
琴子が淹れたコーヒーを、あの青木が飲んだということが直樹には腹が立つことだった。
「そうですよね、コーヒー豆だって安くないんだから、あんな人にお出しするのは勿体なかったですね。」
今度からは水にしますと琴子は話し、直樹の本心に気がつくことなく、二人分のカップを台所へ下げていったのだった。







♪あとがき
青木ファンの皆様(笑)、お待たせしました!
関連記事
22:53  |  君と綴る文字  |  TB(0)  |  CM(6)  |  EDIT  |  Top↑

*Comment

★波乱の幕開け?

イヤだなぁ…琴子にちょっかい出しそうな男の出現。でも、青木に何気に毒を吐く琴子ちゃん最高!直樹に届いた手紙も気になるけど、直樹のお母様からの手紙であって欲しいです。琴子が悲しむ姿は見たくないから…
祐樹'Sママ |  2010.08.17(Tue) 00:05 |  URL |  【コメント編集】

★入江先生宛ての手紙って・・・

こんばんは、水玉さま。

平仮名をマスターした琴子。
漢字はとっても難しいとは思いますが、何事も日々勉強だと思うので頑張ってね。

入江先生に女性からの手紙って・・・いったい誰なんでしょう?
私もすっごく気になります。
もしかしたらあの人かな? 
それともあの女性?

あ~気になる・・・。(笑)

りきまる |  2010.08.17(Tue) 00:44 |  URL |  【コメント編集】

★誰?

手紙の主は?

気になるー!

青木ファンいるのですね?

私、可でも付加でも無くです。

すいません!
kobuta |  2010.08.17(Tue) 00:48 |  URL |  【コメント編集】

★No title

私は水玉さんの書く青木ファンです←水玉さんの書く!!!
今回の青木様は、気持ち悪さパワーUPですね・・・

直樹の元に届いたお手紙はいったい誰なんだろう???
あの人?この人?とチラホラと浮かんできますが・・・
あの人で、あって欲しい!!けど水玉さんは
文章が豊かだから、きっとまた私を泣かせるのでしょうね・・・・・

青木は(←呼び捨て!)水玉さんのお話に
また出演の依頼がくるのでしょうか??

ゆみのすけ |  2010.08.17(Tue) 09:20 |  URL |  【コメント編集】

★コメントありがとうございます

コメントありがとうございます

祐樹'Sママさん
琴子ちゃんって、原作でもあのオタクには毒づいていたから(笑)
こちらでもその辺を出したくて^^

りきまるさん
きっと大好きな入江くんの名前はすぐに覚えるんでしょうね♪
手紙の主…うふふ(笑)

kobutaさん
いや、いないとは思うのですが、もしかしたらいる可能性もあるし(笑)←青木ファンの方
私もファンではないですよ、念のため!!

ゆみのすけさん
何よりもキモキャラを書くことを生き甲斐としている私(笑)
今回もあの原作のキモさを出すために頑張ってみました←頑張りどころが違うって?
青木、今回大活躍?する予定で~す(笑)←誰も望んじゃいないとは思いますが

佑さん
意外と、あの青木さん、原作でも金持ちなんじゃ…(笑)
でもきっと入江くんと同じ学部なのではと思ったりしてます。だってゲーム作ってたし(笑)←実は優秀なのか?

Foxさん
青木にのませるなんて、もったいない…コーヒー!
でも自分が褒めてもらったものを出したい琴子ちゃんの気持ちもわかりますよね。
水玉 |  2010.08.17(Tue) 13:08 |  URL |  【コメント編集】

★コーヒー

水玉さん 直樹の本心って 何ですか?
こと子コーヒーは 自分の為だけなのに あのボンクラにあげたから?

 こと子は 手紙の方に・・・寂しい思いかな?

 でも青木を 直感で  見抜くのは さぁすがぁ・・・ナイス
 
吉キチ |  2010.08.19(Thu) 19:58 |  URL |  【コメント編集】

コメントを投稿する

URL
COMMENT
PASS  編集・削除するのに必要
SECRET  管理者だけにコメントを表示  (非公開コメント投稿可能)
 

▲PageTop

*Trackback

この記事のトラックバックURL

→http://suisen61.blog77.fc2.com/tb.php/871-5e6d8726

この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

この記事へのトラックバック

▲PageTop

 | BLOGTOP |