日々草子 トンブリの休日 3

トンブリの休日 3





夕食の時間。
「お風呂凄かったでしょ?」
と、琴子が直樹に訊ねる。
「泳いでもいいよ。」
「子供じゃあるまいし。」
「遠慮しなくても…。」
直樹はフォークを動かし続ける。
「あ、トンブリとキャベツはお代わり自由だから。」
「トンブリとキャベツだけかよ。」
意外とケチくさい国だと思いつつ、直樹はキャベツを頬張る。

「そうだ、入江くん、あのね…。」
絶え間なく続く琴子のお喋りに直樹はとうとう、我慢の限界に達した。

「入江くん、もしもし?入江くん?」
突然聞こえなくなった直樹の声に、琴子は紙コップの中を覗き込む。
先程から二人は…糸電話で会話をしていたのだった。
というのも、二人の食卓は長さ3メートルもあろうかという、長い長いテーブル。その両端に座って食事をしているので、普通の会話は成立しない。

「あー!糸、切ってる!!」
紙コップ片手に、琴子が直樹の席へと走って来た。糸はダラリと垂れ下がっていた。
「お前、うるせえんだよ!」
琴子のおしゃべりのせいで、食事が進まない。なので直樹が糸を切ったのである。
「紙コップ持っていると、ナイフとフォークが動かせないだろうが!」
「だって…。」
切られた糸をグルグルと巻きつつ、琴子が口を尖らせる。
「いつも、こんな風に食事してるのか?」
「うん。いつもそう。」
その辺がしきたりというものだから、きっと琴子も嫌な顔しないのだろう。と言うより、それが当たり前の空間で育っているということ。
直樹は、琴子がいつも夕食の時にあれこれと話すのは…初めて人と至近距離で向かい合って食事ができる喜びがあることを知った。

夕食後、部屋に戻った直樹は寝る前にもう一度入浴することにした。
色々あるこの宮殿、国だが、風呂は今の所気に行っている。

「やれやれ…。」
今度は誰も現れず、一人でのんびりと入ることができ、やっと寛ぎを感じることができた直樹。
「一体いつ、あいつの親父は帰ってくるんだか。」
本当は「国王」と呼ばなければいけないのだろうが、琴子を見ているとどうもそのように呼ぶ気が起きない。
ゆっくりと風呂に浸かった後、直樹はバスルームを出ようとして、立ち止まる。
―― まさか…。
先程の侍女たちの件は、彼女たちのからかい半分だった。が、
――…夜伽とか、いないだろうな。
バスルームを出たら、ベッドの上に女性がいて、「今宵のお相手を」とか言い出すのではと、一瞬思ってしまう直樹。
―― いやいや、まさか。そんな前時代的なこと、いくら何でも…。
自分の考えを首を振って否定する直樹。そして…着替えてバスルームのドアを開けた。
するとそこには…夜伽ではなく、琴子がいた。

「あ、お風呂気持ち良かったでしょ?」
ベッドの上で、屈託のない笑顔を浮かべて直樹を迎える琴子。
「お前、そこで何してるんだ?」
琴子はパジャマ姿である。
「何って…ここで寝ようと思って。」
どうやらいつものように、直樹と一つのベッドに寝るつもりらしい。そしてベッドにいそいそと潜り始める琴子。その襟首を直樹は捕まえる。
「自分の部屋に帰れ!!」
「ええ?どうして?」
琴子には理由が分からない。
「だって、いつも一緒じゃない!」
「それは、俺の家が狭いからだ。今日はお前の実家、お前の部屋もちゃんとある!」
「そんな…だって、私、入江くんなしじゃもう眠れない体に…。」
ドキリとするようなことを言う琴子だが、本人は全く意味を理解していない。ただ単に直樹が隣にいないと眠れないという意味である。
―― こいつ…ちょっと言葉考えろ。
一体何のために日々我慢しているのか、誰のためだかと言いたくなる気持ちをグッと堪える直樹。
「とにかく、お前の実家で俺がお前をベッドに連れ込んだなんてことになったら困る。」
「だって結婚するのに…?」
「まだ結婚前だからだ!」
「入江くん、何だか昭和の頑固親父みたい…。」
しゅんとなって、琴子はベッドから降りた。
そんな琴子を、直樹は部屋まで送ることにする。

「それじゃ、ここが私の部屋。よかったらいつでも…。」
「行かねえよ!!」
「…意地悪。」
しょんぼりとして琴子は「おやすみなさい」と元気なく呟き、ドアに手をかけた。
「琴子。」
直樹は琴子の名を呼ぶ。振り向いた琴子の額に、いつもの夜、琴子が眠った後にしているキスを落とす直樹。
途端に琴子の顔が明るくなった。
「お休みなさい!!入江くん!!いい夢見てね!!」
キスされたおでこに手をやりながら、琴子は手をブンブンと振り、直樹を見送る。そんな琴子に直樹はさっさと背を向け、自分の部屋へと戻った。

「…眠れねえ。」
…琴子が隣にいなくて、眠れないのは…直樹も同様だった。










☆あとがき
入江くん、日本に帰国したら『トンブリ王国滞在記』とか、記事にすればいいのに。
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comment

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トンブリ滞在中にいったい何が起きるのか??
とっても楽しみです!!

キュウイチがいつどんな風に登場するのかとても楽しみ楽しみ♪
入江君広いお部屋で悶々としてくださいね!!

ご無沙汰です

コメントがなかなかできずロムってばかりで申し訳ないでふ。


トンブリ…楽しく読んでます!
なんか、すごく入江くんの我慢にキュンとなるんですが(笑)
今回の話は入江くんが割と普通の男に感じて尚更キュン死に…

こんばんは。

更新有難うございます。

まだまだ、一人我慢大会を実行中の入江くん。
はやく王様に会って、我慢大会を閉会したいんじゃないでしょうか?
だって、一か月も狭いベッドで一緒に寝ていたのに、今さら一人で寝れるわけないもんね。

琴子も一緒に眠れないのは寂しいはずなので、王さまが返ってくるのを私もお祈りいたします。(^^♪

一人我慢大会(笑)

我慢しないで、一緒に寝ればいいのにvvって思っちゃいました(笑)

3メートルもの長さの糸電話で会話なんて…なんか切ないですね(涙)
やっぱり、食事は近くで楽しく!!ですよね♪

入江くんの一人我慢大会、早く終わるといいのに♪

トンブリはいかが?

ゆみのすけさん
セレブ?代表の琴子ちゃんと庶民代表の入江くん^^
そんな違いがちょっとでも出せればいいなあと思いつつ、私自身かなり楽しんで書いております♪
広い部屋で果てしなく悶々とし続ける入江くんも…♪

まごみさん
いえいえ。コメントありがとうございます^^
確かに!!私も「結構普通だなあ」とか書きながら驚いています。
ま、頑張って耐えて耐えて耐え抜いてね~入江くんっていう感じでしょうか?(笑)

りきまるさん
寂しいでしょうね~!!(笑)
きっとキングサイズのベッドでしょうし、そんなひろい場所に一人寝は…。いやあ、どこまで我慢できるか。遠慮せずに夜這いかければいいのに(ウシシシシ)
指折って数えていそう「あと○日の我慢、我慢」って。

愛結美さん
書きながら、小学校の時に勉強した糸電話の仕組みを思い出してました(笑)
それにしても…アナログ国家だ、トンブリ国(笑)
一人寝も辛いでしょうが、遠く離れたお食事も辛いでしょうね、二人とも…(涙)

藤夏さん
原作は樹木の樹でしたよね^^だから、今度はより簡単な入を間違えてみました(笑)
いかにトンブリ王国、適当か…(笑)
王宮、広くて絶対琴子は、ちょっと離れただけで自分の部屋の位置を忘れていそうだなあと思ったので。
でも広すぎて迷うとか、一度体験してみたいな(笑)
琴子ちゃん、言いそうかなと。しかも意味分かっていないくせに「入江くんなしでは…」って(笑)世間知らずな王女様の無邪気攻撃にやられるといい、入江くんって気分です(笑)

kobutaさん
わあ!!お待ちしていました!携帯チェンジ、気分も変わっていいでしょうね!!いいですね、スタートを切る春らしくて!!
いえ、最初の設定でそういえば琴子王女は自由を求めて東京を闊歩したんだったと思いだし(汗)、その辺の事情も時折混ぜておかないとと気がついた次第です。

まあちさん
そりゃ、日本大好き琴子ちゃん!渡鬼とか寅さんとかあとは…なんかその辺の昭和の懐かしいドラマを一生懸命見て勉強してたんですよ(笑)王女としてのお勉強は?でも、こういう好きなことに関しては一生懸命だったに違いない(笑)

佑さん
キャベツといえば、最近の天候不順にて、キャベツのお代わり自由もピンチらしいですよ。
トンブリ王国、キャベツ以外、ご飯とかお味噌汁とか(あ、外国だからないか)はお代わりできないんだろうか…王宮立派な割には内情は貧しいのか?(笑)そんなことまで考えてしまった…。
滞在記、ものすごい冷静そう…淡々とした口調で。でも見返しの著者近影写真で女性ファンを沢山獲得しそうだ(笑)

foxさん
書いてみたら、やっぱりパンプキンの愛らしさを越えることはできなかった!!!もうこうなったら覚悟を決めて、とことん悪役街道を突っ走らせるつもりです。「嫌い」というお声をどれだけ頂けるかという変な勝負をしつつ(笑)


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Author:水玉
『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
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二次創作については、いわゆる原作の隙間をぬった作品もありますが、主人公以外のキャラクターをメインとしたものや オリジナルキャラクターが出てくるものもございます。

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