日々草子 トンブリの休日 6

トンブリの休日 6


「義務を放棄」「勝手なことばかり」「自分だけ幸せならそれでいいのか」と、次から次へとその後もキュウイチは琴子に会う度にぶつけてきた。最初は相手にしなかった琴子だが、何度も言われると…さすがに悩み始める。
決定打は、この言葉だった。

「王族というものは、人より恵まれている分、我慢しなければいけないことがあるんじゃないですか?」

琴子はキュウイチへ訊ねた。
「我慢って?」
「…自分がしたいことを優先するべきじゃないってことですよ。」
「そんな…。」
「大体、あなた、先日の日本訪問で随行員の目を盗んで遊び呆けたそうじゃないですか。」
「でも…たった一日よ?」
「その一日あなたがスケジュールをすっぽかしたがために、どれだけ周囲が迷惑したか分かってます?」
それを言われると、琴子には何も言い返せない。そんな琴子を更にキュウイチは見下す。
「しかも、現地の男といちゃついて、そのまま帰国せずにその男の元へ転がり込む神経が僕には分からない。」
「それは、ちゃんとお父様にもお話したもの!」
「しかも“琴子”なんて、センスの欠片もない名前を名乗って。」
「ひどい…。」
琴子は泣きたくなってくる。だがキュウイチはそんな琴子を思いやることすらしない。
「大体、王族として生まれたからには、結婚だって自由にはできないものなんです。」
「そんなこと…ないわ。」
キュウイチは溜息をついた。
「全く…本当に自覚のない人なんだ。」
琴子は俯いてしまった。そんな琴子を見て、キュウイチは語気を強めて、
「いいですか?王族として生まれたからには、きちんとトンブリ国にふさわしい人間と結婚しなければいけないんです。どこの馬の骨か分からないような男と結婚するなんて言語道断。」
と言い放つ。
「…それが、あなただっていうわけ?」
琴子は残された力を振り絞って、キュウイチを見た。
「どうして僕が選ばれたかは知りませんけどね。でも僕は…。」
キュウイチはそこで一旦言葉を区切り、そして言った。
「僕は、あなたと結婚すると決められて、全て人生をそのことに捧げたんですから。」

そこまで話すと、キュウイチは琴子を一人その場に残し、去って行ったのだった。


直樹は一人、部屋にて例の指輪を見ていた。そこに、ノックの音が響いた。
ドアの前に立っていたのは、琴子。
「あのね…。」
思わず直樹は手にしていた指輪を後ろへと隠す。さて、一体いつ渡そうか…。
「何?」
琴子の様子はまだおかしい。
「あの…。」
「だから何だよ。」
「…どう?この王宮の居心地は?」
突然何を口にするのかと、驚く直樹。
「まあ…桁違いの広さやら何やらに驚いてはいるけど。悪くはない。」
慣れてしまえばどうということはないと思う直樹は、率直に答えた。
「そう?ならよかった。」
少しホッとした顔を見せた琴子だが、また複雑な表情に戻る。
「お前も…実家はいいだろ?」
琴子が元の生活に戻りたくなっているのではないかと、まだ直樹は心配している。もし、戻りたいと言ったら…。
「うん。」
琴子は頷いた。その先に「でもやっぱり入江くんと一緒がいいな」とか口にしてくれるのではないかと、直樹は少し期待する。が、
「やっぱり住み慣れた所はいいと思う。」
と、直樹の期待を裏切る言葉が続いた。
「住み慣れた所、ね。」
それはもっともだろう。直樹だってどんなに広くとも、やはりどちらがいいかと問われれば、あの住み慣れた1DKがいいと答える。
「だから…。」
琴子が言いづらそうに口を開く。
「だから?」

「だから…このままここにいようかと思うの…。」

琴子の口から、一番直樹が恐れていた言葉が飛び出した。

「俺は…この国にはいられないぞ…?」
本当なら「冗談はよせ」とでも言うべき所なのだろうが、なぜか直樹はその言葉が出ない。もしかしたら、薄々、琴子がそう言うことを気が付いていたような気もする。

「うん、分かってる。」
琴子は俯いたまま答えた。

「だから…入江くんだけ、日本に戻ってもらえる…?」

「日本に…。」

「それならお前は?」と訊き返したいのだが、訊かずとも答えは分かる気がする直樹。

「だから、結婚の話とかもなかったことにしてもらってもいい?」
「結婚の話って…。」
あまりの突然、そして勝手とも思える琴子の言い分に、直樹は腹立ちを覚え始める。
「それはお前が一人で勝手に騒いでいただけだろう。」
「…そうだよね。」
言い返すことすらしない琴子に、腹立ちが募り始める直樹。
「無理矢理休暇取らせて、強引にこんな遠くまで引っ張ってきやがって。」
「うん、ごめん…。」
「ごめんで済むか。」
琴子は直樹の声がどんどん冷たさを帯び始めていることに気がつき始めた。そうなっても仕方のないことを言っているのは自分なのだからと思う琴子は、黙って直樹の話を聞いている。

「本当に王女様ってのは、わがままだよな。」
「…ごめんなさい。」
「まあ、仕方ないか。こんな所で育った人間がさ…あんな狭い部屋で生活していくなんて無理だったし。」
「…。」
「分かった。俺も仕事に戻りたかったからちょうどいい。」
「…。」
「そうだ。」
直樹は何かを思い出したような声を上げた。
「俺、一度もお前に…好きだの愛してるだのって口にしたことなかったな。」
「…そうだね。」
言われてみて、琴子も初めて気がつく。考えてみれば、琴子が半ば強引に直樹の元へ転がり込んできてから、一度も言われたことはなかった。
「それなのに、勝手に結婚とかまで話進めて。本当、お前のやり方って強引以外の何物でもない。」
「…。」
直樹が言うとおりだと思う琴子。勝手に直樹も自分と同じ気持ちだと思っていたが、もしかしたらそれは自分だけで、直樹は嫌々自分の“おままごと”に付き合ってくれていただけなのかもしれない。

黙り込んでいる琴子に、直樹は最後にこう言った。
「じゃあな。お元気で、王女様。」
そして琴子の目の前でドアをバタンと閉めた。

「さようなら…入江くん。」
小声でそれだけ呟くと、琴子は直樹の部屋の前から歩いて行った。

「ったく、何だよ!」
直樹はベッドに倒れ込むと、誰もいないことを幸いに怒鳴った。
「散々振り回しやがって、で、“さようなら”って!」
直樹は琴子に別れを切り出されたことがショックだったわけではない。いや、それもショックには違いないのだが…一番ショックだったのは、琴子が自分との生活に我慢できなかったことだった。
「結局、あいつもだたのわがままな王女様だったってことか。」
もう少し根性のある人間だと思ったのにと直樹は溜息をつく。そして、渡しそびれた指輪を見つめ、
「質屋に持って行っても…大した金にならねえだろうな。」
と、また溜息をついたのだった。










♪あとがき
申し訳ございませんでした。
ちょっとバタバタしていたものでして…。
しかも書いてみたら、なんだかもう「この男たち、何とかしてくれ!!」と叫びたくなる内容に…。
強引さがもう溢れ返った話で、「これ、無理ありすぎじゃない?」と誰もが口にしたくなる話になってしまいました(書いている私もそう思っている一人です)。
それでも、付いてきて下さる方、募集いたします…。
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えっ~~!

こんばんは、水玉さま。
お忙しいなか、更新有難うございます。

キュウイチの態度と悪口にドンドン追い詰められていく琴子。

超ムカつく!! やなやつキュウイチ。

琴子は確かに日本滞在中に周りに迷惑をかけたかもしれないが、キュウイチ、お前が言うな!!

ごめんなさい。興奮しすぎて言葉が悪くなってしまいました。
反省しています。^_^;


琴子の様子が変なのを気づいていたはずの入江くん。
琴子が発する言葉を信じてしまい、このまま日本に帰ってしまうんでしょうか?

琴子の言葉を信じないで入江くん。琴子を助けてあげて、琴子パパ。

つらい~(T_T)

水玉さん、こんばんは(#^.^#)

キュウイチに追い詰められて琴子、辛いですね(>_<)
そして、入江くんも・・・。
早く、琴子パパが帰って来てくれるといいんですが・・・。

入江くんはこのまま琴子の本心を突き詰めずに日本へ帰ってしまうのでしょうか?
入江くんの事だから琴子の本心を見抜いてくれることを信じたいです(T_T)

二人とも、お互いに無くてはならない存在になってしまっているのに・・・。

更新ありがとうございます!

あぁ...........
恐れていたことがついに現実に…
あまりにも次々に噛み合わなくなって
「っえ!?え!?ちょっ、ちょっと待って待って」って言いまくりでした。
すれ違うときはとことんすれ違っちゃうものですねぇ。

まだまだ恐ろしい展開が待っていそうで、気が気じゃないです。

ありがとうございます♪

りきまるさん
こちらこそ、お忙しい中お越し下さりありがとうございます!!
いや~疑うこともせずに、信じてしまう入江くんが純粋というか何と言うか…。
キュウイチをそこまで悪く思っていただけて…悪役冥利につきます(笑)
そろそろ入江くんの逆襲(というほどのもんでもないですが)を始めないと…。

とんちゃんとんとんさん
入江くんに愚痴もこぼさず、相談もできずに一人で決める琴子ちゃんが何とも可哀想…やっぱり健気な琴子ちゃんは私のツボなんだなあと思いました。
本当、お互いもう離れることなんて考えられない間柄になっているのに…。

rinnnさん
一度すれ違い始めると、とことんすれ違って行くものですねえ…。
rinnnさんの「ちょ、ちょ、…」というお気持ち、よく分かります。きっとそう思われるだろうなあとこちらも思っていたので(笑)
いや、あまりに展開が無理あるなあと思いつつ、もう突き進むしかないや!!と覚悟を決めて書いてみたものですから(^^ゞ

佑さん
そのぎゃふんが!!ぎゃふんと私も言わせたいんですけれど、なんかいくら考えても「あれれ~?」みたいな感じになりそうなんです~。
そうなったら、ごめんなさい!!
ああ、ぎゃふんよ、ぎゃふん、降臨して来い!!(笑)

いたさん
いえこちらこそ、お忙しい中遊びに来て下さりありがとうございます♪
そう、私も書きながら鵜呑みにしすぎだろう、入江くんとか突っ込んでました(笑)まあ、そこはもう…気づかぬふりしないと永遠に終わらないと気がつき、進んじゃったという…(笑)
ぎゃふん、そう、いたさんも仰るぎゃふん!!これがなかなか…(涙)

foxさん
ありがとうございます!!それではこの旗を目印に~♪(笑)
ラストがHAPPYendになると分かっていると、確かに安心して読めますよね^^いや、これでアンHAPPYENDだったら…さすがに琴子がかわいそうすぎる気が(笑)いやだ、私だってこんな男と琴子ちゃんを添い遂げさせるのは!!
だから、大丈夫です♪
私も相当Sだなあ…毎回こんなに琴子ちゃんをいじめているんだから。

kettonさん
ありがとうございます!!!それじゃ、入会金の振込先は…と、いきなり金銭から話すとんでもない私(笑)
やっぱりそうですよねえ。懲らしめたいですよねえ…なんだか上手く書けるか心配で心配で。

まあちさん
癖になるでしょう、キュウイチ♪ただの嫌味な奴だとつまらないので、とことん変な人要素を付け加えてみたのですが…
それにしても、こんな変人に負けるなんて、あまりにも入江くんが哀れというか、情けないというか、何と言うか…最後のまあちさんの「何故」という一言がそれを物語っている気がしました。

藤夏さん
ありがとうございます。藤夏さんもお忙しいのに、来て下さりありがとうございます。
本当に少しは疑うということを知れ、入江くん(笑)琴子ちゃんじゃないんだから。
まあ…純粋な男といっちゃあ、男なんだろうけど…←そうか?
大丈夫です、まだ募集中ですから!!入会金の振込先を後ほど(笑)
プロフィール

水玉

Author:水玉
『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
そっと見守っていただけたら嬉しいです。

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二次創作については、いわゆる原作の隙間をぬった作品もありますが、主人公以外のキャラクターをメインとしたものや オリジナルキャラクターが出てくるものもございます。

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