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2010.01.26 (Tue)

連理の枝 6


【More】



ある日のこと。
お琴は休み、お産は小休止といった時で、おモトは一人そぞろ歩きを楽しんでいた。

「あら…?」
ふと見ると、前を見覚えのある男性が歩いている。背が高いその後ろ姿…。
「入江先生?」
おモトの胸が弾む。こんな所で憧れの直樹に会えるとは何ともついている。しかも…邪魔なお琴もいない。
―― 声かけて、ちょっと一緒に何か食べたりなんかできないかしらん?
直樹が断りにくくなるよう、店の前を通りかかった時に声をかけようと思い、おモトは直樹の後をつける。そして考えるのは、お琴が耳にしたら激怒しそうなこと。
―― どうしよう…もし一線を越えたりしちゃったら。
一人あれこれと妄想を繰り広げつつ、直樹の姿を見失わないように後を付けるおモト。それにしてもどこまで歩くのだろうか、なかなか直樹の足が止まる気配はない。

おモトが息を切らし始めた頃…漸く直樹の足が止まる。ここまで来た時にはもう、おモトの頭には一緒にお茶などという考えは消え去っていた。
「一体…どこ?」
見上げて、おモトは思わず声を上げそうになるのを堪えた。直樹は、と見ると止まった傍の家の中へと入ってしまった。
「う、嘘でしょう…?」
暫くおモトはその場に立ち尽くしていた。

「ねえ、お琴…。」
翌日、おモトはお琴を呼ぶ。
「アンタ、入江先生と…夜のこと、どれくらいの割合?」
おモトの突然の質問に、お琴は忽ち顔を真っ赤にした。
「ど、どれくらいって…?」
何でそんなことを訊ねられるのか、一向に見当もつかないお琴。恥ずかしがるお琴とは対照的に、おモトは顔色一つ変わっていない。おモトにしてみればこんな質問、大したことではない。
「何でそんなこと訊くの?」
「あ…うん…いや…まあ…ね。」
おモトは言葉を濁し、お琴もそれ以上は答えることはできず、その話題はそこまでになった。

いつものように勉強をする直樹に先に休むと挨拶をし、お琴は寝間へ入った。布団に潜り、お琴は昼間のおモトとの会話を思い出し、また真っ赤になる。
「そんな…割合なんて…。」
だがお琴はふと思った。夜のことどころではなかった。

―― 直樹さんと会話らしい会話をしたのって…いつだったっけ?

お琴の産婆修業も数カ月が経過していたた。
すっかり産婆という仕事に目覚めたお琴は、体がもつ限りおモトが手掛けるお産の手伝いに同行している。
お産は昼も夜もない。そして盆、暮れ、正月も一切関係ない。忙しい日々を送るお琴だったが充実していた。
だが、そんな充実した毎日と引き換えに、お琴は大切なことを忘れていたことに漸く気がつく。
直樹も養生所の仕事にここの所忙しく、すれ違いの二人。そのことに気が付き、お琴は青ざめた。このままではとても夫婦とは言えない。

そんなことをお琴が考えていると、寝間の襖が開き、直樹が入ってくる。
「どうしたの?」
いつもはもっと遅くまで勉強している直樹が、すっかり寝支度を整えていた。
「たまには早く休もうかと思って。」
そしてお琴の隣の布団へ入った。
「おやすみ。」
「おやすみなさい。」
そんな会話を交わす。

「…ねえ。」
お琴は布団の中から直樹に声をかけた。だが返事はない。
「ねえ、直樹さん。」
諦めずにお琴は声をかけ続ける。それでも返事はない。
「ねえってば…。」
「…なんだよ。」
不機嫌極まりない直樹の声が返って来た。
「あの…。」
「何なんだ!」
眠ろうとしたところを起こされ、直樹の不機嫌は頂点に達している。
「…そっちにいってもいい?」
お琴は少し恥ずかしそうに直樹へ訊ねた。
「何で?」
「だって…直樹さんと一緒に寝るなんて、久しぶりなんだもの。」
「お前いつも俺が寝る時は、高いびきだもんな。」
「いびきなんてかかないもん。」
お琴はムッとした。が、ここで怒っては終りである。ぐっと堪えるお琴。
「ねえ、だめ?」
「だめ。」
「どうしてよ!」
堪えられずに、つい声を荒げるお琴。
「…自分の布団で寝ろよ!」
「ええ!だって…直樹さんとせっかくだから色々お話したいの!」
お琴は今夜は久しぶりに話をするいい機会だと思った。それには…直樹の傍に寄り添いたい。

「ったく…。」
とうとう直樹は降参し、少し体をずらしてお琴が入る所を布団に作った。それを見て喜んでお琴は直樹の隣に潜りこむ。

これでやっと眠れる…そう思った直樹の耳に、またもや、
「ねえ、直樹さん…。」
というお琴の声が響いた。
「…。」
無視して寝ようとする直樹。
「ねえ。」
構うことなく声をかけ続けるお琴。
「ねえ、直樹さん。」
「ったく、何だよ!隣に寝せてやったんだから黙って寝てくれ!!」
直樹の怒声が寝間に響き渡った。
「お話したいって言ったじゃない。」
むくれるお琴。
「何の話だよ、こんな夜中に!」
「え?それは、ほら…。」
そう言われると、何を話していいのか見当がつかないお琴。一生懸命考えて口にしたのは、
「ほら、将来…二人の将来のこととか!」
というものだった。二人で将来開業した時のことや、いつか生まれてくる子供のことなど…そんなことをゆっくり話をする、これぞまさしく理想の夫婦像。

「何でこんな真夜中に将来の話をしないといけないんだ!!昼間にしてくれ、昼間に!!」
「だって、最近すれ違ってばかりなんだもん!こんな時じゃないとゆっくり話ができないじゃない!」
直樹の調子に釣られ、お琴も口調も激しくなる。どうも将来の話をゆっくりできる気配ではなくなってきている。

とうとう直樹はお琴のしつこさに根負けした。このままでは静かに寝せてくれそうもない。
「将来ね…。」
少し考える直樹。話をしてくれる気になった直樹を見てお琴は、一体どんな話をしてくれるのだろうと待つ。

「お琴…。」
「はい。」
「…お前さ、将来、うちの…入江の墓へ入る?」
「は、墓?」
なぜ墓の話を、しかも夜中にするのだろうと不思議に思うお琴。だがやっと話をしてくれる気になった直樹の機嫌を損ねるわけにはいかない。
「できれば…入れていただけたらと。」
とりあえずそう答えるお琴。
「そうか。それならまあ…詰めれば何とか入るか。」
「詰める?」
「もう先に埋まっている人間が沢山いるからな。ま、詰めればお前一人が入る余裕くらい何とかなるだろう。」
「お願いします…。」
「分った。」
その後、二人は静かになった。

「何でお墓の話?」
とうとうたまりかねて、お琴は直樹へ訊ねる。直樹は面倒くさそうに答えた。
「お前が言ったんだろうが。」
「私が?何を?」
「お前が将来の話をしたいと言ったからだろ。」
確かにお墓へ入ることは将来のことではある。直樹の言っていることは間違いではない。だが、お琴が話をしたかった将来の話は、そんな話ではない。

お琴は起き上がった。その拍子に直樹に掛かっていた布団までめくれる。
「おい…!」
今度は一体何なのだろうと直樹はお琴を見た。お琴は布団から出て、自分の布団の方へ進む。
やっぱり自分の布団で寝る気になったのかと思っていた直樹。だがお琴の行動は違っていた。
お琴は自分の布団を畳んで積み上げ、枕をその上に乗せる。そしてそれらを持ち上げた。
「どこへ行くんだ?」
「…私が話したかった将来の話は、お墓の話なんかじゃないもん!!」
あまりの夫の仕打ちに、とうとうお琴の堪忍袋の緒が切れてしまった。

「こんな旦那様と一緒に寝ることなど、お断りいたします!」
そう叫ぶと、お琴は布団を手にヨロヨロと寝間を出て行ってしまった。

そんなお琴を、呆気にとられて見ていた直樹だったが、
「夜中に話がしたいとか騒いだと思ったら…勝手にしろ!!」
と、こちらも叫び、布団の中へと再び潜り込んだ。










♪あとがき
この回が一番書きたい所だったのに…風邪のせいでリハビリ扱いに(涙)
リハビリは続くよ~♪ ど~こまでも~♪←『線路は続くよどこまでも』のメロディで
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23:24  |  連理の枝  |  TB(0)  |  CM(4)  |  EDIT  |  Top↑

*Comment

★こんばんは!

夫婦すれ違いの生活を脱会しようとお琴は頑張ったようですが、
入江くんに肩透かしされてしまいましたね。
女心が分からないのか、それともわかっていて誤魔化したのか・・・
かなり気になります。(笑)

おモトが見た直樹はどこに入って行ったんでしょう。そちらも気になりますぅ。
りきまる |  2010.01.27(Wed) 00:04 |  URL |  【コメント編集】

★どうなる?

布団かかえて出ていっちゃいましたね、、琴子。でもわかるなぁ…その気持ち痛いほど…。このあと直樹がどういう態度にでるのか、、修復をはかるのかそれとももう少し沈黙を守るのか…うーん気になります。どっちにしても、、モトちゃんが見たこととも絡んで、、なにやら考えていそうですけど、、直樹のことですから、、たぶん琴子のことを思って。。でも、、やっぱり言葉できちんと何を考えてるか言ってほしいですね。。女としては、、けどそれを言わないで貫くのが男なのかもねぇ…。。なんて、、柄にもなく論じてしまいました。。
体調を崩されたそうで、、無理をなさらずゆっくり治してくださいね♪
それにしても、、リハビリとは思えないクオリティーの高さ…やっぱり水玉さんは病んでいても水玉さんですねぇ…
なおき&まーママ |  2010.01.27(Wed) 10:00 |  URL |  【コメント編集】

★コメントありがとうございます

コメントありがとうございます。

りきまるさん
これ、女心が分かっていないだけです(笑)
まあプロポーズに「将来一緒にお墓へ入ってくれないか」とかあるとか聞いたことはありますが…現実に言う男性はいるのかどうか(笑)

なおき&まーママさん
ありがとうございます。やっと鼻が落ち着いてきましたが…でも苦しくて目を覚ます日々が続いているという…涙
なおき&まーママさんも、どうぞ気をつけて下さいね。
あ、この時の直樹は何も考えてませんよ(笑)ただ眠かっただけです(笑)

拍手コメントありがとうございます

ぴくもんさん
珍しくお琴ちゃんが積極的に行動したのに(笑)なんてもったいないことを…これだから男はダメなのよと、私も同調(笑)
ちょっとお産婆修業はお休みして、少し夫婦仲について書いて行けたらなと思ってます。タイトルがタイトルだけに(笑)←一応忘れてはいない

さくやさん
ありがとうございます。本当に治りかけが一番重要ですよね。つい油断して無理しちゃったりして…
確かにお墓の話、しかも夜中…それはないだろーって感じではあります(笑)

nomariさん
ありがとうございます。nomariさんも気をつけて下さいね♪
男は黙って行動とか言うけれど、それがまた女性にとっては誤解の種になってしまうんですよね…

佑さん
絶対浮気などしない!!って信じていますもんね、お琴ちゃん。
そこが可愛いところでもあるんだけれど。
今回は少し疑い始めた見たいですけどね♪
水玉 |  2010.01.28(Thu) 18:01 |  URL |  【コメント編集】

A&Fさん
はじめまして!!コメントありがとうございます!!
「最後の替え歌…」とあって、「え・何書いた?」って読み返してみちゃいました。これで笑っていただけるとは!!
ありがとうございます!
替え歌、作るのがかなり好きなので、こちらへの反応、とっても嬉しいです。どうぞ御遠慮なく感想を下さいね♪
水玉 |  2010.06.04(Fri) 18:40 |  URL |  【コメント編集】

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