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2010.05.04 (Tue)

新妻の休日


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連休だが、直樹は出勤だった。
「よいしょっと。」
琴子はエコバッグを置き、中の物を冷蔵庫へと入れ始める。
「今日は早く帰ってくるって言ってたから、ご馳走作らないとね!」
そして明日、明後日と漸く遅れた連休が取れた直樹。一緒に過ごせる時間は多い。直樹は琴子を連れて出かけようと言ってくれている。
「どこがいいかな?公園でボートに乗ろうかな?」
楽しみにしている琴子だが、大事なことに気がつく。
「仕事でずっと社に詰めてたから、疲れて帰ってくるから、お風呂も!」
久々に「お食事?お風呂?それとも私?」と訊けると思うと笑いが込み上げてくる。
「はっ!」
買った物を全て冷蔵庫へ入れ終え、琴子は気が付いた。
「“琴子”って言われた時、準備しておいた方が…!」
どうしよう、今からシャワー浴びておいた方がいいかなと変に積極的なことを考える琴子だったが、取り敢えず、自分を落ち着かせる。

「いけない、いけない。今日はこれからお勉強するんだった。」
そして取り出したのは、図書館から借りて来た、何やら古ぼけた本。タイトルは『良き妻になるために』。
最近、やはり日本の知識やら常識が欠けていることに気が付き始めた琴子。本で勉強し、直樹に褒めてもらいたい。それに直樹の喜ぶ顔をもっと沢山見たかった。
「なんだか、カビ臭いなあ…。」
ページを捲り、呟く琴子。それもそのはず、この本の初版は昭和前半である。それすら気が付かずに、タイトルだけ見て借りて来ていた。

「なになに…まず…。」
最初に目を止めたのは、帰宅した夫を迎える方法。
「“夫が帰宅したら、心を込め、手をつき「お帰りなさいませ」と挨拶をするべし…”。うわっ!どうしよう、気が付かなかった!!」
「食事?お風呂?私?」なんて訊ねるのはもってのほかじゃないかと焦る琴子。早速、今日からこれは実践することにする。

「え…そんな…こんなことまで?」
飛ばし飛ばし読んでいくうちに、琴子の頬がポッと赤く染まる。
「“夜は夫に三度呼ばれるまで、恥じらうべし…”そ、そうなんだ…。」
今までは三度呼ばれるどころか、夫より先にベッドに入ってお喋りを始めていた琴子だった。これも今夜から実践することにする。
「“…不安だったら事前に春画を見ておくべし…”春画…?」
なぜかその部分だけ真剣に読んでいる琴子。
「春画って何だろう?」
よく分からないので、取り敢えずメモ帳に「春画」と書きとめておく。
「あとで図書館で借りてみればいいよね?分からなかったら図書館の人に訊けばいいし。あ、入江くんに頼んでもいいし、一緒に行ってもらった方が心強いかな?」
…夫婦そろってそんな本を借りたいと言われたら、図書館職員に失笑されることは間違いないだろう。

そんな本を読んでいる琴子の耳に、インターホンが響いた。
「もう帰ってきたのかな?」
早速、手を付いて出迎えねばと琴子は玄関へ急ぐ。
が、ドアの前に立っていたのは直樹ではなかった。

「こんにちは。」
それは品の良い女性だった。
「…こんにちは。」
新聞の勧誘かなと思う琴子。それにしては洗剤も何も持っていない。
「はじめまして。直樹の母です。」
「直樹の…母…?」
琴子は思った。
―― 新宿の母は占い師、命の母は更年期の市販薬、では直樹の母は…?

そして、
―― 直樹の母は…入江くんのお母様!!
という、当たり前の事実へと辿り着く。

「は、はじめまして!!私、琴子と申します!!」
玄関に座って、両手をつく琴子。その様子に驚く母。
「縁あって…入江くんのお嫁さんにしていただきまして、恐悦至極にて…!!」
「あ、いいから、いいから。」
頓珍漢な挨拶をする琴子の顔を優しく母は上げさせる。
「直樹は?」
「あ、もうすぐ帰ってきます。どうぞ、中で!」
琴子は、直樹の母、紀子を中へと招き入れた。


「狭いわねえ。」
お茶を準備していた琴子の耳に、紀子の声が聞こえた。
―― 狭い…。それは…私の掃除が行き届いていないから片付いていないという、遠回しの表現かしら?

琴子の胸に、あのドラマが蘇る。
それは、トンブリ王国にいた頃、衛星放送で見ていた日本のドラマである。

―― これが…嫁姑のバトルなのかしら?

ドキドキしながら、紀子にお茶を出す琴子。紀子はおいしそうに飲む。その様子に胸を撫で下ろす琴子。

だが、問題はこれからである。

―― 確か…障子の桟とか触って、“あら埃が”とか言うのよね…。

だが、幸運なことにこの部屋には障子がなかった。

―― お味噌汁とか作ると、“辛い!!この嫁はあたしを高血圧にして殺す気かい!”って叫ぶのよね…。

幸い、まだお味噌汁を出す時間ではなかった。

「て、テレビでも見ましょうか!」
間が持たないので、テレビをつける琴子。
「“実録!!私は姑に殺される!!新妻の叫び!!”…」
…とんでもない番組が映し出され、慌てて電源を切る琴子。
「アハハ…連休中はろくな番組放送してませんねえ…。」
笑ってごまかす琴子だった。


「ただいま。」
漸く直樹が帰宅した。その声を聞くなり、琴子は飛び出し、
「お帰りなさいませ、旦那様!!」
と、玄関で両手をついた。
「うわ!」
驚いてたじろぐ直樹。その時、
「遅い!!」
という、琴子の声ではない声が響いた。

「申し訳ございません、お義母様!!次回は早く、早く旦那さまを迎えられるようにしますから!!」
てっきり、自分の出迎えが遅いと怒られたと思った琴子は、紀子に謝る。
「え?おふくろ?」
直樹は琴子の背後に立つ紀子を見て驚く。
「…遅いじゃないの!!お兄ちゃん!!」
紀子が叱りつけたのは、琴子ではなく直樹だった。
「へ?」
それに驚く琴子。紀子は直樹の前にずいと立ち、
「遅いじゃない!!こんな可愛い新妻を待たせて、どこをうろついていたの!!」
と叱りつける。
「どこって、真っ直ぐ帰ってきたんだけど。」
「遅いわ!!飛んで帰ってらっしゃい!!」
「んなこと、できるか!!」
「あ、あの…お義母様。入江くん、今日は本当に早く帰って来てくれた方で…。」
慌てて二人の仲裁に入る琴子。紀子はそんな琴子を抱きしめ、
「んまあ!!何て可愛いお嫁さんなんでしょ!!こんな狭い部屋に押し込められていても、文句一つ言わないなんて!!」
と涙を流す。
―― あ、狭いって…本当に部屋の広さのことを言ってたんだ。
抱き締められながら、琴子は納得する。
「可哀想に。見知らぬ国へ奪われるように連れて来られて一人ぼっちで…。」
「こいつが最初に俺のところへ押し掛けてきたんだけど。」
「おだまりなさい!!」
琴子をしっかりと抱いたまま、紀子が叫んだ。
「日本に来てまもない、しかも王女様の琴子ちゃんを放置しておくなんて!!」
そして紀子は琴子を見て、
「ごめんなさいね。こんな薄情な息子に育てた私が悪かったわ。」
と謝る。
「いえ…入江くん、とっても優しいです。」
素直に琴子が言うと、
「まあ!!本当にお兄ちゃんには勿体ないお嫁さんだわ!!」
と更に力を入れ紀子は琴子を抱き締めたのだった。
どうやら、すっかり琴子は紀子に気に入られたらしい。

「さ、琴子ちゃん、いらっしゃい!」
そして紀子は琴子の手を取る。
「どこへ連れて行くんだよ?」
「家に決まってるでしょ!」
「え?え?」
紀子のハイペースに戸惑う琴子。
「だって、琴子ちゃんと色々お話したいんだもの!」
「え?え?」
「琴子ちゃん、お兄ちゃんの面白アルバム見せてあげるわね。」
「入江くんの面白アルバム…。」
その言葉に動く琴子。

「琴子。」
そんな琴子を直樹が引き止める。
「こんなもんがあるんだけど…。」
直樹が取り出したのは、琴子行きつけのスーパーのチラシ。そこには、
『明日の午前中、ポイント20倍!!』
の文字が大きく書かれていた。
「20倍!!」
チラシに飛び付く琴子。そんな琴子を見て、直樹は勝ち誇った笑顔を見せたのだった。

「なるべく早く遊びにいらっしゃいね」という言葉を残し、紀子は泣く泣く琴子と別れ、帰路についた。

「やれやれ…。」
ベッドに並び、溜息をつく直樹。
「ああっ!!」
やっと寝られると思った直樹の横で、琴子がまた素っ頓狂な叫び声を上げ、慌ててベッドから飛び降りる。
「何だよ、ったく!!」
「入江くん、三回、私を呼んで!!」
「はあ?」
「いいから、いいから。」
また何かくだらないことをと思いつつ、直樹は、
「琴子、琴子、琴子。」
とムードも何もない呼び方をした。
「うん、これでOK!!」
名前を呼ばれ、琴子はベッドに入る。
…全く本の趣旨とは違っていることに、気が付かない琴子。

「明日どこへ行くか、決めたか?」
直樹の言葉に琴子は少し考えた後、
「…入江くんの実家。」
と答えた。今日出会った紀子ともう少しお喋りしたいし、紀子から聞いた義父や義弟とも会いたい。
「私も入江くんの御家族にちゃんとお嫁さんって紹介してほしいんだもん…。」
どうやら紀子の魅力に琴子は取りつかれたらしい。直樹は苦笑し、
「物好きな奴。」
と言いつつも了解したのだった。

「ね、入江くん?」
「何だ?」
「あのね…ちょっとお尋ねしたいことが…。」
琴子はそう言って、例の本を取り出した。
「ここに出てくる…春画ってなあに?」
少し恥ずかしそうに訊ねる琴子。直樹は…絶句する。
「これは…知らなくても別にいいよ。」
「え?でも、ここにはちゃんと見ておいた方が旦那様にも喜ばれるとか何とか…。」
「いや、人それぞれだから。」
全く、いったい何という本を借りてきたんだと直樹は呆れる。
「そうなの?せっかく入江くんの喜ぶ顔が見られると思ったのに…。」
シュンとする琴子。直樹は本をパラパラとめくる。
「ほら、琴子。」
そして琴子に本を見せる。
「ここに書いてあるだろ?」
「あっ…。」
頬を赤く染めた琴子の唇を直樹が捉える。
そこにはこう書かれていた――。

『最終的には、されるがまま、何事も夫に従うべし。』










☆あとがき
琴子ちゃんが借りてきた本は、完全に私の捏造です(笑)
完全の休日シリーズに自分で、ハマってしまった(笑)
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*Comment

★ついに  

紀子ママとご対面ですね(笑)
気に入られたようで琴子ちゃんもホッとしたことでしょうね♪

今、仕事の合間にちょっと遅いお昼休憩を某ファーストフード店でしてて、ケータイでお話を読んでて一人でニマニマしてました(笑)
周りの人からはきっと怪しい人に見えてたかも(汗)


琴子ちゃんて、ステキな奥様になるために勉強熱心なんですねv

あたしも見習わなきゃ☆
愛結美 |  2010.05.04(Tue) 16:08 |  URL |  【コメント編集】

★新婚さんいらっしゃい!!

こんばんは、水玉さま。

初めてのお姑さまとのご対面。
琴子はかなり緊張していますね。
でも、あの入江君を虜にしてしまったぐらいなのだから、自信をもってね琴子。

良妻賢母を目指して、日々頑張っている琴子ですが、春画の意味がわからず、入江君に尋ねていますね。

春画というか、夜のほうは入江君に任せていたほうが無難なような気もするけど、積極的な方が入江君は喜ぶんでしょうか・・・(笑)

気になっちゃいました。(笑)
りきまる |  2010.05.04(Tue) 17:53 |  URL |  【コメント編集】

★コメントありがとうございます

コメントありがとうございます^^

愛結美さん
お仕事中においでいただき、ありがとうございます!!
私もファーストフードのお店とかでよくやりますよ、ニヤニヤ(笑)←超怪しい人間認定
琴子ちゃんは原作でも、入江くんを追いかけてナースになったくらいですものね、本当、勉強熱心!!私も見習いわないと!!
お互い、頑張りましょうね!!

りきまるさん
嫁姑劇場、開幕(笑)
だけど紀子ママだもん、気にいられないわけがない!!
どんなに好き勝手に書いても、紀子ママが琴子ちゃんをいびる話は書けません!!
どうなんでしょうね、入江くんにとっては積極的な方がいいのか…(笑)
でもなんだか、今は入江くんが色々と教えてあげたい気分のような気もします(笑)
きっと素直に言うこと聞く琴子ちゃんにまたゾッコンになるんでしょうね♪

ふーちかさん
ドキドキしていただけて嬉しいです♪
入江くんにもそんな気持ちがあるんじゃないかって。
そして、そんな気持ちを教えてもらったのは琴子ちゃん…なんか素敵ですね♪
水玉 |  2010.05.04(Tue) 22:27 |  URL |  【コメント編集】

『休日シリーズ』の琴子ちゃんの勘違いというかぶっ飛び具合、最高にかわいいです。直樹も琴子に振り回されながらも上手く操縦してさすがです。紀子ママの登場でまたまた直樹の受難の日々が始まると思うとワクワクします。
祐樹’Sママ |  2010.05.05(Wed) 09:42 |  URL |  【コメント編集】

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