日々草子 トンブリの休日 11

トンブリの休日 11



直樹の二つ目の願い、それは「滞在中に結婚式を挙げること」だった。
婚約会見の翌日に結婚式とは、国王を驚かせたが、直樹の理由を聞き納得してくれた。しかし、問題が一つあった。それは、結婚式を挙げる教会の準備は問題はないが、琴子のウェディングドレスの準備ができないということ。
「さすがにドレスは一日では…。」
侍女たちが言った。しかし、直樹は、
「…お義母さんは何を着て結婚式を?」
と国王に訊ねた。
「ああ…!!」
愛妻家だった国王は、亡くなった後も王妃の衣装、所持品を大切に保管していた。そしてその中には王妃が結婚式に着用したウェディングドレスも、ティアラもあった。
幸い、琴子は母とほぼ同じ体型だったため、少しの手直しで済んだ。

母のドレスとティアラを身にまとった琴子が現れた時、直樹は何も言えなくなった。
「…やっぱりもうちょっと準備が必要だったかなあ。」
母が着たドレスで式に臨めるのは嬉しいが、そんな直樹を見て、きっと急ごしらえの支度だから変に見えるのかと琴子が不安になる。
「いや。」
直樹は慌てて琴子の言葉を否定した。
「それだけできれば、十分だよ。」
「そう?」
それでもまだ不安そうな琴子の耳元に、直樹は唇を寄せて囁いた。
「…こんな綺麗なプリンセスが、今日から俺だけのものになるんだな。」
琴子は真っ赤になり、直樹を正視できず、手にしていたブーケで顔を隠した。そんな琴子を見て微笑む直樹。

結婚式は日本の教会で行われるものと、ほぼ同じだった。…一点を除いて。
「では、誓いのトンブリを。」
―― キスじゃないんだ。
神父の言葉に、直樹は噴き出しそうになった。そして運ばれてくるクリスタルの器に入ったトンブリ。
見ると、琴子が「あーん」と口を開けている。
―― お前は、鳥のヒナか。
そのあどけなさに笑いをこらえつつ、直樹はスプーンでトンブリをすくい、琴子の口へ入れる。そして琴子も同じように直樹の口へトンブリを運んだ。


式が終わり、王宮へ戻り、国王へ挨拶するために部屋に入って来た二人。

― コトリーナも綺麗だけど、やっぱりお前には敵わないかな。

自分に近づいてくる二人を見ながら、国王は亡き妻の写真を取り出し、語りかける。
そして直樹を見て、

―― どうやら、人を見る目もあったらしいよ。わしたちの娘は。

と続ける。

―― なぜ、そんなに結婚式を急ぐのかい?
直樹から申し出があった時、国王は理由を尋ねた。すると直樹は、こう答えた。

―― お義父さんとお義母さん、そして彼女を愛するトンブリ国の国民の皆さんに、彼女の花嫁姿を見てもらいたいのです。


段々近づいてくる二人を見て、また国王は亡き妻へ語りかけた。

―― わしたちの娘は、最高の男を選んだよ。



挨拶を済ませ、二人はバルコニーへと向かった。
「わあ…。」
バルコニーの下には、大勢の国民が集まり、二人の結婚を祝福している。
「すごい…。」
感涙にむせぶ琴子。そんな琴子を見て、直樹は、
「これだけの人々にお前は愛されているんだな。」
と話しかける。そしてそんな琴子と出会えたことを直樹は誇りに思った。

手を振り、笑顔で歓声に応える琴子。そんな時、
「琴子。」
と直樹に呼ばれ、横を向く。すると、突然直樹に腰を抱かれ…あっというまに口づけがされる。待ちかねたロイヤルキスに一際歓声が大きくなった。

「え?え?」
唇を離した後、琴子の顔が真っ赤に染まったかと思うと…琴子はバタンと倒れてしまった。

「お、おい!?」
なぜ突然と直樹は琴子を覗き込む。上せて倒れてしまったらしい。集まっている国民もざわめき…そして琴子は引きずられるようにバルコニーから室内へと運ばれたのだった…。


「まさか、キスで倒れるとは…。」
直樹は溜息をついた。
琴子はウェディングドレス姿のまま、ソファに寝かされ、氷嚢を当てられ、うんうんと唸りながら、
「だって…不意のキスなんて…考えてなくて…。」
と呟いた。
「お前、前に突然自分からキスしてきただろうが。」
直樹が言い返すと、
「自分からは平気だもん…でも入江くんがしてくれるなんて想像してなかったから、驚いて…。」
と言い返してくる。

倒れた琴子を見て、侍女たちが直樹を恨めしそうに見た。
「一か月も一緒に暮らしておいでで…キスもまだされたことがなかったなんて…。」
「いや、だから、それは…。」
直樹が話そうとするが、侍女たちは、
「そりゃあ、王女様のお体は何の引っ掛かりもない、寂しいお体ですけれど…。」
と、とんでもないことを言い出す。
「でも、これでも毎日バストアップ体操は欠かさずされておいでですし。」
「通販で豊胸に効果があるというサプリも買ったことがおありだったし。」
と、更に侍女たちは琴子の涙ぐましい努力を暴露し始める。
「別に俺は琴子の体が理由で…。」
直樹が何とか侍女たちの口を止めようとすると、今度は、
「済まない、コトリーナ。お前のその寂しい体はわしの母親に似たんだ。」
と国王が謝りだす。そして、
「直樹くん!こいつは確かに体は女として魅力ないかもしれんが、性格は素直で明るくていい奴だから…だからどうか…!」
と直樹に懇願をする始末。
「だから、違いますって!!」
直樹が叫んだ。

「でも困りましたわねえ…。」
まだ唸り続けている琴子を見て、侍女が溜息をつく。
「キスでこの調子だなんて。王女様、今夜は初夜ですよ?」
「しょ、初夜!?」
琴子がガバッと起き上がった。ずり落ちる氷嚢を押さえながら直樹を見る。
「しょ、しょやって…あの108回鐘を鳴らす…?」
「それは除夜の鐘でしょう?王女様、ボケもイマイチでございますわ。」
侍女の容赦ない突っ込みに、また琴子はソファに倒れ込み、
「しょや…しょや…しょや…。」
とうわ言を繰り返していた。
この調子では初夜どころではないと、直樹は溜息をついたのだった。


「入江くん…。」
その晩、直樹の部屋に琴子が顔をのぞかせた。見ると琴子はパジャマ姿で枕を持っている。
「…もう結婚したから、一緒に寝てもいいでしょう?」
「昼間倒れたくせに…。」
呆れつつも、直樹は拒否する理由もなく、部屋へと入れた。
「わーい、やっと入江くんと一緒に寝られる!」
琴子はベッドへとダイブする。直樹も隣に入る。

「ね、入江くん。」
琴子が直樹の顔を見て言った。
「あのね…あの…。」
直樹は琴子が言わんとしていることが分かった。
「…初夜は日本へ戻ってからって言いたいんだろ?」
「そう!!どうして分かったの?」
驚く琴子。直樹は笑って、
「そりゃ、夫婦だから。」
と優しく琴子の頬へ手を伸ばした。
「あのお部屋が私、大好きなんだもん。あそこが私たちの始まりだったから…。」
少し恥ずかしそうに理由を説明する琴子。そんな琴子が可愛くて堪らないと思う直樹。
「…この部屋の半分もないけどな。」
「ううん!」
琴子が首を振る。そして、
「あそこが、私と入江くんのお城よ。誰にも邪魔されない二人だけのお城。」
と嬉しそうに言った。
「かしこまりました。王女様。」
直樹も琴子の気持ちを尊重することにした。それにあの部屋で夫婦としてスタートを切りたいという気持ちは直樹も一緒だった。

「疲れただろ?ゆっくり寝ろ。」
直樹が優しく言い、琴子の髪を撫でる。琴子は気持ち良さそうに目を閉じ、
「…お休みなさい、入江くん。」
と呟き、瞬く間に眠りに落ちて行った。

「お休み、琴子。」
琴子の気持ちよさげな寝息を聞きながら、直樹は琴子の額にそっと口づけをし、目を閉じた。











☆あとがき
コメントのお返事をせずに、先に話を書いてしまって、申し訳ございません。

あと1回で終わります♪
もうちょっとお付き合い頂けると、嬉しいです^^
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comment

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琴子、やっと夫婦になれたね

こんばんは、水玉さま。
お話の続きを楽しみにしているので、お話が優先でも、私は大丈夫です。
だって早く読みたいんですもん。(笑)

入江くん、琴子、結婚おめでとう。
これからも夫婦仲良く、お幸せに❤

国民の前で、夫婦になった幸せをかみしめる入江くんと琴子。
バルコニーでの熱いキスで倒れた新婦琴子は、頭に血が上ったのか倒れてしまいましたね。
入江くんも国民の皆さんも本当にビックリしたでしょうね。

初夜の日が違う意味で楽しみです。うふ❤

初めまして

毎回楽しく読ませていただいてます(^ω^)
もー本当に大好きです!
話がいいテンポで進んでいて、ちっとも飽きません!
私事ですが、イタキスがパチンコになるみたいなのでまたファンが増えるといいなぁと思いながら過ごしてます(笑

へんなコメントですが←
これからも応援してます(*´д`*)

結婚おめでとう

形見のドレスを着た、琴子キレイだったでしょうね!

直樹の粋な計らいやるーぅ!

後は帰国?ム・フ・フですね?

おぉ~!!結婚おめでとう♪
帰国後が楽しみ♪うふふっ

直樹も琴子ちゃんのことが大好きでたまらない!!
ってところが出てて好き♪


コメントありがとうございます

コメントありがとうございます♪

りきまるさん
お言葉に甘えて、最後まで一気にUPしてしまいました^^
ありがとうございます。
そう言っていただけて、嬉しいです。でもなるべくお返事も同時進行できるように頑張りますね!せっかく皆さんがお忙しい時間を割いて私のような者にコメントを下さるのですから、私もちゃんとお返事だけは…!と心がけます♪
倒れたらびっくりでしょうね。きっと「妊娠?」とか思われそう(笑)でも一か月しかまだ一緒にいないから…それはちょっと無理があるか(笑)

みさみささん
はじめまして!!コメントありがとうございます!!
テンポ、褒めてくださってありがとうございます。私が非常に飽きっぽいというか、スピードの遅いドラマとかが好きじゃないから、きっとそれが出ているのかもしれません(笑)
パチンコ…うわさは聞いたことがありますが…すごいですね。いまやパチンコ、何でもあるみたいですものね。
きっかけは何であれ、同じものを好き~とお話ができる人が増えることは嬉しいです♪
ぜひまた遊びにきて、お気軽にお言葉を残して下さると嬉しいです^^

kobutaさん
ヘタレ直樹を書き続けてきた私も…たまには粋な入江くんを書くこともあるんです(笑)という感じ(笑)
もう…本当、たまにはいい男に書きたい!!との一心で!!
帰国後のム・フ・フ、楽しんでいただけたでしょうか?

ゆみのすけさん
今回の話は、その「好きでたまらない」を前面に押して押して押しまくりました(笑)
たまには、そういうのがすごく書きたくて。
今迄ため込んでいたものを最終話で吐き出した感じがします(笑)

佑さん
私もダイアナ妃をイメージして…♪ダイアナ妃の結婚式は、リアルでは記憶がないですが、何度もテレビで放映されて、そのたびに「お姫様って感じ~」とうっとりとしていました。金髪で綺麗で…その後は苦労し続けて大変な生涯でしたけど…。
外国の王室の結婚式って素敵だなあって思います。
だから、絶対琴子ちゃんにもバルコニーキスをさせたかったんです^^

まあちさん
誓いのトンブリは、最高級で山盛りにされていて…でも一口しか口つけないという非常にもったいない感じだと思います。
キュウイチも苦々しい気分で見ていたか…いやいや、一応祝福はしたのかも。内心「この男には勝てない」とか思っていてほしいです(笑)

foxさん
その琴子ちゃんも書きたかったんです!!本当は…白状すると…ナマハゲの格好での結婚式にしようかと思っていたのですが、でもやっぱりドレスだなあと思って。
あーんって口を開ける琴子ちゃん、想像すると可愛いと思いませんか?
まあ、琴子ちゃんはどんなことしても可愛いですけどね!

いたさん
トンブリ、見たこともないんですよ!!でも原作に「畑のキャビア」とか書いてあったので、あんな感じかあとか思いつつ。キャビアも一回しか食べたことないんですけどね(笑)あんまりおいしいものじゃなかった(笑)
トンブリもやっぱりクラッカーとかにのっけて食べたりするんだろうかとか考えつつ。
トンブリの交換…それはもうトンブリを愛するカップルくらいしかやらなさそうですね(笑)

藤夏さん
寂しく思っていただけて、嬉しいです♪ちょっと私も寂しさを感じておりました。最近なんだかそんな気分になることが多いです…。

名無しさん
可愛いと言って下さってありがとうございます^^




プロフィール

水玉

Author:水玉
『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
そっと見守っていただけたら嬉しいです。

※当ブログに掲載されている文章及びイラストの無断転載・使用はご遠慮下さい。

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当ブログは、『イタズラなkiss』の二次創作をメインとしておりますが、時折管理人の趣味や日々の出来事についての記事も書いております。

原作者様や関係各位とは一切関係ありません。

二次創作については、いわゆる原作の隙間をぬった作品もありますが、主人公以外のキャラクターをメインとしたものや オリジナルキャラクターが出てくるものもございます。

そして、原作と違った時代(平安や明治やその他の時代を舞台にしております)、異なる設定(主人公を医者と看護師じゃない職業にしております)で書いてあるものが多いですが、原作を冒涜しているつもりは全くございません。

二次創作が苦手という方及び原作のイメージと合わないと思われる方はどうぞお引き取り下さいますようお願いいたします。

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