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2010.01.15 (Fri)

Daddy Long Legs 26


【More】



目を開けたら、琴子の笑顔が飛び込んでくると思っていた。しかし、
「お前か…。」
そこにあったのは、渡辺の顔だった。
「お目覚めですか?」
その問いかけには返事をせずに、直樹は顔を横に向ける。確か、書斎から琴子と一緒に寝室へ戻ったはず。ベッドへ横になると今までの不安が一掃されたことからたちまち眠りに落ちてしまった直樹。

「琴子さんなら、お医者様と話していらっしゃいますよ。」
主人が何を探しているのか、すぐに分かった忠実な執事は答える。その答えに少し不機嫌な顔になる直樹。
「傍にいるって言ったくせに…。」
呟く直樹に、
「…お医者様とお話するくらい、いいじゃないですか。」
渡辺は肩をすくめた。
「え?」
「自分の傍にいないことで、そんな不機嫌にならなくても。すぐに戻りますって。」
漸く主人が幸せになれ、渡辺の口はいつもより軽快になっている。
「別に。」
「いえ、明らかに不機嫌になってます。何なら鏡でその眉間の皺を確認されます?」
喜びのあまり、渡辺は相当浮かれている。しかも本人はそのことに気が付いていない。
「いいよ。」
「直樹様。」
「何?」
「…あんまり嫉妬しない方がいいですよ。」
「はあ?」
「今だって琴子さんと話しているお医者様に嫉妬しているでしょう?あんまり度が過ぎる嫉妬は嫌われてしまいますよ?」
とにかく気分が最高なので、渡辺はいつもなら言わないような余計なことまで言ってしまっている。
「渡辺…。」
自分を呼ぶ直樹の声に、渡辺は漸く自分が浮かれ過ぎて喋りすぎていたことに気がついた。

「直樹さん!」
やがて琴子が寝室に入って来た。
「あれ?」
が、入って来た途端、驚く。その寝室にはうず高く本が、それも相当厚い本が積まれている。
「琴子さん…。」
そこへ渡辺も入って来た。手には重そうな本を何冊も持っており、額には汗もかいている。
「これ、何ですか?」
「直樹様が突然、“世界の歴史”全253巻を読まれたいと仰られて…。」
そう言うと、渡辺はまた本を積み上げた。これも口を滑らせた自分の責任だと痛いくらい分かっているので仕方ない。
―― 確か、優しくすると言われたような気がしたけど…私の空耳だったのだろうか?
そう思う渡辺は、腰を伸ばす。

「だめよ、直樹さん。」
琴子はベッドの直樹に近寄った。
「お医者様とお話してきたんだけど、直樹さんの病気はとにかくゆっくり休むことが必要なんですって!こんな難しい本を読んだら、また悪くなってしまうでしょ?」
まるで小さな子供を諌めるように、琴子は優しく、少し厳しく直樹に言う。その心配そうな琴子の顔が可愛くて堪らないと思う直樹は、
「そうだな…。」
と呟いた。
「そうよ。治ったらいくらでも読めるから!」
琴子は懸命に説得する。勿論、直樹はこんな本、読む気など全然ない。

「…という訳だ、渡辺。」
「え?」
肩を揉みほぐしていた渡辺は、直樹の顔を見る。
「看護婦が読書を禁止したから、この本はもういい。」
「え?え?」
「…邪魔だから片づけてくれ。」
直樹は笑顔で渡辺に告げた。
「そんな!!」
やっと全部運び終えたと思ったら、片づけるという無茶な命令に渡辺は腰を抜かす。

「渡辺さん、私もお手伝いします!」
琴子が渡辺に近づき、本を何冊か重ねて持つ。
「いや、でも…。」
「こんなに沢山の本を一人で運ぶのは大変だもの。二人で一緒に運んだ方が早く終わるでしょ?」
確かに手伝ってもらえるのは大変助かる。だが女性に手伝わせるのは悪いとも思う。
「さ、二人で頑張りましょう!」
琴子は渡辺に笑いかける。
―― ああ…こんないい子が、なぜこんな暴君に…。
執事の分際でそんなことを考えるのは大変申し訳ないが、本当に直樹に琴子は勿体ない気がする。

「琴子。」
ベッドの中から直樹が琴子を呼ぶ。
「それは手伝わない方がいいと思う。」
「どうして?」
直樹の言葉に疑問符をつけたのは琴子だけではない。渡辺も首を傾げる。
「その本を置いている書庫は、整理が複雑で…渡辺は誰も中へ入れようとしないんだ。」
「そうなの?」
―― ええ!?何、それ!?
そんなこと、言ったこともした覚えもない渡辺は一人目を丸くする。
「だからお前が手伝っても、渡辺は困るだけ。」
琴子は渡辺の顔を見て、
「そうだったんですか。ごめんなさい。私ったらよく知らないくせにお手伝いするなんて図々しいことを口にしちゃって…。」
と、しゅんとなってしまった。
「いえ、そんな!」
渡辺は困り果てる。手伝ってもらえるならそんな有り難いことはない。

「あ、そうだ。それなら…書庫の入り口までお手伝いしていただけますか?」
ここで書庫立ち入り禁止を否定すると、主の言うことが嘘だということになってしまう(事実、真っ赤な嘘なのだが)。それは執事としてはできない。
「お手伝いしてもいいのですか?」
忽ち、琴子の顔が明るくなった。
―― 本当になんていい子なんだろう…。こんな子が…この悪魔の生贄になるなんて。
執事としてはかなりひどいことを思う渡辺。
早速、気を取り直して琴子は本を運ぼうとした。が、その時、
「琴子、ちょっと待って。」
と、またもや悪魔な暴君の声がした。
「なあに?」
「…お前、男の事情も知らないで下手に手伝うな。」
「男の事情?」
―― 何だ、その男の事情って?
直樹は今度は何を言い出すのだろうと、渡辺は緊張する。
「渡辺は、この本の運搬で体力作りをしているんだ。」
「体力作り?」
―― いつ、誰がこんなもんで体力作りを!?
次から次へと出てくる出まかせに、渡辺は呆れ果てる。
「執事という仕事はどうしても家に閉じ籠りがちになるからな。こうやって仕事を兼ねて体力をつけないとまずいんだ。」
「そうなの?」
―― んなわけ、あるか!!
喉まで出かかった突っ込みを、渡辺は押し込める。

「そう。だからお前が手伝うと渡辺はせっかくの体力作りの機会を失ってしまう。それが男の事情ってやつ。」
直樹はしれっと琴子へ説明する。
―― なら、あなたが運んで体力作ればいいでしょうが!!
渡辺はじとっと直樹を睨むが、直樹は全く意に介さない。

「そうだったんだ…。」
そして琴子はまた渡辺の方を向いた。
「ごめんなさい。そんな事情があったなんて…私が人の気持ちに気がつかない鈍感なものだから、渡辺さんに余計な気を遣わせてしまって…。」
またしゅんとなる琴子。そんな琴子を見て、渡辺は溜息をついたが、すぐに笑顔になった。
「琴子さんは…このわがままな患者さんを見張ることに専念して下さい。」
「わかりました!」
渡辺が気を悪くしていないことを知り、琴子は笑顔を取り戻す。

「ったく…何ていう独占欲の強さだか!」
再び汗をかきながら、渡辺は本を運び始めた。
「あんなんじゃ、この先が思いやられるよ、本当に!」
だが、どんなに酷い目に遭わされても直樹を憎めない。
「それだけ元気になったってことですしね。」
落としそうになる本を抱え直し、渡辺は書庫へ向かった。

最後の本を取りに寝室へと入った渡辺。中からは琴子が楽しそうに話す声が聞こえる。
「それでね…あ、そうそう。お正月の時の話がまだだった。」
どうやら女学校の時の思い出を色々と話して聞かせているらしい。横になっている直樹も穏やかな笑顔で話を聞いている。
―― さっさと本を運び出して、お邪魔虫は退散と。
そう思って、最後の本を手にしようとした時、
「あのね、初詣に行ったら凄い人だったの。私、モトちゃんから振袖を借りて着て行ったんだけど、汚さないかとかいろいろ心配で転びそうになって…。」
という琴子の声が聞こえた。
―― モト…ちゃん…?
その名前が出てきたということは、もしかしてあの名前も…?渡辺は本を取ろうとしたその手を思わず引っ込める。
そして案の定、その名前は琴子の口から出て来た。
「そしたら啓太くんが手を引いてくれて…ちょっとドキドキしちゃった。」
「啓太…?手を引く…?」
―― 遅かった!!
渡辺は琴子の後ろから、直樹の顔を覗く。眉間の皺がすごいことになっている。さすがに琴子も気がついたらしく、
「どうしたの、直樹さん?どこか苦しいの?お医者様を呼ぶ?」
と焦り始める。

「こ、琴子さん!」
琴子が気がつかないことで、更に眉間の皺を増やし始めた直樹の表情に焦った渡辺は慌てて琴子を呼んだ。
「ほら、あそこ!」
「あそこ?」
渡辺の勢いについ呑まれ、琴子は渡辺が指さした窓を見る。
「あそこに七色の鳥が!!」
「え?どこ?どこ?」
琴子はまんまと引っ掛かり、窓へ近寄った。安堵のため息をつき、渡辺は直樹の顔を見た。
どうやら直樹の嫉妬は眉間の皺を増やしただけで済んだらしい。

「七色の鳥、見つからなかった…。」
しょんぼりして戻ってきた琴子に、渡辺は次の作戦に出る。
「琴子さん、那須での生活を聞かせて下さい!私、那須へ行ったことがないので。」
ここで再び正月の話をされたら、今度は眉間の皺では済まなくなる。
「そうなんですか?じゃあ、今度は渡辺さんもぜひ一緒に過ごしましょう!おじさまもおばさまも優しい方なので大歓迎して下さるわ!」
「楽しみです!」
そして琴子は、すっかり正月の話を忘れ、那須での話を始めた。

―― やれやれ。本当にこれからが…思いやられる。

嫉妬深い主人と、全くそんなことに気がつかない鈍感なその想い人…これからの生活に渡辺は楽しみと、ほんの少しの恐怖を覚えた。

琴子は一晩直樹の屋敷で過ごした後、那須へと帰って行った。











♪あとがき
蛇足だとは、重々承知しているのですが…
「こんな余計な話、いらない!!」とお叱りを受けるのも覚悟で…でもちょっと私自身が糖分不足だったもので。
だから、どうぞ飛ばして下さい。ストーリーに全然関係ないので!!←なら書くな!
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*Comment

★渡辺さんいい人だ

なぜこんないい人が、暴君に付いてるんでしょう?

悪魔の生け贄?そうかも!座布団1枚!顔良し、お金持ちで頭がいいけど、極度のヤキモチ妬きの暴君に嫁ぐんですもんね!

ストーリーに関係ない事無いですよ!

飛ばすなんて勿体無いです!
kobuta |  2010.01.15(Fri) 22:26 |  URL |  【コメント編集】

★ジェラシー全快入江君!

こんばんは♪

目が覚めたら琴子がいなくて不機嫌な入江君、ついにお医者さんにまで嫉妬しちゃって、嫉妬全快ですね。
渡辺君の手伝いを琴子がしようものなら、あの手この手の理由を並べて阻止するし、巻き込まれた渡辺君、本当にお気の毒様!
なんだかんだ言って琴子に甘える入江君も可愛いですね。
琴子Loveな入江君が大好きなので、大歓迎です。ありがとうございます。

「バンザイなしよ」は金ちゃん(萩本欽一さん)のギャグと聞いたことがありますけど、間違ったらごめんなさい。
るんるん |  2010.01.15(Fri) 22:48 |  URL |  【コメント編集】

★渡辺執事の受難は続く

このタイトルどうですか?サイドストーリーで一本出来そうじゃありません?

古今東西名作には外伝や番外編がつきものですよね。

作者様が「余分かな?」と思われる話を、読者は望んでいると思うのですが。

それから・・・余談ですが、渡辺さんに台車をプレゼントしたい!と真剣に思う私です。本ってめっちゃ重いねんぞぉ!!と関西弁で言ってみる。
(暮れの廃品回収で娘のファッション雑誌に腰をやられた老婆です)
さくや |  2010.01.15(Fri) 22:57 |  URL |  【コメント編集】

★大好物です♪

こんばんわ。
糖分大好きです♪大歓迎です。一言ですみません。
ヒロイブ |  2010.01.15(Fri) 23:07 |  URL |  【コメント編集】

★ヤキモチ直樹(笑)

独占欲、強いですね~(爆)
それだけ直樹が琴子のこと大好きなんでしょうね♪
二人が幸せになって、すごく嬉しいです(*^_^*)

でも、渡辺さんは苦労しますね、こんな独占欲の強い主だと(笑)
愛結美 |  2010.01.15(Fri) 23:15 |  URL |  【コメント編集】

★渡辺さんの気苦労はまだまだ続く・・・

こんばんは、水玉さま。
二人の気持ちが重なり、微笑ましい様子が伺えてとても嬉しいです。
両想いになっても嫉妬深差は変わらない入江くんですが、でも、片思いの時より両想いになったら余計、入江くん嫉妬心は深まっているような気がします(笑)
それをフォローする渡辺さんの気苦労はまだまだ続くというか、一生に続くと思います。
でも、自分が仕えている主人の幸せそうな姿を見れてきっと渡辺さんもきっと、幸せのおすそ分けを貰った気分でいることでしょう。(笑)
りきまる |  2010.01.15(Fri) 23:21 |  URL |  【コメント編集】

水玉さん♪こんばんは^ロ^

渡辺君ごめんよ~~アハハ
渡辺君に同情するより笑ってしまう私、入江君のイジワルが伝染した?
悪魔の生贄とまでいいだすし~~これまた笑えた~~
「それだけ元気になったってことですよね」のつぶやき。。。
おお~~本当にいい人!!今度は泣ける(忙しい)

それぞれの作り話に、正直に反応する琴子ちゃん可愛すぎ♪
なんだか入江君も可愛い~~こんな入江君も”ステキ”(目がハート)
↑モトちゃん登場できました♪

お腹はいっぱいですが、デザートは別腹です♪
先が全く読めないこの続き~~楽しみです♪

あお |  2010.01.16(Sat) 00:01 |  URL |  【コメント編集】

★蛇足だなんて!

これは、これでおわりかぁと美味しく頂いたディナーの後に思いがけずサービスで出されたアイスクリーム♪♪です。苦労が絶えない執事渡辺君と暴君直樹と超純粋&鈍感な琴子のトリオのやり取り、、思わず吹き出しちゃいました。
その中に更に直樹の嫉妬がちょいちょい入り混じっていてそれがまた、サイコー♪♪。
さくやさんのコメントにもありましたが、この3人で、、またスピンオフ、、なんて。
タダで貰ったアイスクリームをお代わり!なんて。。
ホントにそれくらい面白かったです!
なおき&まーママ |  2010.01.16(Sat) 06:28 |  URL |  【コメント編集】

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