日々草子 トンブリの休日 7

トンブリの休日 7





パソコンのキーをパチパチと叩くキュウイチを見て、琴子は思う。
―― よく見れば、この9対1の頭だって…個性的でいいかも。
そう思わなければ、とてもじゃないがこの男と一緒に生きて行くことはできない。結婚するからには、やはり相手を愛したいと思う。
そんな琴子の視線に気がついたキュウイチが琴子を見た。
「何か?」
そしてメガネをクイッと上げる。今は何だか腹が立つこの仕草も、いつかはいいと思える日が来るに違いない…そう思う琴子は口を開いた。
「あの…もしよかったら、今度、何か作ろうかなって。」
「作る?」
眉を寄せるキュウイチ。
「そう。ええと…キュウ…じゃない、エドワード、何か好きな食べ物とかある?」
「ああ、作るって料理ですか。」
そしてキュウイチは「くだらない」と小声で呟いた後、
「そんなこと、あなたがする必要ないでしょう?」
と、琴子に冷たい視線を注いだ。
「でも…ほら、奥さんになるんならそういうことも旦那様にしてあげたいなって。」
そう言いつつも、本当は目の前のこの人間のためにしたいわけではない。だが…本当にしてあげたい人間は自分から縁を切ってしまった琴子。
「そういうことは、王女、いえ、将来この国の女王となるあなたには一切必要ないです。」
キュウイチはきっぱりと琴子へ告げた。
「でも…。」
「そのようなことは専用のコックに任せればよろしい。」
「はい…。」
それ以上逆らうこともできず、いや、逆らう気力もない琴子はそれだけ口にした。

「そんなことより。」
キュウイチは手をパンパンと叩いた。すると大量の本を抱えた人間が現れ、二人の間にそれを置いた。
「この本、全てを読むように。」
「何の本?」
「あなたが読むべき、帝王学の本です。」
「帝王学…。」
琴子は、今まで父親からもそのようなことを学ぶように言われたことはない。父はこれまでも琴子に王位継承者であることを無理に自覚させようとしたことはなかった。
「後日、テストしますから。」
「テスト!?」
琴子は本を見る。一冊の厚さが15センチはある。それを数日で読めとは無茶であろう。
「無理とか思ってます?」
またもや、眼鏡をクイッと上げ、キュウイチは琴子の考えを見透かした。
「こんな量を読めないようで、女王が務まりますか?」
「でも…。」
本をパラパラとめくると、ぎっしりと字が詰まっている。
「これくらいの本は、もう頭に全て入っていなければいけないんですよ、あなたは!」
キュウイチが叱りつけるように言った。
「それに、僕としても馬鹿な女王を夫としてサポートするのはごめんです。」
「夫…。」
自分にもこの男が夫となる人間だと言い聞かせていたのだが、本人からそう言われると複雑な気分に琴子はなる。
「本当は一晩で読んでほしいものですが、あなたには無理でしょうから。」
そしてキュウイチはパソコンにまた向かい、その後二人が会話を交わすことはなかった…。


一方、直樹は一晩考えても、気分は晴れなかった。
取りあえず、帰れと言われたのだから帰らねばならない。だがその前に琴子にもう一度会いたいと思い、琴子の部屋へと向った。
―― 会った所で、何をどうするってわけじゃないだろうけど。
何だかどうしていいのか分からないまま、琴子の部屋をノックする。が、返事がない。
「いないのか?」
直樹はノブに手をかけた。カギはかかっていない。ドアを開けて中へ足を踏み入れた。
やはり、部屋には誰もいなかった。
いくら一か月、同居した関係とはいえ、主がいない間に部屋へ入るのは悪いとは思うが、何だか出るに出られなくなってしまった直樹。

室内は、直樹に与えられている部屋よりも広かった。
「これが王女の部屋か。」
思わず呟いてしまう。全体的に女性向けの明るい色彩に飾られている。
そこで直樹は、その部屋に似つかわしくないものを発見してしまった。それは――アイロン台。思わず近寄る直樹。
「何だ、これ?」
笑いもこぼれる。そこで思い出すのが、初めて会った日に琴子が口にした言葉。

―― 私はお掃除、お洗濯をして。そして、“お帰りなさい”って迎えて、夕食のテーブルを囲むの。“おいしい?”“明日は何が食べたい?”とか他愛のないことを話して。そして、旦那様がお風呂に入っている間に、私は洗濯物を畳んで…お風呂から出てきたら、“あなた、穴の開いた靴下は履かないで”とか、“パジャマのズボンのゴムが伸びていたから、入れ直しておいたわ”とか…。

琴子のささやかな願い、それは…“お嫁さん”。
叶うことがないその願いを胸に、きっとこの部屋でこっそりとアイロンがけの練習をしていたに違いない。

「その割には、この間俺のシャツ、焦がしてくれたけどな。」

直樹は他も見回した。机の上には料理の本や家事の本が置かれているどれも初心者向けで、それぞれ付箋が沢山つけられていた。

「何でこんなに揃えて、あの腕前なんだか。」

だが直樹は思う。
少なくとも、この一か月、琴子のささやかな願いは現実のものとなっていた。たとえ正規な夫婦ではなくとも…。

暫くの間、この部屋に直樹は佇み…そして出て行った。



重たい本を抱え、前もよく見えないまま、琴子はヨロヨロと自室へ向かう
「お、重い…。」
腕がしびれかけている。あまりの重さに、琴子は本をひっくり返してしまった。
「あーあ…。」
散らばった本を見て、琴子は溜息をつき、泣きたくなってきた。
「もう…嫌。」
だが、そう言っても、これが自分が選んだ道なのだから仕方がない。琴子はしゃがみ、本を重ねる。
「こんなことしないといけないの…?」
そして脳裏に浮かぶのは、直樹の顔。
「入江くん…。」
本を拾う手の上に、涙がポツリ、ポツリと落ち始めていた。



「何ですか、この点数は。」
数日後、宣言どおりにキュウイチは琴子にテストをした。が、結果は散々たるものだった。
「ごめんなさい、一生懸命読んだのだけど…。」
だが、あまりに内容が難しく、一冊も読み終えることができなかった琴子。
「全く、これじゃ先が思いやられますね。」
あまりのひどさに、キュウイチは答案をビリッ破いてしまった。

「あ、これを今日は渡しておきます。」
キュウイチは、今度は琴子にレポート用紙のようなものを渡す。
「何、これ?」
一体今度は何をさせる気なんだろうと不安に思いつつ、琴子は受け取る。
「交配についてです。」
「コウハイ?」
キュウイチの言葉の意味が分からず、訊き返す琴子。そんな琴子に今日もキュウイチは溜息をついた。
「こんな言葉の意味も分からないんですか。」
「すみません…。」
謝ってばかりの琴子。
「分かりやすく言うと、子作りです。」
「こ、子作り!?」
さすがに琴子の顔が赤く染まる。だがキュウイチは顔色一つ変えずに続ける。
「王室の後継者を作ることも、女王の大切な役目でしょう。」
「そ、それは…。」
確かに言われてみるとそうかもしれないが、このように堂々と言われると困る琴子。
「大丈夫です。」
意外な言葉がキュウイチから出て、今度は別な意味で琴子は驚いた。この男にも気遣う優しさがあったのか…。
「無駄な時間は一切ないように、計画しておきましたから。」
「計画?」
だが琴子の期待は裏切られた。
「ええ。パソコンで計算し、シュミレーションしました。このような行為に無駄な時間をかけるのは無意味ですからね。」
「無意味…。」
何だか機械になった気分がする琴子。
「そうです。僕の計算なら、1時間弱で終わる予定です。」
「時間まで…。」
ムードも何もないキュウイチの言葉に、琴子は失望する。
「勿論、日も僕の方で選びましたので。」
「そこまで…。」
更にキュウイチは琴子を驚かせる言葉を口にした。
「そこに書いておいたのは交配の手順です。」
「て、手順!?」
チラリと目をやると、何だか絵のようなものが細かく描かれている。見るのも嫌になる琴子。
「そうです。得体の知れない男に何をされているか知りませんが、そんなことを僕の前でされると困るので。」
「そんな!!」
さすがにその言葉に琴子は抗議する。
「私と入江くんはそんなことはしてないもん!!」
「どっちでもいいですよ。」
キュウイチは琴子の抗議も耳を貸さなかった。
「とにかく。そこに日も書いておきましたから、その日までにそれを全て頭に叩き込んで下さい。流れよく、効率的にやりたいので。」
「そんな…。」
最早愛情の欠片もない。琴子は絶望を感じた。










☆あとがき
いや~自分で作ったオリジナルキャラだと、もうとことん悪く書けますね(笑)
どんだけひどく書いても、うしろめたさがない(笑)
だからこそ、「ひどい奴」と言われると成功感を感じる私です(笑)
初悪役、なんだか予想以上にひどい男になってきました…。
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comment

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 こんにちは、お邪魔します^^

 ダメダメダメ!! 絶対にダメー!!><。
 直樹さん以外の人と、こ、交配するなんて……ていうか、手順って……このお兄ちゃんに愛情という言葉はあるのでしょうか!?
 水玉さん、こいつの低い鼻をメッタメタにしちゃってください!

 直樹さんのワイシャツを焦がしちゃうなんて、琴子さんが可愛いです!
 きっと直樹さんを思いふけって、アイロンしていたことを忘れていたに違いない!^д^v
 そんな二人が大好きです!

 あ、分かります^^
 私もひどい奴を作ると結構、そいつに悪役を押し付けてしまう。押し付けすぎて「読者に作者って嫌な奴って思われたりしないかな!?」とか思います。
 でも、やっぱり爽快なので止められません!


 ではでは、お邪魔しました^^
 次回を楽しみに待っています。

ひどい・・・

こんばんは。

キュウイチの言動に憤りをかんじてしまう今日この頃ですが、
琴子の様子を見ていると本当にこんなやつと交配をしなくちゃいけないんでしょうか?
っていうか、こんなやつと結婚させたくないよ。


入江くん、帰らずに琴子を助けてあげて~!!

許せな~い<`ヘ´>

最低な男ですね(-_-メ)
キュウイチ!!!

琴子がかわいそう(T_T)

絶対キュウイチとなんか結ばれちゃダメ!!!
琴子の事を一番に考えてる運命の人は入江くんなんだから(^_-)-☆

入江くん、早く琴子の元へ行って救ってあげてm(__)m

初?悪役??
あの~~パンプキンちゃんは善人って事でいいのかしら??笑

キュウイチの緻密な計算が凄すぎる!!
うん!凄くいいキャラですよキュウイチ!!
キュウイチが言葉を発する毎にそろばんやPCの効果音が流れて来るわ!!

その後入江君がどう琴子ちゃんと絡んでくるのか
とっても気になります♪
早く可愛い奥様のエプロンをつけて
井戸端会議を開けるときが来ることを祈っています♪
あ~直樹とのチュッ♪がたまらなく恋しい!!

交配って…!!

その単語に笑っちゃいました。
所要時間や手順よりもポイントは排卵日だろ~と思いつつ、もしやキュウイチそれまで把握済み?
チェリーの癖に、セクハラなんて100年早~い!
水玉様が思いっきりキュウイチを陥れ、ボロ雑巾のような姿を見れる日を心待ちにしてます!

でも、パンプキンの時もそうでしたが、とりあえず相手の長所を探して受け入れようとする琴子は健気で前向きですよね。
勢いのある琴子も可愛くて好きだけど、こっちの琴子は庇護欲を駆られ、すっかり紀子ママになった気分で見守っています。
「お兄ちゃん、しっかりしなさいよ!」って入江君を張り倒したくなりますよー。

更新、頑張ってくださいね!

すいません。水玉さんのお話で、初めて『もう今回は読み返したくない』と思いました。キュウイチひど過ぎ!何とか奴のいいところを探し出して好きになろうとしてる琴子がかわいそうです!なんでこんな最低な奴が琴子の婚約者なんだ~!決めたの誰?直樹、身分の違いなんて気にせず、早く琴子を助けてあげて!

コメントありがとうございます

コメントありがとうございます♪

暢気猫さん
そうなんです!!あんまり悪く書いていると、
「この人…実はこんな人なんじゃあ」
「もしかして、自分をモデル?」
とか思われたらどうしようって!!でも悪役って自分で作り上げると、もうとことん悪いことさせた方が壮快というかなんというか(笑)
同じ気持ちで嬉しい!!!
で、アイロンの件。きっとそうだと思います。
「今頃、お仕事頑張っているかなあ♪」とか思っていたら、焦しちゃったとか^^可愛いですよね、新妻(のつもりの)琴子ちゃん♪

りきまるさん
本当にこんな奴と結婚する気になってる琴子ちゃんがかわいそうで、かわいそうで…
でもキュウイチは最初、ことが済んだら「それじゃあ」と他の愛人の元へ行くようなキャラにしてやろうかと思っていたんで、これでも多少優しく書いたんです(笑)
悪役、一度作ると癖になります…またどっかで作り上げる気満々なのですが(笑)

とんちゃんとんとんさん
入江くん、この次にやっと登場してもらいましたよ!!
さすがにこれ以上、キュウイチの悪事を書き続けているとまずいかと(笑)というか、例のごとく、私がそろそろ入江くんと琴子ちゃんの甘甘に飢え始めたのものですから…(^^ゞ

ゆみのすけさん
パンプキンちゃんはねえ、確かに、最初、ヒールだったの!!でも…今はもう愛情が湧いて湧いて(笑)どれだけ嫌われても、私がお前を庇ってあげると、もはやパンプキン母の気分な私(笑)
設定は一応、あれでヒールだけど、私の中ではヒールじゃなくなってます(笑)
このままでは、直樹の我慢大会がそのまま続くことにもなるし…それに早く琴子ちゃんに本物の新妻になってほしいし…
てわけで、そろそろ直樹の反撃を(笑)

ナナさん
こちらこそ、チェリーに爆笑したんですが(爆笑)
決定ですか、そうですか(笑)←そりゃそうか
でもこういう男ってそこまで調べ上げそう…ひ~怖い!!
私も庇護欲をそそられる琴子ちゃんが好きなので、どうしてもいつもこんな琴子ちゃんになってしまいます。本当は原作イメージ通り元気いっぱいにすべきなんでしょうが…元々最初に書いた話が、健気な琴子ちゃんだったからでしょうか?
この王女様シリーズでも、そのうち紀子ママを出したいので…てわけで、きっとなんだかんだとまた書きそうです(笑)

祐樹’Sママさん
いいです、いいです。悪役冥利に尽きます(笑)
でもそんなに可哀想に思われて…ちょっと可哀想に書きすぎたかな?琴子ちゃん。
でもこれくらいひどく書かないと、何せ書き手の私が下手なもので、後の入江くんの逆襲がパッとしないんです…涙
ほら、最初とことんひどく書いておけば、その後そんなにパッとしなくても際立つというか…そこを狙っている私です(笑)

まあちさん
結局まあちさんのその想像が当たっていたという(笑)
いや、最初からそうするつもりだったのですが…なんかあまりにひどく書きすぎて、せっかく当てていたまあちさんが自分で撤回することになるとは(笑)そこも楽しませていただきました!!!

佑さん
ただ単にひどい奴だと、ちょっと後味悪いかなあと思い、常人では考えられないようなことをしでかす人間にしたんです。だから佑さんが滑稽だと言われて、ちょっと嬉しかったです。
ここまでやると、確かにひどさ通り越して滑稽ですよね^^

藤夏さん
もう徹底しましたよ~!!もう恐れるものは何もないと、自分に言い聞かせ、とことん悪街道を走らせました!!
いやあ、これ、結構スカッとするかなんというか…だけどその分、入江くんの逆襲が難しいということに気がつきました(^^ゞ
この次悪役出す時は、そこまで考えることにします(笑)

foxさん
こういう男ってそういうこと考えそうで…マニュアル人間っていうんでしょうか?何でも手順どおりに進まないと怒りだすタイプ。で、融通がきかず、突発的な事情に弱いタイプ。
こういう人間にしてみました、キュウイチ。
で、誰が糾弾するか…それは8をどうぞ♪

kobutaさん
私もここ数日、kobutaさんからのコメントがなくてちょっとさびしい思いをしていたので、頂けてうれしいです♪御心配おかけして申し訳ございません。
本当、直樹も直樹だと書きながら自分で思ってました。
それにキュウイチとこのままHAPPYには…なるわけない(笑)
だっていくらなんでも、これじゃ悲恋というかなんというか…(笑)
プロフィール

水玉

Author:水玉
『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
そっと見守っていただけたら嬉しいです。

※当ブログに掲載されている文章及びイラストの無断転載・使用はご遠慮下さい。

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このブログについてのお願い
当ブログは、『イタズラなkiss』の二次創作をメインとしておりますが、時折管理人の趣味や日々の出来事についての記事も書いております。

原作者様や関係各位とは一切関係ありません。

二次創作については、いわゆる原作の隙間をぬった作品もありますが、主人公以外のキャラクターをメインとしたものや オリジナルキャラクターが出てくるものもございます。

そして、原作と違った時代(平安や明治やその他の時代を舞台にしております)、異なる設定(主人公を医者と看護師じゃない職業にしております)で書いてあるものが多いですが、原作を冒涜しているつもりは全くございません。

二次創作が苦手という方及び原作のイメージと合わないと思われる方はどうぞお引き取り下さいますようお願いいたします。

コメント及びメールなどでの苦情及び批判は公開、非公開を問わず、私へ告げることはご遠慮いただけますよう、お願い申し上げます。

このブログ及び掲載されている話が嫌いだと思われたら、黙ってあなた様の中から、このサイトの存在を消去していただけますよう、お願い申し上げます。

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