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2009.12.08 (Tue)

Daddy Long Legs 3


【More】

返事の来るあてのない手紙を書き続けることに、次第に琴子は苛立ちを覚え始めた。

―― そりゃ、学費を出してもらっているからお礼を書くってのは分かるわよ?だけど、そっちだって気にならないのかしらね?援助している人間がどんな人物かって。ちょっと話をしてみたいなとか思ったりしない?

そんな日々を送る琴子。

一方、手紙を受け取る側。
「なにが“老眼にも読みやすいように、大きな文字で書いてます”だ。こいつは一言余計なんだ。」
直樹は手紙を無造作に封筒へつっこみ、引き出しへ放り込む。
「一度くらい、お返事を書いたらどうですか?」
執事の渡辺が、直樹へ勧めるが書こうとはしない。

琴子の方もそろそろ限界に近づき始めていた。
―― もう嫌!出しても出しても返事のない手紙なんて!大体正体を知られたくないって、余程後ろめたいことでもあるってことよね!高利貸でもしてるのよ、きっと!ああ、もうやめたやめた!

そう思い、琴子は手紙にとうとう書いた。

『手紙をもらったら返事を書くって、一応礼儀だと思うんですけれど。それともあれですか?孤児なんかに書くなんて真っ平とか?だったら最初から援助なんてしなければよかったのに。そもそもどうして手紙を要求するのか、全く理解できません。
こちらも忙しいので、今後は学業のことしか書きません。…あばよ!』

「…“あばよ”はまずかったかしらね?」
ポストに手紙を入れた後、少し後悔する琴子。だが、
「でも…構うことないわよね。そもそも読んでいるかどうかも怪しいし。もしかして鼻をかんで捨てているかもしれないし。」
と、すぐに気を取り直した。


「こいつは…何が言いたいんだ!?」
当然、受け取った直樹はカンカンになった。
「手紙を要求?俺は手紙なんて、これっぽっちも欲しくなかったんだよ!」
怒り心頭な主人を渡辺は必死で抑えようとする。だが、そんな渡辺の制止もふりきり、直樹は怒り続ける。
「あの院長が…こいつに手紙を書かせたい、どうしても書かせたいっていうから仕方なく付き合ってるだけだ。」
―― 院長は直樹様を“個人的”に気に入っているからなあ。間接的にでも直樹様と繋がっていたかったんだろう。
渡辺は内心、そんなことを思う。勿論、それは直樹も気が付いているはずだ。
「それを何を勘違いしてるんだ、この女!返事がない!?誰が書くか!俺だって忙しいんだ。」
直樹はそう言うと、便箋で鼻…はさすがにかまずに、無造作に封筒へ放り込み、机の引き出しにしまい込んだ。そして、
「ったく…学費止めるぞ!」
そう言い残すと、部屋を出て行ってしまった。

数日後。
琴子から手紙が届いた。もう読むだけ時間の無駄だと言い張る直樹を説き伏せる渡辺。直樹は渋々封を開け、手紙に目を走らせる。
「…病気らしい。」
直樹は渡辺に手紙を渡した。そこには先日の非礼を詫びた言葉と、おたふくかぜで寝込んでいること、今どんな様子かという自画像が描かれていた。
「だから…あんなことを書いてしまったんですね。」
体調が悪くて、心身不安定だったのだろうと言う渡辺。

『…最初は学費を出してもらっているからという理由で手紙を書いていました。でも、そのうち誰かに手紙を書くという楽しさに夢中になったのです。
私は今まで手紙を書く相手がいませんでした。…おじさまに手紙を書くようになって、私にも家族ができたような気分になっていたのです。
ごめんなさい、おじさまには迷惑な話ですよね。お忙しいだろうに、お返事を要求するような真似をしてしまい本当にごめんなさい…。』

謝罪の言葉が並ぶ手紙。きっと具合が悪い中、どうしても謝りたくて無理をして書いたのだろうと渡辺は思った。
直樹はいつものように手紙を机の引き出しへとしまう。こんなに謝っているのに、それでも返事を書くつもりはないらしい。だが、それがルールと言われてしまえばその通りなので、渡辺も直樹には何も言えなかった…。


「大丈夫、琴子。」
「うん…。」
女学校の医務室は、琴子同様おたふくかぜの患者で満員状態だった。突然流行したおたふくかぜに琴子も罹患してしまったのだった。
「ごめんなさいね、アタシのおたふくがうつったのよねえ。」
幹が申し訳なさそうに言う。最初に罹患したのは幹。それが琴子へうつったことは間違いなかった。
「でもさ、モトちゃん…。」
みごとに膨れ上がった顔と弱々しい声で、琴子は幹へ話しかける。
「…大人になってからおたふくかぜにかかると…。」
男の人は大変なんじゃないかと琴子は言おうとした。だが幹も琴子が何を言おうとしているのかすぐに分かったらしくものすごい目つきで睨んだので、琴子は口をつぐんだ。

「○○さん、お家から手紙ですよ。」
看護婦が琴子の隣のベッドに寝ている学生に手紙を運んできたらしい。医務室で寝込んでいる学生には体調を気遣う家族からの手紙が毎日のように届けられる。そんな様子を琴子はこの数日、ずっと目にしていた。
―― あんな手紙を書いたら…もう学費も止められちゃうかも。
見舞いどころか、治ったら学費滞納で退学になっている可能性もある気がする。そんな不安を抱えているものだから、琴子の病状はなかなかよくならなかった。

「相原さん。」
顔の腫れも大分引いた頃、看護婦が琴子のベッドのカーテンを開けた。検温かと起きようとする琴子。だが、検温ではなく、見舞客だという。本当は面会は断っているのだが、客がどうしても会わせてほしいと言っているとのことだった。
―― お見舞いなんて…私には家族もいないのに。
一体誰だろうと不安に思いつつ、琴子は客に会うと返事をした。

「琴子さん。」
「渡辺さん!」
現れたのは、あしながおじさんこと、鈴木太郎の秘書の渡辺だった。
「ごめんね、こんな所まで押しかけて。」
女学校、それも医務室など男性は絶対に入ることは許されない。だが、渡辺はどうしても琴子に会いたい理由があり、そのために無理を言って入れてもらったのだった。

「…ずいぶん膨れちゃったね。」
渡辺は自分の頬をつつきながら、笑った。
「…もう腫れはかなり引いたんですけれど。」
琴子はじとっと渡辺を睨む。渡辺は自分の失言に気がついた。
「あ、ごめんね。うん、そうだね。可愛いいつもの琴子さんだね。」
慌てる渡辺に、クスッと笑う琴子。渡辺は琴子が本気で怒ってないことを知り、胸を撫で下ろす。

「もしかして…あしなが…じゃなかった、鈴木さんから何か?」
わざわざこんな場所まで秘書を寄越すくらいだ。とうとう学費の支給を止められることになったのかと、琴子は怯えた。
「うん、今日はこれを届けるように言われたので。」
そう言って渡辺が出したのは…バラの蕾だけの花束だった。
「…え?」
渡された琴子は、キョトンとした。
「これ、誰から?」
「勿論、鈴木様から。」
一瞬の間ののち、
「あしながおじさまから!?」
と、琴子は医務室であることを忘れ、叫んだ。飛んできた看護婦に注意されたが、琴子の興奮は冷めやらない。
「ほ、本当に!?」
顔を真っ赤にして興奮する琴子に、渡辺は頷きながら、数時間前のことを思い出していた…。


「お帰りなさいませ。」
外出先から戻った直樹を玄関に出迎えた渡辺は、直樹が手にしていた物に目を見張った。直樹は…バラの蕾の花束を抱えていたのだった。こんな直樹の姿は今まで見たことがない。
「それは?」
渡辺の質問に直樹は答えず、代わりに花束を渡辺へ渡した。
「私にですか?」
日頃の労をねぎらっているつもりなのかと思った渡辺。
「ばあか。誰が男に花なんて贈るか。」
直樹は呆れた目で渡辺を見て、書斎へと入った。花束を手に慌てて渡辺は後を追った。
書斎に入ると、直樹は何かを書きつけていた。
「ん。」
それをまたもや渡辺へ差し出す直樹。そして、
「おたふくへ届けろ。」
と一言命じた。
「おたふく…あ、琴子さん!」
ということは、この花束は琴子への見舞い。驚く渡辺。
「早く届けろ。お前、おたふくかぜは済ませてるだろ?」
「は、はい!」
…という訳で、渡辺は主人の気が変わらないうちにと急いで琴子の許へ駆けつけたのだった。

花束をじっと見つめていた琴子は、中に入っていたカードに気が付き、取り出した。渡辺も直樹が何を書いたのかまでは知らない。
「…。」
カードを見た琴子は、あんぐりと口を開けた。渡辺はどうしたのだろうと、覗く。
「…。」
渡辺も思わず、口をあんぐりと開けた。

カードには、
『元が元だけに、腫れても大して変わらない顔でしょう?とりあえずお大事に。あばよ!』
と書かれていた。

―― 女の子に何ていうことを!
渡辺は琴子の顔をそっと見た。
「…渡辺さん。」
琴子が渡辺の名前を呼んだ。
「鈴木さんは…私の顔をご存知なのでしょうか?」
「いや…どうでしょう?」
多分、知らないはずである。長年直樹に付き合っている渡辺は、一応これは直樹の冗談だと言うことは分かる。いや、冗談であってほしいと願う。だが、琴子には通じるのか…。

「アハハハハ!」
突然、琴子が笑い出した。ショックのあまりにおかしくなったかと思う渡辺。
「なるほど!こんなことを書かれるのでは、お返事は期待しない方がいいわけだわ!」
毎回、こんな嫌味を書かれるのではたまったものではない。そしておそらく…鈴木太郎はこういうことしか書くことができない変人だと、琴子は考えたのだった。
「渡辺さん、私、もう二度と鈴木さんにお返事を要求するような真似はしません!だから…私が書く手紙を読んで下さるだけでいいと伝えていただけますか?」
「わ、わかりました。」
何だかよく分からないが、琴子の中では全て決着がついたらしいことだけは渡辺は理解した。

「でも…嬉しいな。」
琴子はカードを胸に押し当てて、呟いた。
「今まで一人ぼっちだったのに、こうしてお見舞いを下さる…心配して下さる方が私にも現れたんだもの。」
勿論、渡辺さんもその中の一人ですと付け加える琴子。渡辺もそれを聞き、微笑んだ。

戻った渡辺は、この様子と琴子が何度もお礼を言っていたことを直樹に伝える。
「へえ。」
相変わらず直樹は素っ気ない。だが、渡辺は思った。

―― 本当に嫌なら、手紙なんて読まないよな。何だかんだ言っても、お優しい方ではあるんだよ…直樹様は。

そして渡辺はこうも思った。そんな主の不器用な所を、琴子のような素直な人間がいつか分かってくれたらいいと…。

一方、そんな執事の心が通じたのか、直樹にも心境の変化が起こり始めていた。

季節は間もなく夏を迎えようとしていたある日のこと。
取引先から戻る途中、車が斗南女学校の傍を通りかかっていることに気がついた直樹は、運転手に命じた。

「斗南女学校へ入ってくれ。」









♪あとがき
…調子に乗った自分をとても恥じています。後悔しております。
…もう逃げたい!!!
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23:57  |  Daddy Long Legs  |  TB(0)  |  CM(7)  |  EDIT  |  Top↑

*Comment

あばよって・・・・
考えれば考えるほど琴子が言いそうな台詞だわ♪
そして、直樹からの返事♪これまた直樹らしくて
ぷーーーーっと、おかしくなっちゃった♪
けど嫌味の文章読んでも、ポジティブに考えるところが
またまた琴子らしいわ♪
やっぱり直樹は、冷たいけど、実は優しいのよね
うんうん!!ちゃんとイリコトになってる♪
longlegsシリーズ、心から続きが楽しみなの!!
水玉さん、逃げないでね♪全然恥じなくていいの!!!
むしろ、どーーんと来て!!
私縄用意して待っているから♪←えっ??私から逃げたいとか??
ゆみのすけ |  2009.12.09(Wed) 09:24 |  URL |  【コメント編集】

★ついに

直樹様、琴子に接触ですかね!
きゃ~っ。楽しみo(^-^)
まごみ |  2009.12.09(Wed) 11:55 |  URL |  【コメント編集】

★あしなが熱が再燃しそうな今日この頃です♪

こんにちは水玉さん!
2,3と続けて読ませていただきました!!

おたふくエピ、そろそろくるよね?と思っていたので嬉しいですv
原作の良さをいかしつつ、イリコトの雰囲気もばっちりと。
さすがです、水玉さん^▽^)

”あばよ!”ですか。一本とられたぁって感じです。

えーっと1の方であしながおじさんのアニメを録画してあると
書きましたが実は本放送のものではなく
数年前に再放送していたのを録画したものなんですよ。
当時ハマっていたのであしながの二次を書いたりして…^^;)

あと水玉さんのお話でなぜ私があしながおじさんを考えたのかというと
貴婦人の素晴らしい前例と、ときどき水玉さんのコメントで
でてくるファミリー合唱団、のお話もあって
もしかして、似たようなお話(年齢差のある恋愛もの)
つまり次はあしなががくるかもしれない、きてほしいという
自己都合もいいところな妄想…が全ての発端です(笑)
本当、勝手にすみません(-▽-;)
4ではいよいよご対面!? うわ~もう今から胸がドキドキですっ
藤夏 |  2009.12.09(Wed) 12:09 |  URL |  【コメント編集】

★励ましのお言葉、ありがとうございます!!!

コメントありがとうございます!!
皆様、本当に優しい!!!すごい嬉しいです!!!
ああ…浮上してきました!

ゆみのすけさん
あばよ…そんなに面白がっていただけて、嬉しい!!!
しかし…正直、大蛇森以上に犬猿の仲な二人だわ(笑)こんなんで…うまくいくのか(笑)
そして…どうしても優しくなってしまう入江くん(笑)うーん、頑張って冷たさを出そうとしてるんだけどなあ。
優しいか変○のどちらかなのよね、私が書く入江くん(笑)

それから!ゆみのすけさんから逃げたいなんて、私が思う訳ないじゃないですかーーー!
むしろ、餌とかで罠つくられたら、自分から進んで入って行くわ♪←アホ
ありがとうございます!!!その優しいお言葉を聞いたら続ける元気が出てきました!!


まごみさん
そうですよ、ついに接触させます!!←そうさせないと私が進めないから(笑)
やっぱり、二人が顔を合わせないと話は進みません~!
でも本家あしながも…このくらいで顔を合わせています…よね?

藤夏さん
そういうことですか!!
確かに、年齢差ラブストーリー、好きです(笑)ばれてましたね!
ただ貴婦人でカタカナにはすっかり懲りたので、こちらは強引に日本を舞台にしました(笑)
実はこれを書く前に…密かに探したんです、あしなが二次!!一つだけ見つけたのですが…まさかその話の作者さん?
続編がジュディたちの出番が皆無に等しいから、結婚後の話って色々想像しちゃいますよね。(作家はあきらめた感じですが)
数年前に再放送…もう一度やってくれないかなあ。私、このアニメでは小公子も好きなんです♪

拍手コメントありがとうございます

さくやさん
おお、始められたんですか!!一度遊びに行きたいです♪テキストもあるんでしょうか?
紫のバラ…あれもまさしくあしながおじさんですよね。フトンはこの紫のバラから浮かんだ話だけに…ちょっと続きが今も少し気になって調べたりしてますが…こちらはすごい昼ドラ展開になっていて驚きました(笑)
…一発殴りに行きたい、白目社長(笑)

haruruさん
ありがとうございます!!逃げずに舞い戻ってまいりました(笑)頑張ろう!!
ほんわかしてますか?こんな犬猿の仲な二人でも(笑)
嬉しいです!!
励まして下さってありがとうございます♪

佑さん
この辺りから、考えていたように書けたらいいなあと思っていますが…果たして。
しかし本当、想像を文章にするのって難しいです。もう…私には馬鹿馬鹿しいカウボーイの話が一番合っているのかも…涙

foxさん
原作は…忘れて下さい!!!もうこれは別物です!!(今私は宣言します(笑))
原作に大変失礼!勿論イタキスにも失礼!!でも…頑張ります←すごい矛盾している私です
そんなに優しい言葉を下さると…私、調子に乗って暴走しちゃうかもしれません。そしたらごめんなさい^^;
水玉 |  2009.12.09(Wed) 16:04 |  URL |  【コメント編集】

こんばんは、水玉さま。
入江くんから琴子への初めての手紙の内容。
あまりにも可笑しくて笑ってしましました。(笑)
『あばよ』だなんて。

琴子の手紙を読んで入江くんの心の変化に、私は嬉しくなってきてます。
きっと素直な琴子の気持ちが綴られた手紙を読むことで変化していっているんでしょうね。
そして斗南女学校に向かう入江くん。
こっそり琴子を見に行くつもりなんでしょうかね。
初対面するのかな?
でも名前は告げないんでしょうね。
りきまる |  2009.12.09(Wed) 18:27 |  URL |  【コメント編集】

はじめまして!こちらにオジャマさせていただいて、2ケ月弱。やっと全作品読ませていただきました!新作も楽しく拝見させていただいてます。原作は読んだことがないのでワクワクしながら続きをたのしみにしてます。
祐樹’sママ |  2009.12.09(Wed) 19:36 |  URL |  【コメント編集】

★ありがとうございます

コメントありがとうございます。

りきまるさん
この手紙を読んで、それでも援助を打ち切らない入江くんの心の広さにびっくりですよね(笑)
でも…琴子だったらこんな手紙を書きそうで(笑)
だって文才なさそうですし。
おバカなこととさびしいこと、この内容のギャップが入江くんの心をとらえているのかも…。

祐樹'sママさん
はじめまして!!お越しいただいたうえ、コメントありがとうございます!!
変な話ばかりで、お恥ずかしいです。
原作をご存知ないんですね…それはよかった(笑)
もう完全に別物になってしまった感がありありですが、皆さまに励まして頂きながら最後まで書きたいと思ってます。
ぜひまた遊びに来て下さると嬉しいです。
水玉 |  2009.12.10(Thu) 17:51 |  URL |  【コメント編集】

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