日々草子 西垣先生の恐怖の三日間

西垣先生の恐怖の三日間

「西垣先生、僕が学会へ出かけている間、この患者さんお願いしますね。」
“お願いできますか?”じゃなくて、“お願いしますね”かよ…。
どこまで態度がでかいんだ、お前という男は!

そして無理矢理渡されたカルテを、僕は渋々開いた。
名前…大蛇森茜。ゲッ!あの噂の大蛇森先生の弟か!症状は足の骨折…。まあ軽い患者だな。
おっ、担当看護師、入江琴子!ラッキー。琴子ちゃんと正々堂々と一緒にいられるじゃないか。

「…分かっていると思いますけど、担当看護師に必要以上、スキンシップとかやめて下さいね。」
僕の考えを見透かすかのように、生意気な後輩医師は釘を刺してきた。
「あんまり度が過ぎると、セクハラで通報させますから。」
この男なら、本当にやりかねないな。“通報させる”って所が、何か琴子ちゃんを支配しているみたいでますます嫌な感じだ。

そうして、先輩である僕にトゲトゲしい態度を見せて、入江直樹は学会へと旅立った…。

「こんにちは。大蛇森さん。今日から学会に出かけた入江先生の代わりに大蛇森さんを担当します西垣です。」
僕は病室で大蛇森茜に挨拶をした。
「ああ、どうも…。」
何だか愛想の悪い男だな。兄貴が兄貴なら、弟も弟か。

大体、僕はこいつが入院してきたおかげでロクな事がない。
ただでさえ、入江が来てから、病院の女性職員が選ぶ素敵な医師ランキングの1位は入江に独占されいる。しかも、2位の俺とは大差だ。
そして、今度はこのモデル男に看護師の視線を持っていかれた。
何よりも、一番腹が立つのは、この大蛇森弟に近づこうと、看護師たちがあの手この手を使い、大蛇森先生に取り入っている光景を目にすることだ。
未だかつて、大蛇森先生に、「先生、コーヒーいかがですか?」とか「お昼ご一緒しませんか?」とか看護師が集まっている光景を見た事があっただろうか?少なくとも、僕がこの病院へ入ってからは一度も見た事がない。

「入江先生、いつまでお留守なんですか?」
「あさってには帰りますよ。」
琴子ちゃんが教える。何だ、こいつ。入江がそんなに恋しいのか?僕のどこが入江に劣るというのか?
「そうですか…。」
大蛇森弟は、そう呟くと溜息をついた。
「気分はいかがですか?大蛇森さん。」
ああ、もう、呼びにくいな、この苗字!
「いいわけないでしょう。入院して満足に動けないんだから。」
何だ、その返事は。僕に喧嘩売っているのか?
「もうすぐ、リハビリに入りますから。それまでの辛抱ですよ。」
そう、僕も入江が帰ってくるまでの辛抱。
「…。」
おい、無視か!

「琴子ちゃん、大蛇森さんって、いつもあの調子なの?」
挨拶を済ませて病室を出た後、僕は琴子ちゃんに尋ねた。
「あの調子ってどういうことですか?」
「いや、愛想がないのかなって。」
「そんなことありませんよ!茜さん、入江先生とよくお喋りしてますもん。」
ということは、あのモデル大男、僕が気に入らないってことか!僕、お前と初対面なんだけど、何もしてないよな?
「あ、そ。」
まあいいや。僕は男には興味がない。そんなことより、鬼の居ぬ間に何とやら、琴子ちゃんとコミュニケーションを図っておかないと。
「ねえ、琴子ちゃん。」
「はい。」
「今日からしばらく、入江いないじゃん?」
「そうですね。」
「今夜、寂しいんじゃない?よかったら、僕とディナーなんてどう?旦那のいない時くらい羽伸ばしたら?」
「…そうも言っていられないんですよね。」
「え?」
僕は琴子ちゃんの方を見た。
「今日は夜勤じゃないなら、夜の8時には家にいろって言われたんです。」
「誰に…?」
「入江くん。」
何あいつは琴子ちゃんに命じているんだ!?
「入江くん、8時きっかりに家に電話を入れるから出るようにって。」
「…それって束縛って言わない?」
束縛以外に何と言えよう。
「でも、入江くん、滅多にそんなこと言わないから、何だか嬉しいんです!」
琴子ちゃんはそう言って笑った。つまり、夜遊びせず、真っ直ぐ家に帰れと。もっと詳しく言うと、僕が琴子ちゃんを誘うことを見越して、先手を打ったわけか。
「だから、早く帰って電話を待ってようと思って!ウフフ!」
何がウフフだ。
「…他に、あいつは何か言ってた?」
「特に何も…。あっ、何か困った時があって、俺に電話が繋がらなかった時は、ここに電話しろって。」
そう言って、琴子ちゃんはポケットからメモを出した。
「03…。」
あいつが学会に行っている名古屋の電話番号じゃないな。どこだろう?まさか、警察…?とりあえず、どこの番号だか暗記しておこう。
「たった3日間なのに、これだけ心配してくれるなんて、あたしって愛されているんですよね!」
琴子ちゃんはそう言うと、鼻歌でも歌い出しそうな雰囲気でナースステーションへ歩いて行った。

医局へ戻った僕は、さっき琴子ちゃんのメモにあった電話番号に電話してみることにした。
「はい、斗南大学医学部人権委員会セクハラ担当です。」
…慌てて僕は受話器を置いた。

…入江直樹、恐るべし!

「西垣先生、大蛇森さんに変わりはありませんか?」
入江が学会から帰ってきた。どうやら東京駅から病院まで直行したらしい。
それにしても、“僕の患者を診ていただいてありがとうございました”だろう?なぜ、そんなに態度が大きいんだ!?
「別にないよ。」
あの大蛇森兄弟には二度と関わりたくないね。

「そういえば、琴子から聞きましたけど、2日目に先生休んだんですって?」
そうだよ。あの恐ろしい夜…。思い出すだけでも鳥肌が立ってくる…!
ショックで一日寝込んでしまった…。
しかも、しかも今朝鏡を見たら、前髪に白髪が一本あったではないか!でも、あれだけの恐怖を味わいながら、白髪一本で済んだのは奇跡だ。真っ白になってもおかしくはなかった…。

「医者は体調管理くらいきちんとできないと…。」
そう言って、入江は溜息をついた。
後輩のお前が、なぜ、先輩の僕に説教をするんだ!?そりゃ、確かにお前の言うことは当たっているけどさ。

入江は紙袋を僕に渡した。
「これ、お土産です。」
ほうほう、お前もようやく職場での人付き合いというものが分かるようになったか。お土産を買ってくるようになるなんて、成長したものだ。後は口の利き方だけどな。
僕は紙袋からお土産を取り出した。

“サ○エさん人形焼き”

「入江先生…。」
「はい?」
「僕、東京に住んでいて、東京で働いているんだけれど。」
「知ってますよ。」
「これって、東京土産だよね?」
なぜ、なぜ名古屋に行って人形焼!?ういろうとか、手羽先とか、いろいろあるだろう、名物が。
「僕、東京駅に着いて、先生へのお土産を買うことを忘れたことに気がついたんですよね。」
正直に言うなよ。
「まあ、大蛇森さんのこともあったし、何か買わなきゃ悪いなと思って、すぐそこにあったキオ○クに入り、目に付いたそれを買ったんです。」
全然、悪いと思ってないよな、お前。

「琴子に手を出したり、しなかったでしょうね?」
「そんなことするかよ。」
手を出す暇さえ、お前与えなかっただろう。琴子ちゃんに恐ろしい連絡先まで渡しておくんだから。

「…琴子ちゃんには何を買ったの?」
僕に対してこれだけの扱いをするんなら、お前の最愛の妻へは、さぞかし素晴らしいお土産を用意したんだろう。
「何も買ってないですよ。」
「へ?」
意外な答えに、僕は目が点になった。こいつ、釣った魚に餌をやらないタイプだったっけ?
「あいつ、俺の顔が見られればそれだけで満足してくれますから。」
そう言うと、生意気な後輩は医局を出て行った。

…今、サラッとのろけられなかったか?僕?

こんなサ○エさんの人形焼なんて誰が食うか。
僕は大蛇森先生に押し付けることにした。あの先生、入江の手にした物なら何でも喜ぶからな。これを引きかえに、明日の夜の当直を代わってもらおう。そして、僕はその空いた夜を誰かと過ごそう。あの恐怖の夜をさっさと忘れなければ…。

大蛇森先生は脳神経外科の外来にいた。もう診察時間も終了していて、他に誰もいなかった。
「大蛇森先生。」
僕は診察室へ入って行った。
「西垣先生!」
大蛇森先生が満面の笑みを浮かべ、僕を見た。
「見て!これ!」
大蛇森先生の手にあったのは、名古屋名物ういろう…。
「先程、入江先生がわざわざ届けに来てくれたんだよ!」
なぜ、なぜ、この先生にういろうで、僕がサ○エさん人形焼…?
「弟の治療中に、学会へ行ってしまったからって。何て礼儀正しいんでしょうね。西垣先生の指導の賜物でしょうか?」
「ええ、まあ…。」
その礼儀正しさは、本来僕に使われるべきではないのか?
「で、西垣先生の御用は…?」
「あ、いえ…。」
僕は咄嗟に、サ○エさん人形焼を見えないように隠した。
僕がどうしようか迷っているとき、診察室のドアが開いた。

「大蛇森先生!」
あ、琴子ちゃんだ。
「ごめんなさい!私、私、検査伝票をお渡しするの忘れていて…。」
あーあ、また失敗しちゃったのか。大蛇森先生は琴子ちゃんを目の敵にしているからまた嫌味を長時間言われるぞ…。
「入江くん、この次は気をつけようね。」
え!?何?この優しさ!
「ナースのミスは僕たち医者ではなく、患者さんに迷惑がかかるんだからね。」
「はい。本当に申し訳ありませんでした!」
「いいよ、いいよ。」
琴子ちゃんはホッとして、診察室を出て行った。
「今日は入江先生から素敵な物をもらったからね…。」
大蛇森先生はういろうを愛おしそうに触っている。
そういうことか…。
琴子ちゃんが怒られないように、あらかじめ大蛇森先生へ手を打っておいたってことか、入江は。
何だか、結局僕だけが損しているらしい…。

その後、大蛇森先生には適当にごまかして、僕は診察室を出た。
あ、琴子ちゃんと…入江だ。何だ、あいつ。こんなところで琴子ちゃんを待っていたのか。
これから一緒に帰るのかな。

それにしても、入江直樹、何て用意周到な男なんだろう!


☆あとがき
みなさん、大蛇森兄弟覚えておいでですか?
西垣先生と今回からめてみました。
ちなみに、この三日間を、大蛇森三男の目線で書いてみた『入江先生のいない三日間」という話もあります…。

…それから、アクセス5000番ジャストになった方、私にネタを下さると嬉しいです^^
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Author:水玉
『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
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二次創作については、いわゆる原作の隙間をぬった作品もありますが、主人公以外のキャラクターをメインとしたものや オリジナルキャラクターが出てくるものもございます。

そして、原作と違った時代(平安や明治やその他の時代を舞台にしております)、異なる設定(主人公を医者と看護師じゃない職業にしております)で書いてあるものが多いですが、原作を冒涜しているつもりは全くございません。

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