日々草子 Dear enemy 5

Dear enemy 5


「え…?」
会長室に通された桂は、驚いた。そこには見たことのある顔があった。
「何か?」
自分の顔を見て驚かれた直樹も、少し驚く。この青年とは初対面のはず。
「あ、いえ。失礼致しました。」
桂は気を取り直し、師匠が腰を痛めて来られなかったお詫びと、先日の一門会への直樹の尽力のお礼を丁寧に述べた。
―― しかし、会長というから、もっと年を取ってるもんだと思ってた。
改めて桂は直樹の顔を見た。年齢も自分とはそう違わない。やや上かなと思う。知的な印象、男とは思えない綺麗な顔。
「…?」
顔を見つめられ、直樹が不思議そうな顔を見せた。
「いえ…お若いのにこんなに偉くて…すごいなあと。」
すると直樹は笑って、
「桂林師匠こそ、お若いのにもう真打でしょう?凄いのはそちらでしょう。」
と話す。
「どうして…真打だと?」
桂は驚いた。それだけではない。初対面で、しかも地位がある人物から「師匠」と呼ばれるとは思っていなかった。
「羽織を許されるのは、真打からでしょう?」
羽織を引っ張る真似をしながら、直樹は笑う。
「あ…。」
言われてみれば、すぐに分かることだった。それだけ桂は動転していた。
「楽林師匠から聞いてます。将来有望で、三代目楽林の候補者の筆頭だって。」
「いえ、そんな!!」
手を振って否定する桂林。直樹は穏やかに笑っている。

「会長、そろそろお時間が。」
秘書が時間を告げにやってきた。それを機に、桂は挨拶をする。
「あの…。」
桂は言おうかどうしようか迷っていたことを、口にした。
「…相原琴子って人物を…御存知ですか?」
この立派な青年会長が、どうして琴子と街を歩いていたのか、そして…どうして琴子はこの青年を秘書だと言ったのか…桂は気になって仕方がなかった。
「相原…?」
―― …!
その時、桂は…この会長の表情が変わったことに気がついた。それまでの穏やかな表情とは一変して、まるで相手の全てを見透かすかのような冷たく、刺さるような視線を投げつけてきた。
―― よく分からないが、深くは追求しない方がいい!
咄嗟にそう思い、桂は、
「あ、いえ。あの、最近…私の高座を聴きに来て下さるお客さんでして。この間、その…会長と御一緒にいた所をお見かけしまして。」
と、取り繕った ――。


「お帰りなさいませ。」
突然、早く帰宅した直樹に驚く渡辺。
「お帰りなさい!!」
琴子が笑顔で迎える。
「どうしたの?今日は早い…。」
「琴子。」
直樹は琴子の言葉を遮った。
「…ちょっと、来い。」
そして直樹と琴子は書斎へと向った。その様子を渡辺は心配そうに見送った。


「お前、最近寄席に通ってたよな?」
書斎で直樹は、琴子に訊ねる。
「はい…。」
琴子は緊張で身を固くしていた。
「そこで…誰かと親しくしてないか?」
「誰か…。」
琴子は迷った。ここで正直に話した方がいいのか。隠すことでもないのだが、言いそびれて来た今となっては、どうも言いにくい。
「…正林亭桂林って落語家を知ってるだろう?」
直樹が先に口を開いた。
「…はい。」
「…今日、その落語家が社に来た。」
「え!?」
驚いて顔を上げる琴子。
「…何で?」
知っていると琴子は言ったも同然である。直樹は手短に、正林亭一門の後援をしていることを、琴子に説明した。
「そうなんだ…。」
「その桂林って落語家から、お前の名前が出た。」
この間、二人で歩いていた所を見かけたと言っていたから、それを桂は直樹に話したのだろうと琴子にもすぐに分かった。
「だからちょっと驚いて。お前がそんなに熱を上げて追いかけている落語家がいたなんて聞いていなかったから。」
直樹の声はどこか冷たかった。
「違うの…。」
これはもう正直に話さないとまずいと、琴子は悟った。
「あの…桂林さん…は、私の…孤児院での友達…。」
「孤児院…。」
久しぶりに、琴子から孤児院という言葉を聞いたと思う直樹。それくらい、琴子は直樹の前で孤児院の話題を口にしない。
「たまたま、寄席で桂林さん…桂くん…の高座を聞いて、それで…。」
「…再会したと。」
コクンと頷く琴子。直樹はそれに嘘はないと判断した。
「幼馴染が落語で成功していると知ったら…応援したくて。それで通っていて。あと…。」
「あと?」
直樹は琴子を見つめる。
「…昔の思い出話とか、沢山できて…楽しかったの。」
「昔って…孤児院の?」
またコクンと琴子は頷いた。

「…。」
そのまま黙り込んでしまった直樹を、琴子が心配して見つめる。直樹はどこか遠くを見ているかのようだった。
「あの…もう、行かないようにする…ね?」
婚約していて、他の男性と親しくするというのはやはりまずいだろうと琴子は反省する。
しかし、直樹の返答は予想外のものだった。
「いや…別に…幼馴染の応援はしたっていいよ。」
「本当?」
「ああ。」
琴子は少し表情を緩めた。が、まだ晴れ晴れとはしていない。その気持ちを隠すように、わざと明るく、
「よかった!あのね、とっても面白いのよ!今度、直樹さんも一緒に行きましょう!」
と、言った。
「…ああ。」
きっと、琴子の心には応援以外の気持ちなど存在しない。直樹はそう信じている。が、直樹もどこか気持ちは晴れない。

「あ…。」
そして、琴子はもう一つ、大事なことを思い出した。
「あの…桂くんが孤児院育ちって…黙っていてくれる?」
「そう言われてるのか?」
「ううん。でも…あんまり知られたくないだろうし…。」
琴子の顔が翳った。それを見て、二人の間には自分が立ち入ることができない何かがあることを直樹は感じる。だが、その気持ちを微塵も見せずに、直樹は琴子が言うように黙っていると約束した。

「あと…他に何か言ってた?」
琴子の胸には、いつか桂についた嘘が気になっていた。それは、近いうちに本当のことを話さないといけない。というより、直樹は婚約していることを言ったのだろうか?
「いや…別に。」
直樹はそう答えた。


「…失礼します。」
渡辺が静かに入って来た。
「お夜食です。」
持参したサンドイッチをそっと机に置く渡辺。直樹は書類から目を離した。
「…嘘って。」
「はい?」
突然の直樹の言葉に渡辺は驚く。
「…嘘って、何でつくんだろう?」
「琴子様が嘘を?」
渡辺は心配になった。突然の直樹の帰宅、同時に琴子との話し合い…一体何が起こったのかと心配で堪らなかった。
「…あいつには黙っていたんだけど。」
直樹はゆっくりと話す。
「…あいつ、琴子は…俺のことを『秘書』だと説明したらしい。」
そして、直樹は渡辺に琴子に話さなかったことを、話した。

桂林は帰り際に言った。
―― 琴子からは、『秘書』だと説明されていたので、まさか会長だとは思いませんでした。
それだけ言うと、桂林は会長室から出て行ったのだった。

「琴子」と桂林は呼んでいた。それは二人の親密度の高さを示している。

「…恥ずかしかったからでは?」
女性が堂々と「婚約者」だと紹介するのは、意外と照れるのかもと渡辺は言った。そして、孤児院で一緒に育てば、呼び捨てになるとも言った。
が、直樹の気持ちは晴れない。
「俺って…堂々と紹介できない人間なんだろうか?」
「そんなことは…。」
そして直樹は、
「どうして…。」
と言いかけた。が、すぐに口を閉じた。
「直樹様?」
「いや、何でもない。」
渡辺は少し待つ。突然の幼馴染の登場で、きっと直樹の心中は穏やかではない。きっとまた、とんでもない無理難題を渡辺に命じるに違いない。いや…命じてほしかった。
しかし、直樹からは何も命令は飛んで来なかった…。

渡辺が出て行った後、直樹は言いかけた言葉を心の中で呟いた。

―― どうして…思い出を語る相手は…俺じゃなかったんだろう…?

直樹はその不安を振り払うかのように、再び書類へと目を戻した ――。










☆あとがき
もう、こんなお話で本当にごめんなさい!!
ああ…もう私、話を自分で考えるの無理な気が…。最後まで頑張りますので、もう…最終話になったら足を運んで下さい!←久々に口にしました、このセリフ…。
ああ…私の琴子ちゃんが…これじゃ、ただの悪女だわ~(号泣)
私のバカバカ、大バカ…!!ううっ…。
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NO TITLE

水玉さんの琴子ちゃん、ちっとも悪女なんかじゃないよ~♪
いっぱいいっぱい考えて、気を使いすぎて
直樹に本当のことが言えなかっただけ!!
けど、直樹の心情を考えるとちょっと辛いよね。

水玉さん♪直樹は考えれば考えるほど、きっとお子様になるんだろうけど、
そのお子様も琴子ちゃんが大好きだからゆえ・・←けど、お子様になると、
ムカついちゃうんだけど。
大丈夫!!この二人には強~い絆があるんだから!!

やきもきするー

少しずつ すれ違う二人の心…
大好きな人なのに
直樹を婚約者って 堂々と言えないのは
琴子の自信のなさなのかな
二人で いれば どっちからでも 愛しあってるのに
誰か からむと ややこしくなるんだよね(*_*)

お互いの気持ちはわかっているのにー
直樹も 素直に 聞けばいいのに!
嫉妬が 直樹の心を迷路に迷わせる
早く 誤解を解いて 二人が仲良くして欲しい


二人のつらい顔は見たくないよう(;_;)
琴子と直樹の笑顔が早く見たいです

これから 目が離せません


明治編の琴子に似てますね。身分の差…天真爛漫な琴子にも越えられない物があるんですね。直樹も琴子のそんな気持ちに気付いてくれたらいいけど。琴子が正直に全て話せば、直樹も許してくれますよね。

 息が、できなかった。

 はぁ~~、ビックリしました。 直樹は急に寂しくなったのかな。 
桂君が出てきて、 琴子がいつも感じる 切なさとか、自分の存在とは何
とか、 色々悶々と渦巻いてるから いつもと行動が違うのかな?  
今回 いつもと違う 直樹を見せていただき ありがとう。
 
 渡辺君に対しても 今回 いつもと対応が違う直樹 だからこそ
今後の直樹は ある意味 どうなるか?本人も、周りも未知数なんで
 恐ろしやぁ~  でも 続きが速くみたいよぉ~。
  

創作活動復帰おめでとうございます

ひよこは
繊細に深く2人の心理描写がされていて良い展開だと思いますよ。

今回は琴子ちゃんが孤児院育ちの劣等感克服してお嫁に行くことになりそうな気配がして
仕事の関係で過去の自分の傷を見つめ直す作業中のひよこは親近感です。

すてきだと思います。
微力ながら応援してるので楽しみにしてる読者のためにも
書き上げてくださいね(*^_^*)

NO TITLE

こんばんは。

水玉さまの琴子は、全然悪女じゃないですよ。(笑)
琴子は、考えて考えて、とった行動だろし、幼馴染には玉の輿に乗ったと思われるのがちょっと嫌だったのかもしれないですもんね。
昔の知り合いには、昔と変わってないよとアピールしたかったのかもしれませんもんね。

全然気にせず、どんどんお話を進めていってくださいね。

NO TITLE

はじめまして。おはようございます。
読んでいてなんだか涙が出てきてしまいました。
これから先が とても楽しみです。

励ましのお言葉、ありがとうございます

コメントありがとうございます。
もう…最後になったら足を運んで下さいと言ったにもかかわらず、こうして足を運んで下さり…感謝、感謝でございます(感涙)
本当に…書いていて琴子ちゃんに申し訳なくて…あんなにかわいく書くんだって頑張ってたのに…ううっ←まだ立ち直れていない私…

ゆみのすけさん
ありがとうございます!!そのお優しい言葉に救われました…。
もうここまで書いたんだから、腹くくって最後まで頑張ります…。本当に申し訳ないです…ううっ。
琴子ちゃん、入江くんも傷ついていることに早く気がつくといいんだけど…これってその時が来るまで気がつかないんだろうな…その時はもう、時すでに遅しとかならないように…。

さくらさん
外野がひっかきまわすんですよね♪ドラマなんかでも「あんたがいなければ!」とか思うこと多いですし(笑)
でも一番怖いのは無関心…無関心だったら琴子ちゃんが嘘をついても「あ、そ。御勝手に。」とかの一言で終わっちゃうし…お互い想い合っているからこそ、こういう些細なことで腹を立てたり、傷ついたりするんですよね…喧嘩する分にはまだましなのかも…。
入江くん、素直に訊ねて…また誤魔化されたりしたらと思うと怖くなっているんだろうなと思います。

祐樹’Sママ さん
そうなんですよ~明治編まんまです!!お恥ずかしい…!!ああ、穴があったら入りたい…。でも…まあ…どっかで差をつけよう、頑張ろう、うん(笑)
あ、でも今回は…身分の差というより、ちょっと違うことを気にしている感じを出せたらいいなって思ってます♪

コンタさん
いえいえ。いつもと違う直樹と言って下さってありがとうございます。
ちょっと安心しました。まだ事情が呑み込めていないというのもあるでしょうしね…どうしたらいいのか分からないような状況なのだと思います。
渡辺くんも驚いているでしょうね。どちらかというと、いつものように無茶なことを命じる入江くんの方がきっと好きだろうし…。
心配しているでしょうね…。

ひよこさん
復帰したけれど、また穴の中に入りたい気分です…でもありがとうございます、励まして下さって。
展開が同じで本当にお恥ずかしく…色々、違うようにしようと努力はしているのですが…うう。
大丈夫です。こういうのは最後まで書きあげないと、私自身がすっきりしないので自分のためにも最後まで、恥をしのんで頑張ります。
お嫁にいけるといいね、琴子ちゃん…。きれいなお嫁さん姿を私も見たいです^^

りきまるさん
きっと正直に話すと、「あ、もう自分とは違う世界の人なんだ」と思われるのが嫌だから、嘘をついたんだと思います。コロコロ態度を変えられると、傷も深いですしね…。
そういう風に入江くんに話すことができればいいのでしょうが、機会を失するとどんどん話せなくなってしまうんですよね、きっと。
もうちょっと時間が取れたらいいのに…。こんな琴子ちゃんを悪女じゃないと言って下さってありがとうございます…。

fさん
初めまして!コメントありがとうございます。
こんな…こんな話に涙して下さるなんて、本当にありがとうございます!
そして先も楽しみにして下さっているとのこと、二重のよろこびです。
ぜひまた、お気軽にコメントを残して下さると嬉しいです。

foxさん
私もそうしようかと思ったのですが…まだ5だしなあという、本当に自己中心的な理由で、ちょっとやめておきました(笑)
長ければいいってものではないのですけどね。
好きな人には一番に相談してもらいたいですよね…きっと。

まあちさん
きっと無理難題を言わない入江くんは、入江くんじゃないんでしょうね、バトラーにとっては。元気がない入江くんを見るのは、とっても辛いんだと思います。心の中では「破談になったら…」と思うと、心配でたまらないと思います。

佑さん
そうですよ~私たちの琴子ちゃんが~←何て調子のいい奴
可哀想なことをしてしまったわ…ごめんね、琴子ちゃん。この次はもっといい子に書いてあげるから…と今、心の中で琴子ちゃんにお詫びしている状態です。

まいすけさん
ありがとうございます。
私もそう割り切ってたんですが…どうも色をうまくつけられなくなってしまい…ああ!と悲鳴を上げたくなってしまいました。
励まして下さり、ありがとうございます。
プロフィール

水玉

Author:水玉
『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
そっと見守っていただけたら嬉しいです。

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二次創作については、いわゆる原作の隙間をぬった作品もありますが、主人公以外のキャラクターをメインとしたものや オリジナルキャラクターが出てくるものもございます。

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