日々草子 公爵夫人の家出 1

公爵夫人の家出 1



イーリエ公爵家の優秀な執事であるシゲキスキーと、公爵が普段暮らすタウンハウスで家事一切を取り仕切っているノーリー夫人の息子であるユウキスキーが、執事学校の入学のために、首都へやってきた。入学までの少しの間、公爵家の当主、ナオキヴィッチのタウンハンスに滞在するという。

「お世話になります、ナオキヴィッチ様。」
礼儀正しく挨拶ユウキスキーしていると、
「ユウキスキー、紹介するわね。」
そこへ公爵夫人であるナオキヴィッチの妻、コトリーナがイーリエ家のタウンハウスでの執事であるシップを連れてやってきた。
「こちら、シップさん。シップさん、カントリーハウスの執事さんの息子さんのユウキスキーよ。」
「初めまして。」
ユウキスキーは手を差し伸べた。シップも応じる。
「僕もあの学校の卒業生なんです。」
シップが少し自慢気に話す。
「存じています。たしか2番の成績で卒業されたとか。」
「2番…。」
シップの顔色が変わる。「2番」という言葉はシップが何より嫌う言葉である。
「あ、あのね、ユウキスキー…。」
察したコトリーナが慌てる。だが、ユウキスキーは気に留めることなく、
「僕は学校で常に1番をキープするつもりです。勿論、卒業も。執事学校始まって以来の優秀な成績を目指しますので。」
と、シップへ挑戦するかのように言い放った。
「…1番がそんなに偉いのかよ。」
「は?」
「…1番、1番、1番…んなもん取っても、いい家に勤められるとは限らないのに!!」
そう叫ぶとシップは壁に頭をぶつけ始める。さすがのユウキスキーもその様子には少し怯える。
「落ち着いて、落ち着いて。シップさん、どうどうどう!」
と、まるで馬を宥めるかのようにコトリーナはシップの背中を撫で続ける。そしてやっと落ち着くシップ。
「先生…!」
困り果てたコトリーナは夫を見た。が、
「…とにかく、うるさくしなければ好きに過ごしてくれ。」
ナオキヴィッチは言い残し、書斎へと入ってしまった。

「ナオキヴィッチ様はお忙しそうですね。」
「ええ。何でも論文が大変みたいなの。」
ナオキヴィッチは最近、論文執筆に忙しい日々を送っていた。これまでの言語研究をまとめているという。
「では、少しでも環境を整えねば。」
ユウキスキーの言葉に、
「それは僕が心得ておりますので、ユウキスキーさんはどうぞ心配なく。執事学校の予習でもやって下さい。」
と、シップが言い返した。
「大丈夫です。予習は既に済ませてあります。それくらいではないと、名門イーリエ公爵家の執事は務まりませんので。」
シップとユウキスキーの間に、火花が散った。


二人の静かなる戦いは、翌朝から始まった。
「じゃ、行ってくる。」
大学へ出かけるナオキヴィッチを見送るために、コトリーナも一緒に玄関へ出る。
「先生…。」
帽子とステッキを渡すのは、コトリーナの役目である。が、
「どうぞ、ナオキヴィッチ様。」
と、いつの間にか帽子を手にしたユウキスキーがいた。反対側からは、
「旦那様、行ってらっしゃいませ。」
と、ステッキを手にしたシップがいた。
コトリーナは何もすることがなく、
「行ってらっしゃい…。」
と言うのが精一杯だった。

それは朝に限ったことではなかった。
呼び鈴がナオキヴィッチの帰宅を告げた。コトリーナは急いで玄関へ向かう。
「お帰りなさい!」
ナオキヴィッチは出迎えたコトリーナの頭に、被っていた帽子を被せる。それがいつもの帰宅光景である。
しかし、また、
「お帰りなさいませ、ナオキヴィッチ様。」
と、いつの間にかユウキスキーが玄関のドアを開けていた。勿論、シップもいる。
「ただいま。」
頭の中が論文のことで一杯なナオキヴィッチは、そのままユウキスキーに帽子を渡す。そしてステッキはシップに。
「…どうかしたか?」
立っているコトリーナに気がついたナオキヴィッチ。
「ううん…お帰りなさい。」
「ただいま。」
そしてナオキヴィッチはそのまま書斎へ行ってしまった。


夜。コトリーナはお茶を淹れてナオキヴィッチの元へ運ぶ。お茶を淹れることもコトリーナの大事な仕事の一つである。ノックしようとした時、中から聞こえてくる声に手が止まった。
「旦那様、私がおいれしたお茶は、○○産の茶葉でございます。」
「ナオキヴィッチ様、お仕事でお疲れのお体に優しいお茶をご用意しました。」
どうやら、執事二人が既にお茶を持って来ているらしい。
「もういい。二人ともそこへ置いていけ。」
論文に夢中なナオキヴィッチは、これ以上邪魔されるのは堪らないと言わんばかりに二人に命じる。
「…。」
コトリーナはノックすることなく、そのままお茶を手にして階下へと下りて行く。しょんぼりしながらお茶を飲むコトリーナを、ノーリー夫人が心配そうに見ていた。


その後も、ナオキヴィッチの寵愛(?)をめぐっての二人の執事の争いは続く。
ある時、コトリーナがクローゼットの中に吊るされたナオキヴィッチの服にブラシをかけようとすると、
「それはもう済みました。」
と、ユウキスキー。

またある時、書斎や寝室に飾る花をコトリーナが買って来た時。
「私の花の方が素晴らしい!」
「僕の方がこの部屋にはふさわしい!」
と、ユウキスキーとシップが言い争う始末。

「このお花もいらないのか…。」
がっかりしていたコトリーナ。そこへ、
「やあ、元気かい?」
と、ナオキヴィッチの友人を名乗るガッキー・ウェスト男爵が入って来た。
「ん?それは?」
コトリーナが手にしていた花を見つける男爵。
「これ…よろしかったら、どうぞ。」
もう書斎にも寝室にも立派な花が飾られている。この花を飾る場所はない。無駄になるくらいならとコトリーナは男爵へと花を差し出した。
「いいのかい?」
目を輝かせて喜ぶ男爵。


「…また似合わないものを。」
応接間にやって来たナオキヴィッチは、男爵が手にしている花を見て呟いた。
「これ、コトリーナからもらったんだ。」
「…コトリーナから?」
「そう。やっと僕の愛に気が付いてくれたのかな…。」
花の匂いを嗅ぎながら呟く男爵。ナオキヴィッチは怪訝な顔で男爵を見ていた…。


「そうよ、差し上げたわよ?」
その夜、寝室にて花のことをナオキヴィッチに訊ねられたコトリーナはそう答えた。
「何で?」
「何でって…特に理由はないもん。」
最近、ナオキヴィッチは自分に全く構ってくれない。見送りと出迎え、そしてお茶とコトリーナの仕事は全て二人の執事に取られている。そしてナオキヴィッチはそんな執事に何も言わない。
―― お茶はコトリーナのお茶じゃなきゃ嫌だとか、言ってくれたっていいじゃない。
それすら言ってくれない夫に段々不満を募らせているコトリーナ。だが夫はそんな妻の不満に気がつくことなく、ベッドの中でも論文チェックに忙しい。
「…寝る時くらい、お仕事忘れたら?」
「締め切りが迫っているんでね。」
論文から目を離さず、素っ気なく答えるナオキヴィッチ。

「…先生、シップさんとユウキスキーが全部面倒見てくれて、楽でしょ?」
暫くその様子を黙って見ていたコトリーナはおもいきって訊ねた。
「ああ、そうだな。元々仕事ができる二人だけど、競争心がいい相乗効果を生み出しているみたいだ。」
「…私、もういらない?」
「う…ん。」
すっかり論文に夢中になっているナオキヴィッチは、上の空で返事をしてしまった。が、その返事はコトリーナの心を傷つけたのだった…。

『実家に戻らせていただきます。コトリーナ』

翌朝、置き手紙を見てナオキヴィッチは驚き、そして…妻に捨てられたという事実に気がついたのだった…。








☆あとがき
タイトルも内容も『新妻の家出』とかぶった(笑)

予定では3話くらいで終わるかと。
このシリーズは、ものすごーく“くだらない”内容なので(笑)、今回も肩の力を抜いて、“ゆるーい”気分で読んで頂けたらいいなと思ってます。
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comment

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妻に捨てられた~~!!!

ウケケケケ (←サイテー)

ナオキヴィッチの寵愛なんて、奪い合ってみても結果は見えてるのに、不毛な二人・・・ケケケ

上様のご寵愛はいつだって御台さまのもの~~。
さ、さっさと論文でもなんでも仕上げて、迎えに行ってくださいね~、捨てられた哀れな公爵様!

やっちゃった!

私、もういらない?

うん! は、酷いぞーナオキヴィッチ!そりゃー出てくって!

いくら論文が忙しいからって、周りが見えてない!

ノーリー婦人助け船出してね!

(>_<。)イヤー

いくら論文に夢中でも愛する妻に生返事はいけませんでしょう(ノ-o-)ノ┫←ちゃぶ台返し(笑)


かわいそう、コトリーナ(涙)

早くせんせー、迎えに行ってあげて(>_<)


あと、執事二人もしょーもないですね(--;)
いくら旦那サマによく思われても、愛する妻を出ていかせるきっかけを作ってるようじゃ、完璧な執事とは言えませんね(^_^)-c<^_^;)←エラそー?ごめんなさい…


個人的には、執事二人の戦いは好きですがv

もったいない!

水玉さん~!!勿体無いです!!!!
ゆるーい気分で・・・なんて 「キュン-」ってなってるのに!♡
「やってしまった」感のナオキヴッチ~おバカで可愛いコトリーナ
むふふって待ってます♡

☆花☆

水玉さん、こんにちは♪(笑)

執事二人の掛け合い!!(笑)

論文の事しか頭に無いナオキヴィッチ。
でも、男爵の手にした花には忘れず反応してる(笑)

↑皆さんのコメも。。。(爆笑)

さて、妻に捨てられたナオキヴィッチと、夫を捨てたコトリーナは。。。

面白~いです。ワクワク!!

もう…鈍感だ~(;_;)

こんにちは~


ナオキ様は、コトリ~ナの事となると、異常な位アンテナビンビンなのに…(^_^;)ライバル意識メラメラの執事達の争いで、いつもより、コトリ~ナとの会話が少なくなっている事に気付かないなんて………(´A`)



コトリ~ナは、寂しがり屋だっていう事を忘れてしまったの?!
コトリ~ナ可哀相です~(;_;)

No title

今度はイリコト版マイフェア~の続きですね☆このコトリーナちゃんの気持痛いほどわかります。。仕事ならまだしもうちの旦那様はテレビみてそれやりますから・・・・もちろん、、その時は黙ってやりすごしますが、、ためにためていざって時の爆薬として落としてやります。。でもなんでも仕事のせいにするのもダメです!!さて、ナオキヴィッチはどうするのか湿布(あ、変換ミス^^;)シップとユウキスキーのくだらぬ張合いもどうなるのか、、続きまってます♪

 当然でしょう。

  こんばんは 水玉さん
  
 コトリーナと誰か男性が絡むと 嫉妬するくせに コトリーナの会話には 上の空・・・捨てられて当然・・・。  
 
二人の執事もエスカレートだし・・・ノーリー婦人 ここはまとめて 三人一喝頼みます
 

 さぁ どう動くかなぁ・・・。 仕事にかまけて コトリーナは後で・・・煮ても焼いても食えない男 
最低直樹には ならないでね(笑)
  
  

間違えました

  水玉さん すいません
 直樹とナオキウ``ィッチ 間違えました。 すいません
 

あ~あ、やっちゃったよ

おはようございます。

ナオキヴィッチは、仕事に夢中になりすぎてコトリーナに愛想尽かされちゃいましたね。

ナオキヴィッチから、コトリーナを取り上げたら、ただの偏屈学者ですよ。
顔は良いかもしれないけど、ただそれだけの人でしかないんですよ。

コトリーナが居るからこそ、笑ったり、怒ったり、にやけたり、百面相が出来るんですよ。

だからナオキヴィッチ、早く人並みに戻らないといけないので迎えに行きなさい。

な~んちゃって。
続きも楽しみにしています。

どうなるの(*_*)

自分のいる意味が わからなくなったコトリーナに いらない?と聞かれて うん と答えちゃ ダメだよ!
ナオキビッチ!
しっかり 捕まえて可愛がってあげて(*_*)
いなくなってから気がつくのは遅いんだけど!

ノーリー婦人 出番ですね

No title

コメントありがとうございます♪

アリエルさん
一番の寵愛を受けるのは琴子ちゃんに決まっているのに…。
本当にこの執事(一人はまだ見習いだけど)には困ったものです。
素直に迎えに行けばいいけど…公爵様も(笑)

kobutaさん
今回は嫉妬もしなかったのに、自分のせいで捨てられた男…ナオキヴィッチ(笑)
でもノーリー夫人も絶対怒っているだろうから…助けてくれるでしょうかねえ…?

愛結美さん
いいな、このちゃぶ台返しの絵文字(笑)可愛い!!
いやいや、全然偉そうじゃないです!
この執事は本当、しょうもないの一言です。まあ船津くんだしね…(笑)
この男性陣、自分たちの愚かさに気がつく日は来るのでしょうか…?
あ、私も執事の戦い書くのが好きだったので、ありがとうございます♪そう言っていただけて嬉しいです。
この話、執事の戦いから浮かんだ話なんです♪だから…もう終わったも同然なんですが(笑)

美優さん
そうですよ~この話は「おバカ」の一言に尽きるんですから!!(笑)
この後、どんどんくだらなくなっていきますので、きっと美優さんも「キュンとした私を返してくれ」と叫びたくなると思います(笑)
ということで肩の力をもっと抜いて楽しんで下さいね♪

あおさん
他のこと全然、頭にないのに…花だけに反応(笑)
そんなに気になるなら、もっと奥さまを大事にすればよかったのに(笑)
後悔しても遅いんですよね~ホホホ。
妻に捨てられたナオキヴィッチと、夫を捨てたコトリーナ…このコメントに大爆笑してしまいました!!!
夫を捨てたコトリーナ…この響きが特に最高です!!!

ナッキーさん
執事に嫉妬しちゃうコトリーナちゃんも可愛いんですけどね♪
本当に男爵がコトリーナに近づいた時はすぐにピンとくるくせに、どうして他のことはピンとこないんだか…。
これもコトリーナちゃんは、自分が何をしても笑って許してくれると思っているからでしょうけど…。
今回は家出されて、少しは反省するといいです。

いいかげんママさん
生返事、時々母にやっちゃいます…反省。
本当に人の話はちゃんと聞かないとまずいですね。うん、気をつけないと!!
その誤変換をちょっと今回は考えてみようかなと…(笑)
シップとユウキスキーのくだらない(本当にくだらないです(笑))張り合いもさることながら…更にくだらなくなっていく予定です^^

吉キチさん
大丈夫ですよ!私もコメントとかあとがきでは「入江くん」とか書いてるし、本当、そこは気にしないで下さい!!私、カタカナすごく苦手なので、そのお気持ちよく分かります。だからどうぞお好きな方で書いて下さいね♪
捨てられた入江くんはどこへどうするのか…。懲りないですねえ、この公爵様も(笑)

りきまるさん
コトリーナがいなかったら、ただの偏屈学者←大爆笑
顔がいいだけ←更に大爆笑
…確かにそのとおりですね!コトリーナがいるからこそ、この教授様は人間らしくなれるんですから。
あれだけ大好きでプロポーズしたくせに、釣った魚にエサは何とやらで、どうも粗略に扱いすぎるんですよ!!
少し痛い目に遭えばいいのだけど…と、たしか前回相当痛い目に遭った気が(笑)
それでも懲りないって、一体…。

さくらさん
全く人の話を聞いていなかったんでしょうね~
どうしようもない人です、この人は本当に。
しっかりつかまえて、本当にコトリーナに嫌がれるくらいべたべたしてほしいような気がします♪

佑さん
たまには琴子ちゃんが怒るのもいいかと(笑)
家出して、少し懲らしめて挙げればいいんです。琴子ちゃんはいつも優しいから…。

Foxさん
論文と妻、どちらが大事か…ベッドの中まで仕事持ち込むところが、またしょうもないというか…。
教授、さっさと迎えに行って下さい♪
プロフィール

水玉

Author:水玉
『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
そっと見守っていただけたら嬉しいです。

※当ブログに掲載されている文章及びイラストの無断転載・使用はご遠慮下さい。

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このブログについてのお願い
当ブログは、『イタズラなkiss』の二次創作をメインとしておりますが、時折管理人の趣味や日々の出来事についての記事も書いております。

原作者様や関係各位とは一切関係ありません。

二次創作については、いわゆる原作の隙間をぬった作品もありますが、主人公以外のキャラクターをメインとしたものや オリジナルキャラクターが出てくるものもございます。

そして、原作と違った時代(平安や明治やその他の時代を舞台にしております)、異なる設定(主人公を医者と看護師じゃない職業にしております)で書いてあるものが多いですが、原作を冒涜しているつもりは全くございません。

二次創作が苦手という方及び原作のイメージと合わないと思われる方はどうぞお引き取り下さいますようお願いいたします。

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