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2010.04.23 (Fri)

トンブリの休日 12(最終話)


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随分と長い休暇のような気もするが、僅か1週間のトンブリ滞在から戻ってきた二人。
「はい、入江くん。」
戻る早々、琴子がコーヒーを淹れて直樹に出す。
「…狭いだろ?」
あの広大な王宮にたった1週間いただけだが、その広さに慣れてしまったような気がする。
「ううん。」
琴子は首を振る。
「…何か、ここの方が凄く落ち着く。たった一か月しかまだ暮らしてないのに変だけど。」
琴子にはこの1DKの部屋に何年も暮らしていたかのような感覚だった。
「お風呂の支度してくる。」
琴子は旅の疲れもあるだろうに、落ち着くことなく動き回る。
「そんなに動いて疲れない?」
さすがに直樹が心配すると、
「全然。だって私、主婦だもん!」
という返事が返ってきた。そして、
「もう今日から堂々と“入江琴子”って名乗ってもいいんでしょ?」
と直樹に訊ねた。
「ああ。」
それを聞き、琴子は笑顔になった。

「明日は午前中がポイント10倍か…。」
そして風呂から上がり、入っていたチラシを見てブツブツと呟く琴子。
「冷蔵庫の中、空っぽだしな。買い物に行かないと。」
あと、あそことあそこもポイントが多いしと色々考えている琴子の後ろから、直樹が腕を回してきた。
「…そろそろ、我慢大会終了させたいんだけど。」
「我慢大会って何の?何かしてたの?」
全く気が付いていない琴子に、直樹は意味深な笑顔で答える。
「…だって。」
何の我慢大会か気がついた琴子は、顔を真っ赤にして小声で、
「体操も、サプリも効果なかった…。」
と呟く。
「別に平気だよ。」
そんなこと、何も気にならない。
「…あと。」
「あと?」
更に消えそうな声で、琴子は言った。
「…私、馬鹿だから手順とか…知らない。」
知らないと絶対直樹が呆れると思っているらしい。直樹は苦笑して、
「何だ、お前、『かわいい奥さん』3月号の付録のDVD、見てないのか。」
とからかう。
「嘘!そんな付録あったの!?」
「ああ。それに2月号にもきちんと特集になってたぞ?」
「え、知らない!!」
慌ててとっておいてあるバックナンバーを確認しようとする琴子の手を、直樹は捕まえた。
「冗談だよ、冗談。」
そんな付録や特集、健全な奥様雑誌にあるわけないだろと、また琴子を背後から直樹は抱きすくめて囁いた。こんなにからかいたくなるのは、全て琴子が可愛いからである。

「…琴子は何も考えなくていいから。」
優しく囁くと、直樹の腕の中で琴子はカチカチになってしまった。
「…時間もきっと、分からなくなるだろうし。」
更にカチカチになって行く琴子。これ以上続けると、石と化してしまいそうなのでこの辺で口を止める。

そして直樹は…初めて琴子に深いキスをする。
少しした後、離してみるとまだ琴子の顔は赤いままだった。
「…大丈夫そう?」
今のはお試しだと言わんばかりの直樹の腕を、琴子は返事の代わりにギュッと掴む。その様子を見て直樹は、今度は先程より更に深く長いキスを琴子へとする。
琴子の唇の柔らかく温かい感触を感じていると、自然と琴子の腕が直樹の背中に回された。
それを合図に、直樹はベッドに優しく琴子を倒した…。


深い眠りから覚めた琴子は、隣にいるはずの直樹がいないことに気がつく。
「え…?」
慌てて半身を起こすが、部屋の中にも直樹の姿はいない。
「…入江くん?」
何も身に纏っていない体を隠しながら、琴子はベッドの上に起き上がった。


「しかし、一か月でこれだけポイント、よく集めたな。」
ポイントカードを見ながら、直樹はエコバッグ片手に鍵を開けた。
「あ、起きたのか。」
ベッドの上には琴子が胸を隠して起きている。
「おは…。」
と言いかけた直樹の目が開かれた。
「入江くん…。」
琴子の大きな目から、涙がポロポロと零れ始める。
「何だ、一体?」
昨夜はとにかく怖がらせないようにと、一か月の我慢が爆発しそうになるのを堪えつつ、優しく接したつもりだが、それでもどこか逸る心を押さえきれなかったのか…何か気がつかないうちにどこかを痛めつけたのかと、直樹は不安になり、琴子に近づいた。

「…もう嫌われたのかと思った。」
琴子は泣きながら呟いた。
「まさか。」
どうしたらそんな結論になるのかと直樹は思う。
「よく覚えてないけど、何か気持ち悪い声を出した気がするし…。」
それは気持ち悪い声ではなく、耳に心地いい声だったのだがと直樹は心の中で言い返す。
「…変な顔とかしていたかもしれないし。」
その表情がまた直樹の気分を高揚させたのだが。
「…何も知らなさ過ぎて、入江くん、呆れちゃって…他の女の人の所に行ったのかと思った…。」
「それはない。」
一体どこの女の元へ行くと考えているのか。
―― こんな可愛いお前を置いて、どこへ行くっていうんだ?
琴子の可愛い想像に思わず直樹から笑みがこぼれる。

泣き続ける琴子の前に、直樹がポイントカードとレシートを見せる。
「お前、昨日言ってただろ?今日は午前中10倍だって。」
「あ…。」
カードとレシートを真剣な顔をして見比べている琴子を見ながら直樹は、
―― まさか、あのまま隣にいたら、寝ているお前を起こしたくなったから…とは口が裂けても言えないな。
と思った。
―― でも、きっと我慢できなくて起こす日が来るとは思うけど。

そんな直樹の葛藤など知ることもなく、琴子はきちんとポイントが10倍ついているか、計算に夢中になっている。が、胸は隠しているものの、背中から腰にかけてが丸見えになっていることに気がつき、琴子は慌ててベッドの中に潜り込み、うつ伏せになり顔と手だけ出した状態で再び計算を始めた。
あまりに可愛い琴子の様子に、直樹は思わず笑った。

「うん、ちゃんと10倍になってる!」
琴子は笑顔を直樹に見せた。
「よかった。奥さんの合格点がもらえて。」
直樹はそう言うと、琴子にキスをした。…もう一度琴子の隣に潜り込みたい気持ちを必死で堪えながら。




「お!愛妻弁当ですか!!」
屋上で一人弁当を広げている直樹を見つけ、西垣が声をかけた。
「いいなあ、見せて、見せて。」
無理矢理直樹から弁当を奪った西垣は…噴き出した。
「すごい!!黒いハート!!」
「…トンブリで描いているから!」
直樹は弁当を奪い返す。
琴子の愛妻弁当は、白いご飯の上に大きくトンブリでハートが描かれていた。


「お帰りなさい!!」
そして帰宅すると、玄関に琴子の笑顔が待っている。
「食事にする?お風呂にする?それとも…。」
「琴子。」
もう我慢する必要もない。直樹ははっきりと答える。
すると、琴子の顔が真っ赤になった。
「…何だよ、自分で口にしておいて。」
とにかく琴子のすること、話すこと、全てが直樹には可愛くて堪らない。
「あの…“琴子”はまだ…準備できてないの…。」
真っ赤になり、もじもじしながら答える琴子。
「準備できてないのなら、言うなよ。」
直樹は笑った。もう本当に何でこんなに可愛いのか。そして退屈しない。
「じゃ、食事にする。」
「はーい!!」
琴子は元気よく、キッチンに向おうとした。その手を直樹が掴み、琴子を引き寄せ、その頬に軽くキスを落とした。
また真っ赤になり、頬を押さえる琴子を見て直樹は、
「味見くらいしたっていいだろ?」
と笑いかけ、そして、
「…“琴子”はデザートにする。」
とそっと囁いた。更に琴子の顔が真っ赤になって行くのを見て、直樹は結婚してよかったと思うのだった。


                                                 <終>
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*Comment

★お疲れ様でした

あまりの甘々ぶりに、PC前の私の顔もニヤニヤ、ウフフ。
水玉さまのイリコトのラブラブぶりには、当てられるというよりも、こっちまで幸せな気分になるんですよね。
良いものを読ませてもらったなぁ~と気分も高揚します。
こんな素敵な小説を届けてくれてありがとうございました!

ナナ |  2010.04.23(Fri) 20:05 |  URL |  【コメント編集】

★らぶらぶ大好き!!

こんばんは、水玉さま。
ラストのお話、甘甘で、嬉しかったです、うふ❤

イリコトはやっぱりラブラブで甘甘が一番。
我慢大会が閉会した後の入江君が本当に優しくて・・・
琴子は本当に幸せ者ですね。
ご飯よりもお風呂よりもやっぱり琴子が一番ほしい入江君。

本当に羨まし~いお話をありがとうございました。(笑)
りきまる |  2010.04.23(Fri) 21:08 |  URL |  【コメント編集】

★最後までお付き合い下さり、ありがとうございました。

最後までお付き合い下さり、ありがとうございました!!

ナナさん
最後まで読んで下さりありがとうございます!!
最後はもう…「これでもか」とばかりに甘くしてみちゃいました(笑)
それにしても…ごめんなさい、ナナさんのチェリーがもうツボでツボで(笑)
私自身、本等を読んで自分が幸せな気分になることが好きなので、そんな文章が書けたらいいなと思っているので、ナナさんにそう言って頂けて、本当に嬉しいです!!「こんなふうに感じてもらえると嬉しいな」と思っていたことが伝わったみたいで♪
途中もたくさん励まして下さり、本当に本当に励みになりました!!
ありがとうございます。また今後もお付き合いのほど(笑)よろしくお願いします♪

りきまるさん
最後まで読んで下さり、ありがとうございました!!!
本当、最後は「これ、誰?」と言いたくなるくらいの甘すぎる入江くんを登場させました(笑)いいのさ、これでも!!と自分で自分を励ましつつ(笑)
あと、今回はとにかく、可愛い琴子ちゃんが書きたくてたまらなくて、その辺も意識して書いてみました♪
そして、もう琴子が大好きで大好きで可愛くてたまらないんだという入江くんを最後にドーンと書きたかったので、それもできて(きっと賛否両論ありそうですが)、私個人は大満足しております(笑)
毎日励まして下さり、本当にありがとうございました!どれだけ励みになったか!今後もお見捨てなきよう、なにとぞ、なにとぞよろしくお願いします。

foxさん
最後まで読んで下さり、ありがとうございました!!
やっぱりベタですが、新婚さんのお弁当はハートマークは欠かせないかなと♪ピンクじゃないですが(笑)
琴子ちゃんだったら、絶対作りそうだし。
〆はいつも甘甘な私です♪
いつも励まして下さり、ありがとうございました!!

佑さん
決壊状態どころか、もはや修復不可能…(笑)
きっと仕事で家を離れることも嫌そう…可愛い奥さんが待っている家に帰るため、残業も堂々と拒否しているんだろうなと思いつつ(笑)
最後まで読んで下さり、ありがとうございました!!
コメント、ありがとうございました。佑さんが見捨てない限り、私も頑張れると思いながら書いてたんですよ♪

まあちさん
最後まで読んで下さりありがとうございます!!
とにかく、最後の方は「可愛い琴子ちゃんを書きたい症候群」に陥っていたので、それに合わせると入江くんが甘甘になりました♪
この症候群、しばらく続きそうです。
まあちさんもお忙しい中、励まして下さりありがとうございます。私のような文章でもまあちさんが楽しみにして下さっていると思うと、キーが進みました♪
水玉 |  2010.04.24(Sat) 13:13 |  URL |  【コメント編集】

幸せな気持ちを頂きました。

ありがとうございました(≧∇≦)
tenchan |  2013.10.16(Wed) 11:59 |  URL |  【コメント編集】

★tenchanさん、ありがとうございます。

幸せな気持ちなんて、こちらこそ頂きました!!
ありがとうございます!
水玉 |  2013.10.20(Sun) 22:32 |  URL |  【コメント編集】

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