日々草子 別冊ペンペン草 19

別冊ペンペン草 19



春…桜咲く春である。

「場所取れてよかった、よかった。」
琴子は持参したお重を置いた。
「綺麗ですよね、これだけ咲くと。」
見事だと、桜を見上げて感嘆の声を上げるローズマリー船津。

「この桜が二人の創作意欲を盛り上げてくれるといいんだけど。」
そして琴子は「どう?」と言って直樹を見る。
「…ま、今が一番ゆっくりできる時期だからな。」
「ああ、締め切り直後だからってこと?」
琴子が直樹に紙皿を渡しながら訊ねる。
「ばあか。お前、4月といったら…GW進行があるだろ。」
「あ…。」
「んなことも気づかないなんて、編集者失格だな。」
直樹は冷たい視線を琴子へと送る。
「そうでした…。」
しょんぼりとしてしまった琴子。すかさず、船津が、
「まあまあ!今日は仕事は忘れてパーッと楽しみましょう!!」
と場を盛り立てようとする。

今日は琴子と直樹、そして船津の三人は近くの公園に花見に来ていた。渋る直樹を強引に引っ張ったのは琴子。
「せっかく近所に桜の名所の公園があるのに!」
そう言われ、そして賑やかな方がいいと船津も誘ったというわけである。

「どうも何か嫌な予感がするんだよな…。」
そんなことを直樹が呟いていると、
「やあ、偶然!」
という声が三人の背後から聞こえた。
「あ、西垣先生!」
そこに立っていたのは、西垣マドレーヌだった。
「…やっぱり予感は当たった。」
溜息をつく直樹。
「お花見?僕も混ぜてくれない?」
そして誰もいいとも言わないうちに、西垣はさっさとレジャーシートに上がり込む。

「西垣先生はそっちの方に座って下さい。」
ちゃっかり琴子の隣に陣取ろうとした西垣に、直樹が言う。
「そこに座ってもらわないと、レジャーシートが捲れるんで。」
「そんなことしなくても…。」
「そうよ、入江くん。こうやって靴で押さえておけば大丈夫よ。」
琴子が自分の靴でシートを押さえる。
直樹にしてみると、少しでも西垣を琴子から離そうとしたのだがうまくいかない。
「いやあ、桜も綺麗だけど、ここにいる花も綺麗だよね。」
西垣が琴子の顔を覗きこみながら調子のいいことを言う。
「あら?」
満更でもない琴子。
そんな様子を苦々しく見ている直樹。
花見はこうして、波乱の幕開けとなったのだった。

「さ、それでは食べましょう!!」
琴子がお重の蓋を取った。
「うわ…。」
「すごい…。」
西垣と船津が同時に声を上げる。
まず、一の重と二の重に詰められていたのは…『せんとくん』のキャラ弁当だった。
「これ、琴子ちゃんが作ったの?」
「いいえ!!」
なぜか否定することに胸を張る琴子。
「じゃあ…。」
西垣と船津が恐る恐る直樹を見る。
「…こいつがどうしても、それ作れって。」
「へえ…。」
それにしても良くできたものだと、船津と西垣は飽きもせず眺めている。

「私が作ったのはこちらです!!」
琴子は三の重を見せた。
「あ…。」
「え…。」
一の重とは違った声を出す船津と西垣。

「ああ、これ、あれだよね!!」
気まずくなった雰囲気を壊そうと、西垣が素っ頓狂な声を出した。
「爆弾おにぎり!!」
「ああ、知ってます、知ってます!!」
船津も西垣に合わせる。
「すごいなあ、さすが琴子さん!独創性があるというか…。」
「これ、普通のおにぎりだよ?」
琴子が説明をする。
「え?」
琴子に言われ、二人はまた三の重を覗く。…どう見てもおにぎり、それも爆発したおにぎりにしか見えない。
「お前にしてはうまく握れてる方だよな。」
「あ、そう思う?あたしもなかなかうまくできたなあって我ながら思ったんだ。」
エヘヘと笑う琴子。

―― これでうまく握れてる方なんだ…。
船津と西垣は再び三の重に目を凝らした。どことなく全体的に色が…茶色。唐揚げ、卵焼き、あと得体の知れない食べ物…全て焦げている。

「あ、でもあたしのお重は入江くんの分しかないんです。ごめんなさい。」
申し訳なさそうにする琴子の様子とは逆に、二人は「よっしゃ!!」と心の中でガッツポーズを決めていた。

『せんとくん』のキャラ弁当はおいしかった。
「だけど…。」
箸を動かしながら西垣は思う。
―― どうして、男が作ったキャラ弁を、男の僕が食べないといけないんだ?
なぜだか空しさを感じる西垣。それは船津も同様だった。

「はい、入江くん!」
空しさを感じている男性二人とは正反対に、琴子は満面の笑顔で唐揚げと卵焼きを直樹へと差し出す。
「今日はね、ちょっと隠し味を。」
「隠し味?」
一口卵焼きを食べた直樹は「うっ」と目を剥いた。その顔に思わずびくっと怯える西垣と船津。
「…中に何を入れた?」
「オクラ!!お仕事で疲れている入江くんの体が心配で。ほら、漫画家さんって座りっぱなしだから血液も固まりそうだし。オクラはね、血液をサラサラにする効果があるのよ。」
卵焼きにはオクラが…丸ごと入れられていた。
そして琴子は、西垣たちを見た。
「そうだ!!卵焼きは十分あるから、二人も!!」
即座に首を激しく振る二人。
「僕は結構、室内に色々揃えていて、それで運動してるから!」
と西垣が言えば、
「僕もエスカレーターとか使わないようにしてますので!」
と船津も言う。

そして二人は、直樹が黙々と琴子の自称“健康弁当”を食べ続けるのを見て、
―― 愛ってすごい。
と思ったのだった。

「はい、デザートの時間です!!」
琴子が今度は違う容器を取り出した。
「お!何だろ?」
甘い物には目がない西垣が胸を躍らせる。しかし、中から出て来たのは…ぎっしりと容器に詰まった柿ピーだった。
「遠慮せず、どうぞどうぞ!!」
なぜか柿ピーをすくうスプーンまで用意している琴子。
「柿ピーね…。」
ポリポリとおいしそうに頬張る琴子。男性陣もそれにならうしかなかった…。

そして、花見は…西垣が買ってきたビールにて…すごいことになる。

「入江先生~どうして僕はデビューできないんでしょうかあ!」
ビールに酔った船津が直樹に絡む。
「それはお前の実力が足りないからだろ。」
船津の酒臭さに顔をしかめながら、何とか体を離そうとする直樹。
「そんなあ…だって入江先生の弟子なんですよお?僕!!」
「お前を弟子にした覚えはねえよ!」
船津の酒癖の悪さに閉口する直樹。
―― そうだ、琴子!
慌てて辺りを見回すと、シートの端に西垣と座っている。

「はあい、先生。柿ピーれす。」
こちらも船津に負けない酔いっぷりの琴子。真っ赤な顔をして西垣に皿にてんこ盛りとなった柿ピーを渡す。
「あ、御一緒に『せんとくん』の目もいかがれすかあ?」
しかも呂律が回っていない。
「うーん、柿ピーと『せんとくん』もいいけど…。」
「へ?」
「…こっちの“花”もほしいなあ?」
と、思わせぶりな視線を琴子へと注ぐ西垣。西垣は…少し酔ってはいる、いや、これは酔っているうちには入らない。
「花ってあたしれすか?」
「勿論。」
すると、ニンマリした琴子は、
「いいですよお!!琴子ちゃんのスマイルは0円…いえいえ、プライスレス!!」
と言い出す始末。
「そっか、プライスレスか!お持ち帰りOKなんだ!」
そして西垣は調子に乗り、
「それじゃ、僕の創作意欲のために…一緒に行こうか。」
と、琴子の手を取った。

その時、直樹は居ても立ってもいられず、西垣を蹴飛ばす。
「あんた…何漫画家の権力を笠に着てるんですか!!」
「だって琴子ちゃんが協力してくれるって…。」
「こいつは今ベロベロに酔っ払っていて、まともな判断能力ないんです!!」
そう叫ぶと、直樹は琴子に、
「ほら、帰るぞ。」
と立たせる。いつの間にか、直樹は持参したお重等を片付けて手に持っている。
「ええ、まだ桜…見てないろのよお?」
「もうお前、桜なんて見えてねえよ。」
そして直樹は、琴子の手を引き帰ってしまった。

後に残されたのは…。
「西垣先生~僕はいつになったらデビューが…!」
と抱きついてくる船津。
そしてそんな男二人を、
「ママ、あのおじちゃんたち、男同士で変!!」
「シッ!見ちゃいけません!!」
と、周囲の客は見ていたのだった…。


「ええと…?」
翌朝、目を覚ました琴子は…案の定、殆ど記憶が残っていなかった。
「何か…入江くんにご迷惑を?」
これまた恐る恐る直樹を見る琴子。
「呆れるくらいかけてくれたよ。」
冷たい目で琴子を見る直樹。
「嘘!」
一体何をしたのと、琴子は直樹に縋りつく。

「…プライスレス。」
直樹の口から出た言葉の意味が分からず、琴子は「へ?」と間抜けな声を出した。
「何、それ?」
やっぱり覚えていないのかと溜息をつく直樹。だが…これを前向きにとらえることをすぐに思いつく。
「何でも、お前は編集者として、プライスレスなことを漫画家にしてくれるらしい。」
「漫画家って?誰に?」
「お前の担当は俺だろうが。」
「プライスレスって、どういう意味?」
まだ事情がよく分かっていない琴子。
「…俺の創作意欲をかきたてるために、プライスレスなサービス精神を発揮してくれるって意味。」
そう言いながら、直樹はいつの間にか琴子の横へ潜り込んでいる。
「ちょ、ちょっと!あの、あたし…数時間後には出社なんだけど!」
「あ、それは大丈夫。」
昨日、酔っ払ってもきちんと着替えた『せんとくん』Tシャツを捲り上げながら、直樹が答える。
「さっき編集長に電話しといた。琴子は次回の読者プレゼントの打ち合わせを俺としてから出社するって。」
「何を勝手に!」
だが、直樹は琴子のTシャツの中に頭を突っ込んでいる。
「ちょ…!」
少し、琴子の言葉が出せない、いや直樹が出させない状況になる…。

「…編集長にまでそんなことするなんて。入江くん…漫画家の権力を笠に着過ぎなんじゃない…?」
やっと声が出せるようになって、琴子は言った。
「そう?」
随分ストレッチが利いているシャツなんだなと思いながら、Tシャツの首から直樹が顔を出して、いたずらっ子のように笑う。
そして、
「編集者は、担当漫画家が気持ちよく仕事ができるよう気を配るのも、仕事のうちだぜ?」
と言った。
「んもう…。」
観念した琴子は、直樹の背中をバシッと力なく叩く。が、その手からはすぐに力が抜けて行った。
「お互い…プライスレスな一時を過ごそうぜ?」
直樹は琴子が自分に身を任せる気になったことに気がつくと、ニンマリと笑ったのだった。

―― お金では買えないものもある、ってどっかのCMでも言ってたしな。

そして琴子は…午後からの出社となり、また同僚の松本に呆れられたのだった。














☆あとがき
我が家の近所の桜も見事に咲き誇っておりました^^
そこで、またシーズン話を一つ…。
この話はもう…このオチって決めているということになりつつ…(某所のフトンと一緒かも)
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comment

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別ぺ!!!
ありがとうございます~
もう発見して嬉しくて!

オクラ入り卵焼きでまず大爆笑。
デザートに予想はしてたのに柿ピーの文字を発見して、ホントに涙出るまで笑いました。
傍から見てたら私すっっっごいやばい人だったような…

そしてプライスレスなサービス?
二人でTシャツからでちゃったり!?
もう想像しただけで鼻血でそうです…キャッ…

私の水玉さんへのリスペクト、愛、思い出し笑い、プライスレスです。

またお願いします~

こんばんは、水玉さま。

今回も飛ばしている入江先生ですが、やっぱり遅刻をさせられてしまう琴子。
ラブラブな二人を覗けて読者の私としては嬉しい限りです。

しかし、『せんとくん』Tシャツどこまで伸縮するんでしょうか?
二人で一枚のTシャツを着れるなんて・・・(笑)
洗濯をしたら元のサイズに戻るのんでしょうかね? (笑)

変なところが気になる今日この頃です。(笑)

コメントありがとうございます♪

ぐりぃぜさん
ありがとうございます!!
リクエスト頂いたことと(あれは勝手にリクエストだと解釈しております)、桜があまりに綺麗だったので書いちゃいました~。
デザートは柿ピー以外ないし!!
最後はやっぱり、このオチかなあと(^^ゞいつか違うオチも考えねば!!
いやあん。
私もぐりぃぜさんへの感謝、愛、全てプライスレスです!!
キャッ♪

りきまるさん
いや、これ、伸縮しすぎでしょう!!!
どんだけ伸びるんだって感じ(笑)
絶対そんなに伸びないって!!
あ、それか…もう着古して襟がビヨーンと伸びているのかも(笑)

chan-BBさん
いえいえ、私こそ沢山の優しいお言葉、本当にありがとうございました。ごめんなさい、却ってお気を悪くされてしまったのではないかと、今になって不安になっております…。
もはや、柿ピーのほかに、どこかにせんとくんを入れないと気が済まなくなったこの話…それも今年いっぱいかなあ(笑)
私もちょっとせんとくんのキャラ弁作ってみたくなりました♪
あの肌の色は何で表せばいいのだろうか…?

藤夏さん
下書きせず、一発勝負なんでしょうか…キャラ弁(笑)
本当、どんな顔して作ったのか、そしてそれを三人で食べる予定だったのか…色々妄想が尽きないものです♪
藤夏さんが仰るように、毎回オチを決めているのは楽ではあるのですが、どうやってそこまで運ぶか頭を悩ませます。最近は開き直って強引承知で進めているのが本音です(笑)

佑さん
確かに素直かも(笑)
それにしても、毎晩着ていればせんとくんシャツもそれなりに古くなるだろうから…そうなると毎回お取り寄せしているのか、琴子?
最近は実は外出用せんとくんシャツもあるんじゃないかと思ったりしています。

まあちさん
昨日は本当、うちの近所では満開でしたが…でも天気が!!!
これで青空だったら文句なしだったのにと思ってました。
今日はうちの方は雨なので桜もすっかり散ってしまったようです…短い命だったのう、桜ちゃん…。
うちの母は、お花のお寿司(切ったらお花の絵が描かれているお寿司)を作りたいと言ってました♪

foxさん
最近のお花見は、不景気のせいか手作り派が増えてきたとか…
何を食べても、大勢でワイワイというのが一番いいんでしょうね♪
私はこの時期…まだ例の奴都の戦いが終わっておらず、正直、外には出たくない心境です…今日も雨だというのに症状が重かった…私が心から桜を楽しめる日はいつか来るのか…涙
どうぞ私の分まで桜を愛でて下さいね♪

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プロフィール

水玉

Author:水玉
『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
そっと見守っていただけたら嬉しいです。

※当ブログに掲載されている文章及びイラストの無断転載・使用はご遠慮下さい。

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当ブログは、『イタズラなkiss』の二次創作をメインとしておりますが、時折管理人の趣味や日々の出来事についての記事も書いております。

原作者様や関係各位とは一切関係ありません。

二次創作については、いわゆる原作の隙間をぬった作品もありますが、主人公以外のキャラクターをメインとしたものや オリジナルキャラクターが出てくるものもございます。

そして、原作と違った時代(平安や明治やその他の時代を舞台にしております)、異なる設定(主人公を医者と看護師じゃない職業にしております)で書いてあるものが多いですが、原作を冒涜しているつもりは全くございません。

二次創作が苦手という方及び原作のイメージと合わないと思われる方はどうぞお引き取り下さいますようお願いいたします。

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