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2010.08.10 (Tue)

公爵夫人の家出 5


【More】




「…それにしても、最初に見た時は驚きました。」
その頃、シップとユウキスキーはタウンハウスにて、ある物を磨いていた。それは…多数のトロフィーである。
「これ、全て旦那様がお取りになられたものとは!」
「ナオキヴィッチ様は、パブリックスクール時代よりテニスの名手でいらっしゃいましたからね。」
イーリエ家の本邸である、カントリーハウスにはもっと沢山のトロフィーが並べられていると、ユウキスキーは説明する。二人はあれ以来、いいコンビとなりかけていた。
「全て優勝、優勝…すごいなあ。」
磨きながら、溜息をつくシップ。
「現在も、大学で学生相手にラケットを握られているはずです。」
「ああ、そのようなことを旦那様がチラリと仰っておいででした。“最近の学生は弱過ぎて話にならない”と嘆いておいでで。」
「大学も全国大会で優勝されていますよ。」
「へえ…奥様はご存じなのでしょうか?」
「さあ?」
二人が知る限り、コトリーナはナオキヴィッチがテニスの名プレイヤーであることを知らないはずである。
「カントリーハウスにもコートがありますから、お二人で楽しまれるといいのですけど。」
ユウキスキーは窓に目をやる。
「今頃、奥様と何を話されておいでなのか…。」
シップも窓の外を見て、呟いた。



ダ、ダ、ダ、ダ、ダ…!
その音に、エフ村の村民たちは振り向いた。
「お、ミスター・トラクターだっぺ!」
それはトラクターが道を進む音。そして乗っているのは…このエフ村を含める広大な領地を所有する、この国の名門貴族、ナオキヴィッチ・イーリエ公爵、その人である。
「ミスター・トラクター、今朝もいけてんのお!」
おもわず口に出す村民たち。トラクターに乗り込んで畑まで進むその姿は「ミスター・トラクター」と呼ばれていた。
そのミスター・トラクターは、畑へと入って行く。見事な操縦で耕していく。
やがて、一通り耕し終え、トラクターからナオキヴィッチはヒラリと降り立った。
「おらたちとおんなじ格好してるのに、何で決まるんだべか?」
その姿に首を傾げる村民たち。ナオキヴィッチの首にはタオルが巻かれ、黒いゴム長靴を履いている。それは他の農家の人々と、何一つ変わらない姿なのだが、どこか洗練されているように見える。

「先生、トマトもいだわよ!」
コトリーナの声が畑に響いた。コトリーナはトマト等の収穫を手伝っていた。
「…お前、これはまだ収穫に早い!」
コトリーナの持つ籠の中に入っていたトマトを見て叱るナオキヴィッチ。
「こんな青いのを摘んでも、まだ食べごろじゃない。」
「ええ、そんなあ。」
「いいか、トマトっていうのはな…。」
と、コトリーナに教え始めるナオキヴィッチ。その様子を見て、
「なして、ずっとこの村で暮らしていたコトリーナより、あすこのお城で暮らしなすっていたミスター・トラクターが詳しい…?」
と、呟く村民たち。


「先生、絶対騒ぐかと思ったのに…。」
おもわず、コトリーナは呟いた。
「畑に入って、ミミズなんか出て来たら、“うわ、ミミズだ!僕ちゃん、怖ーい!”とか騒ぐと思ったのにな。」
「…何せ、おれはダンゴムシの墓を作っていたくらいだからな。虫は平気だ。」
「あ、そっか。」
騒ぐどころか、ナオキヴィッチは見事な手つきで農作業を次々と進めて行く。

一息入れた後、今度はナオキヴィッチは麦わら帽子をかぶり、テニスラケットではなく…鍬を握り、里芋を掘り始める。里芋は非常に掘り方が難しい。だが、ナオキヴィッチは器用に鍬を入れ、きれいな里芋を、手際よく掘り出す。それを片っ端から拾っていくコトリーナ。ちなみに、コトリーナがやるとボロボロになって出荷できなくなるため、ナオキヴィッチから鍬を持つことは禁じられていた。



「どうして、こんなに上手なの?」
コトリーナも村民たち同様の疑問を夫に抱いていた。
「初めて…でしょ?」
「いいや。」
ナオキヴィッチは鍬を持つ手を止め、首に巻いたタオルで汗をぬぐった。
「カントリーハウスに、ちょっとした畑がある。そこで色々育てているからな。」
「え!あそこに?」
コトリーナは遠くに見えるイーリエ公爵家のカントリーハウスを仰ぎ見る。
「…何で?家庭菜園が趣味だったの?」
「うちの領民は農家が多いからな。その気持ちを知るために作っているんだよ。」
「気持ち…。」
「自分はいつも高い所にいて、何も知らずに税金寄こせって威張る領主にはなりたくないから。」
そしてナオキヴィッチは再び鍬を握った。
「…。」
今まで知らなかった夫の一面を知り、驚く。
―― 先生は、いつも私たちのことを考えてくれているものね…。
結婚式直後に、領主としての顔を知ったコトリーナ。それを知った時、ナオキヴィッチへの愛情は深まった…そして、今回も。だが、素直になれないコトリーナ。そして素直になれないのはナオキヴィッチも同じだった。


「ふうむ…。」
ベッドの上で、ナオキヴィッチが掘り、洗った里芋を見るシゲオ。
「これは…丁寧な仕事だっぺ。」
「そりゃあそうでしょう。先生、本当に一つ一つ丁寧に扱っているもの。」
薬の準備をしながら、コトリーナが話す。
里芋を見ているうちに、シゲオの心も少しずつ溶けていく。
「おい。」
部屋を出ようとしたコトリーナを、シゲオは呼び止めた。
「あん男に、これ持って行ってやれ。」
そう言って投げたのは…湿布だった。


「先生、起きてる?」
父に言われたとおり、コトリーナは湿布を手に客間に入った。ナオキヴィッチは農作業を手伝った日から、馬小屋から客間へ泊ることを許されていた。自分の家の仕事を手伝ってくれるからにはとの、シゲオの考えによるものである。
「何?」
ナオキヴィッチは、ベッドの中にいたが、起きていた。
「あのね…お父さんが、これを先生にって。」
コトリーナはナオキヴィッチの足に貼ろうとした。が、少し考えて、その前に足を揉むことにする。
「へえ…上手いな。」
「お父さんの足、よく揉んでいたもん。」
上手に作業をこなしているナオキヴィッチだったが、それでも慣れぬ農作業で足は疲れていた。コトリーナの手が気持ちいい。
「私は足しか、貼らないからね?」
湿布を貼りながら、そんなことを言うコトリーナ。
「まだ変な誤解してるのかよ。」
湿布の冷たさを心地よく感じながら、呆れるナオキヴィッチ。

「他に疲れている所、ない?」
「あるけど…湿布じゃ無理かな。」
「え?」
どこが疲れているのかと思い、コトリーナはナオキヴィッチの顔を見た。
「…キスしてくれたら一発で治るんだけど。」
ナオキヴィッチはにっこりと笑った。
「…そこまで甘くないわよ!!まだ、許したわけじゃないんだから!調子に乗らないでよね!」
コトリーナは顔を真っ赤にして、そこにあった枕をナオキヴィッチに投げつけると、出て行ってしまった。
「…ちょっとからかいすぎたか。」
コトリーナが音を立てて閉めたドアを見ながら、ナオキヴィッチは横になる。一緒に畑仕事をやるうちに、距離も縮まってきたかと思っていたのだが、どうやらまだ妻の心は完全に溶けてはいないらしい。
いつもナオキヴィッチの周りをうろうろして、笑顔を向けるコトリーナも可愛くてたまらないが、今のように強気で意地っ張りなコトリーナも魅力的だと思うナオキヴィッチ。
「…ますます、好きになるな。」
結婚しても、どんどんその愛情が深まって行くことを自覚していくナオキヴィッチだった。


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17:28  |  公爵夫人の家出  |  TB(0)  |  CM(9)  |  EDIT  |  Top↑

*Comment

★ミスター・トラクター!

すっごい称号?ですねv

ホント、ナオキヴィッチせんせーは何でもできちゃうんですねv

それも、領民のことを想っての努力って言うのがカンドーです(*´∇`)v

コトリーナもナオキヴィッチせんせーも、お互いのことをホントに想いあってるのに、素直になれないのがスゴいじれったいです(ノд<。)゜。

早く二人とも、素直になってvv

そして、二人でラブラブで帰って、テニスを楽しんで(*^□^*)
愛結美 |  2010.08.10(Tue) 17:53 |  URL |  【コメント編集】

★No title

水玉さん、更新ありがとうございます♪

ナオキヴィッチは、何をやっても天才だべ!!
洗練されたさ作業服って!!(爆笑)

正義の味方”ミスター・トラクター”登場なんちゃって!!

素直ではない二人。。。
だけどもう”じゃれ合っている”としか思えなくなりました♪
コトリーナをからかったて楽しんだり、
「…ますます、好きになるな。」なんてネ~~♪

でも、ラブラブな二人が一番♪
続き楽しみにしております♪
あお |  2010.08.10(Tue) 18:45 |  URL |  【コメント編集】

★ 仲直りは 何時の事やら。

こんばんは 
 W執事は、仲良くなったんだね。 二人が戻っても大丈夫だよね。

 が、まだまだな お二人さんです。
農民の気持ちを知る為に 自前の畑を・・・ 農民思いな良い領主様
 相手の気持ちを 思いやる心が 琴子にも素直に出たら こんな事にならんのになぁ・・・。 

 お互いに素直じゃないんだから・・・。 直樹は、自分が琴子に
上の空で返事した『う~ん』は覚えてないみたい これさえ思い出せば直ぐ 仲直りできるのになぁ~。  
  
 二人仲良くテニスがみたいなぁ。 こんだけ こじれたんだから ラストは ラブラブが良いなぁ~
吉キチ |  2010.08.10(Tue) 20:19 |  URL |  【コメント編集】

★離婚届は早く破いた方がいいよ。

こんばんは、水玉様。

今日のナオキヴィッチの働きは素晴らしいですね。
普段、デスクワークばかりしているはずなのに、農作業もパーフェクトにこなす、領主さま。
これで、ゲイやホモの噂がなければ、惚れてしまう娘っ子が増えていたはずなのに・・・(笑)

しかし、湿布を貼ってくれるというコトリーナをからかって、楽しそうにしているナオキヴィッチですが、本音が出ていましたね。
「・・・キスしてくれたら・・・」
この言葉ってきっとナオキヴィッチの本音だと思うんです。

独り寝はそろそろ寂しいって心の現れだと深読みしちゃいました。(笑)
りきまる |  2010.08.10(Tue) 20:21 |  URL |  【コメント編集】

★コトリ-ナの気持ち解ります

今晩は~

ナオキウ"ィッチ様、予想通りの素晴らしい仕事ぶり(^_^)v

その甲斐あって、コトリ-ナちゃんとの仲は少し戻ったけど…(^_^;)やっぱり"お前が必要だ!"とか"俺が悪かった"とか言ってくれなきゃ~(^_^;)
謝ってくれないと、許せないですょね!
私にも、多々同じ様な経験あるので、コトリ-ナちゃんの複雑な気持ち解ります~(^_^;)


トンブリ号と同室から、客間に昇格して、コトリ-ナちゃんと同室になるのも後もう少しo(^-^)o

ナオキウ"ィッチ様頑張れ!
ナッキ― |  2010.08.10(Tue) 22:58 |  URL |  【コメント編集】

コトリーナもシゲオも…一体どんな湿布プレイを妄想してるんでしょ(*´艸`)足しかとか、どこに貼られるわからんとか?どこに張るプレイなのぉ
湿布貼られてる姿も様になれば、鍬に長靴も様になる…次はどんなコスプレして、そのイケメンぶりを遺憾無く発揮?するのか楽しみにしてます
いいかげんママ |  2010.08.11(Wed) 09:17 |  URL |  【コメント編集】

★先は長い?

仲直りしたと思ったのに、まだダメだったのね!

ちゃんと畑仕事も出来るんだ!さすがナオキヴィッチ!

なんでも出来るのに、コトリーナの事はダメなのね!

そんなに好きなら、素直になればいいのね・・・・
kobuta |  2010.08.11(Wed) 11:14 |  URL |  【コメント編集】

★No title

何を行なっても、どんな格好をしても素敵な直樹さん♪
もう!最後の一言がたまらないわ!!!
↑これぞナオキスト!!えへへっ
ゆみのすけ |  2010.08.11(Wed) 14:26 |  URL |  【コメント編集】

★お返事遅くなってごめんなさい

コメントありがとうございます♪

愛結美さん
入江くんって何だかミスターって感じがするなあと、勝手に思ってしまって(笑)
農業に四苦八苦する入江くんにしようかどうしようか、迷ったのですが…やっぱり何でもこなすんだろうなって思って。
領民のことは心から愛しているのに…なぜ妻への愛を簡単に口にできないのか…。

あおさん
きっとナオキヴィッチはどんな格好でも決めるに違いない!!(笑)
どんな制服でも!!(笑)
男の人も唸らせる、完璧なルックスなんでしょうね♪
トラクターで登場する姿は、本当に正義の味方という感じでしょうね♪
トラクターマンとか言いながら、ポーズ決めても、かっこいいんだろうな♪

吉キチさん
無意識に口に出したこと、そしてそれを覚えていないことが喧嘩の原因なんですよね…
それさえ思い出せれば…全てはうまくいくのに…。
領民と同じように、コトリーナちゃんのことも大事に思ってほしいです♪

りきまるさん
その噂さえなければ、今頃は娘っこたちに囲まれキャーキャー騒がれていたのに(笑)でも、それを見たらコトリーナがまた頭から角を出しそうなので、これはこれでよかったのかも(笑)
湿布貼ってくれたり、優しくなったコトリーナについ、甘えすぎてしまいましたよね!確かに、一人寝はさびしいだろう、領主さまよ♪
キスもたくさんしてほしいんだろうな~。でも自分が撒いた種だしね(笑)

ナッキーさん
トンブリ号と同室←大爆笑
なんかナオキヴィッチの部屋の遍歴、すごいですよね!!
とにかく、自分の非を認めて(←これ大切)くれないと。
ほら、「何が何だか分からないけど、とにかく謝っておくか」って感じで謝られても、凄い腹が立ちますしね^^
そこのところが、この公爵様には理解できるのか…という感じです♪

いいかげんママさん
電車に…大きなサロンパスの中吊りが(笑)
介の字貼りはここがいいとか説明があって、おもわずためしてしまいました。
きっとエフ村の間には、ナオキヴィッチは男たちに湿布を貼らせて、「ああ…スースーして気持ちいい」とか御満悦になっていると噂になっているんでしょうね。
本当に湿布プレイって、どんなプレイなんだか(笑)


kobutaさん
何でもperfectにこなすんだけど、コトリーナのことだけはだめ…一番の苦手はコトリーナなのかも♪←そう考えると、この公爵様もなんだか可愛く感じてきました(笑)

ゆみのすけさん
最後はナオキヴィッチの本音を思わず書いてしまいました…
本当にこの人は…何をやらせても様になる、そこがいいんだけど、でも何だか悔しい(笑)←自分ができないから(笑)

佑さん
そうなんですよね~
何をやらせても様になるし、器用にこなしちゃうから、これじゃお仕置きになってないという(笑)
でも、愛する琴子ちゃんから一人離されていることが、何よりのお仕置きでしょうね(笑)

Foxさん
首にタオルは欠かせないですもんね!でもそれすらいい男なんだろうな…
こんなに農業ファッションを決める人もいないでしょう(笑)
なんか、くやしい~!
で、その歌…他にも仰る方がおいでだったんですよ^^

まあちさん
まあちさんもその歌を(笑)
なんか気になって、調べてみました。
…歌詞検索したら、youtubeにて一発ヒット(笑)
何となくその人かなあと思った予想もあたっていました。私、農業機械ときたら、ヤン坊マー坊しか浮かびませんでした(笑)

水玉 |  2010.08.14(Sat) 12:50 |  URL |  【コメント編集】

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