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2009.10.19 (Mon)

別冊ペンペン草 14


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広いリビングに通された琴子。
「あの、これ、つまらない物ですが。」
おずおずと、手土産を紀子へ差し出す。
「あらあら!そんな気を遣わなくてもいいのに!」
と言ってくれる紀子に対し、
「本当につまらない物だな。」
と、中を見もしないうちから言う裕樹。
「これ!せっかくお義姉さんが持ってきて下さったのに!」
紀子はそんな裕樹を窘める。

「あら、まあ!」
まず最初に出てきたのは、有田焼の瀬戸物。勿論中は…100g1,000円(中身は300g入っている)の柿ピー。
「おいしそう!ありがとう、琴子ちゃん!」
喜ぶ紀子に琴子は胸を撫で下ろした。が、
「初めて訪問する夫の実家への土産が、柿ピー…。」
とやはり突っ込む裕樹の言葉に、琴子はしょんぼりする。そんな琴子を気遣い、
「裕樹!いいかげんにしなさい!琴子ちゃん、私もパパも柿ピー大好物だから、とっても嬉しいわ!」
と紀子は言ってくれる。

「あと、これは美味しいって評判のマドレーヌです。」
次に琴子が出したのは、西垣マドレーヌお勧めのマドレーヌ(10個で合計2,500円)。
「まあ、こんなに!ありがとう!」
これも喜んでもらえ、安堵する琴子。

それからは、お茶を飲みながら和気あいあいとした雰囲気が流れた。

「ところで、直樹…。」
話が落ち着いた所で、重樹がコホンと咳払いをする。
「来るぞ…。」
横で直樹が溜息をつきながら、小声で言うのを琴子は耳にした。もしかして…。琴子は想像する。
「“漫画家なんていつまで続けるんだ”とか、“もっとまともな職業はないのか”とか、言われるのかしら?こんなに優しいお義父さんなのに…。そうなったら、私がちゃんと入江くんの味方になってあげないと!“入江くんは別ぺの宝です!”と言ってあげるんだから!」
そんな決意をしながら、琴子は重樹が次に言い出すことを待つ。

「直樹…。」
「何?」
重樹はソファの後ろから紙袋を取り出し、テーブルの上に置いた。
「ん?」
少し自分の想像と違う行動をする重樹に、琴子は驚く。
「悪いが、今日もこの色紙にサインしてくれないか?いやあ、息子があの『ナオキン』の作者だと言ったら、社員や取引先が“ぜひサインを!”ってせがまれて。」
「いいよ。じゃあ、家で書いて宅配でこっちへ送るよ。」
「悪いな。」
「あ、あれ?」
ほのぼのとした、父と息子の会話に、少々拍子抜けした琴子。
「反対してるわけじゃないの…かな?」
いや、でもまだ油断はできない。サインはせがまれて仕方なくという可能性もある。ふんどしのひもを締め直す琴子。

「で、直樹。」
「何?」
今度こそ、来るのかしら?と姿勢を正す琴子。
「“ナオキン”もいいんだが…。」
来た!あんなマンガ描いていないで、もっときちんとした生活をとか言い出すのかも!琴子は緊張の面持ちで重樹を見る。
「その…ビジネスマン向けの漫画とかは…描く気にはなったかな?そう、例えば“会長畑耕作”みたいな話を、わしは読んでみたいなあって。あ、“ナオキン”は勿論、毎月楽しませてもらってるよ。ぜひアニメ化の際はわが社でキャラクターグッズの販売をさせてほしいし!」
そんな重樹の話を聞き、今度は紀子が口を出した。
「ずるいわ!それならお兄ちゃん、ママは“シェーンブルンのゆり”みたいなお姫様が一杯出てくる漫画を描いてほしいわ!だって、少女漫画と言えばそれでしょう?」
驚くことに、裕樹までもが口を出す。
「お兄ちゃん。ナオキン面白いんだけどね、本屋で買う時、少女漫画の棚に行かないといけないの、僕恥ずかしいんだ。だから今度は少年漫画描いて!“スリーピース”みたいなやつ!」

それからも三人は、口々にこんな漫画がいい、あんな漫画が読みたい、と騒ぎ続けた。勿論、三人の会話から、『ナオキン』もかなり楽しんでもらえていることは伝わってくる。

唖然とする琴子に直樹は言った。
「これだから、実家は面倒なんだよな。あれを描いてとか帰るたびに言われてさ。」
「はあ…。」
でも漫画家という職業に直樹がついていることは喜んでくれているということが分かり、琴子は安心したのだった。

「あ、そうだ!」
琴子はもう一つのお土産を思い出した。
「あの、これ。今度の全員サービス用なんですけれど。」
そう言って出したのは、コトッペ膝かけだった。
「うわ!すごい間抜けな顔!」
馬鹿にする裕樹。
「結構、温かいんだけど。」
裕樹の言葉にまたもやショックを受けながらも、説明する琴子。
「もう裕樹、いいかげんにしなさい!」
紀子がまた裕樹を窘めた。
「あなた、コトッペ大好きでしょう!」
「え?」
琴子は驚いて裕樹の顔を見る。
「こんな間抜けなカエル、好きじゃないよ!」
真っ赤になって否定する裕樹に構うことなく、紀子は続ける。
「あなた、コトッペの抱き枕が欲しいって、それも3個欲しいって、別ぺの同じ号、三冊も買ったじゃないの!ママ、ちゃんと知ってるんだから!」
「さ、三冊…。」
驚いて裕樹の顔を見続ける琴子。
「おい!勘違いするなよな!別にお前が好きだって言っているわけじゃないんだから!」
「そんなに好きなら…今度から応募しなくても、裕樹くんに持ってきてあげるよ。ほら、私、編集部にいるからそれくらいならできるし。」
ちょっと嬉しくなり、琴子は裕樹に笑顔を向ける。
「いらないよ!バーカ!」
裕樹はそっぽを向いてしまった。

「うん。これなら皆さんと仲良くやっていける!」
琴子は自信がついた。

「でも琴子ちゃんも大変ね。お仕事しながら主婦業もこなしているなんて。」
紀子が琴子を心配する。
「どうせなら、二人とも家で暮らさない?その方が琴子ちゃんも楽になるでしょう?」
「大丈夫だよ。こいつ、ろくに家事できないし。」
琴子は直樹の顔を睨んだ。確かに直樹の言うとおりだったが。
「そう?琴子ちゃん、無理していない?」
直樹の言葉を信用しない紀子は、まだ心配している。
「あ、大丈夫です。お掃除だって1LDKだからすぐに終わるし。」
琴子は紀子を安心させようと言った。しかし、
「今、何て言った?」
と重樹が驚く。
「え?1LDKだからって…。」
その瞬間、三人の表情が変わった。

「直樹、お前まだあの部屋にいるのか!」
「お兄ちゃん、家族が増えたのよ!いくらなんでも狭いでしょう!」
「お兄ちゃん、こいつ絶対歯ぎしりとかするタイプだよ!仕事の邪魔でしょう!」
口々に直樹に詰め寄る三人。そして、
「とにかく、もっと広い場所へ引っ越した方がいい!」
と三人が口を最後は揃えた。

「それは考えてないんだよ。」
興奮する三人に対して、直樹は二コリと笑って答える。
「どうして?」
「こいつがさ、俺の背中を見ながらじゃないと眠れないって駄々こねるから。」
「な…!」
抗議しようとする琴子だったが、
「なんだ、そういうことか。」
と重樹が笑って、何も言えなくなった。
「そうよね、新婚さんですものね。」
紀子も頬を染める。口をパクパクさせる琴子に気づかない二人。
「こんな息子をそこまで…琴子ちゃん、本当にありがとう!琴子ちゃんみたいな世界一の嫁をもらって、何て直樹は幸せなんだろう!」
再び琴子の手を取り、涙を流さんばかりに喜ぶ重樹に、琴子は何も言えなくなり、
「こちらこそ…。」
と答えるのが精一杯だった。勿論そんな琴子を見て、直樹は意地悪く笑っていた。



「入江くん、ひどいよ!」
家に戻り、琴子は直樹に抗議した。
「私が広い所へ引っ越そうと言ったら、入江くんが変な理由考えて、拒否したくせに!」
ぷんぷん怒る琴子。
「いいじゃん。あれで俺たちが夫婦円満だってことを親も分かってくれたんだから。」
「あれじゃ、私がわがままを言っているみたいじゃない!」
琴子は納得できない。
「ったく…しょうがないなあ。」
直樹は溜息をつき、怒る琴子の唇に優しくキスをした。
「これで、機嫌直った?」
「…直らない!」
こんなキス一つで誤魔化される訳にはいかないと、琴子は怒った顔を直そうとしない。が、そんな琴子の態度を気にするでもなく、直樹はそのまま琴子の首筋へと唇を…。
「ちょ、ちょっと!まだ午後!」
慌てる琴子に、
「お前も覚えているだろ?俺たちが帰る時にお袋が俺に言った言葉。」
「え?」
「…“琴子ちゃんを大事にしなさいね”って。」
「それ、そういう意味じゃないでしょう!」
「俺にとってはそういう意味なの。」
そう言い、直樹はまた琴子の首へと…。

その時、インターフォンが鳴った。
「入江くん、誰か来た!」
助かったと言わんばかりに、琴子が言う。
「いいよ。俺達、今はお取り込み中だから。」
直樹は琴子から離れない。
しかし、騒ぐ琴子に根負けして、直樹は渋々玄関へと向かった。

「先生!頼まれた資料のコピー、持ってきました!」
「ヒガンバナ…。」
そこに立っていたのは、ヒガンバナならぬ、ローズマリー船津だった。
「なかなか見つからなくて、国会図書館まで行って来たんです!」
「そりゃ、お疲れ様。」
ムードをぶち壊されたことの不機嫌さを隠そうともしない直樹に、船津は気がつかない。
「じゃ、これ今回のアシスタント代。じゃあな。」
中に上げず、直樹は封筒を船津へ投げるように渡し、ドアを閉めた。


「100円…。」
玄関の前で船津は、封筒から出てきた100円硬貨を見つめて呟いた…。


先程の続きをと直樹が急いでリビングへ向かうと、そこにはテレビを見て柿ピーを頬張る琴子がいた。
「おい…。」
続きをしようとする直樹の口に、琴子が柿の種を一粒、入れる。
「…続きは夜になったらね!」
そう言って微笑む琴子に、直樹は何も言えなくなった…。

仕方がないので頼まれたサインをするかと、直樹は仕事部屋兼寝室へと入る。

それを見た琴子は、胸を撫で下ろした。
「やれやれ…。」
そして先程言った自分の言葉をふと振り返る。
「ちょっと待てよ?私、何気に凄いこと言った?」
続きは夜…続きは夜…と呟く。
「これって…誘っているも同然じゃない!!」
途端に琴子は真っ赤になり、クッションをバンバンとソファへ叩きつけた。

「…やっと気がついたか。」
ドアの傍で耳を済ませていた直樹は笑う。
「さてと。せっかくのお誘いを無にしないためにも、頑張るか。」
そして色紙を取り出した。


「あ、新作できたんだ!」
数週間後、別ぺの増刊『ザ・ペンペン草』に掲載する直樹の新作が出来上がった。
「ここ数日、徹夜だったもんね。」
机に突っ伏して眠っている直樹に琴子は、毛布をかける。そしてベッドに座り、原稿に目を通し始めた。
それは、社長の地位まで上りつめた日本人の会社員が、突然何を思い立ったのか“山賊になる!”と決意し、海外へ渡り、山という山を制覇。そのうち、とある国の暴動に巻き込まれ、その国の王女と禁断の恋に落ちる長編だった。

「何か…少女漫画なのか何のジャンルなのか、もはや分からないけど…でもやっぱり入江くんの漫画は面白い!」
そして琴子は思った。
「家族みんなが読みたいと言っていた内容を全て一つの作品にしたんだ…それができちゃう入江くんは凄いけど…みんなの望みをこうやって叶える入江くんって家族思いだな。」
ますます直樹が大好きになった琴子。そして、
「お疲れ様。」
と、眠っている直樹の頬へ優しくキスをし、寝室をそっと出た。



                           




♪あとがき
ラブも特になく、オチもなく…だからお蔵入りだったんです、この話^^;
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20:06  |  別ペ  |  TB(0)  |  CM(4)  |  EDIT  |  Top↑

*Comment

★入江君、さすが!

未だ1LDKに住んでいることの理由を「琴子が俺の背中を見ながらじゃないとと眠れないとダダをこねる」と家族に説明をする入江君に喜ぶ家族。訂正したいが、家族の喜ぶ顔を見て、それも出来ず、真っ赤になりながら入江君をうらめしそうに見ているであろう琴子を想像し、思わず笑みが...。

家に帰り、ふたりでいいムードになった所で、ローズマリー船津君登場。今度はお駄賃(アルバイト料)100円に値下げだ、可哀想な船津君。

そして、家族のリクエストを一つの漫画に描けるなんて、やっぱり入江先生は天才だ!
るんるん |  2009.10.19(Mon) 22:08 |  URL |  【コメント編集】

★ザぺの長編、読んでみたい

ギャグじゃない入江先生の長編マンガ。
読んでみたーい。おもしろそー。
高級柿ピーは陶器入りなんだ。すごいな。(笑)
KEIKO |  2009.10.20(Tue) 12:01 |  URL |  【コメント編集】

★お蔵入りじゃなくてよかったです。。

こんにちは水玉さん

哀れローズマリー船津くん・・・―▽―;;
アシスタント代が500円から100円に下がってる(爆)
でも琴子とお取り込み中をジャマされるのは
直樹にとって一番許しがたいことですからこの仕打ちは仕方ないかな・・・(笑)

高級柿ぴー、私も食してみたいです。
でもあんまり高いと気軽にぽりぽりと食べられなさそう(笑)
藤夏 |  2009.10.20(Tue) 13:17 |  URL |  【コメント編集】

★コメント、ありがとうございます♪

コメント、ありがとうございます♪

るんるんさん
そこが書きたかったんです!ありがとうございます!るんるんさん、分かって下さって!!嬉しい!!
そして、「…だ。」と韻を踏まれた楽しいコメント、ありがとうございます!!
本当、可哀想、100円って…いまどき小学生ももう少しもらっているのでは?

KEIKOさん
そうなんです。陶器に入った最高級柿ピーなんです。(錦松梅みたいな感じ)
入江先生、どんな王女を書くのか…ちょっと興味があります(笑)

藤夏さん
ありがとうございます♪オチがいまいちなのでこのまま蔵に入れておくか!と思ったのですが。そう言っていただけて嬉しい♪
確かに!高級すぎると一粒一粒、丁寧に口を運ぶことになりそう…(笑)
ローズマリーをいじめるのは、直樹をいじめる事の次に、私の生きがいです(笑)
水玉 |  2009.10.20(Tue) 19:40 |  URL |  【コメント編集】

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