日々草子 中華料理・直琴軒 10

中華料理・直琴軒 10

中華料理直琴軒に、宴会の予約が初めて入った。
依頼主は料理評論家の西垣である。西垣が評論記事を連載している雑誌の編集部の新年会に、この店を選んだのだった。

初宴会に張り切ったのは、店主の妻、琴子。
「クリスマスの飾りが売れ残っていてよかったよね。」
そう言いながら殺風景な店内を飾りつけている。
「なんでわざわざそんなものを…。」
飾り付けに張り切る琴子をつまらなさそうに見る店主、直樹。
「だって、せっかくの宴会でしょ!それも新年会!楽しんでもらいたいじゃない!それに西垣さんは大事な大事なお得意様だしね!」
そして、店内は赤や緑などの色とりどりではるが、やや季節外れな雰囲気に包まれた…。

「うーん。ここ、何か空いちゃったなあ。」
一通り飾り終わったが、一か所、壁がぽっかりと空いてしまっている。
「何か…あ、そうだ!」
古典的に手をポンと叩くと、琴子は住居になっている二階へと駆け上がった。
「絶対ロクなことじゃないな。」
バタバタという足音を耳にしながら、直樹はポツリと呟いた。

そして新年会の日がやってきた
西垣は所用で遅くなるとのことで、先に編集部の面々がやってくる。
「いらっしゃいませ!」
貸切の店内に、琴子の明るい声が響き渡る。直樹は宴会用の料理の支度に夢中。編集部の面々は西垣のお勧めでもあり、そして以前に掲載した直琴軒の料理を堪能することを楽しみにしていた。
だが、座席に着こうとした時、彼らの目が一か所に止まる。
「何だ、あれ…。」
「え…?」
彼らの目は大きく見開かれた…。

「ごめん、ごめん!」
30分後、西垣が息を切らせて店に入って来た。
「みんな、どう?飲んでる?」
主催者らしく、参加者を気遣う西垣。だが、その様子は…とても盛り上がっているとはいえなく、西垣は驚きで声を失った。
「ど、どうしたの…?」
参加者が皆、俯いている。テーブルに出された酒は手つかずのまま。
「西垣先生…。」
編集部員Aが、漸く口を開く。
「あれ…。」
指を指された方向を見て、西垣は「え!?」と驚いた。そこには、

『お元気で!西垣さん!』

と大きな文字で書かれた横断幕が掲げられていた…。

「ひどいじゃないですか。」
編集部員Bが今度は口を開く。
「そんな、自分で自分の送別会を開くなんて悲しいことをしなくても…。」
「そうですよ!それに“西バラ(西垣が連載している記事の名前を略したもの)”を終わらせるつもりなら、そう言ってもらえれば!こんな回りくどいやり方するなんて…。」
「連載終了の時は、ちゃんと僕らで送別会を企画しますから!」
「ちょ、ちょっと待って!」
西垣は慌てて編集部の口を止める。そして琴子たちのいる厨房へ向かう。

「今日はありがとうございます!」
西垣の顔を見て、琴子が笑顔を見せた。
「琴子ちゃん、あれ、どういうこと?」
いつもなら癒される琴子の笑顔だが、今はそんなことに構っている暇はない。
「あれって?」
「あの“お元気で!”って、どういう意味?」
「ああ、あれですか?」
琴子はニコニコしながら説明を始めた。
「西垣さんは大事なうちのお得意様でしょ?西垣さんにはいつまでもうちに来てほしいという願いを込めて。そのためには元気でいてもらわないといけないし。」
「…それなら“いつまでも元気で!”にしてほしかったな。」
事の真相は分かったものの、西垣は早くも疲れを感じていた。
「…どうせなら“さようなら 西垣さん”にしておけばよかったのに。」
その時直樹がポツリと呟いた。
「え?今、何か言った?」
西垣は直樹の顔を見た。
「別に何も。」
直樹は中華鍋に視線を戻した。

琴子がマジックで “いつまでも” と付け加え、編集部にも事情が説明され、改めて新年会が始まった。

「うまい!」
琴子が運ぶ料理を口にしながら、編集部も西垣も「うまい」を連発する。そして酒もどんどん追加される。

「琴子ちゃーん。」
宴が進むにつれ…酔っ払いも増え始める。
「肉団子、とっても熱いよー。」
作りたての肉団子は湯気がホカホカと立っている。
「あ、じゃあ、冷ましてあげますね!」
琴子は肉団子を箸に取り、「フーフー」と冷ます。
「食べさせてー!」
調子に乗る酔っ払いの編集部員A。
「はあい。」
琴子は愛想よく返事をし、そのまま肉団子を相手の口へ運ぼうとしたその時 ――琴子と客の間を何かが掠めた。

「ほ、包丁!」

琴子が手にしていた箸に挟まれていたはずの肉団子と共に、包丁が壁へと突き刺さっている。
青ざめる客一同と対照的なのは、
「もう!入江くんたらまた手を滑らせちゃったのね!」
と、動じることなく、包丁を壁から抜く琴子。

その後も琴子へ手を出そうとした編集部員が出る度に、包丁が厨房から飛んでくる。

「ここの店主って…確かあの名店、揉上で最年少料理長になったかどうかの人物でしたよね?」
包丁をぶら下げて厨房へ戻る琴子の後ろ姿を見ながら、編集部員Dが西垣へ訊ねた。
「そうだよ。」
「…中国雑技団で修業していたとか?」
「いや、揉上だけだったと思うけど。」
西垣の返事に、編集部員たちは壁をもう一度見た。
―― 絶対、雑技団で修業してるよ、これ…。
誰一人傷つけることなく、それでいて威嚇するには十分な包丁の投げっぷりである。

―― 一時間後には、全員すっかり酔いを冷まし、琴子へ手を出そうとする強者はいなくなっていた。…一人を除いて。

「ねえねえ、琴子ちゃん。」
一人だけいい気分に酔っている西垣が、琴子を呼び止める。
「今度さ…教えてあげるよ。」
「何をですか?」
空いた皿を下げていた琴子が、不思議な顔をする。
「うん?あのね…。」
そう言いながら、西垣はちゃっかりと琴子の体へと手を伸ばしながら、
「どこが胸肉で、どこがもも肉か…琴子ちゃんの体で…。」
そこまで言いかけた時、
「西垣先生、危ない!!」
という編集部員全員の声が響いた。

ゴーン…!

ハイスピードで飛んできた中華鍋を頭にくらい、西垣はその場に倒れた。


「…意識を失った人間って、本当に重いんだな。」
目を回したままの西垣をリヤカーに乗せ、編集部員たちは運んでいる。
「しかし…料理しながら俺たちの動向をチェックしてたんだな。」
「奥さんを守ってたってことか…。」
「ていうか、なぜ中華料理店にリヤカーがあるんだ?」
それぞれの疑問を口にしながらも、編集部員たちはまた直琴軒に足を運びたいと思っていた…。

     

「お疲れ様、入江くん!」
テーブルに直樹が作った遅めの夜食を並べ、琴子は直樹を労った。
「でも、大丈夫かな?西垣さん。」
「…急所は外しておいたから大丈夫だろ。」
「入江くん、お鍋まで手を滑らせるなんて珍しいね。初めての宴会だから緊張してたとか?」
「かもな。」
相変わらず鈍感な琴子に直樹は苦笑する。

「…まだ冷めないか。」
自分たちのために別に作った肉団子を食べようとして、直樹が箸を止めた。
「あ、じゃあ冷ましてあげるよ。」
そう言って、琴子はまたもや「フーフー」と肉団子を冷ます。
「はい!」
そのまま直樹の口へと運ぶ琴子。パクリと食べる直樹。―― 当然、何も飛んで来ない。
「おいしい?」
「当たり前だろ、俺が作ったんだから。」
そう言って、今度は直樹が琴子の口へ春巻きを運ぶ。そのままパクリと食べる琴子。
「そうだね!入江くんは天才料理人だもん!」
嬉しそうにモグモグと口を動かす琴子、そのおいしそうな表情に、料理人冥利に尽きると思う直樹だった。










☆御挨拶
あけましておめでとうございます。
本年もよろしくお願い申し上げます。

昨年最後の話に、コメント&拍手をたくさん頂き、本当にありがとうございました!

年末は月ペで締めたので、年始は直琴軒で始めてみようかと…。

関連記事

comment

管理者にだけ表示を許可する

あけおめ!!

新年あけましておめでとうございます。
昨年は素敵なお話を沢山読まさせて頂いて本当に嬉しかったです。
本年も私の代わり映えのしないコメントを読んでいただけると嬉しいです。

新年最初のお話は直琴軒でのスタートですね。
直樹の嫉妬深さが読めて嬉し~いです。
直琴軒のお話を読んでいてふと浮かんだのが、
直樹は琴子に誉めてもらうために一生懸命料理をしていると感じました。
もちろん料理をすることが好きでお店をかまえるのが夢だったんでしょうが、
琴子がそばにいて、
琴子が直樹の料理を美味しいと誉めて欲しくて頑張っているように感じました。
もちろん琴子に『あ~ん』ってしてもらうのも楽しみの一つかも・・・(笑)

あけましておめでとうございます!

昨年は素敵なお話をたくさん提供していただきありがとうございました。今年も…直琴軒にて華麗なる直樹の包丁さばき?を堪能できて嬉しいです。それにしてもあれだけ包丁が飛んできて命が危険にさらされたのにも関わらず、、もう一度足を運びたくなる…ということはものすごーくおいしい中華料理が食べれらるんでしょうね!いやいや…味もさることながらあまりの巧みな包丁投げに魅了されたとか??しかし中華職人の直樹の嫉妬っぷりは単純明快で楽しいです♪そして、、琴子の鈍感ぶりも最高です♪
最後に、、今年もお邪魔させていただきます…うすっぺらーいコメントしかできませんが…見捨てないでください!!

おめでとうございます♪

新年明けましておめでとうございます。旧年中は楽しい素敵なお話を一杯ありがとうございました。今年もどうぞよろしくお願いいたします♪

直琴軒で始まる新年最初のお話、ありがとうございます。
初めて入る宴会の予約に張り切る琴子と熱の入った入江君の包丁さばきが読めてうれしいです。
そして最期は、Love 2な二人が見れてHappyです。

水玉さん、こんにちは。あけましておめでとうございます。年の初めに嫉妬直樹くんに会えるなんて、今年1年いいことありそう・・・。参考資料のリヤカーもツボですし。この年になって新しい世界を知ったので、暴走がとまりそうにありません。どうぞ、今年もよろしくお願いいたします。出入り禁止にしないでくださいね。

あけましておめでとうございます。

水玉さん、おはようございます。
あけましておめでとうございます。
今年も水玉ワールドが展開中ですね。
もうPCの前で抱腹絶倒しています。
まだみんな就寝中ですから、大きな声では笑えませんから。
直樹の嫉妬は凄いです。
包丁が久しぶりに飛んだのでは。
琴子に手を出されるお方お気をつけあそばせ。
最終西垣先生へは中華なべですか。
それもまた凄いですね。
伸びた後はリヤカーで連れ帰られたとは。
帰った後は、甘い夫婦ですね。
肉団子熱いから琴子がフゥフして直樹へ
今年も直琴軒のお話楽しみにしています。

水玉さん、新年明けましておめでとうございます♪
本年もどうぞ宜しくお願いいたします。

琴子ちゃんって本当にかわいいんだね♪
読んでいて琴子ちゃんのかわいさが伝わってきて!!
だから直樹は余計に独占欲が強くなっちゃうのよね~
それにしても新年から華麗なる包丁さばき!!
今年も直樹の包丁がキラリと輝き宙を舞うのね♪
楽しみ楽しみ!!

※参考資料(リヤカー)に、思わず吹きだしてしまいました。

2009年ラストが別ペだったのでもしかして
2010年スタートは直琴軒かも~と思っていたらビンゴ♪

ガッキーもご健在のようでwなによりです。

しかし、直樹は今まで以上に包丁さばきの腕があがってるような。

冗談ぬきに雑技団からスカウトがきそうですね^^;)

あけましておめでとうございます

あけましておめでとうございます。
新年最初の記事にコメント、ありがとうございます♪

りきまるさん
あけましておめでとうございます。
まさに2010年初コメント、ありがとうございます!!
私の方こそ変わり映えのない話で申し訳ございません。それに加え、お返事も変わり映えもしないもので…
こんな私でございますが、今年もよろしくお願い申し上げます。
原作の入江くんも琴子に誉めてもらうのが一番うれしいのではないかなあと思います。「入江くん、すごい!」って言われるのが何より幸せなんじゃないかなあって…
いいですね、やっぱりイリコト♪

なおき&まーママさん
あけましておめでとうございます。
新年よりおこしいただきありがとうございます。
包丁だけではないですよ。何せ、このお店はスープ類はセルフサービスという、客扱いもなんのそのなお店なので(笑)
でもそんな扱いを受けても足を運ぶというのだから、料理は最高なんでしょうね♪
見捨てるなんてとんでもないです。私の方こそ海に沈みながら、枯れ木にしがみついて書いているようなブログです。こちらこそ見捨てずにいてくださいね!!

るんるんさん
あけましておめでとうございます。
こちらこそ、昨年は足を運んでいただきありがとうございました。今年もまた遊びに来てくださいね。
ラストはもう…新年特大サービスと言わんばかりに甘甘仕様にしてみました(笑)
忘れちゃならない、ガッキーも(笑)新年早々扱いがひどくてごめんよ、ガッキー(笑)

まあちさん
あけましておめでとうございます。
今年もこちらへコメントありがとうございます。
直琴軒、最近直樹は包丁投げていなかったなあと思い出し、新年サービスで投げてもらいました(笑)
最近、嫉妬直樹くんばかりで食傷気味になっておいでではないでしょうか?ごめんなさい、ワンパターンでーー;
今年もよろしくお願いします。
もちろん、24時間、365日出入り自由です(笑)

tiemさん
あけましておめでとうございます。
昨年はたくさんのコメントありがとうございました。
静かな朝にこんなくだらない話で邪魔して、かえって申し訳ございません^^;
ガッキーには…中華鍋をぶつけてみました(笑)いや、包丁なんかじゃ直樹の怒りは鎮まらないでしょうから(笑)
直琴軒、忘れたころに書けたらいいなあと思っています。
今年もよろしくお願いします。

ゆみのすけさん
あけましておめでとうございます♪
昨年は楽しいひと時をありがとうございました!
いやあん、新年からゆみのすけさんにおほめのお言葉を頂戴してしまって舞い上がってます。
直琴軒と別ぺは、琴子ちゃんをとにかく可愛く書きたいので(あ、ほかのお話ももちろん(笑))。あの可愛らしさをどう表現するか、それが今年の課題だわ(笑)
直樹の包丁コレクションもまた増えるんでしょうねえ。
こちらこそ、今年もよろしくお願いします♪

藤夏さん
あけましておめでとうございます。
昨年はコメント、ありがとうございました!!
…藤夏さんにすっかり心を読まれていたなんて(笑)
そうです、別ぺで締めたので、直琴軒で始めてみたのです♪
雑技団…琴子のあのミラクルな食器運びもいい見世物になるでしょうね(笑)
今年もよろしくお願いします。
プロフィール

水玉

Author:水玉
『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
そっと見守っていただけたら嬉しいです。

※当ブログに掲載されている文章及びイラストの無断転載・使用はご遠慮下さい。

現在の御訪問者
現在の閲覧者数:
御訪問ありがとうございます
このブログについてのお願い
当ブログは、『イタズラなkiss』の二次創作をメインとしておりますが、時折管理人の趣味や日々の出来事についての記事も書いております。

原作者様や関係各位とは一切関係ありません。

二次創作については、いわゆる原作の隙間をぬった作品もありますが、主人公以外のキャラクターをメインとしたものや オリジナルキャラクターが出てくるものもございます。

そして、原作と違った時代(平安や明治やその他の時代を舞台にしております)、異なる設定(主人公を医者と看護師じゃない職業にしております)で書いてあるものが多いですが、原作を冒涜しているつもりは全くございません。

二次創作が苦手という方及び原作のイメージと合わないと思われる方はどうぞお引き取り下さいますようお願いいたします。

コメント及びメールなどでの苦情及び批判は公開、非公開を問わず、私へ告げることはご遠慮いただけますよう、お願い申し上げます。

このブログ及び掲載されている話が嫌いだと思われたら、黙ってあなた様の中から、このサイトの存在を消去していただけますよう、お願い申し上げます。

カテゴリー+月別アーカイブ
 
最新コメント
最新記事
カボチャの世界
Private
カレンダー
07 | 2017/08 | 09
- - 1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31 - -
リンク