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2008.12.05 (Fri)

秘密 第6話

それから少し経ったある日、直樹がナースセンターへ入ろうとした時、琴子が白衣姿の男性と談笑している姿が見えた。後ろ姿しか見えないが、身長は直樹とほぼ同じくらいだ。直樹がセンターへ入ろうとしたとき、丁度話が終ったらしく、男性と直樹がすれ違う形になった。ちらっと顔が見えたが直樹の記憶にない顔だった。


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「今の誰?小児科にあんな医者いた?」
もしそうなら、まだ着任の挨拶が済んでいない人物ということになる。早く挨拶に行かなければまずいと直樹は思って、琴子に尋ねた。

「ああ、薬剤師さん。」
センターにいるのは琴子と直樹の二人だけだったので、琴子の口調も家にいる時と同じ口調だ。
「1103号室の中田加奈ちゃんが薬を飲んでくれなくて、相談したら服薬指導に来てくれたの。」
「ふーん。」
医者じゃないと知り、直樹は礼儀を欠いていなかったことにホッとした。病院で白衣を身に付けているのは医者だけではないなと、直樹は思った。薬剤師や放射線技師など様々な職業のスタッフが白衣を着て歩いていることが多い。
その時、他の看護師が戻ってきたので二人の話はそこで終った。

後に、今の男性に二人(特に直樹が)振り回されることになるのだが、今の二人には知る由もなかった。

二人の神戸での生活は今のところ順調である。お互い夜勤が入ったりして、なかなか家で一緒にいられる時間は取れなかったが、同じ職場で顔を合わせるだけで琴子は幸せだった。ただ一点を除いて。
それは琴子曰く“恋人同士の秘密の手紙交換”がまだできていなかったこと。相変わらず琴子は何かと手紙を直樹のポケットに入れるが、直樹から返事が来ることはなかった。
「入江くんにドキドキしてもらう作戦なのに、何で私が手紙を待ち焦がれてドキドキするはめになってるんだろう。」
このことだけが琴子の今の不満だった。

「入江先生!」
琴子は夜勤の廊下で直樹を捕まえた。夜中なので廊下に人通りはない。だから安心して琴子は話を始めた。
「ねえ、何で手紙入れてくれないの?私ずっと待ってるんだけど。」
まだあきらめていなかったのかと、直樹はあきれた。琴子から来る手紙は「今夜何時に帰れる?」とか「明日の朝は何食べたい?」とかくだらなくて、まともに返事をする気になれない。

「…お前さ、そんなくだらないことしている暇があったら、もっとまじめに働け。」
「まじめに働いてるわよ。あーあ、これさえ実現すれば、 “秘密の院内恋愛”はほぼ完璧なのに。」
琴子が溜息をついたとき、誰かが廊下を歩いてくる気配がした。
「誰か来るっ!」
琴子は小さく叫んだ。こんな場所で夜中に二人きりで話していると間違いなく、怪しまれることは確実だ。かといって、今この場で慌てて走って逃げると余計に怪しまれることも確かだ。琴子は見つかったらどうしようと青ざめている。

その時、突然、直樹が、自分と琴子の胸に指しているボールペンを数本抜き、廊下へとぶちまけた。
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