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2010.04.26 (Mon)

執事を続ける理由


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その夜、琴子は目を覚ました。
「トイレ…。」
フラフラと起き上がり、トイレへ向かう。
そして部屋へと戻り、ベッドの中へと再び潜り込み…深い眠りへと落ちて行った…。


「…朝か。」
朝、カーテンの隙間から差し込む光の眩しさを感じ、直樹は目を覚ました。今日は休日。琴子を連れて出かける約束になっている。
時計を確認しようと、寝返りを打った。その直樹の目に飛び込んできたのは…ここにいる筈がない、スヤスヤと眠る琴子の姿だった…。

「う…ん?」
丁度、琴子も目を覚ました。薄く目を開ける。その目に飛び込んできたのは…いる筈のない直樹の姿。
「…おはよう。」
直樹が声をかけた瞬間、
「キャーッ!!!」
文字通り、絹を引き裂くかのような悲鳴が、邸内に響き渡った――。

「な、何でございますか!!今の悲鳴は!!」
その悲鳴を聞きつけて、慌てて直樹の寝室へ飛び込んできたのは、直樹の執事、渡辺。
渡辺は直樹のベッドに琴子の姿を見つけ、口をあんぐりと開けた。
「な、直樹様…。」
渡辺は直樹へ近寄った。そして、
「結婚式まで待つと仰ったのは…御自分ですよね!それを我慢できずに…無理矢理、強引に琴子様を連れ込んで…!」
と、血相を変えて詰め寄る。
「違うの、渡辺さん!!」
そんな渡辺を慌てて止めに入る琴子。
「何か、私が間違えちゃったみたいで…直樹さんがいることに驚いて、つい悲鳴を…。」
「というわけだ。」
直樹は冷静に言うと、渡辺の腕をふりほどいた。

「ったく…こうやって目印を付けているのに、どうして寝ぼけるんだか。」
着替えた直樹と琴子は、琴子の部屋の前に立っていた。
昨夜、トイレに起きた琴子は部屋を間違えて、直樹のベッドを自分のベッドと勘違いして潜り込んでしまったのである。
「だって…鳥目なんだもん、私。」
そう言って琴子は、ドアに付けられた目印を差す。
「大体、これ…怖いよ、直樹さん。」
そこに付けられた目印、それは、『般若』の面であった。この屋敷に来たばかりの頃、部屋数が多い上、ドアが全て同じなので自分の部屋が分からないと言った琴子に、直樹が付けた目印である。

※参考資料

hannnya


「もっと可愛いお人形とか付けてほしかったな…。」
「仕方ないだろ。俺しか暮らしていなかったこの家に、人形なんてあるか。」
「でも…。」
琴子は恨めしそうに、般若の面を見た。
「ありましたよ!!」
そこに渡辺が駆けつけてくる。
「ほら、これならまだマシでしょう!!」
渡辺が般若の面の代わりの物をと、探して来た物…それは…『翁』の面だった…。

※参考資料

okina


「ちょと可愛げがあるかと。」
「…あんまり変わらないです。」
琴子は肩を落とした。男と女では感覚が違うらしい。
「面倒な奴だな。もう、これとこれ、両方付けておけ!」
面倒になった直樹は、翁の面を渡辺から奪うと、般若の隣に付けた。どう見ても、女の子の部屋にいは見えない。
「…何か、余計怖い部屋になったみたい。」
半泣き状態の琴子。
「もういいだろ。ほら、支度しろよ。」
直樹は琴子をせき立てる。
「あ、そうだ。今日は久しぶりに直樹さんとお出かけだ!」
機嫌を直した琴子は、慌ててその部屋の中へと入って行った。

「でも、琴子様がおいでになってから、このお屋敷も明るくなりましたよね。」
渡辺は嬉しそうに直樹へ話しかける。それはその通りだと直樹も思う。
「あの方が奥様として早く…。」
言いかけた渡辺の肩に、直樹の手が置かれた。
「お前…今朝、何だか凄いこと言ってたよな?」
恐る恐る渡辺は振り返る。そこには怪しい笑顔の直樹がいた…。


「渡辺さん!!」
庭での作業に汗を流していた渡辺の元へ、外出の支度をした琴子が走って来た。
「あ、お車を今…。」
気がついた渡辺は、慌てて手にしていた箒を置こうとした。が、琴子は、
「いいえ。車は今日はいいです。」
と、手を振った。
「え?」
渡辺が不思議に思っていると、
「あの…車じゃなくて電車とか歩いた方が…直樹さんと二人きりになれるでしょ?」
と、琴子がほんのりと顔を染め、恥ずかしそうに言った。そんな琴子を見て渡辺は微笑む。

「何を作ってるのですか?」
庭で忙しく働く庭師たちを見ながら、琴子は渡辺に訊ねた。
「これは…枯山水です。」
「枯山水?」
渡辺は琴子に、枯山水とは庭園の一つだと説明した。
「すごい!!直樹さんの希望ですか?」
「希望というか何というか…。」
渡辺は溜息をついた。今朝方の渡辺の「琴子に手を出した」発言が直樹の気に障り…そしていつもの命令が出たのである。
勿論、突然の気まぐれに庭師たちは文句を渡辺へぶつけた。故に、渡辺自身もこうして手伝っているのである。
「直樹さんって、お庭作るのが趣味なのかしら?」
琴子はふと思った。他にも色々琴子のためだと花壇やら何やらを作っている。
「…琴子様のためですよ。」
それは間違ってはいないので渡辺は素直に答えた。たとえ、それが…直樹の渡辺への嫉妬半分のものであっても。
「あ、それなんですけれど。」
琴子は渡辺の言葉にどこか引っかかったらしい。
「その…“琴子様”という呼び方は…ちょっと…。」
「なぜでしょうか?」
渡辺は首を傾げる。
「前みたいに、“琴子さん”って呼んで下さい。」
「それはだめです!」
渡辺は琴子の頼みを拒否した。
「琴子様は、直樹様の奥様になられる方です。私の主である直樹様の奥様をそのような失礼な呼び方はできません。」
「奥様…。」
琴子の表情が陰った。
「どうかされました?」
てっきり、琴子は直樹の妻となる日を指折り数えて待っていると思っていた渡辺は、そんな琴子の様子に疑問を感じる。
「いえ…何だかまだ信じられなくて。」
「御結婚が?」
琴子は頷く。
「だって…私のような親の顔も知らない人間が…こんな立派なお家、立派な方の奥様になるなんて…どうしても信じられないんです。」
孤児院育ちの琴子が、直樹の援助を受け、教育を受け…そしてその直樹の妻となる。それが未だに琴子には信じられない。
「もしかしたら、全て夢なんじゃないかって…。目が覚めたら、私はまだあの大蛇森孤児院の一員なのかもしれない…そう思うんです。」
「そんなことないです。」
渡辺はきっぱりと言った。
「琴子様が直樹様の奥様になられることは夢ではないです。」
「渡辺さん…。」
だが琴子には不安が残っている。もしかしたら、直樹は物珍しくて、自分を選んだのかも…。そう思わずにいられないくらい、二人が今まで育ってきた環境は違いすぎる。それは渡辺にも琴子は言わなかった。一人で抱えている琴子の悩みである。

「でも…渡辺さんに琴子様って呼ばれると、何だか渡辺さんが遠い人になった気がして。」
「そんなことないですって。何もあの頃と変わりませんから。」
渡辺の笑顔は琴子を少し安心させた。
そんな二人を見て、庭師たちが、
「執事さんのコレかい?」
と冷やかす。どうやら彼らには渡辺と琴子が恋人同士に見えるらしい。
「ち、違います。とんでもない!こちらは…。」
渡辺が弁明しようとした時、
「渡辺。」
という声が聞こえた。

「枯山水、今日中に出来上がりそうか?」
こちらも外出の支度が整った直樹である。
「あ、直樹さん。」
琴子が笑顔を見せる。
もしかして、今の庭師たちの話が聞こえていたのではと不安になる渡辺。
「ほら、そろそろ行くぞ。」
琴子を直樹が促した。どうやら玄関に姿を見せない琴子を探しに来たらしい。
「はあい。」
笑顔で返事をした琴子に、先に行っているように命じ、直樹は渡辺を見た。
「なあ、渡辺。」
「はい。」
そして直樹は…例の笑顔を見せる。どうやら庭師の話が全て耳に入っていたらしい。
「あそこ…ちょっと寂しいよな?」


「執事さん…あんた、頭は大丈夫かい?」
渡辺の話を聞いた庭師達は、渡辺を怒鳴るどころか心配した。
「はい…。」
渡辺は気弱な返事をする。
「だって…そんな無茶な話、まともだったら口にしないぜ?」
「…分かっております。」
「本当に?だったら…なぜ、今週中に…。」
そこまで話すと、庭師達は一斉に庭の片隅を見た。
「あそこに滝を作るなんて、言うんだい!?」
そう。直樹が渡辺に命じたのは…滝を作ることだった。
「それは…主の命令でして。」
「執事さんの御主人って…変わってるね。」
怒る気も失せている庭師達は、渡辺を冷めた目で見ている。
「はあ…。」
渡辺は思った。明日、明日こそ…職安に次の職を探しに行こうと。

だが、そんな渡辺の決意はこの日の夜、覆された。
「はい、渡辺さん!!」
夕食後、琴子が渡辺の前に、綺麗に包装された箱を差し出した。
「え?」
不思議な顔をする渡辺に琴子は、
「今日、渡辺さんがこの家に来た日なんでしょう?直樹さんが言ってたんです。」
と笑顔で話す。
確かに…渡辺はカレンダーを見た。今日は渡辺がこの入江家に勤め始めた日、すなわち、直樹と出会った日であった。すっかり忘れていた渡辺は直樹を見る。
「…どうせ忘れてたんだろ。」
直樹は笑っている。
「直樹さんが、プレゼントを買いたいって。それを選びに二人で今日出かけたんです。」
「私のために…。」
開けてみてと琴子に言われ、渡辺は震える手で包装を解いた。
「これは…。」
中から出て来たのは、懐中時計だった。
「…執事の必需品だろ?」
蓋を開けると、内側には『To My Friend From N』と彫られている。
「友達…。」
渡辺は目に涙を浮かべて、直樹を見つめた。
「お前は俺の親友だしな。」
「直樹様…。」

―― ああ、だから私は…この家の執事を辞められない…。

渡辺は時計を手に、胸がいっぱいになったのだった。

そんな二人を、琴子は優しく見つめていた――。










☆あとがき
もう、続編祭りってことで(笑)!!
『Daddy Long Legs』の続きです。琴子ちゃんが入江家に来た後の話。
これも続きをまた書きたいな…というか、いつか書くつもり満々でおります。
二人の婚約時代とか…その後とか…。
頭の中では色々浮かんでいるのですが、文字にするとなかなか…。
あと、出すタイミングとか(笑)
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23:29  |  Daddy Long Legs  |  TB(0)  |  CM(2)  |  EDIT  |  Top↑

*Comment

★続編祭り大歓迎!!

こんばんは、水玉さま。

続編祭り大歓迎なので、どんどんいっちゃって下さい。(笑)

夜這い・・・、改め琴子のボケは寝ていても健在ですね。(笑)
でも、琴子の寝ぼけを一番喜んでいるのはやっぱり入江くんですよね。
結婚するまでは、別々の部屋で眠る事を宣言している以上、自分からは行けないと思うので、寝ぼけていても琴子から自分のベッドに潜り込まれて迷惑なわけがないですよね。寝ぼけている琴子に文句を言っていますが、内心は喜んでいることでしょう。(笑)

この日の二人のお出かけの目的は、執事の渡辺にではなく、親友渡辺へのプレゼントを買いに行くためだなんて、本当に渡辺さん嬉しかったんじゃないでしょうか?
直樹に嫌味を言われ、無理難題を押し付けられても、こんなやさしい一面を持っている直樹の傍を離れなれない、辞められない渡辺さんですね。(笑)
りきまる |  2010.04.27(Tue) 00:25 |  URL |  【コメント編集】

★お返事遅くなってごめんなさい

コメントありがとうございます♪

りきまるさん
続編祭り、歓迎してくださってありがとう!!これで迷うことなく書けます!!
夜這い…(笑)まさしくそうですよね。
しかも琴子ちゃんには何の目的もないから、手を出そうにも出せない。お気の毒な直樹さん…。
そりゃあ、内心は「さ、毎晩ねぼけて、おいで!」とか言っているに違ないし(笑)
なんだかんだ、無理難題いっても、結局渡辺さんのことが直樹は大好きなんですよ、友達として。だから大切にしたいから…出会った日まで覚えているという(笑)でもそんな二人の友情を琴子ちゃんも微笑ましく思っているんだと思います。

佑さん
双子の母、覚えていて下さったんですね!!うれしい!!
あの時は…なんかここで終わらせるのもなあとか思って、ピョーンと飛んでしまったんでした。
それに一度、双子の母に琴子ちゃんをしてみたかったというのも。
婚約時代、甘甘だらけだなんて…まさか思ってないですよね?(笑)

藤夏さん
ありがとうございます!!いつか書きたいなと思いつつ、いつ書こうかと…とりあえず前哨戦?です(笑)
でも毎回毎回、重労働させられて、まちがいなく体は鍛えられていますよね、渡辺さん。
いわれてみると、こちらも立派な我慢大会で。でもこちらは自分から我慢すると言ったんだから、そこは貫いていただかないと!!(笑)

ぴくもんさん
わあ、また遊びに来て下さると言って下さって、もう来て下さった!!ありがとうございます♪
本当、ここはやり過ぎじゃないかっていうくらい嫉妬深い入江くんですよね。
しかも、見事なまでにアメとムチをなぜか、渡辺さんに…。すっかり入江くんの魅力のとりこになっている渡辺さんが…(笑)
でもこんな優しい主人だから、執事も一生懸命恋に協力したんでしょうね。

いたさん
双子の件、いたさんも覚えていて下さったんですね。ありがとうございます。
自分のことをよく分かってくれている渡辺さんだからこそ、入江くんも色々無理を言って困らせたりしているんでしょうね。絶対自分からは離れないと分かっているから…。そしてそれは渡辺さんも同じなんだと思います。
男の友情ってちょっと素敵ですよね。
「あしなが」は本当に、沢山の方に読んでいただけていて、こちらも幸せでした♪

まあちさん
私の祖父の家にもありました、能面。女性の顔のもの。私は平気だったのですが、いとこが怖がって…行くたびに祖父が外していたのを懐かしく思いだします。だから…怖いですよ、これは絶対!!大人だって夜とか見ると「ひえ!」と叫びたくなりますし。まあちさんのお子さんの気持ち、よく分かります。というか、それは無理ない!!
そして続き読みたいとのお言葉、ありがとうございます。一番嬉しいお言葉です。

chan-BBさん
そうなんですよね。書いている私がすっかり忘れていることを皆さんがちゃんと覚えていて下さっていて…それが嬉しいのです。
今回も沢山の方が覚えていて下さり、嬉しかったです。
そして、そうでしたね!!この話から私とchan-BBさんの愛が…(笑)いえ、冗談です。ごめんなさい(笑)
でもとっても嬉しかったですよ!!今でもこうしてお付き合いできていることが嬉しいです。
婚約時代…私、オリジナルキャラ出してみたいと思っているんです♪落語家で(笑)

名無しさん
人の役に立つお仕事が似合いそうですよね、渡辺さんは。
やっぱり優しいからかな?
コメントありがとうございます♪

foxさん
foxさんの身近なところにもありましたか…これ、本当に怖いですよね。今回画像探した時、般若は「怖っ!」と思ってしまいました。
こんなもん飾るから、余計避ける気がします、琴子ちゃん。
早く飾る必要がない、二人のお部屋に引っ越せるといいのに。
でもまあ、そんな簡単には引っ越させないけれど、アハハハ(笑)
なんか、私の脳内も祭り状態になっております。

水玉 |  2010.04.27(Tue) 21:42 |  URL |  【コメント編集】

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