日々草子 東京の休日 2

東京の休日 2


とんでもない王女を引き連れ、直樹は自宅のドアを開けた。
「ほら、入れ。」
まさか…お約束で靴のままかと、一瞬思った直樹。が、コトリーナはきちんと靴を脱いだ。しかし、
「あなた、台所に寝起きしてるの?」
と、これまたお約束の台詞がコトリーナから飛び出した。1DKの部屋は入るとすぐにキッチンがある。これを見て、台所と勘違いしたらしい。
「悪いがここが俺の部屋なんでね。」
本当にこんなセリフが出るとは…やはり本物の王女なのかと直樹は思う。

「で、俺にどんな御用でしょうか?王女様?」
「王女様」と言う所に、最大の嫌味を込めて口にした直樹。しかしこの王女にはどうやら通用しなかったらしい。
「あ、そうそう。」
何もなかったかのように、コトリーナは持っていたバッグをゴソゴソとあさる。
「実は…これをやってみようと思って!」
バッグの中から取り出したのは、
“ローマの休日”
というタイトルのDVDだった。
「それが何?」
「それが何って…。」
コトリーナは膨れる。
「これを私もやってみようと思ってるの。知ってるでしょ?この映画。」
「悪いけど知らない。」
タイトルくらいは聞いたことがあるし、王女が街へ飛び出しどうこうする話…ということくらいは知っているが、観たことはないので詳しいストーリーは知らない直樹。
「そんな!名作なのに!」
「知らないもんは知らないんだからしょうがない。そういうことで。」
直樹は立ち上がり、玄関へ腕を伸ばした。
「どうぞお帰り下さい。王女様。」
「ちょっと待ってよ!!知らないなら知らないでいいわ。」
コトリーナは座り込む。とにかく日本人を捕まえ(できればイケメン)、東京をお忍びで歩くつもりだった。それが見事にイケメン、しかも映画と同じ新聞記者だった、これはラッキーだと直樹に説いた。

そして、
「ほら、見て。」
と、DVDを自分の顔に並べる。DVDには美しい王女に扮したオードリー・ヘップバーンの写真。
「似てるでしょ?私と。」
そう言って、コトリーナは写真と同じような笑顔を作る。
「…お前、メガネかけた方がいいぞ。」
「え?」
「世界中のオードリーファンを敵に回したぞ、お前。」
「失礼ね!!」
何がメガネで、ファンを敵に回すよ、どこからどう見てもそっくりじゃない、この美貌、と、ブツブツ文句を言うコトリーナ。

「という訳で、ここで知り合ったのも何かのご縁でしょ?」
「ご縁なんてない。」
「まあまあ。」
このコトリーナ、直樹の嫌味が全く通用しないらしい。
「だから、お願い!」
そしてコトリーナは両手を合わせて拝む。
「明日一日、私を東京に案内してほしいの!」
「お断り。」
即答する直樹。
「ずっと憧れてたの!アン王女と同じことを、外国へ行ったらするんだって。それが…今がその時なの!」
「他の人間に頼めよ、俺はごめんだね!」
頑として首を縦に振らない直樹。
「勿論、タダでとは言わないわ!」
コトリーナは直樹にしがみつくように叫ぶ。
「…明日一日、付き合ってくれたら…私のこと記事にしていいから!」
「はあ…?」
自分の身をネタとして売る王女…直樹には信じられない。
「あなた、新聞記者なんでしょ?いい記事になると思わない?“王女の東京お忍び歩き”とかいうタイトルで!」
「タイトルセンスの欠片もねえな、お前。」
ネタなら自分の足で掴むので御心配なくと、直樹は素っ気ない。

「とにかく!OKしてくれるまでここを動かない!」
とうとう本格的に座り込みを開始したコトリーナに、直樹は困り果てる。
このままここに居座られたら…もしかしてこの王女が大使館にでも電話して変なでっち上げとかしたら…何せ、自分の身を売ってまで要求を押し通そうとするくらい。他に何をしでかすか見当がつかない。そしてそれは、自分の記者生命にもかかわる。例え過ちは何もないと信じてもらえたとしても、騒ぎの責任を取らされる可能性は高い。何と言っても、こんな女でも王女は王女。下手すれば国際問題に発展しかねない。

「…明日一日でいいんだな。」
明日一日、この変な王女に付き合えば今まで通り新聞記者として過ごせると直樹は我慢することを決意した。
「そう!明日一日だけ!」
コトリーナの顔がパァッと輝く。
「分かった。一日だけ…付き合ってやる。」
「ありがとう!!」
コトリーナは直樹の両手を取り、ブンブン振った。
「絶対いい記事になるから、あなたにも損はさせないはずよ?」
「どうだか。」
確かに王女の記事ならそれなりに価値はあるだろう。たとえ、あまり名も知られていない小国であっても、女性はロイヤルな話題好きが多い。
記事と引き換えに案内役…仕方がない。

そんなことを考えていると、コトリーナのお腹から大きな音が響いた。
「あ…ごはん、まだだった。」
コトリーナは恥ずかしそうに呟いた。

「おいしい!」
コトリーナは直樹が作ったパスタを食べ、歓声を上げる。
「図々しい奴。」
呆れ果てる直樹に構うことなく、大きな口を開けて食べるコトリーナ。
「ええと…あなた…あ、名前、名前は?ブラッドレーさん?」
「俺、日本人なんだけど。」
ブラッドレーって一体誰だと文句を言う直樹。そんなことは耳に入っていないかのように、先程直樹から名刺を強引に奪ったことを思い出し、コトリーナは名刺に目をやった。
「入江さん…ふうん、ブラッドレーさんだったら完璧だったのにな、惜しいな。あ、私の名前はね…。」
「コトリーナ。」
直樹が間髪入れずに答える。だがコトリーナは首を振る。
「それだとお忍び気分になれないでしょ?」
そう言ってまたバッグをゴソゴソとやる。
「ジャーン!!」
そう言って広げたのは…何と半紙。そこには上手とは決して言えない文字で、
『琴子』
と、まるで赤ん坊の命名のように書かれていた。
「コトリーナ、日本でのお忍びの名前は…琴子!自分で字も選んだのよ!可愛くて私にぴったりじゃない?」
「自分で可愛いって…。」
その際限なき図々しさに呆れることが止まらない直樹。
「だから、明日の私は琴子だから!!」
「はいはい…。」
もう相手にするのが面倒になり、直樹は適当に流した。

その夜、直樹からベッドを奪い取ったコトリーナ。
―― やっと…やっとアン王女に私もなれるんだ!
DVDを抱きしめる。
―― スクーターに二人乗りして、ジェラート食べて…。
明日やることを想像しただけで、笑いが止まらないコトリーナ。

「ムフフフ…ムフフフフ…。」
暗闇に響く不気味な笑い声に背筋を凍らせる直樹。どこの世界に一体、こんな奇妙な笑い声を立てる王女がいるんだと泣きたくなってくる。

―― ったく、とんでもないもんを拾ったもんだ…。
でも明日一日の辛抱、辛抱と自分に言い聞かせる直樹。

こうして、二人の夜は更けていった。











★あとがき
お試しUP第二弾です。
勝手に映画を題材に使って、ファンの方はさぞ御不快かと…でも決して映画を揶揄しようとか、そういう気持ちで書いているわけではありません。
素敵な映画だから、それを大好きなイリコトで…と思って書いてみたかっただけです。
改めて、映画のファンの方、御不快な思いをさせてしまって申し訳ございません。
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comment

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ローマの休日の新聞記者の名前・・・

こんばんは、水玉さま。
私もコトリーナと同じく『ローマの休日』が大好きなんですが、

新聞記者の名前、全然浮かびませんでした。^_^;

でも、二人のデート現場がもう少しで読めると思うと・・・嬉しいです。(●^o^●)

ラブラブとは行かないような気もしますが、楽しみにしています。

その昔、卒業旅行でローマを訪れたとき、
スペイン広場の階段に座りジェラートを食べてる写真を撮りました。
気分はもちろんオードリー♪
コトリーナ「琴子」の東京の休日はどこを巡るのかとても楽しみです。
直樹も原作くらいツン度が高くて琴子に振り回されるのが面白いです。

琴子はローマの休日にあこがれて、東京の休日を
満喫されるのですね??
って事は、ラストは・・・ちょっと期待しちゃうかも・・水玉さん??♪

明日からの東京の休日♪直樹とどんな風にすごすのかしら??
今晩は綿密に計画するのかしら琴子ちゃん♪えへへっ楽しみ!!

いよいよ次回からは

琴子の体験版・ローマの休日(いや、舞台は東京だけど)が始まるんですね、すっごく楽しみです。
たとえ王女様になっても、琴子の行動力はさすが。
振り回されるであろう入江君も今までにない刺激を味わえるのではないでしょうか(笑)。
これまでない立場の二人(今まで入江君がお金持ちとかだったから)のお話なので、どんどん興味が湧いていきます。
続き楽しみにしてま~す。




いよいよ♪

コトリーナ王女のお忍び東京散策、、一体どこへ行くんだろ??トレビの泉や真実の口はどこにすりかわるのか、、気になりますぅ、、カメラマンはでてくるんですかね?直樹が1人二役?それとも…あー気になって仕方ありません。コトリーナのことだからジェラートじゃなくてタイ焼きとかお団子とかたべそう、、そうなると、、、おじいちゃんおばあちゃんの原宿とか!?はとバスのカタログ片手にあたりをつけてる私です。^^;

なるほど!

ローマ…のアン王女に憧れてそれを自分も
真似てみたくなったコトリーナ(琴子)ときましたか!
これならイリコトらしさもローマ…を彷彿とするところも
両方楽しめちゃいますね!!^^)

ムフフフ・・・という笑い声に本気で怯える直樹は気の毒ですが(笑)

ありがとうございます♪

コメントありがとうございます^^

りきまるさん
私も忘れてましたよ!ただ、今月放送していたのを見て思い出して…。ライターのカメラとかね(笑)
二人というより三人デートになってますが(笑)

さくやさん
卒業旅行で、トレビの泉で後ろ向きにコインを投げている写真を撮りました(笑)
おもいきりTHE日本人という感じになりましたが(笑)
それにしても…オードリーという文字を見るたびに「トュース!」の顔が浮かぶ私って一体…(笑)

ゆみのすけさん
綿密な計画…原作のマル秘計画デートを思い出しました(笑)
なんかあの時のおもいきり不機嫌そうな入江くんが結構好きで(笑)
でも一番好きなのは映画がつまらなかった時の琴子の顔なんだけど。この話を書いていると、どうもその話が浮かびます♪

ルナルナさん
原作がお金持ちの息子だから(入江くん)、二次でもどうしても王子キャラにしがちなんですよね、私(笑)
やっと今度は1DKという年頃の独身男性らしき一人暮らし設定に(笑)
王女が一般人の家に入ると必ずやってくれるお約束を書いてみました(笑)

なおき&まーママさん
あの真実の口に手を入れて、食べられたとかふざけるシーンですよね。…この新聞記者、絶対そんなユーモア皆無でしょうな(笑)
実は私もこの間、図書館で…るるぶ東京見てました(笑)
カメラマン…なんだか紀子ママがカメラマン役に憑依したかのようになってきてます(笑)

藤夏さん
琴子が王女だったら、絶対あこがれそうで!
「私もあんな休日絶対満喫するわ!」って。でもこの王女、絶対公務とかドジばかりしていそう…しかも一応、映画に沿って次期女王設定にしたけれど…国、滅びるって(笑)
直樹は一晩中、興奮して寝付けなかった琴子の不気味笑いに悩まされたに違いないですね♪

拍手コメントありがとうございます
さちさん
そうです、1番です!ありがとうございます!!
たった1日、映画だと2時間弱なのに…二次化すると結構長くなってしまいそうで…めざせ、ひとけた回数(笑)

ちゃあさん
やっぱり…好きな方多いですね♪覚悟はしてましたが。
それでもどうしてもチャレンジしてみたかったので^^おもいきって書き始めてしまいました。
でも早速…本編から話ずれ始めています(笑)

まあちさん
しょっぱなからお前呼ばわり。確かにいきなり声かけて捕まえてきたら…とてもじゃないけれど、王女として敬うことは無理かも。
結局琴子が王女になろうが、入江くんが一般人になろうが、二人の上下関係?は変わらないんだなあと思ってます(笑)

佑さん
じゃあ、その辺に少しは王女らしさが出せたでしょうか?
王女で世間知らずなだけに、ものすごい無邪気といおうか天真爛漫といおうか…(笑)
それにしても…えらく日本語に長けている王女が出来上がったものです(笑)

プロフィール

水玉

Author:水玉
『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
そっと見守っていただけたら嬉しいです。

※当ブログに掲載されている文章及びイラストの無断転載・使用はご遠慮下さい。

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このブログについてのお願い
当ブログは、『イタズラなkiss』の二次創作をメインとしておりますが、時折管理人の趣味や日々の出来事についての記事も書いております。

原作者様や関係各位とは一切関係ありません。

二次創作については、いわゆる原作の隙間をぬった作品もありますが、主人公以外のキャラクターをメインとしたものや オリジナルキャラクターが出てくるものもございます。

そして、原作と違った時代(平安や明治やその他の時代を舞台にしております)、異なる設定(主人公を医者と看護師じゃない職業にしております)で書いてあるものが多いですが、原作を冒涜しているつもりは全くございません。

二次創作が苦手という方及び原作のイメージと合わないと思われる方はどうぞお引き取り下さいますようお願いいたします。

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