日々草子 新妻の帰郷 3

新妻の帰郷 3



翌日も琴子は公務へと出かけて行った。その車をまたバルコニーから見送る直樹。
昨日、今日と一人取り残された直樹は、暇に耐えられなくなっていた。
「街にでも出るか。」
書店にでも出かけようと思い、仕度をして王宮を出る。
正門ではなく、小さな門を選び出ようとした直樹を、門番が止めた。
「…外に出たいのですけれど。」
「申し訳ございませんが、お通しするわけにはまいりません。」
門番は一歩も通すまいと、直樹の前に立ち塞がった。
その時、
「入江様!」
と、琴子付きの爺やが息を切らせて走って来た。
「丁度よかった。街に出かけたいのですが。」
直樹は爺やに話した。爺やを通し、外へ出してもらえるだろう。
だが、爺やの返事は直樹の期待に反するものだった。
「では、一度王宮内にお戻り下さい。」
「なぜです?」
「お車を準備致します。」
「いえ、徒歩で大丈夫です。」
「それはなりません。」
爺やはきっぱりと直樹に告げた。
「外出されるとなると、お車の準備、警備の手配、行先への連絡が必要となります。」
「そんな大げさな。」
爺やが本気で言っているのか、直樹には信じられない。
「…入江様。」
爺やは静かに言う。
「入江様は、王女殿下の御夫君であらせられます。つまり…王族の一員なのでございます。」
「つまり、王族は自由に外出もままならないと?」
「その通りでございます。仮に入江様がお一人で外出されたとします。万が一のことがあったら…。」
それ以上は直樹も無理を言わなかった。車や警備に囲まれてまで外出がしたいわけではない。
結局、自室へ戻る他、選択肢は直樹にはなかった。
「王女の夫…か。」
これ以上退屈な職業はないなと思う直樹だった。


公務を終え、着替えることもなく、琴子は直樹の部屋へ向かおうかどうしようか迷っていた。昨夜の様子といい、今朝の朝食の席といい、察すると、どうも機嫌は良くなさそうである。

そして直樹は、そろそろ琴子が戻る時間だろうと思い、部屋を出る。昨夜の態度は大人げなかったと自分でも思う。早いうちに仲直りしておいた方がいいだろう。
琴子は着替えもせずに立ち止まっていた。
「こと…。」
と、言いかける直樹。だが、直樹より先に琴子に声をかけた人物がいた。

「お帰り、コトリーナ!」
と、フレディが琴子の後ろから抱きついて来た。
「あ…ただいま。」
突然のことに少し驚いた琴子だったが、すぐに笑顔を見せる。フレディはいつもこうして琴子を驚かせて楽しむということを知っている。
「お茶の支度ができているよ、どう?」
「ええと…。」
どうしようか迷う琴子。フレディは爽やかな笑顔で琴子の返事を待っている。昨夜の直樹の表情とは大きな違い。そんなことを思う琴子の胸に、段々、沸々と怒りが湧いてきた。
―― そうよ、あの顔はないじゃない!
何があったか知らないが、どうしてあんな態度を取られねばならないのか。
―― 妻が一緒に寝ましょうと言っているのに、部屋にも入れずに追い返すって…ひどすぎるわ!
そして琴子は、
「ありがとう。いただきましょう!」
と、フレディと連れ立って、お茶の準備ができている部屋へと向ったのだった。

「…何だ、あれ。」
その一部始終を見ていた直樹。本当なら、自分に一番先に会いに来るはずなのではないだろうか。それなのに、あろうことか…夫以外の男に抱きつかれ、その男と一緒にどこかへ行ってしまうとは。
「故郷で解放され過ぎじゃねえの?」
直樹も腹が立って来た。そして、また自室へと戻ったのだった。




その夜。琴子は直樹の部屋を訪ねてこなかった。眠れない直樹は庭に出る。庭くらいなら文句は言われないだろう。
ところが…一番会いたくない先客が庭にいた。

「やあ、君も星の観察?」
フレディが直樹に気が付き、いつもの爽やかな笑顔で話しかけて来た。
「…別に。」
あまり関わりたくないので離れた場所へ移動しようとする直樹。
「ね、見てみなよ。」
そんな直樹の気持ちに気がついているのかどうなのか、フレディが話しかける。仕方なく、直樹はフレディが示す方を見た。
「あそこ…ぐるりと囲んでいる。あそこの外に出るには、沢山の許可が必要。」
昼間の一件をどこかからか耳にしたのだろうか。直樹はまた苛立つ。
「王族が自由に暮らせるのは、囲まれているこの中だけ。自由といっても、この王宮も色々としきたりがあるけどね。」
「…言いたいことがあるなら、はっきりと言えば?」
フレディは直樹の言葉に、軽く笑う。
「ううん、別に。たださ、王族の一員になったばかりの君は色々、耐えがたいことも多いだろうなって。」
「…同情してくれてありがとう。」
嫌味を込めて直樹は言い、王宮内へ戻ろうとした。
「コトリーナは…生まれて二十数年間、この不自由な生活を送ってきたってこと、忘れてない?」
背中に飛んで来た言葉に、直樹は立ち止り、振り返った。フレディから笑顔は消え、真顔で直樹を見つめている。
「彼女は、本当ならずっと…一生を終えるまで、この囲まれている中で暮らす人間だったんだ。」
「それで?」
一体この男は何が言いたいのだろうと思う直樹。
フレディは直樹の傍まで歩いて来た。そして、
「僕はね、その不自由な空間の中で、少しでもコトリーナが楽しく過ごせるように、その支えになりたいと思ってた。」
と、はっきりと言った。
「…。」
あまりのストレートな言い方に、直樹は言葉を失う。この素直さは琴子と似ている気がする…そんな気さえした。
「幸い、僕は他国の王家の人間とはいえ、三男だしね。王位継承者の夫となってこのトンブリ王家に入ることに何の問題はない。」
「…で?」
「僕程、コトリーナに一番ふさわしい人間はいないと思ってたんだけど。」
そこまで話すと、フレディはまた笑う。
「…まさか、遠い日本に出かけたまま、戻って来なくなるとは思ってなかったよ。」
そう話す笑顔には、先程までの笑顔とは違う翳りが見えた。
「結局、何が言いたいんだ?」
直樹はフレディに訊ねた。
「…彼女と結婚したのなら、それなりの…公人としての自覚を持てと言いたいのさ。」
フレディは見たことのない、厳しい顔で直樹に告げた。



王宮内に戻った直樹は、そのまま自室へは戻らず…琴子の部屋へと歩く。
「明かりが…?」
部屋からは明かりがもれていた。夜中の三時である。まだ琴子は起きているということなのだろうか?
「入江様…?」
小声で直樹の名を呼んだのは、琴子付きの侍女だった。いつも琴子をからかう侍女たちの一人だが、顔つきが違っている。
「琴子、まだ起きているんですか?」
部屋から少し離れた場所へ移動し、直樹は侍女に訊ねた。
「はい。明日の御公務でのスピーチの原稿を作られているのだと思います。」
「原稿…?」
「王女様は、いつも御自分でスピーチの原稿を作られます。」
侍女はフフフと笑った。
「御自分のお言葉でお話するというのが、王女様のモットーでございまして。」
「…。」
琴子にそんな一面があったとは…直樹は初めて知る。
「あまり文章を書かれるのがお得意ではないので、いつも真夜中までかかってしまって。時には朝まで起きておいでのことも。」
「朝まで?」
驚く直樹の耳に、琴子の声が聞こえてくる。
「あ、どうやら書き終えられて、スピーチの練習に移られたんでございますね。」
「練習も…。」
「はい。王女様は御公務にいつも熱心でいらっしゃいますから。」
そして侍女はこう続けた。
「いつもこのように、一生懸命でいらっしゃる王女様だからこそ、私たちは全力でサポートいたしております。…いつも王女様をからかっているだけじゃございませんのよ?」
「だから、こんな時間まであなたも起きているのですか?」
「はい。王女様は先に休むようにと仰って下さるのですが。私たちは交替で王女様のお世話ができますが…王女様は誰かと交替するわけにはいきません。どれだけ大変かと思います。」
琴子への飲み物を準備するからと言い、侍女は立ち去った。

「ここ、ちょっと言いにくいなあ…ええと…。」
部屋からは、琴子の独り言が漏れてくる。練習しながら書き直しているらしい。

そしてこの夜、琴子の部屋の明かりが消えることはなかった ――。
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努力の人

琴子って本当に頑張り屋さんですね。
スピーチの原稿を人に頼めばよる遅くまで起きている必要はないのに、自分の考えで、自分の言葉で、国民に伝えようと努力を惜しまない琴子。
こんな王女様だから、国民からも侍女からも信頼されていて、愛されているんですね。

どっかの国の誰かとは大違いです。

しかし、こんな姿を見た入江君。琴子と仲直りをするつもりで琴子の部屋に来たようですが・・・

早くいつもの、ボケと突っ込みに戻ってほしいです。(笑)

ちなみに私はボケ担当です。(笑)

 分かるけどねぇ。

      水玉さん こんばんは
 直樹の気持ちも分かるけど イライラと苛立ちがおさまらないけど・・・ 琴子の陰の努力を知り 気持ちがおさまればよいのにな・・・。 不器用だけど、がんばりやだから コツさえつかめば・・・て 思うけどなぁ。 だから直樹が暇なら サポートしてあげればよいのになぁ。琴子とも一緒におれるし・・・。
 
 琴子は 心が優しいし、モテるから 気をつけないと奪われるよぉ。 影で既に琴子狙ってるでぇ~。 

私だったら無理だな?

王室って、本当に窮屈そう?

それでも、琴子は一生懸命やり遂げようとしてるんですね?

直樹もそれが、少しは判って琴子に、優しくできたら良いのにな?

変な、ヤキモチ妬かないでさ!

水玉さん、こんにちは♪

お話読んでいて、琴子ちゃんの一生懸命な姿に、
何度も励まされたり、勇気をもらったことを思い出しました!!

サポートしている侍女さんもきっとそうなんだろうな~。
そして、可愛くって!!

コメントありがとうございます

コメントありがとうございます♪

りきまるさん
原作の琴子ちゃん見ていると、本当にそう思います。入江くんがバイトしていると聞けば、そこへ飛び込み、入江くんが医者になると聞いたら、看護師さんになったり…琴子ちゃんって多分文系だろうに、入江くんのために苦手な数学と格闘して(予想問題作ってもらってたけど)、看護学科入っても大変だったろうに…
「やりたい!」と思ったら苦手だろうが何だろうが飛び込む姿勢は私も見習いたいなといつも思ってます。あの勇気が私にもあれば…。
ちなみに、私もボケなんですが…私とりきまるさんが組んでM1出場をめざすのは難しそうですね(笑)

吉キチさん
不器用な分、人の何倍も努力するんですよね、琴子ちゃん。原作の採血の時も、朝一で学校にきて練習してたし…。
努力は怠らないですね。看護師になった後も夜中に病院内を歩いて場所を覚えていたし…本当にすごいなあといつも思います。

kobutaさん
この間、スウェーデンの王女様の結婚式のニュースをやっていたんですけど、お相手の一般人男性を王族としてふさわしい人間にするため、ファッション、語学等…すごい改造したんですって!ありのままでいいじゃんって思うんですけど、そうはいかないのが王室って場所なんでしょうね~いや、生活の心配ないのはいいけど、自由がなさそうでちょっと遠慮したいです…。

あおさん
私も原作の一生懸命な姿には本当に励まされました!!あんなに頑張るから、啓太とかモトちゃんとか、紀子ママがサポートしてくれるんでしょうね。私もそうなりたい…涙

佑さん
マスオさんな入江くん(笑)
確かにそうかも。琴子ちゃんの影に回る必要があるのかも…

まあちさん
確かに琴子ちゃんなら、くっついて回りそうですよね。そこがまた可愛らしい…
入江くんはどう考えたってくっついて歩く様子はないし(笑)
男の人はそういうことができない分(プライドとかあるだろうし)厄介かもしれませんね。

プロフィール

水玉

Author:水玉
『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
そっと見守っていただけたら嬉しいです。

※当ブログに掲載されている文章及びイラストの無断転載・使用はご遠慮下さい。

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御訪問ありがとうございます
このブログについてのお願い
当ブログは、『イタズラなkiss』の二次創作をメインとしておりますが、時折管理人の趣味や日々の出来事についての記事も書いております。

原作者様や関係各位とは一切関係ありません。

二次創作については、いわゆる原作の隙間をぬった作品もありますが、主人公以外のキャラクターをメインとしたものや オリジナルキャラクターが出てくるものもございます。

そして、原作と違った時代(平安や明治やその他の時代を舞台にしております)、異なる設定(主人公を医者と看護師じゃない職業にしております)で書いてあるものが多いですが、原作を冒涜しているつもりは全くございません。

二次創作が苦手という方及び原作のイメージと合わないと思われる方はどうぞお引き取り下さいますようお願いいたします。

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