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2010.05.29 (Sat)

別冊ペンペン草 21


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『別冊ペンペン草』の編集部に籍を置く入江琴子は、最近仕事に目覚めていた。
「私も入江くんの担当で満足していてはだめだわ!」
人気を不動のものにしている夫、直樹に似合う妻になろうと、編集として更なる高みを目指そうと決意した琴子であった。

「別ぺの松本です。ネーム拝見しました…。」
隣の席でテキパキと打ち合わせをする同僚の姿に見とれる琴子。
「私も真似しよう!」
早速受話器を取り上げた。
「別ぺの入江です!」
「…何か用か?」
受話器の向こうにいる、琴子の唯一の担当漫画家は非常に不機嫌だった。
「ネームなんですけど…。」
「それが?」
「あの…進行とか…。」
「お前さ、今朝、俺が何やってたか見てたよな?」
「はい…。」
朝食を取ると、すぐに部屋に籠って仕事をしていた夫の姿を思い出す琴子。
「いちいち電話してくるな。電話代の無駄、無駄。仕事の邪魔、邪魔。」
そして電話は音を立てて切られた。
「…はあ。」
琴子の“仕事ができる編集者”計画は早速躓いた。

が、こんなことでめげる琴子ではない。

「松本くんは?」
午後、編集長が松本を探していた。
「松本さんなら、西垣先生の所へ。」
琴子が何かと訊ねたら、原稿の持ち込みだという。
「それなら、私が!」
原稿の持ち込みの応対ならローズマリー船津で経験したことがある。これなら失敗はないはず。うまくいけば、その人をそのまま担当できる可能性もある。
「…入江くんが?」
途端に不安になる編集長。
「はい!任せて下さい!」
胸を叩いて、琴子は編集部を出て行った。

「ど、どうでしょうか?」
女の子がドキドキしながら琴子を見ている。
「うーん…。」
琴子の返事に、青ざめる女の子。
「そ、そんなにひどい…ですか?」
「あ、いえ。」
琴子は慌てて手を振る。女の子のマンガがひどいわけではない。単に――何と話していいのか分からないのだった。
―― 絵はまあまあ…話は…まあ面白い…。
本当なら、絵のここを直すとか、話がどうこうとか言わないといけないのだろうが…琴子にはその能力はない。
「と、取りあえずお預かりしますね!あ、でもとってもおもしろかったです!」
「はい。」
女の子は琴子の態度に不可解さを感じつつ、原稿を預けて帰った。

「入江さんを?」
数日後、編集長からの申し出に松本は眉を潜めた。
「本人、やる気出しちゃってさ。」
松本は琴子を見る。
「で、何人か持ち込みを見させてみたんだけどね…。」
「はあ。」
「…みんな、失望しちゃって。」
「なぜでしょう?」
「その場で答えられないからさ。ほら、持ち込みってその場で批評してほしくてするもんでしょ?」
松本は自分の机の上に重ねられていた持ち込み原稿を思い出す。全て琴子が預かってきたもので「どうすればいい?」と泣きついてきたもの。
「今月、持ち込みする人間減ってしまったんだよ。なんか業界で別ぺは編集者が新人を駄目にするとか流れているとか。」
「それは困りましたね。」
「で、とにかく持ち込みから離そうと…。」
「で、あれですか?」
二人は再び琴子に目をやった。琴子は得体の知れない仮面に息を吹きかけて磨いている。
「そう。懸賞プレゼントを選びに行かせたら…あれ。」
「確か入社早々もやらかしていましたよね。」
「そうだよ!それで入江先生の担当にしたんだから!」
編集長は溜息をついた。
「それで、私が担当している作家を一人、彼女にと?」
本題へと松本は入った。頷く編集長。
「だって、彼女を地蔵コレクション(散米社で発行している季刊誌。編集部は70代と80代の嘱託社員2名のみ)に異動させたら、入江先生が漫談社へ移籍しちゃうし。」
「夫婦そろって厄介者ですね。」
松本は遠慮することなく口にする。だが、入江直樹が別冊ペンペン草の看板であり、彼の作品が発行部数に貢献していることは松本とてよく理解している。

「…鴨狩?だあれ?」
仮面を磨き終わり、次は気味の悪いツボを磨きながら、琴子は首を傾げた。
「私が担当している新人よ。ほら。」
そう言って松本が渡したのは、『ザ・ペンペン草』という、別ぺの増刊号。
「まだデビューしたばかりだけど、なかなか見込みあるのよ。アンケートでも評判いいし。」
「ふうん。で、その人が何なの?」
ツボから手を離そうとしない琴子。松本は強引にツボを琴子から離す。どうもこの気持ち悪いツボを見ていると話が進まない。
「あなたに担当してもらいたいの!」
「私に?」
琴子は目を輝かせた。
「それって…私がこう…色々と教えたり?」
「あ、大丈夫。この人、優秀だから。あなたより。」
「チェッ。」
口を琴子は尖らせた。そして改めて誌面に目を向ける。
「鴨狩啓太…男の人?」
「そうよ。どっかの老い先短い先生に憧れて漫画家になったんですって。」
「老い先短いって…。」
だが直樹のファンだというその新人に興味を覚える琴子。ファンだといわれると自分のことのように嬉しい。
「それからね、あなたが今、一生懸命磨いているもの。」
「これ?」
仮面、ツボに輪をかけて更に気持ちの悪い人形を見せる琴子。
「そう。それ全部持って帰ってね。」
「…。」



「担当変更ですか…。」
『ザ・ペンペン草』の期待の新人、鴨狩啓太は松本から担当変更を聞かされていた。
「新しい人って、どんな人なんですか?」
「私の同期よ。」
「松本さんの同期…。」
他にも何か知りたそうな啓太に松本は、
「入江先生の奥様で担当でもあるわ。」
と、教えた。
「入江先生の!」
たちまち啓太の目が輝く。
「それなら…相当優秀な編集さんなんでしょうね。」
「優秀…そうねえ…。」
松本は記憶の糸を手繰り寄せる。奇妙な懸賞の賞品を集める、遅刻魔、そして…最近は原稿を持ち込む漫画家の卵を次々と他社に取られていくようなことをしている琴子…。
「強いて言うのなら…新人殺し…かしら?」
ありのままを口にして、啓太まで他社に流れてしまったら困る。松本は考えに考えてそのようなことを言った。
「新人殺し…。」
唾を飲み込む啓太。
―― 今まで以上に心して仕事しないと、つぶされるってことか。
松本も相当厳しいとは思っていたが、今度の新しい編集は更に厳しいらしい。啓太の心に火がついた。


「お前が新人の担当ねえ。」
リビングのテーブルに並べられた、琴子が用意したものの、懸賞に採用されなかった不気味な品々を見ながら、直樹は呟いた。
「そうなの、このマンガの作者さんなんだけど。」
琴子は『ザ・ペンペン草』を直樹に見せた。
「…随分ロマンチックな話だな。」
「でしょ?男の人でこんな話描けるってすごいよね!」
直樹は一通り、鴨狩啓太の作品に目を通した。
「入江くんのファンなんだって!どう?」
「別に。」
直樹は雑誌を琴子へ戻し、
「それじゃ、俺は仕事に戻るから。」
とだけ言った。
「あ、うん。」
後でコーヒーを持って行くという琴子の言葉を後に、直樹は部屋へと戻った。机に向かって溜息をつく直樹。その机上にはまだ真っ白いままの原稿用紙が置かれていた…。


数日後。
琴子は手土産の柿ピーを手に、鴨狩啓太の家のインターホンを押した ――。









☆あとがき
すみません、続きます…。

☆追記
すみません。
『新妻の訪問』の続きを書こうとしたのですが、なんかうまくいかず…。
そうしたら、こちらが浮かんでしまったので…。どれも中途半端になってしまってごめんなさい。
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20:15  |  別ペ  |  TB(0)  |  CM(3)  |  EDIT  |  Top↑

*Comment

★波乱の予感!?

なんか、啓太=波乱の予感って、あたしだけでしょうか!?
入江先生が嫉妬焼いて暴走しなきゃいいんですけどね…。

別ペの文字に、久しぶりの再会って気がしましたv
愛結美 |  2010.05.29(Sat) 21:00 |  URL |  【コメント編集】

★啓太、登場!?

こんばんは、水玉さま。

次回は入江君の嫉妬深差が現れるんでしょうか?

琴子を愛するあまり、誰かれ構わず嫉妬する入江君。
私は、とっても大好きです。(笑)

次回もとっても楽しみにしています。
りきまる |  2010.05.30(Sun) 18:55 |  URL |  【コメント編集】

★ありがとうございます

コメントありがとうございます。

愛結美さん
いえいえ。愛結美さんだけではございませんよ~(笑)
確かに啓太くんが出てくると、何か起きる予感がプンプンしてきますよね♪
私も久しぶりに別ぺ書いて、ちょっと懐かしさがこみ上げてきました^^

りきまるさん
こちらにも、啓太くん=嫉妬という方が!(笑)確かにそうですよね~。
今回はちょっと進歩する琴子ちゃんが書けたらいいなって思っていますが^^


佑さん
こちらにも!!みなさん考えは同じようで^^
別ぺはとにかく琴子ちゃん大好き、独占欲丸出しな入江くんですものね♪

まあちさん
ありがとうございます♪
なんかやって気を紛らわせたいのですが…そんな調子だったのですが、書いていくうちにちょっと気分が上昇してきました♪
琴子ちゃんの頑張りはいつもどこかピントが可愛らしく外れるんですよね^^

foxさん
そうなんです!!だって他の登場人物出さないとネタ尽きて(笑)
入江くんに心酔している啓太くん(今のところは)…ちょっと楽しいです。だけどどんな設定になっても啓太くんは琴子ちゃんに魅かれることに…^^
水玉 |  2010.05.31(Mon) 08:04 |  URL |  【コメント編集】

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