日々草子 新妻の帰郷 2

新妻の帰郷 2

「今日は午後から公務があるの。」
朝食の席で、琴子は直樹に言った。
「ごめんね、入江くんを一人にしちゃって。」
申し訳なさそうに言う琴子に、
「いや。適当に楽しんでいるから平気。」
と答える。
こちらへ戻って来た時は、求めがある限り、琴子は公務に勤しむことにしている。多忙な父の手助けをしたいという思いと、普段母国を離れてしまっている申し訳なさからの気持ちだった。その琴子の思いを直樹は勿論分かっているので、このように言われても驚くことはしない。

「心配だなあ…私がいない間に、こっそり誰かがやって来て入江くんを誘ったりしないかしら?」
スプーンでトンブリをすくいながら、呟く琴子。まだ空港での騒ぎが気になっているらしい。
「ここまで来たら、警備上問題だろ。」
直樹はまともに相手にしない。
「でも…。」
まだ不安そうな琴子。

その時、
「…だあれだ。」
という日本語の男の声がし、琴子の目を後ろから両手で塞がれた。
―― お前が誰だ?
そんなことを突っ込みながら、直樹は琴子の目を塞いでいる男の顔を見る。
「その声は…フレディね!!」
「当たり。」
琴子は振り返って男を見る。
「お帰り、コトリーナ。」
「久しぶりじゃないの、フレディ!」
手を取り合って再会を喜び合う二人。それを黙って見ている直樹。

「あ、入江くん、紹介するね。こちらは、ケンタッキーフライドチキン公国の第三王子のフレデリック。」
「ケントニアフィールド公国のフレデリックです。フレディと呼んで下さい。」
琴子の言い間違いを自然と直しながら、フレディは直樹に握手を求める。金髪の爽やかな青年だった。
「こちらは、私の愛する…。」
「愛する」という琴子の言葉にかぶせるように、
「配偶者の入江です。」
と、固い挨拶をする直樹。

「帰って来てると聞いて、飛んで来たんだよ。」
「まあ!」
二人が知り合ったのは数年前。バカンスを過ごしていた高級リゾート地にて、知り合ったという。お互いの国も近いことから意気投合したとのことだった。そしてフレディは度々、トンブリ王国に滞在し、琴子と「友情」を築いていたという。
「久しぶりに会ったのに、ごめんなさい。私ね、これから公務なの。」
またもや申し訳なさそうに、琴子はフレディに言った。
「ああ、だろうと思った。コトリーナは公務に熱心だからね。別に驚かないよ。」
フレディは逆に、
「でも体に気をつけなよ?」
と琴子を気遣う。
「ありがとう、大丈夫。」
フレディが暫く滞在することを確認し、琴子と直樹は朝食のテーブルを後にした。

少しの後、直樹の部屋を琴子がノックした。ドアを開けると、ロイヤルファッションに身を包んだ琴子が立っていた。
「何?」
直樹が訊ねると、琴子はぴたっと直樹に抱きついた。
「…留守の間、私を忘れないでね。」
どうやらまだ心配らしい。
「せっかくの服が皺になるぞ。」
「…うん。」
名残惜しそうに、琴子は直樹から離れ、何度もチラチラと振り返りながら公務へと向った。

「あれ?一緒じゃないんですか?」
バルコニーから琴子を乗せた車を見ていた直樹に声をかけたのは、フレディだった。
「てっきり一緒かと思ったのに。」
そのようなことを言いながら、直樹の横に並ぶ。
「別に俺は…。」
「だって公務は夫婦同伴が普通でしょ?どこの国も夫婦で出かけますよ?」
「…。」
そう言われても、琴子は何も言わなかったし、自分が一緒に行って何ができるかも分からない。
「コトリーナは日本でも元気でやってます?」
まるで家族のようなことを訊ねるんだなと直樹は思った。
「見れば分かるかと。」
つい素っ気ない返事をしてしまう直樹。そして、何か違和感があることに気がついた。
「突然結婚したということでも驚いたのに、日本に行ってしまったと聞いて更に驚いたけど。」
「…。」
「あ、そうだ。ハネムーンはどちらに行ったんですか?ヨーロッパ?地中海クルージング?」
「…箱根です。」
「ハ、ハコネ…?」
「日本の、誰でも行けるリゾート地です。」
「へえ。」
そこで二人の会話は一度止まった。

「…日本語、随分お上手なんですね。」
今度は直樹から口を開く。
「そうですか?ありがとうございます。」
素直に喜びを表すフレディ。
「もしかして、ケントニアフィールド公国も日本語が公用語なんですか?」
「まさか!英語です。」
「では、どうして日本語を?」
するとフレディは少しはにかみながら、
「コトリーナが英語ができなかったので。彼女と会話するために日本語を覚えたんです。」
と答えた。
「…そうですか。」
そして直樹はフレディに別れを告げ、自室へと戻った。

テレビには公務をする琴子の様子が映し出されていた。愛らしい笑顔で国民と接している琴子。その画面を見ているうち、直樹は違和感の正体が分かった。
この国に来てから、誰もが琴子のことを「コトリーナ」と呼ぶ。それが琴子の本名なのだから当たり前なのだが、その呼ばれ方を聞く度に、直樹は琴子が遠くへ行ってしまう錯覚を覚えるのだった。
「琴子…コトリーナ…。」
何となしに呟くと、直樹はテレビの電源を切った。


「チャーハン?」
その晩、戻った琴子に直樹は、琴子の作るトンブリ入りのチャーハンが食べたいと口にした。
「ま、どっちかというと炒飯というより、焦げ飯だけどな。」
「じゃ、料理長に頼んでみるね。」
琴子の口から出たのは、直樹の想像とは違う返事だった。
「お前が作らないのか?」
すると琴子は、
「ごめん…王宮にはちゃんと料理人がいるから、私は厨房には入れないの。」
と、残念そうに言った。そして、
「ちゃんと普段私が作っているように作ってくれるように言うから…。」
と言う琴子だったが、
「じゃあ、いい。いらない」
と直樹は一言言った。琴子は悲しそうな表情で俯いてしまった。


「入江くん、入江くん。」
そして今夜も琴子は、枕を抱えたパジャマ姿で直樹の部屋をノックしていた。が、何回ノックしてもどのドアが開かない。
「お風呂かな…?」
と、琴子が思った時、ようやくドアが開き、直樹が顔を覗かせた。
「お泊りタイムだよ!!」
そう言いながら、部屋の中へ入ろうとした琴子。だが、その頭を直樹が押す。
「…自分の部屋で寝ろ。」
「何で?どうして?」
「お前、寝相悪いから。」
「そんなの今更…。」
「いいから、自分の部屋へ戻れ。」
直樹はそう言うと、ドアをバタンと閉めてしまった。

「入江くん…やっぱりトンブリに来たら冷たい…。」
そして、自分の胸を見る。
「この調子だと、大きくなりそうもない…。」
今日は午後は離れ離れだったので、やっと二人きりの時間が取れると思っていた琴子はがっくりと肩を落とし、枕を胸に抱き、トボトボと自分の部屋へと戻ったのだった。








☆あとがき
琴子ちゃん…揉んでほしかったの…?
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comment

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 寂しいのかなぁ?

   水玉さん こんばんは
 直樹は 大好きな琴子の本名に なんか 寂しさかんじたのかなぁ? 琴子は直樹の事 大好きなのになぁ。 
  
 もしかして・・・琴子ホームシックに かかったのかな? 近くにいるのに? 
 

書き忘れました。 水玉さん プロフィールの 似顔絵は
水玉さん自身ですか? 眼鏡かけられてるのですか?
 吉キチも昔は 牛乳瓶の底のような眼鏡かけてました。 

う~ん?

こんばんは。

とんぶりに琴子と帰る度に、入江君は、いじけ虫に大変身ですね。(笑)

確かに一人お留守番をしていたらさびちいのかもちれまちぇんが・・・
お子ちゃま直樹なんでちゅから・・・

しかし、新キャラが現れて、今後入江君の嫉妬心を煽るんでしょうか・・・

琴子の涙はもう見たくないかも・・・
でも、ラブラブ度が増すのであればがんばって見届けたいと思います。

コメントありがとうございます

コメントありがとうございます♪

吉キチさん
琴子ホームシック…いいですね!!そんな感じですよね!入江くん、どんだけ琴子ちゃんが好きなんだか…♪
そしてプロフィールに気がついて下さってありがとうございます^^眼鏡着用です!外すと家の中も怖くて歩けません。外出時はコンタクトですが…あとレンズは牛乳瓶底眼鏡です!だから必ず薄型レンズに加工してもらうので余分な費用が…最近は眼鏡●場のおかげで助かってますが。

りきまるさん
ちゃびちいんでちょうね~入江くんは。お子ちゃまだから。
大丈夫、さすがに連チャンで琴子ちゃんの涙は出さないです!私の精神がもたない(笑)明るく進めます~♪

わさこさん
うわ~お久しぶりです!!私のことお忘れじゃなかったんですね、ありがとうございます!!
お互い人見知り同士ですから、大丈夫ですよ♪
ケンタッキー…どちらかというと、わさこさんが仰った前者、全員がカーネルサンダースという感じで(笑)
本当に私も書いていて、入江くんには勿体ないなあと思ってます^^

るんるんさん
帰国したら王女様…それは入江くんが知らない琴子ちゃんですもんね。寂しさもひとしおなのかも…
琴子ちゃんは入江くんLOVEなのにね^^
しかし…いじける入江くんなんて書いていていいのだろうか…と不安になってます。

佑さん
ごめんなさい。そうですね、表も裏もちっちゃい入江くんだあ…^^;
ああ…ちょっとやり過ぎたかなあ?と思っていますが…。
う~ん、次回は大きな入江くんを書けるよう頑張ります。
でもちっちゃな入江くん、好きなんだよなあ…(苦笑)

chan-BBさん
そうです、そのお話です!!
いや~ちょっとやり過ぎたかなと不安になり、いっそのこと闇へ葬り去ろうかと一旦下げておりました。ごめんなさい。
でも楽しんでいただけてよかった!!
枕を抱える琴子ちゃんは私も書いてみたかったんです。絶対可愛いだろうなあって。
やっぱりchan-BBさんと私、萌えポイントが同じかもしれません!!安心しました!ありがとうございます!
直樹うちわは…私もほしいです♪

Foxさん
一人放置されていることの寂しさもあるでしょうが、日本と違う不自由な生活にも息苦しさを感じているんでしょうね。ただの嫉妬とは違うのかも、今回は…。
琴子ちゃんが遠くに行ってしまった感じを受けているのかもしれません。
プロフィール

水玉

Author:水玉
『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
そっと見守っていただけたら嬉しいです。

※当ブログに掲載されている文章及びイラストの無断転載・使用はご遠慮下さい。

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二次創作については、いわゆる原作の隙間をぬった作品もありますが、主人公以外のキャラクターをメインとしたものや オリジナルキャラクターが出てくるものもございます。

そして、原作と違った時代(平安や明治やその他の時代を舞台にしております)、異なる設定(主人公を医者と看護師じゃない職業にしております)で書いてあるものが多いですが、原作を冒涜しているつもりは全くございません。

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