日々草子 連理の枝 7

連理の枝 7

「裕樹さん、おかわりは?」
お琴は大層愛想よく、裕樹へ尋ねる。そんなお琴と直樹を見比べる紀子。
それもそのはず。お琴が普段、裕樹の給仕をすることは滅多にない。結婚した時に紀子がお琴に、
「これから直樹さんのお世話はお琴ちゃんに全てお願いするわね。その代わり、旦那様と裕樹さんのお世話は私がしますから。」
と言っておいたからだった。勿論、紀子が手が離せない時などはお琴が二人の世話をすることもあるが。
「でも…。」
裕樹はちらりと直樹を見る。そんな裕樹からお琴は、
「ほら、遠慮せずに!」
と、茶碗を強引に受け取り、ご飯をよそう。そしてこんもりと茶碗に盛りつけたものを、裕樹へ差し出した。
「たくさん食べないとね、若い人は!」
「どうも…。」
それにしたってこの量は多過ぎだと思う裕樹。そしてお琴は続ける。
「ほら、裕樹さんはこれから背もどんどん伸ばさないといけないしね。」
「余計な御世話だよ。」
ポツリとつぶやく裕樹だが、その声はお琴の耳に入っていないらしく、
「あ、でも“独活の大木”という言葉があるわね。背ばかり大きくて、中身がなかったら最悪だもの。裕樹さんはきちんと、人への気遣いができるように成長しないとね。…特に女性には!!」
と横目で直樹を見て、聞えよがしに話す。
一方、直樹はそんなお琴の嫌味がまるで耳に入っていないかのようだった。

「お、お琴ちゃん…。」
気まずい雰囲気が漂う中、紀子は直樹の茶碗が空になっていることに気がつく。いつもならお琴がすぐに気がつくはずが、今日は全く気が付いていないのか。
「あのね、直樹さんのお茶碗が空のようだけど…。」
「あ!お義父上様、お味噌汁のおかわりは?」
お琴は今度は重樹へ声をかける。
「あ、うん…もらおうかな…。」
重樹もこの微妙な雰囲気に戸惑っている。

仕方なく、紀子が直樹の茶碗を受け取ろうかとした時、
「ごちそうさまでした。」
と直樹は箸を置き、立ち上がってしまった。お琴はそんな直樹を見ようともせずに、重樹の世話を焼くことに夢中になっている。


「直樹さんと何かあったの?」
紀子はお琴へ尋ねた。
「…ばれてましたか。」
「そりゃあ、まあ…ねえ。」
朝食の時、そして直樹が出かける時。いつもならお琴がきちんと門の所まで一緒に出て、そして直樹の姿が見えなくなるまで笑いながら見送っているのに、今日はお琴は台所に籠ったきり、玄関に出ようともしなかった。
「多分、直樹さんに原因があるんでしょうけどね。」
紀子はいつだってお琴の味方である。はっきり言って、実の息子よりもお琴に愛情を注いでいるといっても過言ではない。
「義母上様…。」
お琴は手にしていた羊羹が載った皿を膝の上に置いた。たちまち目を涙であふれさせる。
「どうしたの!?」
その途端、お琴は紀子へ抱きつき、わんわんと泣き始めた。

「それは直樹さんが悪いわよ!!!」
お琴から夫婦喧嘩の一部始終を聞いた紀子は、たちまち眉を吊り上げた。
「可愛い新妻が夫婦の将来について話したいと言っているのに…よりによってお墓の話をするなんて!!」
「義母上様…。」
まだお琴は泣きやまない。
「直樹さんは…直樹さんはきっと、釣った魚に餌はやらない人なんです!!」

そんな二人を少し離れた場所から見ていた裕樹が言った。
「それは釣った魚が雑魚だったからだろう。」
「雑魚…。」
雑魚と言われ、お琴は更に声を上げて泣き始めた。
「釣った魚が雑魚、食ったらまずかったってことだろう。」
裕樹が追い打ちをかけるたびに、お琴の泣き声が部屋に響き渡る。
「裕樹さん!!」
紀子が裕樹を叱りつける。だが裕樹は舌をぺロリと出し意に介さない。

「お琴ちゃん。」
泣き続けるお琴の肩に優しく手を置き、紀子が話しかける。
「こんな可愛いお琴ちゃんが雑魚なんてとんでもないわ。鯛よ、鯛!お琴ちゃんはきれいな鯛のようよ!」
「鯛…。」
紀子の慰めに、少し涙を引っ込めたお琴。
「それにお琴ちゃんは何と言っても、直樹さんがご祝言の席から奪ってきた花嫁さんじゃないの!」
紀子の言葉に、お琴はあの時のことを思い出す。そう、確かに別の男とあと少しで祝言を挙げることになっていたお琴を、白無垢のまま家へ連れ帰ってきたのは直樹である。
「そんなにしてまで手に入れたお琴ちゃんを、直樹さんが餌をやらないなんてことあるわけないでしょう?」
紀子の話に、お琴は少し笑顔と自信を取り戻す。

だが、そんなお琴の気分にまたもや水が差される。

「道具屋の店先で、すごく安く売られている皿とかがあって、“あ、これいいな”って思って、どうしても欲しくなる時ってあるよね。」

声の主は勿論裕樹である。紀子とお琴は裕樹を見る。

「でも買って家に持ち帰って、改めてその皿を見たら“あれ?店先で見たときはいいと思ったのに、家で見ると大したことないな”っていう時、あるじゃん。“あれ?俺、なんでこんなしょうがない物買っちゃったんだろ?”って後悔したりさ。」

「…やっぱり私は大したことない女なんだんわ!!」
今までで一番大きな声で、お琴は泣き始める。
「裕樹さん!!」
とうとう紀子が頭から角を出した。裕樹はあっという間にその場から消えた。

「お琴ちゃん、お琴ちゃんは大したことない女性なんかじゃないわよ。」
泣きわめくお琴を、紀子は懸命に慰める。
「お琴ちゃんはもう…国宝級のお皿よ!」
紀子も相当混乱している。

「とにかく、今回のことは直樹さんが悪いわ。お琴ちゃん、私はお琴ちゃんの味方するから。」
姑の後援を受けたお琴。紀子は今夜の夕食は直樹の分は用意しなくてもいいと、まるで子供へ与えるお仕置きのようなことをお琴へ勧めた。

ところが。
家族の夕食が終わっても、直樹は帰ってこなかった。
「まだ帰らないの?」
一人待ち続けるお琴に、紀子が心配して声をかける。
「あんな直樹さん、放っておいて先に休んだら?」
「でも…。」
喧嘩していても、やはり顔くらいは見たい。昼間散々紀子に喚いたものの、お琴はできれば早く直樹と仲直りしたいと思っている。

もう真夜中という時に、漸く直樹が帰ってきた。
「まだ起きてたのか。」
一人待っていたお琴へ、これまた素っ気ないことを言う直樹。
「お食事は?」
一応お琴は尋ねる。なんだかんだ紀子に言われても、ちゃんと用意はしてある。
「いらない。もう寝るから。」
風呂は明日の朝に入るとだけ言い残し、直樹はお琴の前を通り過ぎ、部屋へと戻ってしまった。そんな直樹の姿を見て、お琴は「やっぱり…やり過ぎたかなあ」と溜息をつく。だがその時、お琴はある匂いが残っていることに気がついた。
―― 白粉…?
それは白粉の匂いだった。お琴は今日は白粉をつけてはいない。直樹が通り過ぎた時に残ったものとしか考えられない。
つまり…直樹がつけてきた匂い。

お琴は仮の寝間にしている部屋を音を立てぬように抜け出す。向かう先は勿論、直樹が眠っている二人の寝間である。
直樹の眼を覚まさないよう、お琴は寝間の襖を開け、そして眠っている直樹の傍へ膝をつき…直樹の顔へ自分の顔を近づけ、匂いを嗅ぐ。
―― やっぱりこの匂いだ…。
直樹の体からは白粉の匂いがはっきりと嗅ぐことができた…。
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入江君、どうしちゃったの?

あらら、二人 気まずくってますね。
入江ママはお琴ちゃんの味方をしてくれるけど、帰りも遅くなって、そして
入江君からは白粉の匂いが!
入江君、一体どうしちゃったの?
今後の展開が楽しみです。

入江くん、浮気疑惑?

こんばんは、水玉さま。
昨夜の喧嘩が後を引いていて、直樹を無視するお琴。
思わずお話を読んで、ちょっと『ざまーみろ』って思った私ですが、
こんなことで直樹が落ち込む事も、お琴に謝る事もするわけはないですよね。
そして、遅くに帰ってきた直樹から、白粉の匂いが・・・
もしかして、直樹が浮気?
なんてことはないとは思いますが、琴子の心情を考えると一人暴走する私でした・・・

お琴ちゃん可哀相

仲直りしようと起きてたのにね!

直樹は、何処に行ってるのかな?

早く仲良くなって欲しいな!

ハラハラ(>_<)

二人とも、どうなっちゃうんでしょう…(>_<)
直樹が浮気してる…ってことはないと思うけど、このままじゃお琴ちゃんが可愛そうです(涙)
早く、真相が知りたいです☆

疑惑…

さてお琴、、どーする??たぶん琴子のことだから、自分からするのか人づてか…いづれにしても確かめようとはするんだろうけど。。うまいことはぐらかされそうだなぁ…直樹の方が1枚も2枚も上手だろうし。でも、、浮気じゃないにしてもそういう疑惑を抱かせるようなものはちゃんと落してほしいよね…こういう状態でそんなの付けてきたら火に油をそそぐようなものなのに。。やっぱり女心をわかっていない!うん、、信じてるだけじゃダメなんだよ直樹!!寝ている直樹の胸ぐらつかんで揺さぶってやりたいです。。

ど、どうなるの!?

お琴と直樹、プチ冷戦状態が続いてますね。

やはりいつでもどこでも紀子さんはお琴の味方ですねー
ズバズバと鋭い例え話でお琴を落ち込ませる裕樹もさすがというか(笑)

・・・って最後白粉の匂い・・・!?
何かワケがあるとは思いますが、お琴の心境を思うと心配TT)
モトちゃんが目撃したものと何か関係あるのかな・・・。

コメントありがとうございます

コメントありがとうございます♪

るんるんさん&kobutaさん
時代変わっても入江ママはお琴ちゃんの味方なので♪
浮気してたら面白いことにはなるかも…なあんて。

りきまるさん
「ザマーミロ」に笑っちゃいました(笑)
これで折れる直樹ではないです。そしてお琴も意地張ってるしね…
妻に相手してもらえなくなったら、即浮気…そしたら本物のヘタレ決定ですね(笑)

愛結美さん
確かにお琴ちゃんの方がかわいそうですよね…
浮気されてたら。ま、浮気はないとは思いますが…♪

なおき&まーママさん
寝ている直樹の胸ぐらをつかんでゆさぶっているなおき&まーママさんの姿が浮かびました…(笑)
でも確認して、事実だったらと思うと怖くて何も言えないお琴ちゃんなので。
ここまで大胆ということは、ある意味何もやましいことはないという直樹の意志表示のような気もしますが…。

藤夏さん
裕樹のたとえ話に触れて下さってありがとうございます!!
この『連理の枝』、その例え話が書きたくて書いた…といっても実は過言ではなく(笑)←なんて話なんだ
でもこんな優しいお姑さんだったら、お嫁さんは最高ですよね!!こんな家のお嫁さんに私もなりたいものです♪

拍手コメントありがとうございます
佑さん
言葉足らずだからこそ、こうやってドラマが次々と生まれるんですよ(笑)
見ている方は楽しいですけどね、当事者はたまらないでしょうが(笑)

まあちさん
言葉攻めにやられてくださってありがとうございます!!!
いや~うれしい、うれしい!!
こういう小ネタに反応して下さるのは、本当にうれしいです!!どうやられたんだろう…(笑)

ぴくもんさん
私もそこが実は気になってるんです…書いてはみたものの…何とか苦しい事情を考えましたが、その時は「フッ」って嘲笑って下さい(笑)
ちょっと…自分で好きでやったのですが、やっぱり辛さが自分でもかなり効いてるようで…甘さがほしくなってきてます。

いたさん
発表、きっといたさんのことですから成功されたでしょうね!!
いや~こんな話の続きが気になって下さるなんて嬉しいです。冷戦状態、しかもお琴主導?の冷戦は…結構書いていて面白いものです。

foxさん
そうそう、疑惑ですよ、疑惑。
夫婦物はこれがないと…面白くないかなあと♪

tiemさん
ああ…時々そういうことあるみたいなんです。ごめんなさい。特に何も設定してないのですが…少し時間をおけば元に戻っていることもあるみたいなので。私もこういうお返事を書いてそうなったこと、あります(汗)
あとは…字がどこか間違っているとか…そんな些細なことみたいなのですが。

プロフィール

水玉

Author:水玉
『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
そっと見守っていただけたら嬉しいです。

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当ブログは、『イタズラなkiss』の二次創作をメインとしておりますが、時折管理人の趣味や日々の出来事についての記事も書いております。

原作者様や関係各位とは一切関係ありません。

二次創作については、いわゆる原作の隙間をぬった作品もありますが、主人公以外のキャラクターをメインとしたものや オリジナルキャラクターが出てくるものもございます。

そして、原作と違った時代(平安や明治やその他の時代を舞台にしております)、異なる設定(主人公を医者と看護師じゃない職業にしております)で書いてあるものが多いですが、原作を冒涜しているつもりは全くございません。

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