日々草子 Dear enemy 1

Dear enemy 1


入江直樹と相原琴子の結婚式まであと少しだった。

「おはようございます。琴子様。」
朝食のテーブルで、入江家の執事、渡辺がにっこりと笑って琴子を迎えた。
「おはようございます、渡辺さん。」
そして琴子はテーブルで新聞を広げている婚約者にも、
「おはようございます、直樹さん。」
と、笑顔を見せた。
「…おはよう。」
直樹は返事をしつつ、渡辺を睨む。

―― 先に挨拶したくらいで、睨まなくとも…。

だったら自分で琴子の部屋に迎えにいけばいいのにと思う渡辺。そうすれば一番に琴子は直樹に挨拶をすることになる。

「えー!今日、行けなくなっちゃったの!」
朝食の席で、琴子が残念な声を上げた。
「ああ。仕事が入って。悪い。」
「そっか…。」
琴子が肩を落とす。今日は久方ぶりに直樹の休みのはずで、琴子は直樹と一緒に寄席に出かけるつもりだった。
「どうしよう…あ、そうだ。」
琴子は渡辺を見る。
「渡辺さん、今日って何かありますか?」
「今日は特に…。」
そこまで言いかけた渡辺の足を、直樹が蹴飛ばした。
「…渡辺、お前は今日、有田焼コレクションを磨くとか言ってただろ。」
「有田焼…そんな…。」
そこにまた、直樹の足が飛んでくる。
「あ、そうでした。有田焼コレクションを磨くのに今日はいい日でして。」
「それなら、私もお手伝いを…。」
三度目の直樹の足が、渡辺の足に飛んできた。
「あ、いえ…そんな滅相もない!」
渡辺は慌てて手を振る。
「お前が手伝うと、有田焼コレクション、全滅だからな。」
直樹が冷たく、琴子へ言った。
「ひどい…でもそれもそうか。」
納得する琴子。
そんな二人を見て、
―― はっきりと“俺以外の男と一緒に歩くな!”と仰ればよろしいでしょうに!!
と、渡辺は決して口に出しては言えない台詞を吐いたのだった。


「それじゃ、行ってきます。」
直樹を見送った後、良家の令嬢ファッションに身を包んだ琴子が見送る渡辺に笑顔を見せた。
「今、お車を。」
「あ、大丈夫です。」
琴子は渡辺の申し出を断る。
「私一人ですし。」
「琴子様…。」
渡辺は前から言おうと思っていたことを口にする。
「琴子様は直樹様の婚約者で、もうすぐ奥様になられるお方です。入江家の物、何でもご自由に使われていいんですよ?」
琴子が入江家にやってきて数カ月。今ではこの邸での生活にもすっかり慣れた様子の琴子だが、遠慮深いところは相変わらず。
「ありがとうございます。」
そして今日も、琴子はにっこりと笑うだけ。
「遅くなる時は、必ずご連絡下さいね。迎えをやりますので。」
「はい。」
そして琴子は「行ってきます!」と元気よく、邸を後にしたのだった。

「さて、と。」
琴子を見送った後、渡辺は「有田の間」と呼ばれる有田焼コレクションの部屋に入った。
「これ、全部磨くのか…。」
その数の多さにうんざりしながら、渡辺は腕まくりをした ――。


久しぶりの寄席は楽しかった。
「直樹さんも一緒だったらな。」
そう思うことは何度もあったが、仕事なら仕方がない。最近は特に忙しいらしい。新しい事業を手掛けているとか渡辺が教えてくれた。琴子には仕事のことは何もわからないが、邪魔することだけは避けたかった。

「あれ?」
次に出て来た噺家を見て、琴子はおやっと思った。どこかで見た覚えのある顔だった。めくりを確認する。
「…正林亭桂林?」
初めて見る名前である。だがそんなことを考えている間もなく、琴子はたちまち笑いの渦へと巻き込まれていった。

「ああ、面白かった。」
トリの噺も終わり、琴子は満足して席を立つ。出ようとしたところで、
「琴子!」
と名前を呼ばれ、驚いて振り返った。そこに立っていたのは、先程の落語家、正林亭桂林だった。
「やっぱり、琴子だった!!」
「え、ええと…。」
困る琴子。どうして自分の名前を知っているのだろうか?
「覚えてねえか?俺だよ、俺。」
「…?」
首を傾げる琴子に、桂林が言った。
「桂!本田桂だよ!ほら…孤児院で一緒だった!!」
「あ…!」
ようやく琴子は思い出した。
「桂…桂くん!!」
「そうだよ!」
二人は手を取り合って喜ぶ。彼は孤児院で琴子と一緒に育った、同じ年の幼馴染だった。

「落語家になれたんだね!」
近くの店に入り、琴子は目を細めた。桂は琴子が孤児院を出る数年前、落語家に弟子入りしていた。
「すごいね。」
「いやあ。やっと真打になれてさ。」
照れる桂。
「それより、琴子だって見違えたよ!そんな格好しちゃってさ。俺、客席にお前の顔を見つけた時、どこのお嬢様かと思った。」
「そうかなあ?」
今度は琴子が照れる。
「琴子は今、どうしてるんだ?どっかのお金持ちの養女とか…?」
琴子の身なりをみるとそう思う。
「ううん。養女じゃなくて…。」
そこまで言いかけた琴子の口が止まった。大財閥の会長との結婚が決まっていると口にして、もし直樹に迷惑をかけたら…。
「…お金持ちの方の所に身を寄せていて。」
「お金持ち?何だ、それ?」
首を傾げる桂。が、すぐに手を叩き、
「分かった!あれだろ!お金持ちのご老人の話し相手!お前、面白い奴だったもんなあ。」
と一人で合点した。
「え?」
「そうだよな。四六時中老人の相手は息がつまるし。息抜きに来たんだろ?お前は昔から落語好きだったし。」
「あ、ええと…。」
「ま、深い事情は訊かねえよ。とにかく会えてよかった。」
琴子が口を挟む間もなく、桂は一人で勝手に琴子の環境を決め付けてしまったのだった。


「琴子?」
すっかり話に夢中になり、暗くなってしまった家路を急ぐ琴子の傍に車が止まった。
「こんなに遅くまで寄席にいたのか?」
車から顔を出したのは直樹だった。こんな早い時間に帰宅するのは珍しい。琴子は車に乗り込んだ。
「危ないだろ。遅くなる時は迎えの連絡をしろって…。」
「ごめんなさい。」
本心から心配してくれている直樹に琴子は謝る。それだけではなく、今日、嘘をついてしまったことにも後ろめたさを感じる琴子。

「直樹さん。」
「何?」
琴子は直樹の腕にそっと自分の腕を絡ませた。その様子に直樹は驚いたが、されるがままになる。
「…今日ね。」
「え?」
琴子は話しかけてやめた。孤児院のことなんて直樹が聞いても面白くないし、それに…もしかしたら琴子がそこで育ったことは今後、口にしない方がいいのかもしれない。
「…ううん、なんでもない。」
琴子はそのまま、直樹の腕に自分の頭を預けた。
「…変な奴。」
直樹は少し笑い、琴子の頭をコツンと軽く小突いたのだった。









☆あとがき
で、こちらが…『Daddy Long Leggs』の続きです。

ものは試しと、おもいきって書いてみましたが…ど、どうでしょうか?
気がついたらこの話が消えてました…ということになりそうな予感大です。はい。
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comment

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 波乱の予感

 私の好きな お話しの続きだぁ~ うれしいです。 
今は、直樹が、すごく琴子に優しいけど、波乱が目に見えてて 嫉妬が琴子に、 押し寄せてくるんだろなぁ。 まだ結婚していないから 色々と 心配です。後 渡辺君も ・・・いやぁ 頑張って 耐えて下さい。    

不穏だ・・・

不穏すぎる・・・この幕開け(笑)

このシリーズの直樹さん、ミスター・ジェラシーキングだからなぁ。
しかし、車の中でのしっとりしたお二人のご様子に、ちょっとニヤけちゃいましたぞえ~。

そして、渡辺さんが相変わらず萌えです。 
 
 
 
あ、タイトル、楽しみに待ってますんで。




ていうか、久しぶり!v-222←挨拶が最後ってv-356

NO TITLE

おほっ!!
あしながおじさんの続編。
きゃぁ~うれしいです。

2人の結婚式が近付いているようで、羨ましいぐらいにラブラブかと思いきや、入江君はとても忙しそうですね。

忙しい理由は、新しい事業という事ですが、実際は琴子と新婚旅行をゆったり、まったりするためだったりして・・・(笑)

しかし、相変わらずやきもち焼きみたいで、渡辺君が気の毒に感じちゃいました。

結婚後も2人のラブラブぶりに目のやり場が困ってしまうんじゃないでしょうか?
何時になったら、渡辺君の心休まる日が来るんでしょうかね?
一生ないかも・・・(笑)

NO TITLE

水玉さん、こんばんは♪
おお!!Daddy Long Leggsの続き!!
アリエル様のコメントの『ジェラシーキング』に噴きました。(勝手に拝読して失礼しました)
まさにその通りで…(笑)

なんだかまたひと波乱な予感の幕開けですね。車の中での直樹さんはしっとり大人の男でしたが♪渡辺さんへの仕打ちとはえらい違い!!足蹴にするは、理不尽な仕事をさせるわで、笑ってしまいました。
このお話、渡辺くんの理不尽な仕打ちにもめげない忠誠心、親友としての素晴らしさも見ものですので、まだまだ直樹さんにはこれから横暴ぶりを沢山披露して頂きたいものです。あれ?この発言オニ?(笑)

とにかく、またドキドキさせられる毎日が始まりそう!!続き、楽しみにしていますね!!
そうそう、余談ですが、Daddy~を読ませて頂いた時に、『繁盛亭』に寄席を観に行きたいと呟いた事があったのですが、先月やっと観に行ってきました。うん、落語って面白い。また見に行きたいと思いました^m^



嵐の予感?

結婚前のひと波乱?

またまたモテル琴子!

嫉妬する直樹!

渡辺さん、後宜しく!

NO TITLE

いえ~い!!続編だぁ~!!
始まりから直樹様の嫉妬!!渡辺さんの被害!!と
楽しさ満載♪
けどけど、幼馴染の存在がどうなっていくのでしょうか??
とっても気になります。
琴子ちゃんの気遣いがあらぬ方向へ向かいませんように・・・・
直樹さん!!今回はちょこっと大人になっているのでしょうか??
それとも??←ゆみ予想はたぶんお子様から成長なし・・・どうなんだろう??
あ~続きが気になるわ!!水玉さんとっても楽しみにして待っています♪

NO TITLE

”あしながおじさん”の続き♪
可愛くて、たくましく健気な琴子ちゃんに、また会えて嬉し~いです♪

ーーーーー直樹さんの冷たい顔がちらっちらっと。。。ハラハラ←気が早い
本田桂<<<どんな人なの?もっと知りたい!!←楽しみ
もちろん渡辺さんの活躍(?)にも注目です♪

正林亭桂林の名前で、思い出した私事。。。
学生時代(昔)性格改善のため落研に入り(改善失敗)
名前は笑々亭笑利薬(省略)でした^^

笑ったり感動して泣いたり。。。
お話でのお薬待っています~~!!

コメントありがとうございます

コメントありがとうございます♪
そう…誰の目にも明らかな通り、不安要素をこれでもかとばらまいた私です(笑)

コンタさん
今は優しい直樹さん…そのとおりなんですよね。ていうか、皆さん、こちらの直樹さんの性格をよく掴んでおいでで(笑)
嵐の前の静けさといいましょうか、なんといいましょうか…。

アリエルさん
お久しぶりです!!
ミスタージェラシーキング!!もしかして、それは私が書いた入江くんの中でも一番の嫉妬キャラだってこと?言われてみたらそうかも…。
いや~ちょっと甘える琴子ちゃんが書きたくて。そして、それを許す入江くんも。エヘヘ。

ぴくもんさん
繁昌亭、行かれたんですか!!いいなあ…。私も新宿の末広亭とかの場所だけはチェックしてみたのですが、いまだ足を運んでおらず…。
好きなのは上方落語なので、どっちかというと繁昌亭の方が…!!
今後、直樹さんの横暴ぶりはますます拍車がかかることでしょう…多分。何せ、タイトルを『鬼の花嫁』にしようかと考えてくらいですから…さすがにホラーめいているんで、やめましたが(笑)
琴子ちゃんが可愛くてたまらないからこそ、いじめちゃうんでしょうけどねえ…ねえ…。

kobutaさん
琴子ちゃんを好きになる人って、原作でも本気モードですよね。だから入江くんはすごく不安になるんだろうな。
で、だから私は嫉妬入江くんが大好物なんです、はい。

ゆみのすけさん
ゆみ予想、当たってる、当たってる(笑)ちっとも成長していない直樹さんですよ(笑)お子様なんだから、もう。仕事は有能なのに、琴子ちゃんに関することだけはまるで子供の直樹さん…ちょっと書きながら笑いが止まらないんですが(笑)
渡辺さんの被害と、直樹さんの嫉妬は比例するものですからねえ。オホホホホ。

あおさん
久々にオリジナルキャラ出しちゃいました…ちょっとドキドキです。
頑張って、二人の間をかきまわしていただかないと(笑)
そして…落研のご出身で!!じゃあ、沢山のネタをご存知…いやいや、演じられるんでしょうね!!すごーい!!
ああ、おしゃべりしていたら、久々に落語を聞きたくなってきました。数年前は独演会に足を運んでいたんだけど。


haruruさん
ありがとうございます!!お好きだって仰って下さった方、多くて…とても嬉しいです。
今回も、haruruさんの胸をきゅーんとさせられたらいいなあ…♪

名無しさん
ありがとうございます。先が見通せていないまま、出発してしまいましたが…ちょっとまだ、緊張しています。

佑さん
ありがとうございます。続き、頑張って生み出していきますね!!
もし、違う話が突然始まったらごめんなさい…←可能性75%
浮気性なもので(笑)

祥チャンさん
ありがとうございます!
続編書かない方がよかったのに…とかなったらどうしようとか、本当に緊張している中の出発となってますが、頑張ります。

まいすけさん
ありがとうございます!
みなさんに沢山励ましていただけたので、頑張るパワーが出てきました!!よし、頑張ろう!!
プロフィール

水玉

Author:水玉
『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
そっと見守っていただけたら嬉しいです。

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当ブログは、『イタズラなkiss』の二次創作をメインとしておりますが、時折管理人の趣味や日々の出来事についての記事も書いております。

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二次創作については、いわゆる原作の隙間をぬった作品もありますが、主人公以外のキャラクターをメインとしたものや オリジナルキャラクターが出てくるものもございます。

そして、原作と違った時代(平安や明治やその他の時代を舞台にしております)、異なる設定(主人公を医者と看護師じゃない職業にしております)で書いてあるものが多いですが、原作を冒涜しているつもりは全くございません。

二次創作が苦手という方及び原作のイメージと合わないと思われる方はどうぞお引き取り下さいますようお願いいたします。

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