2017年10月 / 09月≪ 12345678910111213141516171819202122232425262728293031≫11月

2010.05.08 (Sat)

君と交わした約束 5


【More】

足を切断した患者の不安定な精神状態が続いていた。
「どうして切ったって、そればかりで。」
琴子も幹もどうしていいか分からないまま、主治医の直樹に報告する毎日。
「切らないと、大変なことになってたからな。」
直樹も何度も患者に説明を重ねるのだが、納得できないままらしい。

「入江先生、すぐに来て下さい!!」
幹が医局へと駆け込んできた。とうとう我慢できずに、物に当たり散らし始めたとのことで、直樹は急いで駆け付ける。

「落ち着いて下さい!!」
病室からは琴子の叫びともいえる声が聞こえて来た。そして飛んでくる枕、本…。
「こんな足じゃ、もう戦えないじゃないか!!」
患者は形相を変え、叫び続けている。
「落ち着いて!」
女の力では到底、男を押さえつけることは難しい。直樹が琴子に代わって抑えつけようとした。
その時、患者は傍にあった水の入った瓶を投げつけた。
「先生、危ない!!」
その声と共に突き飛ばされる直樹。そしてガラスが割れる音が響いた。
「琴子!」
幹の悲鳴で、直樹は琴子を見る。
「お前…。」
白衣から出ている琴子の足首には、ガラスの破片が刺さっていた。
「私は大丈夫です。先生、患者さんを!」
琴子は平静さを装っている。

まだ暴れようとした患者を何とか抑え、鎮静剤を直樹は打った。そして病室は漸く落ち着きを取り戻した。

「よかった…。」
安堵して琴子が立ちあがろうとした時、体がふわりと浮かんだ。
「後片づけ、頼む。」
幹に一言言い残し、直樹は琴子を抱き抱えて病室を出て行く。

「あの、先生。歩けますから。」
医者と抱き抱えられた看護婦の姿は、廊下を歩く他の医者、看護婦、患者たちの視線を集める。琴子の顔は真っ赤に染まる。が、直樹は気にすることなく、無言で歩き続ける。

「…痕が残るかもな。」
手当をしながら、直樹が呟いた。
「俺なんて庇わなくてもよかったのに。」
女性の体に一生残る傷を負わせてしまったことに責任を感じる直樹。
「だって、先生の手にガラスが刺さったら大変でしょう?」
当の本人は痛みがあるだろうに、なぜか笑顔である。
「別に俺の手に痕が残っても…。」
「違いますよ。先生が手を怪我したら、患者さんたちが困るんです。」
琴子は笑顔を直樹に向ける。
「先生の手は、苦しむ沢山の患者さんを助けるために必要なんです。私の足なんて…ほら。」
琴子はひょこっと立ち上がる。
「こうやって白衣に隠れますから、平気、平気。」
その様子に、直樹もつられて笑う。
「お前って、本当に打たれ強いよな。」
「それが唯一の取り柄ですから。」
琴子は明るく言った。
「…悪かったな。俺のせいで。」
改めて謝る直樹。
「悪いと思うのなら、一つ責任を取って下さい。」
琴子は直樹の前に顔を近づけた。
「今後、患者さんと接する時、もうちょっと態度を和らげてほしいんです。」
「…何で?」
「だって先生、腕はとってもいいし、顔も悪くない。勿体ないですもん。」
「お前って図々しいよな。」
「それも私の取り柄ですから。」
「それは取り柄とは言わないだろ。」
直樹はまた笑ってしまった。どうもこの看護婦と一緒にいると調子が狂う。が、それは決して嫌ではないことも気が付き始めていた――。

琴子との約束を直樹は守った。
「入江先生、最近態度が柔らかくなった。」
看護婦たちが噂をする。それを耳にし琴子は、
―― ほうら。私が言ったとおり。先生の評判も上がった。
と密かに鼻を高くしたのだった。


琴子の足は痕が残りそうだったが、痛みはすぐに治まった。
「勝ってうれしい花いちもんめ。」
そして琴子は今日も子供たちと遊んでいた。
「あの子が欲しい。」
「あの子じゃ分からん。」
そう言って足を上げた時、琴子の靴が飛んで行ってしまった。
「いけない!」
片足で跳びながら、靴を拾いに行く琴子。

「どうぞ。」
女性が靴を拾って待っていてくれた。
「ありがとうございます。」
琴子は靴を受け取りつつ、その女性を見る。
―― 美人…。お見舞い客かしら?
こうも美しくもんぺを着こなせるのかと、思わず見惚れてしまう。しかも、そのもんぺも琴子が着ている物とは違う、高級な生地で仕立てられている。

「あの…。」
その美人が戻ろうとする琴子を呼び止めた。
「はい?」
「あの…入江直樹さんという方はこちらに?」
「あ、入江先生ですか?」
直樹の担当患者の家族か何かだろうかと一瞬思った琴子。だが、それなら「入江先生は?」と口にするはず。
「ええと…。」
琴子が案内しようとした時、
「沙穂子さん!!」
という声が背後から聞こえた。

「直樹さん!」
美人の顔が途端に明るくなる。
「どうしてここに?」
直樹が驚いて、沙穂子に近寄った。
「今日は午後からお休みだと伺って。待ちきれずにお迎えに来てしまいました。」
嬉しそうに直樹を見る沙穂子。
「すぐに着替えてきますから。」
直樹は傍にいる琴子になど、まるで気が付かないかのようにその場を立ち去った。沙穂子は丁寧に腰をかがめ、琴子に挨拶をし、病院の正門へと戻る。そこで直樹を待つつもりだろう。

何となく琴子は子供たちの相手をする気分になれず、すぐに院内へと戻った。
「あ、琴子!」
看護婦の詰所へ戻ると、幹が肩を落としていた。
「聞いてよ!!入江先生!!」
「入江先生?」
その名前を耳にし、ドキリとする琴子。
「入江先生…許嫁がいるんですって!!」
「…いいなずけ?」
何だか幹の声が遠くに聞こえ始める。
「そうよ!!軍と関係が深い、何だか偉い人のお嬢様らしくて。あ、ほら!」
幹は窓から身を乗り出す。
「一緒にどこかへお出かけなのね…。」
「あの人がそうなの…?」
門を出る直樹と沙穂子をぼんやりと見ながら、琴子はかすれた声を出す。
「でしょう?お似合いだもの!あ…入江先生、笑顔だわ!!くやしい!!許嫁の前ではあんな素敵な顔を見せるなんて!!」

キイキイ騒ぐ幹から、琴子は離れる。
確かに、あんな笑顔は見たことなかった。
―― どうして、こんな気分になるんだろう、私…。
フラフラと詰所を後にする琴子。
―― 傷…痛いなあ。
今まで痛みがなかった、直樹に手当てをしてもらった傷の痛みを琴子は感じていた――。

関連記事
18:57  |  君と交わした約束  |  TB(0)  |  CM(2)  |  EDIT  |  Top↑

*Comment

★ついに登場ですね!!!

水玉さん、こんにちは
お話ずっと読ませていただいていました。
入江先生を庇い、琴子が怪我を
そこからいい雰囲気になって良くと安心していたら。
やはり、登場ですね
しかも、入江先生の傍に琴子が居ても
気にすることなく、直ぐ着替えて来ますからと
おまけに沙穂子さんは許嫁だと。
その人の前だと笑顔をみせられるの入江先生は?
琴子、落ち込んでしまいましたね
足の傷イコール心の傷と
ダブルパンチですね。
沙穂子さんとは、良い感じで嫌がるどころか、嬉しそうですね。
どうなるのかしら、この先の展開は???

tiem |  2010.05.09(Sun) 13:15 |  URL |  【コメント編集】

★1と4、5合わせてのお返事をお許しください

コメントありがとうございます。
4と5、合わせてのお返事をお許しください。

えまのじさん
そうです~その節は許可をありがとうございました!!
だけど…やっぱり私には無謀だったかと思う日々です。
きっとえまのじさんが思われた軍医ものって、こういう話じゃないだろうなあと申し訳なく思っております。ごめんなさい。本とか読んだらこんな話になってしまいました!!
思ってる…なんか思い出させそうで、思い出せない!!

tiemさん
お久しぶりです!!コメントありがとうございます!!
二人がいい関係になってきたら、邪魔ものが入る、ドラマのお約束です(笑)
沙穂子さんにこんなに機嫌よく接する入江くんも新鮮です(笑)
琴子ちゃんは可哀想だけど…。

佑さん
ええと、東京の設定ですが…何か私、大きな間違いでも!?
いや、もう間違いだらけなのは分かっていますが…ごめんなさい、知識不足な点はなにとぞご容赦いただけたらと思います!!

foxさん
お帰りなさい~。早速のおいで、ありがとうございます!!
もう連休中はなんだか鬱憤を晴らすかのように怒濤の更新して遊んでおりました(笑)
全て目を通して下さって、本当にありがとうございます!!
休日も、入江くんの御実家訪問ネタが残っているのでそちらも書きたいです^^
そしてお題もいつか再挑戦したいなと思ってます♪
そしてこの「君と…」ですが、これはきっかけはえまさんから言われた「軍医ものを」という言葉がきっかけです。
とにかく、軍医って…?という程度の知識しかなかったので、これじゃ妄想もできないと思い、ちょっと図書館で本を数冊読んだりしたら…出来上がったのがこういう話に^^;まさか、ここまで暗くなるとは思いませんでした^^;
あまりリアルに書いても、素人が書くとどうしようもなくなると思い、なるべくあっさり風味にしようと心がけております。
あ、チョコレート(笑)これ、「ええ、どうぞご用意を!!」と言って、終わった後に「チョコ、いらんがな!!」ってことになったら超恥ずかしいので…おかませします(笑)

まあちさん
一緒、一緒!!
私、今、この年になって「ええと…このシャープペンの違いは何なのかしら?」「ノート、中は同じでしょ?」と母に言わされております(笑)いやあ…本当、コレクターの宿命ですよね!!でも負けないもん!!(笑)
ポイントの景品、そんなもので~!!そんなことを仰らずに!!火曜日はポイント10倍とか設定した方がいいですか(笑)
入江くん…ちょっと弱すぎたかなと思いつつ…。この時代の許嫁(笑)。過去何度そう言われたか…そしてそのたびに見事に覆してきた私という人間です(笑)

るんるんさん
充実されたGWだったようで♪
お喋りって本当にストレス解消になりますよね!!なかよしの友達とかって、本当、何時間喋っていても飽きない…あと笑うこと!!笑いって本当にストレス発散できます!!

いたさん
本当に…何て時代に挑戦したんだ、私~と思っております^^;
最後まで頑張りますが。
この時代の様子をテレビで見たことはあるのですが…経験された方のお話とかも本で読んだりして。
想像を絶するお話に何も言えなくなります…。
そして励ましと慰めのお言葉、ありがとうございます♪
水玉 |  2010.05.09(Sun) 18:06 |  URL |  【コメント編集】

コメントを投稿する

URL
COMMENT
PASS  編集・削除するのに必要
SECRET  管理者だけにコメントを表示  (非公開コメント投稿可能)
 

▲PageTop

*Trackback

この記事のトラックバックURL

→http://suisen61.blog77.fc2.com/tb.php/798-7c69b90b

この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

この記事へのトラックバック

▲PageTop

 | BLOGTOP |