日々草子 東京の休日 5

東京の休日 5


いちいち琴子は仲見世の中の店を見て回り、境内に入るまでに相当時間がかかってしまった。
「あれ?西垣さんは?」
ふと見ると、カメラマン西垣の姿が見えない。探すと、おばあさんの集団を撮影している。どうやら頼まれたらしい。
「西垣さん、優しいんだね。」
琴子が感心すると、
「いや、あの人は女だったら誰でもああだから。赤ん坊から老人まで幅広いし。現女、元女も関係ないし。」
と、直樹が素っ気なく言う。

「あれは何?」
琴子が訊ねたのはお線香のおたき上げだった。
「あれは…。」
説明しようとした時、直樹の頭にある考えが閃く。

「ごめん、ごめん。いや、いい男は大変だよ。」
そう言いながら戻ってきた西垣は、今度は琴子の姿が見えないことに気がつく。
「西垣さん、カメラ。」
直樹が手を出した。
「え?あ、あれ?」
見ると、琴子はお線香のもくもくと上がる煙の中で、目を閉じて手を合わせて…真っ赤な顔をして息を止めていた。
「何やってんの?琴子ちゃん!」
「ちょっとくらい面白いことを言わないとつまらないかと。」
笑いをこらえつつ、直樹はカメラを琴子へ向け、シャッターを下ろした。

「ひどい!」
普通に煙を体に浴びればいいんだと西垣に説明された琴子は憤慨した。琴子は直樹から、“あの煙の中に顔を突っ込んで、息を止め、手を合わせれば願いが叶う”と吹き込まれ、その通りに実行した琴子だった。
「騙されるお前が悪い。」
直樹に反省の色は全くなかった。

「さ、やっとお参りだよ。」
気を取り直してもらおうと、西垣が琴子を促す。
周囲を見回すと、どうやら皆、お金を前の箱のような場所へ入れてから手を合わせている。
「私も…。」
そう言って琴子もガマ口財布を取り出し、貴重な500円を取り出した時、
「ほら。」
と、横の直樹から10円が渡される。
「え?私、持ってるよ?」
そう言ってガマ口を広げて見せる琴子に、
「いいから。それは大事に取っておけ。」
と直樹が10円玉を琴子へ渡した。

直樹、西垣が賽銭箱の中へお賽銭を入れる。そして二人は琴子を見ると…琴子はお尻を見事、神様へ向けるように反対側を向き、
「そーれ!」
と今にも後ろ向きで小銭を入れようとしているところだった。慌てて琴子を止める二人。
「だって、トレビの泉はこうやって投げると、願いが叶うって。」
「ここはトレビの泉じゃないから!」
そして二人は琴子にお参りの仕方を教え、琴子はきちんと正しくお賽銭を入れ、手を合わせた。

「西垣さん、何をお願いしたの?」
参拝を終え、琴子が訊ねる。
「可愛い子に会えますように。」
「入江さんは?」
「妄想王女のお守が早く終わりますように。」
二人見事にそれらしいお願いの内容に、笑う琴子。
「琴子ちゃんは?」
西垣が訊ねた。
「…お父様の健康と、国民の幸せを。」
それは、決して気取って言っているわけではなく、心からそう願っている口ぶりだった。
「琴子ちゃん自信のお願いは?」
琴子は首を横に振る。
「…私のお願いは、絶対叶わないから。」
先ほどまでの調子の良さとは打って変わり、その表情はどこか寂しげだった。

「やっぱり王女なんだね。」
琴子から少し離れた場所を歩きながら、西垣が直樹に言った。
「あんなお願いをするのが、まるで当り前みたいだったし。」
「…。」
何となく、しんみりとしてしまった直樹と西垣だった。

雷門の前まで来た時、西垣はあることに気がついた。
「琴子ちゃん、琴子ちゃん。」
直樹にばれないよう、こっそり琴子を呼び、耳打ちする。
「すごい…!」
顔を輝かせる琴子。そして西垣と琴子は顔を見合わせて笑った。


「絶対嫌だ!」
直樹は叫んだ。
「まあまあ。」
西垣がそんな直樹を抑えようとする。
「せっかくだし、入江さん!」
琴子も直樹を引っ張る。
「嫌だ、何で俺が!」
直樹が嫌がっているもの、それは…人力車に琴子と一緒に乗ることだった。

「スクーターも人力車も同じ二輪だしね。これなら二人乗りできるし。」
西垣はスクーターに乗れずに落ち込んでいた琴子に、人力車に乗ることを提案したのだった。
「本当!素敵!」
さっさと人力車に乗りこんでいる琴子は嬉しさに興奮している。
「これならさ、浅草もぐるりと回れるから。映画みたいでしょ?」
「本当、西垣さん、頭いい!」
「なら西垣さんが乗ればいいでしょう!」
もう抗議する直樹に西垣は、
「だめだよ。新聞記者と二人乗りするのが、映画なんだから。」
と拒否する。

「じゃ、1時間後にまたここで。行ってらっしゃい!」
「行ってきます!」
無理矢理直樹を乗せたところをカメラにおさめ、人力車は浅草の町へと駆けだして行った。

「やれやれ。」
にぎやかなことだと笑う西垣。だがふと気付く。
「待てよ。あの映画のラストって確か…。」

―― 王女と新聞記者は恋に落ちるんじゃ…?

西垣がそんなことを考えていた時、
「あの、写真撮ってもらえますか?」
と、女子大生らしき集団から声をかけられた。
「いいですよ!」
大喜びでカメラを受け取る西垣。

―― まさか、な。そこまで映画に忠実にはならないさ。

女子大生に夢中になった西垣の頭からはすぐにその考えは消えた。










♪あとがき
一気に最終話まで書きあげたかったけど…無理でした。
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comment

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こんばんは☆

少しずつ二人の心の距離が縮まってきているようなそんなあたたかさを感じますね。
スクーターは人力車ですか?成る程。言われてみれば浅草にぴったり(o^▽^o)

西垣カメラマン頑張れ!二人の恋の行方は君の腕にかかっているっ!

人力車

浅草って人力車いるんですね?

もうん十年行ってないなぁ。東京へ行くと友人の家に泊まるので

行くところも限られてます。ミッドタウンもまだ行ってないし。

今度上京するときは浅草行ってみよう!

私も琴子と一緒に東京見物してる気分です。

浅草、大好き!

わーい、人力車~~!!いいよねぇ、あれ♪
アタシも浅草で乗ったわン。
スクーターに代わる乗り物、うまいの考えたわねぇ、さすがっ!

ガッキーが活躍してくれて、ガッキーストのアリエルは嬉しくてたまらないです~。

ところで、10円玉・・・は、わざと???

キューピット西垣。

こんばんは、水玉さま。

二人の会話は夫婦漫才を見ているようで、本当に微笑ましいですね。
そんな二人を一生懸命くっつけようとしているように見える西垣。
本人は自覚がないように見えますが、実は密かにキューピットに見えるのは、私だけでしょうか?

もっと二入りの仲が親密になればいいな。

ありがとうございます

コメントありがとうございます♪

藤夏さん
スクーター、やっぱりこの場面は外せなかったので(笑)
だいぶ無理を承知で!!
近づいているのかどうか…今回、入江くんがあまりにそっけなさすぎて…ちょっと反省モード突入です(笑)

さくやさん
走ってますよ!浅草も鎌倉も!!
一度乗ってみたいのですが…みんなに「恥ずかしい」と拒否され、現在に至っております(笑)
あと、京都には何と…電動アシスト付きの人力車が走ってます!!これだと女性が一人で人力車を引けるんですって!!

アリエルさん
ガッキー、最後まで一応出番あるから!!だから最後まで読んでくれるとうれしいな…♪←必死のお願い
10円玉は…ちょっとくらい入江くんの優しさを見せておかないと、という思いから(笑)

りきまるさん
キューピッド…ただ面白がっているだけのようにも(笑)
でも無自覚の行動が自然とキューピッドになってたり(笑)
こんなんで恋に落ちるのかしらねえ…と一人突っ込みつつ書く私(笑)

拍手コメントありがとうございます
foxさん
そうなんです。意地悪だけどちょっぴり優しい入江くん(笑)
そうでもしないと…琴子が惚れる理由が見つからない(笑)そこに気がついて焦る私です(笑)

佑さん
ガッキーは絶対、お婆さんにも優しそう。
旅先でも若い子の集団とすぐ仲良くなっていそう♪
私が書くガッキー、どうも女好きなことを忘れがちです^^;

tiemさん
どんな破天荒でも、王女には変わりないんですよね。
骨の髄までその考え方が身についていて。
意外と賢い?王女琴子ちゃんです。
プロフィール

水玉

Author:水玉
『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
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二次創作については、いわゆる原作の隙間をぬった作品もありますが、主人公以外のキャラクターをメインとしたものや オリジナルキャラクターが出てくるものもございます。

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