日々草子 君と交わした約束 4 ※医療シーンが苦手な方は避けて下さい

君と交わした約束 4 ※医療シーンが苦手な方は避けて下さい

※注意
医療ドラマ等が苦手という方は、避けていただけますようお願い申し上げます。



「あ、すみません!」
転がって行くボールを追いかけて来た琴子は、ボールを拾ってくれた人物を見て「うげっ」という声を出した。
「また遊んでるのか。」
直樹はわざと琴子の後ろへとボールを投げた。
「意地悪…。」
ボソッと呟く琴子。そのボールを拾った子供たちが、琴子と直樹の元へとやってきた。
「先生も一緒に遊ぼう。」
一番年下の子供が直樹の白衣を引っ張った。それを慌てて止める琴子。
「だめよ、和子ちゃん。」
和子は琴子を見上げる。
「入江先生はね、運動が苦手なのよ。」
「…何だって?」
勝手に決め付けられた直樹の眉が上がった。それに琴子は気がつかずに、
「ほら、お勉強ばっかりしていたから、体を動かさなかったのよ。可哀想に体ばかり大きくなっちゃって…。」
と話し続ける。直樹の眉はますます上がっていく。

「貸せ。」
直樹はボールを子供から受け取る。驚く琴子。
「勉強ばかりしていたかどうか、見せてやるよ。」
「え?あ、あの…。」
驚く琴子を置いて直樹は、
「ほら、行くぞ。男ども、覚悟しておけ。」
と男の子相手に、容赦なくボールをぶつけ始めた…。


「ね、姉ちゃん…。」
直樹が立ち去った後、勇がヘロヘロになりながら琴子の元へ来た。
「あの先生、本当に容赦ねえ…。」
「すげえ、あんなボール、初めて受けた…。」
そして男の子たちはその場に倒れ込んだ。
「入江先生って、相当負けず嫌いだったんだ…。」
子供たちを介抱しながら、琴子は呟いた。そして、思い出す。子供たちに投げ方などを教えていた直樹の顔。
―― あの先生も笑うことあるんだなあ。
いつもの仏頂面とは違う、楽しそうに笑顔で子供たちと遊んでいた直樹の顔。
―― いつも、あの顔だったらいいのにね。そしたら…きっと女の人にも…。
そこまで考え、琴子は頭を激しく振った。
「何を考えているんだか、私は。」



相変わらず、看護婦の仕事は失敗だらけの琴子。直樹は溜息をつく毎日だった。なぜだかこの二人、組んで仕事をすることが多かった。

「おい、相原。」
「はい?」
ある夜、夜勤に入っていた琴子を直樹が呼んだ。
「今から手術だ、お前介助に入れ。」
「しゅ、手術?」
「何だよ。まさか手術介助、初めてとか言わねえだろうな?」
「いえ、それはありませんけど…。」
「お前しか今夜もいないんだよ。」
直樹はそれだけ言い残し、手術準備へと向ってしまった。


手術は、患者の足の切断だった。
「切断…。」
それは琴子にとって初めての手術。
「お前は、足を持ってろ。」
直樹は琴子に命じた。
「足?」
「ああ、切断した足はかなり重いからな。気をつけろよ。」
「足って…切断する足ですか!?」
琴子は真っ青になった。
「他にどこを持てと?」
「い、いえ…。」
「じゃあ、始める。」
そして手術は始まった。


「うーん…。」
気がついた時、琴子はベッドの上だった。
琴子は手術中、経験のないことに気を失ってしまったのだった。
叱られても仕方のないことをしでかしてしまったと、琴子は自分の不甲斐なさに落ち込む。
―― 看護婦として、本当に失格だなあ。
ベッドから起き上がり、直樹に謝りに行く。

「入江先生は…。」
恐らく、先程手術した患者の様子を見ているのだろうと思い、病室へと向った。
「…これでどうでしょう?」
「もうちょっと…もうちょっと右…。」
どうやら患者と直樹が会話を交わしているらしい。琴子はそっとベッドを見た。
―― え…?
そして驚く。直樹は患者の足元にいる。そしてその手は…先程切断してない部分に置かれていた。
「これでは?」
「ああ、気持ちいい…。」
直樹は、もうない足を掻く真似をしていた――。


「切断した患者はよく口にするんだ。」
患者が眠ったことを見届け、二人は病院の外に出た。
「…もう、ないのに?」
かゆくも痛くもないはずだと思う琴子。
「まあな。だけど痛いとか痒いとか…その夜は眠れないことが多い。」
「それで、掻いてあげる真似を?」
直樹は頷いた。
二人は外の階段に並んで腰かける。
「…戦場では何人、そんな患者を診たか。」
直樹の表情が翳る。
「麻酔なんてないから、そのまま切断したし。」
その様子を想像し、琴子は青ざめた。
「そして痒い、痛いとわめく患者の、もうない足や手をさすったり掻いたりする真似をして。」
直樹も辛そうに話を続ける。
「だけど、本当に辛いのはそんな患者を手術することじゃないんだ。」
琴子は直樹の話に黙って耳を傾ける。
「…せっかく助けた命を、その場に残すこと。」
「それって…。」
「歩くことが困難な兵士は…足手まといになるからって一緒に逃げずにその場へ残すんだ。上官命令でね。」
「そんな…せっかく先生が助けたのに。」
「その場へ残された兵士には…死しか待っていない。」
直樹は顔を伏せた。きっと思い出しているのだろうと琴子は黙って見ている。
「俺は何度も、一緒に連れていくべきだと抗議したけど。だけど…その当の兵士たちが言うんだ。“自分たちは先生に助けてもらえて、僅かの間でも楽になれた。”って。」
琴子は胸が詰まる。
「“だから、先生だけでも逃げて他の兵士を助けてほしい”って、笑顔で言うんだ…もう辛くて辛くて…何度もそんな経験をして…耐えきれなくて、こっちへ戻ってきたんだ。」
それで、この若さで内地へ戻ってきたのかと琴子は理解した。そんな事情も知らずに「仕事ができなくて左遷された」と決めつけていた自分が恥ずかしくなる。

「助けたのに、結局見殺しにしたんだ、俺は。」
それはこちらへ戻って来ても同じだと直樹は言った。治したら「これでまた、お国へ命を捧げることができる」と笑って去っていく患者。どうして自分から命を捨てる真似をするのか、国はさせるのかと思う直樹。
「必要以上に…患者さんと親しくならないのは、それが理由ですか?」
琴子の問いに直樹は頷いた。
「親しくなって、死なれたら…辛い。」
琴子は直樹の肩にそっと手を置いた。
「先生。きっと…兵隊さんたちが言ってくださったように、皆さん先生に感謝しています。」
直樹は琴子の顔を見る。琴子は幼子に愛を注ぐ母の様に、慈愛に満ちた笑顔だった。
「だから…そんなに御自分を責めないで下さい。」
何か気の利いたことを口にして、直樹を慰めたい。しかし、何を言ったらいいのか分からない。

「お前さあ…。」
「はい?」
「…気分、平気なの?」
「へ?」
そして琴子は気がついた。自分がここにいるのは、手術中のことを謝罪するためだった。
「申し訳ありません!!」
琴子は頭を下げる。
「仕方ないさ。最初は誰でもお前みたいになる。ま、ぶっ倒れる奴はいないけどな。」
患者の足は想像を超える重さだった。
「だけど、お前は…足だけは離さなかったぞ。」
「そう…なんですか?」
自分では全く記憶がない琴子。
「ああ。お前は意外と…看護婦に向いてるかもしれないな。」
直樹は少し笑い、そして中へと戻って行った。











☆あとがき
素人が書くので、そんなにリアルなシーンにはなりませんでしたが…というか、辛くて書けないです。
足の切断の話は、私が読んだ戦時中の看護婦さんの体験談にあったものを参考にさせていただきました。
読んでいて、あまりの恐さに震えました…。
この話を書かずに、入江くんの過去とか書けたら一番良かったのですが…それは私の拙い筆力では無理だったので。

戦争の話ですが、決して面白がって書いているわけではないです。
この時代の本などは読むのが辛いです。
戦争って本当に二度と起きてほしくないと思います。
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『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
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そして、原作と違った時代(平安や明治やその他の時代を舞台にしております)、異なる設定(主人公を医者と看護師じゃない職業にしております)で書いてあるものが多いですが、原作を冒涜しているつもりは全くございません。

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