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2010.07.10 (Sat)

Dear enemy 4


【More】

「映画、良かったね。」
「そうか?」
映画の内容は、よくある悲恋物。
―― 結婚を控えた二人が見るようなもんかよ?
直樹の心にはそんな思いがあるのだが、琴子が機嫌がいいので黙ることにする。
そして今、二人は琴子の望みを叶えるために、みつまめを食べていた。

「結婚するっていっても…今とあまり変わらないのかな?」
おいしそうにみつまめを頬張りながら、琴子が首を傾げる。
「まあな。」
「もう一緒に暮らしているし…。」
「…変わることといえば。」
「いえば?」
直樹はコーヒーに口をつけ、琴子を見つめて、
「寝室が一緒になることくらいかな。」
と言った。
「し、寝室…。」
顔を真っ赤にする琴子。それを見て、直樹は琴子をからかいたくなった。
「ああ。ベッドはやっぱり、二人で一台がいいかな。」
「二人で…。」
その様子を想像したのか、琴子の顔は更に赤くなる。
「あの…私、寝相が悪いから…別々のベッドの方が…。」
みつまめを食べながら、琴子が言った。
「ふうん。でもそれじゃ、二人のベッドの間に溝ができるな。」
「溝…。」
「ああ。ベッドの間の溝が、そのまま俺たちの溝になったりしてな。」
直樹は琴子をからかい続けた。
「そ、そんな!!」
困った琴子は、その気持ちを誤魔化すように、あんみつをパクパクと口へと運ぶ。
「ほら、慌てて食べるから。」
琴子の口元へついた黒蜜を、直樹が指でぬぐった。その指をなめ、
「…甘い。」
と、顔をしかめる直樹。その直樹の行動に琴子の顔は沸騰寸前となった。
「…子供扱いするんだから。」
そして、照れ隠しで頬を膨らます琴子。そんな琴子を直樹は、
「中身は子供に間違いないけどな。外見…その服の中はどうかな?ま、お楽しみにしておくか。」
と、からかう。
それを聞き、琴子は両手で自分の体を覆ってしまった。その琴子を見て直樹はとうとう笑いが堪えられなくなり、噴き出した。


「琴子…?」
街を歩く琴子と直樹の姿を見つけたのは…桂だった。
「誰だ、あれ?」
身なりの良い紳士と並んで歩いている琴子。道の反対側を歩いているので、琴子が桂に気がつく気配はない。
桂はそのまま、琴子たちを目で追っていた。


「え…この間の…人?」
再び、寄席を訪れた琴子に、桂は率直にこの間、琴子と紳士を見かけたことを話した。
「あれ、誰?」
密かに琴子に想いを寄せている桂にとっては、相手が誰だか気になる。もっとも、琴子は桂の想いに全く気が付いていないのだが。
「あれは…ええと…。」
ここで正直に話すべきか琴子は迷った。が、琴子にとって桂は、何の遠慮もなく迷いもなく、孤児院でのことを話すことができる良き友人。正直に話したら、友人を失くしてしまう気がして怖い。
「…秘書の方。」
そして琴子は…嘘をついてしまった。
「秘書?」
「うん。あの…私がお世話になっている…方の…秘書の方。」
「そっか…。」
秘書にしては親密な気がしたと思う桂。が、琴子の話を信じることにした。


「お茶でしたら、私がお持ちしますが。」
お茶の支度をしている琴子を見つけ、渡辺が止めようとした。
「ううん。これくらいはしたいんです。私にできること、これくらいしかないから。」
二人で過ごした休日以降、また直樹は激務の生活に戻った。そして今夜は少し早く家に戻ったものの、仕事を大量に持ち帰っているらしく、書斎に籠ったまま。
自分にできることを直樹のためにしたい気持ちと…嘘をついてしまったことのお詫びを込め、琴子は丁寧にお茶を淹れ、書斎のドアをノックした。
「直樹さん、琴子です。」
しかし、中から返事はない。
「入ります…。」
琴子はそっとドアを開ける。

「寝てる…。」
直樹は机に突っ伏して、眠っていた。
書類で覆われた机の端に、お茶の入ったカップを置き、そこに無造作に置かれていた上着を直樹の背にかける琴子。
「…。」
その美しい寝顔を見ていた琴子は、どうしてこんなに素敵な人のことを秘書だなんて嘘をついてしまったのだろうと自分を責めた。
「本当に…綺麗…。私なんかには勿体ないくらい…。」
暫く見惚れていたら、この間、寝ていた時にキスをされたことを思い出す。そして琴子は、また顔を赤らめた。

「お返しに…しちゃおうかなあ。」
そう呟いた時、自分が何とはしたないことを考えているのかと琴子は恥ずかしくなった。慌てて、誰かに聞かれていないか、キョロキョロと辺りを見回した。が、この部屋には琴子と直樹の二人しかいない。

琴子は恐る恐る、直樹の唇へと自分の唇を近付け…合わせた。すぐに離れる。
「…短い。」
「ひぇっ!!」
突然聞こえた声に、驚いて素っ頓狂な声を上げた琴子。
「俺がした時より、短い。」
見ると、寝ていたと思った直樹が目を開け、琴子をじっと見ていた。
「あ…起きてたの…ていうか、起こしてしまった…?」
「お前が入って来た時に、目を覚ましていた。」
「そうなんだ…。」
全てばれていたと知り、恥ずかしさで堪らなくなっている琴子。その琴子の手を直樹は引っ張り、その腕の中に抱きしめた。
「あの…お仕事…。」
「…休憩。」
直樹は手を緩める気はないらしい。

「今度は…二人とも起きている時に…。」
そう言って、直樹は琴子の頬に手をやり、ゆっくりと唇を重ねる。それは長く長く感じられた…。

「失礼します。琴子様、お菓子をお忘れでしたよ。」
書斎に入った渡辺は、その場に繰り広げられていた光景に驚いて足が止まった。
「あ、あの…。」
直樹から離れようとする琴子だが、直樹は更に力を強めて離さない。
「ちょっと…直樹さん…。」
「いいじゃん。婚約者なんだし。」
直樹は琴子を抱きしめて、そして渡辺の方を見やった。口元にはうっすらと微笑が浮かんでいる。
「し、し、失礼いたしました!!」
渡辺は菓子を持ったまま、書斎から出て行った。

「直樹さん…。」
「ん?」
琴子は直樹の首にしがみついた。
「…ごめんなさい。」
「何だよ、変な奴だな。この頃、謝ってばかりで。」
琴子は直樹に抱きついたまま、思った。
―― こんなに優しい直樹さんのこと、嘘ついちゃってるんだなあ、私…。



「でっけえなあ。」
桂はビルを見上げて呟く。そして、その迫力に負けないよう、羽織の紐を結び直し、中へと足を踏み入れた。
中には受付の女性がいた。その前に立ち桂は、言った。
「正林亭楽林の代理で、入江会長に御挨拶に参りました、正林亭桂林と申します。」
「少々お待ち下さい。」
受付はにこやかな表情を見せると、電話を手にした。

「会長、正林亭楽林様が…。」
「ああ、師匠がお見えか。」
直樹は時計を見る。今日はこの時間、楽林が挨拶に来る予定となっていた。
「いえ、それがお見えになったのは、桂林様という方です。」
「桂林?」
怪訝な表情を見せる直樹に、秘書は楽林が急病にて、その代理で弟子の桂林が来たと説明する。
「そうか。」
納得した直樹は、それでは通すようにと、秘書に命じたのだった。










☆あとがき
タイトル、『続・あしながおじさん』の原題をそのまんま拝借します!!
内容は全然、違いますが。

りきまるさん、いかがでしょうか?みつまめデート…♪
誰もいなかったら、入江くんは直接、琴子ちゃんの顔に口をつけてたでしょうね。惜しい!!←何が?

渡辺執事は、もちろんちゃんとノックしたのだけど返事がないので入ってしまい…災難に遭いましたとさ。
しかし、不倫している人妻みたいだわね、琴子ちゃん…。
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*Comment

★きゃぁ~!!

こんばんは、水玉さま。

私が残したつたいないコメントを読んでいただき、
お話の中に取り入れて下さってありがとうございます。
今、PCの前で小躍りしちゃいました。(笑)

琴子の望みがかなって、入江君とデート!!
琴子は本当に嬉しかったんじゃないでしょうか?
だって久しぶりの入江君との時間なんですから。

でも入江君の会社に、琴子の幼馴染が訪れて、
この後、台風が上陸しそうですね。
被害がなく、入江家から早く遠ざかってほしいものです。
りきまる |  2010.07.11(Sun) 00:09 |  URL |  【コメント編集】

★360度

 うぅ~ん いやぁ~ ねぇ~ どうなるうんかなぁ~ 琴子の嘘がねぇ~
だってさぁ~ 言葉が続かないぐらいパニックになり 書いてて、落ち着きました。
 
 やっぱ 自信がないから かなぁ。 今の直樹~360度
態度も気持ちも 氷のような直樹に変わる予感がしちゃいました。
 今度360度に元に戻るのも 琴子がだよねぇ・・・信じて お待ちしてます。
コンタ |  2010.07.11(Sun) 01:21 |  URL |  【コメント編集】

★NO TITLE

琴子ちゃんだめだよ~嘘は。。。
けど琴子ちゃんの気持ちもよくわかるんだけど・・・
歯車がかみ合わなくなると、お子様直樹は大変だから
琴子ちゃんその事に早く気づいて!!!
直樹さん怒ると厄介だからね。琴子ちゃん。
ゆみのすけ |  2010.07.11(Sun) 18:08 |  URL |  【コメント編集】

★コメントありがとうございます

コメントありがとうございます。
連続して更新してしまったのにもかかわらず、お一つお一つ丁寧にコメントを下さり、本当にありがとうございます!!

りきまるさん
こちらこそ!あのコメントを拝見した時、「これは取り入れねば!!」と気合が入っちゃいました~♪
でも、どう読んでもりきまるさんのコメントの方が表現が素敵で…ううっ。
台風は大きな爪痕を残していくものですからね…去った後はピーカンなお天気になるのだけど…それまでの間が…大変^^;


コンタさん
氷のような入江くん、大好物なんです、実は(笑)
だからつい書いてしまうって感じで…。
琴子ちゃんの嘘もつきたくてついた嘘ではないんですよね~
それを入江くんがどこまで理解してくれるかなって感じです。

ゆみのすけさん
本当にどうしてついてしまったのでしょうねえ…。事情があるにせよ。
原作の琴子ちゃんだったら大喜びで「私の入江くん!」とか紹介するのに、「え?誰コレ?」ってこちらでもこんなことになってしまったという(笑)
お子様直樹も少しは成長したのに、また元に戻りそうな…。そうなる前に修復しないと!

foxさん
紀の善!知ってます、買ったこともあります!!
飯田橋でいっつも行列ができていて、「おいしいのかしら?」とか思って、母と自分用にお土産を買って帰りました!確か、その時はぜんざいを買った覚えが…。あと、池袋駅のエチカに入っている和菓子屋さんもおいしいですよ♪そこのわらびもち…なかなか。それと、時々池袋駅構内に出ている京都の大福屋さんの塩大福、美味です。
飯田橋といえば…少し坂を上がったところに「五十番」という大きな肉まんを売っているお店もあります^^

まあちさん
バトラー、本当に哀れ…出番も激減してるし。
最初は言い出せなかったからだけど、どうして嘘をついちゃったんでしょうね~後から後悔することが分かっているのに…。
琴子ちゃんは入江くんが自分に嫉妬するなんて気がついていないから、きっと先のことまで想像はしていないでしょうし…。

佑さん
その最後のきっぱりに思わず「三万点」とか付け加えたくなってしまった私です(笑)
入江くん、今のままだときっと冷静に対処してくれるでしょうね…外野から余計な声が聞こえなければ、の話ですけれど…。
こういう時、邪魔が入る、それがメロドラマ…(あ、ここは違ってた(笑))
水玉 |  2010.07.12(Mon) 13:02 |  URL |  【コメント編集】

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