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2010.07.08 (Thu)

女優への道


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「はい、カット!!」
ディレクターの声がかかると、スタジオ内の緊張が緩んだ。

「須藤さん、お茶!!」
「はい!!」
「須藤さん、雑誌!!」
「はい!!」
人気女優の松本裕子は、今日もマネジャーの須藤をこき使っている。
その様子をじっと見ているのは…駆けだしの女優、相原琴子。

「あの…入江くん。」
そして琴子は傍らにいるマネジャーの直樹の名を、おずおずと呼ぶ。
「何か?」
「あの、何か…。」
「…何か?」
「…何か飲み物を買ってきますけど、いりますか?」
裕子の真似をしようとしてみた琴子だったが、マネジャーの迫力に負けてしまった。
「コーヒー。ブラックで。」
「分かりました…。」
そして、マネジャーの使いっぱしりをする羽目になる、女優、琴子。


「はあ。」
自動販売機のコーヒーのボタンを押し、溜息をつく琴子。この世界に入って数年。やっと役をもらえるようになったが、まだまだ主役への道は険しい。

「はい、スタート!」
撮影が再開する。琴子の出番である。

「はい、カット!!」
NGを出すことなく(そのシーンは琴子の台詞はたった一言である)、琴子は胸を撫で下ろした。
「琴子。」
直樹に名を呼ばれ、琴子は、
「はい!!」
と、姿勢を正す。
「お前、カメラが回ってない時にもちゃんと演技してろよ。」
「は、はい!」
「それから、ここの台詞だけど、もっと気持ちを込めて…。」
スタジオの片隅で、なぜか直樹が琴子に演技指導をしている。その様子を見ていたディレクターは、一言つぶやいた。
「あのマネジャー…俺より演技指導、上手なんだけど。」

「あーあ。いつになったら大女優になれるのかな。」
撮影が終了し、楽屋に戻った琴子は、伸びをした。
「今のまんまじゃ、永久に無理。」
直樹がスケジュールを確認しつつ、冷たく答える。
「そんなことないもん!あ、わかった!!」
「何がだよ?」
琴子は直樹の傍へ近寄り、口を開く。
「私が大女優になれないのは…あれよ。青いバラの人がいないからよ!!」
「…またそれかよ。」
直樹が呆れた。『青いバラの人』…それは琴子が女優を志望した理由になった漫画『ガラスのお面』に出てくる人物である。
「お前みたいな、台詞もろくに覚えられないバカに花を贈る人間なんていねえよ。」
「何よ!『ガラスのお面』のマホちゃんだって、勉強は苦手だもん!!」
「そいつは台詞は一度で暗記する。お前は暗記するまで何度口に出すんだ?え?たった数行の台詞をさ!」
直樹の反論に琴子は黙りこむ。全て当っている。
「そんなダメ女にバラどころか、だいこんの花ですら贈る人間はいないね。悔しかったら…。」
「…もう、いい。」
直樹の言葉を琴子は遮った。
「何よ!マネジャーだったらもっと慰めたり励ましたりするんじゃないの!!さっきから私のこと…ぼろくそに!!」
琴子の怒りが爆発する。
「言われたくなかったら、努力しろ。」
直樹は琴子に怒鳴られようがどうされようが、痛くもかゆくもない。
「入江くんなんて、大嫌い!!こんな…こんなマネジャー、クビよ!!」
琴子は楽屋を出て行ってしまった。


「何よ、何なのよ!!」
テレビ局の中を歩きながら、琴子は半泣きになっていた。
「マネジャーって…松本さんのマネジャーみたいに色々してくれるんじゃないわけ?大体、なんで女優の私がマネジャーの飲み物買ってこないといけないのよ!」
そんなことを言っていると、
「あら、相原さん。」
という声がかかった。見ると、松本裕子が須藤を従えて立っている。
「今日はお疲れ様。」
「お疲れ様。」
松本と琴子はデビューは同時期だった。が、今となってはその差は歴然。
「今日は…あの素敵なマネジャーさんは?」
裕子がにっこりとほほ笑む。
「楽屋だけど…。」
「あら、そうなの。あのマネジャーさんも大変よねえ。パッとしない女優の担当をさせられて。」
「パッとしない…。」
悔しいがそれは当たっているので、何も琴子には言い返せない。
「よかったら、いつでもうちの事務所へどうぞってお伝えしておいてね。」
「…。」
そして松本と須藤は歩いて行ってしまった。たたずむ琴子。

―― 悔しい…!!
マネジャーにバカにされ、同期にバカにされ…琴子は泣くのを堪えることが精いっぱいだった。
だが…ふと思う。
直樹は口は悪いが優秀だ。マネジメントも完璧。演技指導も完璧。そんな優秀な人間が、琴子のようなパッとしない女優についていてもいいのだろうか?

―― もしかして…松本さんの所へ行った方が、入江くんのためにもいいのかも。
そんな思いが胸をよぎる。

「あ、君…相原さんだよね。」
そんな琴子に、また声をかける人物。顔を上げると、見覚えのあるプロデューサーだった。慌てて挨拶をする琴子。
「ちょっと…話があるんだけど。」
そして、プロデューサーは声を潜める。
「今度のドラマの主役…君を考えているんだけどね。」
「え!それ、本当ですか?」
思わず大声を上げた琴子の口を慌ててプロデューサーが押さえた。
「本当、本当。だから…今夜その話をしたいんだけど、空いてるかな?」
「は、はい!!」
琴子の胸が高鳴る。もし本当に主役を射止めることができたら、直樹を見返すことができる。そして…松本の事務所へ行く必要もなくなる。
それは大きなチャンスだと、琴子は思った。


「須藤さん。」
テレビ局に松本の忘れ物を取りに戻ってきた須藤を、直樹はつかまえる。
「うちの相原、見ませんでした?」
あれからずっと楽屋で待っていても、琴子は戻って来なかった。直樹は局内を探し回ったのだが見つからない。
「相原…ああ。さっき局から出て行ったのを見たぞ?」
「本当ですか?」
「本当。ええと…○×プロデューサーと一緒だったな。」
「何だって?」
直樹は嫌な予感がした。須藤が口にしたプロデューサーは、業界でも女好きで知られる、ロクな男ではなかった。


「料理、おいしかった?」
「はい!!」
高級ホテルに連れて行かれた琴子。
「それで…ドラマのお話は?」
食事はおいしかったのだが、肝心のドラマの話が一向に出ていない。
「ああ、それね。じゃあ…ちょっと落ち着いた所へ行こうか。」
そして連れて行かれたのは…そのホテルの一室。

「あ、あの…。」
さすがに何か、異様な雰囲気を感じ取った琴子は不安になった。
「ええと…。」
「はい、これ。」
そして渡されたのは、白いバスローブ。
「…?」
「シャワーはあっちね。」
「シャワー?」
まだ事情が分かっていない琴子に、プロデューサーは呆れ果てる。
「君だってさ、子供じゃないんだから、分かるだろ?」
「いえ…。」
まだ事情が分からない琴子に、プロデューサーは業を煮やした。
「ああ、もういい!!シャワーなんて後だ、後!!」
そして琴子を強引にベッドへと押し倒すプロデューサー。
「ちょ、何をするんですか!!」
「何って。お前だってこうなりたくて付いてきたんだろうが!!」
服を剥ぎ取ろうとするプロデューサーの手を、必死になって押しとどめようとする琴子は、この時になってやっと全てを理解した。
「冗談じゃないわ!!」
「うるさい、黙れ!!」
何とか抵抗を試みるも、男の力は想像以上に強い。
「誰か!助けて!!入江くん!!」
思わず、直樹の名を叫ぶ琴子。
「無駄だよ。ここには誰も来ない。」
「そんな!!」
あまりに強い力は、琴子に抵抗する気力を奪う。
―― も、もう…ダメ。
そんなことを思った琴子の手から力が抜けた時 ――急に琴子の体が楽になった。

「何をする!!」
プロデューサーはベッドから降りていた。というより、落とされていた。
「…それはこっちの台詞ですね。」
そこに立っていたのは、直樹だった。
「入江くん!!」
直樹は琴子をチラリと見た。慌てて身づくろいする琴子。
「一体、どういうつもりなんですか?」
冷たい声を発する直樹。その声におびえた様子を見せるプロデューサー。
「ふん!こんなこと、みんなやってることじゃないか!」
「みんな?」
「ああ。そうだよ。役をあげるって言ったら、女なんて何でもするもんさ。こいつだって…。」
プロデューサーは琴子を見た。
「そう言ったら、ここまでのこのこ付いてきた。」
「じゃ、あれは全部嘘?」
琴子は弱々しく言った。
「当り前だろ。お前みたいなパッとしない女、誰が使うか。バカだから言うとおりにすると思って…。」
そこに直樹の拳がプロデューサーの顔に飛ぶ。
「…こいつは、バカじゃない。」
直樹はプロデューサーの襟をつかみ、低い声で言った。
「…お前が今まで相手にしてきたような女たちと、こいつを一緒にするな。」
「入江くん…。」
琴子は直樹を見つめていた。こんなに怒った直樹は初めて見る。プロデューサーもその凄みに圧倒されていたが、
「お、おまえ…たかがマネジャーの分際で!!俺に逆らったらどうなるか…!」
とあがき始めた。それを聞き、青ざめる琴子。
「どうなるって?」
ところが、直樹は動じなかった。そしてポケットから取り出したのは…ICレコーダーだった。そのスイッチを押す直樹。すると、
『…役をあげるって言ったら、女なんて何でもするもんさ』
という、先程の会話が流れる。今度はプロデューサーが青ざめる番だった。

「これを警察に出したら…?」
直樹は今度は笑顔を見せた。が、その笑顔は冷たい。
「…いいか。このことを誰かに話したりしたら…。」
「分かった!!分かった!!」
プロデューサーは、もう観念するしかないということを悟ったらしい。


「行くぞ。」
直樹は琴子を促した。が、琴子の服のボタンが引きちぎられているのを見て、自分の上着を脱ぎ、着せかけた。
「…ありがとう。」
その優しさに顔を赤らめる琴子。それには返事をせず、直樹は琴子の手を引き、ホテルの部屋を後にする。


「あ、あの…入江くん。」
手を引っ張られて、ホテルの外へ出て来た琴子。直樹が振り返った。そして、琴子の頭に拳を落とす。
「痛い!」
「お前、どこまでバカなんだ!!」
直樹が琴子を怒鳴りつけた。
「さっきはバカじゃないって言ってくれたじゃない…。」
「でもバカはバカだ。」
「意味分からない。」
琴子は頭を摩りながら直樹を見る。
「…こんなところにノコノコついてきて…もう少し考えろ!うまい話なんて転がってるか!」
「だって…。」
また琴子の目に涙があふれる。
「だって…入江くんを見返したかったんだもん。」
「俺を?」
「そうよ。入江くんがいなくても、一人でも役をつかめるって見せたかったの…。」
だが、直樹の言うとおり、自分は何も知らないバカだったと思う琴子。そんな自分が情けなくなる。
「それに…。」
「まだ何かあるのかよ?」
「…入江くん、このままじゃ…松本さんの事務所へ引きぬかれそうだったし。」
「松本裕子の?俺が?」
コクンと頷く琴子。
「もっと私がしっかりすれば…入江くんも何も心配しなくてすむんだろうなって。」
直樹は溜息をついた。話を聞く限り、琴子は自分のことはさておき、どうも直樹のことを考えて、こんなことをしでかしたらしい。

「…何もせずに役を貰える人間なんていない。あの松本裕子だって、人が見ていない所で相当努力をしている。」
「…。」
直樹の言うとおりだと思った。松本が演技力だけではなく、その美貌やプロポーションを維持するために食生活や運動にこだわっていることは琴子も知っていた。
「そうだね…。」
ますます自分が恥ずかしくなる琴子。

「…私、本当にバカだよね。」
落ち込む琴子を見て、直樹は言った。
「俺を見返したかったら…。」
琴子は直樹を見た。
「…大女優になるんだな。」
「そんな…。」
「大女優は無理でも、お前が主役を掴んだら、その…青いバラとやらを贈ってやるよ。」
「ほ、本当?」
直樹は琴子を見つめた。
「ああ。お前がほしいだけ、何本でも。」
「私、頑張る!!」
琴子はやる気が出て来た。それを見て直樹は笑う。琴子にはただ、慰め励ますよりも、こういうやり方の方が効果があることを、直樹は知っていた。だからこそ、他のマネジャーのように甘やかすこともしない。だが、そのおかげで琴子は自分の身の回りのことは何でもできる。

「あ、そうだ。いいこと思いついた。」
直樹の上着を着たまま、琴子が笑顔を見せた。
「もう一つ、こんな方法があるよ?」
「どんな?」
「あのね…結婚引退!!」
直樹の目が点になる。
「…相手でも?」
「…マネジャーと女優が結婚するって…よくあるよね?」
ポッと顔を赤らめつつ、琴子は直樹をじっと見つめた。直樹は眼をそらし、
「俺は…お前を売り出すことに一生をかける!何が何でも、お前を一人前に育てる!」
と叫んだ。
「え…そ、それって…あの…私、プロポーズ、断られたんでしょうか?」
「断る!!」
「ひどい!!」
「うるさい!ほら、家に帰るぞ!」
直樹はそう言うと、タクシーを止めるため手を上げる。琴子はそんな直樹を見ながら…

―― 大女優になって、入江くんと結婚できるように…頑張ろう!!

と、改めて決意したのだった。










☆あとがき
完全お遊びで書いたものです。
なので、サンドイッチ作戦にてUP。
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*Comment

★ よく琴子の場所探しあてて 直樹偉い9419

打ち上げ花火がバックにきれいです。  タクシーに乗って見えたかな?
  なんだかんだ言って しっかり ホローしてる直樹ですよねぇ。 
直樹は何があっても 琴子から離れるなんて 無理だから 事務所変わるなんて 無いと思ってます。 琴子 結婚に向けて? お仕事頑張れ
コンタ |  2010.07.08(Thu) 19:20 |  URL |  【コメント編集】

★NO TITLE

こんばんは!

琴子の夢は主役が出来る女優になること。
入江君の夢は、琴子を大女優にすること。

2人の夢は一つの夢へと繋がっているんですね。

琴子の本音は、やっぱり入江君の奥さんかな?

夢がかなったら入江君、琴子をお嫁さんにしてあげてね。
(一生無理かもしれないけど・・・^_^;)
りきまる |  2010.07.08(Thu) 22:49 |  URL |  【コメント編集】

★ちょ、ちょっと待って…

水玉さん、こんばんは。

すごくあったかいお話なんだけど…
琴子の成長を見守って成長を促す仕事をする直樹っていう構図も新鮮なんだけど…

「ガラスのお面」って~(爆爆笑)!!!!!!
その先が読めなかったよぉ。
またもや公共の場で一人笑いを耐えることもなくしてしまいました。

このお話の私の感想は「完敗!」って感じです(笑)
それぐらい笑わせて頂きました。
水玉さんマジ最高~☆!!
rinnn |  2010.07.08(Thu) 23:33 |  URL |  【コメント編集】

★NO TITLE

琴子ちゃんのパワーは凄いからな~
夢かなえるまでガンバレ!!!
 
水玉さん!!夢かなうところまで読みたいなぁ~
ゆみのすけ |  2010.07.09(Fri) 09:40 |  URL |  【コメント編集】

★わおー

ガラスの仮面版いりこと!
面白いです(^_^)
二人の掛け合いが 絶妙です!
プロポーズ 断っちゃうけど 直樹らしい。
またまたこの二人から目が離せません!
さくら |  2010.07.09(Fri) 14:06 |  URL |  【コメント編集】

★お遊びに付き合っていただけて、ありがとうございます

コメントありがとうございます。

コンタさん
ありがとうございます!夏らしく、涼しさを感じるデザインを探してみました。涼しさはちょっと疑問ですが(笑)
しかし、琴子ちゃん、セリフとか覚えるのは時間がかかりそう…(笑)
実は琴子ちゃんの事務所は社長が紀子ママ、経理が裕樹、マネージャーが直樹という裏設定があったりします。

りきまるさん
入江くんは、今は自分が結婚しなくてすむよう、琴子ちゃんを大女優にする決意をしたところですしね(笑)
突然思いついて、書いてみた話なのですが…この後、人気俳優の西垣氏とかもいたりして(笑)

rinnnさん
やっぱり演劇マンガはこれでしょう!!で、略して「ガラオメ」。
でも二人の話を聞いていると、どうも入江くんもガラオメは読んでいるような…やっぱり担当女優の愛読書ということで目は通したのだろうか。入江くんなら一回台本を読んだだけで、セリフを完璧に入れていそうですよね。

ゆみのすけさん
書いてみたものの、琴子ちゃんは今、どの辺のランクの女優さんなんだろうと(笑)
年齢はいっていそうだし…一応、名前が知られているのか。あ、でもそうだったら入江くんと一緒にいたら週刊誌ネタにされそうか。
オタッキーズに追いかけられてはいそう…プププ。

さくらさん
結婚に逃げるな!!っていう直樹のメッセージもあったりして。
それにしても、マネージャーにこき使われる琴子ちゃん…哀れ。
琴子ちゃん、頑張って入江くんをこき使えるようになるといいですね。

名無しさん
ありがとうございます^^
琴子ちゃんが何か大きな賞を受賞して…そんな所が私も見てみたい気がします。もちろん、同時にマネージャーとの結婚も発表したりして(笑)
水玉 |  2010.07.09(Fri) 16:07 |  URL |  【コメント編集】

新シリーズ誕生ですか?ワクワクします。でも、琴子と直樹が両想いになったら直樹、琴子を引退させるんじゃ…だって琴子が他の男とラブシーンを演じるのを直樹が黙って見てるとは思えないもん。
祐樹’Sママ |  2010.07.09(Fri) 22:29 |  URL |  【コメント編集】

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