日々草子 私の美しい貴婦人 9

私の美しい貴婦人 9

コトリーナがウェスト男爵邸へ移る日が翌日となった夜、ノーリー夫人は最後の夜だからと、夕食に腕を振るった。
「先生、また最近忙しいんですね…。」
結局あれからナオキヴィッチは家に寄り付かない。そして今夜も帰れないと連絡があった。
「最後にお世話になったご挨拶をしたかったのにな…。」
しょんぼりするコトリーナ。ノーリー夫人はコトリーナが可哀想でたまらなくなり、思わず抱きしめる。
「向こうへ移っても、時々は顔を見せてちょうだいね。」
「はい。」
そう返事をしながら、コトリーナは多分ここへ足を運ぶことは二度とないだろうと思っていた。ナオキヴィッチの顔を見るのは辛くて堪らない。
そして、ナオキヴィッチの邸で過ごすコトリーナの最後の夜は更けて行った。


翌日の昼前、わざわざ自分で迎えに来た男爵に連れられ、コトリーナはナオキヴィッチの邸を後にした。

そして出て行ったコトリーナをすれ違うかのように、ナオキヴィッチが戻って来た。
「お茶をくれ。」
ぐったりと疲れて座り込み、ノーリー夫人に命じるナオキヴィッチ。
「はい。」
夫人はお茶の入ったポットをドンと音を立てて置く。
「カップは?」
「…意地悪な男性にはカップなど洒落たものは必要ございませんでしょう?直接ポットから口へ注いで飲まれたら?」
つっけんどんに言うノーリー夫人。コトリーナのことを考えて一晩中眠れなかったナオキヴィッチの不機嫌は高まる。
「ったく…一体何なんだ。」
まさか夫人の言うとおり、直接ポットから飲むわけにはいかない。ポットの蓋を開けたり閉めたりする、無意味な行動を繰り返すナオキヴィッチは、部屋の中のある物に目を止めた。
「何だ、あれは?」
それは毎朝、コトリーナが磨いていた花瓶だった。そこには白い可憐な花が生けてある。
「ああ、コトリーナちゃんが今朝生けていってくれたんですよ。」
コトリーナの名前を呼ぶと涙が止まらない夫人は、目頭を押さえながら言った。
「今朝早く、どこかへ出かけたかと思ったら両手いっぱいにこの花を抱えてきて…。」
「ふうん…。」
花が生けてある花瓶は、この邸へ来たばかりの頃、コトリーナが首を突っ込んでナオキヴィッチが抜いてやったもの。そんな懐かしい思い出が蘇る。
「コトリーナちゃんみたい。可愛いお花。」
居たたまれなくなったナオキヴィッチは部屋を出た。見ると階段の傍、廊下等、至る所に同じ花が生けられている。
「あいつ、この花が好きだったのか?」
首を傾げながら自室へ戻ると、何とそこにもその花が生けられていた。

暫くその花を見つめるナオキヴィッチ。確かにその白く可憐な花は、ノーリー夫人が言うとおり、コトリーナの姿を思い出させる。
「…ばあか。」
それはコトリーナへ向けてではなく、自分自身へ向けて言ったことだった。そして花を見つめた後、ナオキヴィッチは書棚から一冊の本を取り出し、開く。そして本を勢いよく閉じ、出かける支度をし、一階へと駆け下りた。

「あら?またお出かけ?」
まだ機嫌の直っていない夫人が馬鹿にしたように訊ねた。
「どちらへ?また研究室ですか?コトリーナちゃんはもうこちらにいないのだから、くだならい八つ当たりをする必要はないのだし、家にいたら…。」
「あのエロ男爵の所へ行って来る!」
そう言い残し、ナオキヴィッチは玄関を出て行った。

「あら…まあ!」
途端に機嫌を良くする夫人。
「頑張って、ナオキヴィッチ様!」
そして遠ざかる馬車へ向かって、声を張り上げたのだった。


「困ります!お待ち下さい!」
ベッドの中でうつらうつらしていたウェスト男爵は、執事の慌てた声で起こされた。一体何事かとベッドに起き上がる。と、同時に寝室のドアが勢いよく開かれた。
「ナオキヴィッチ!」
そこに現れたのは、何があっても取り乱すことのない冷静なナオキヴィッチ教授。何度かこの邸へ来たことがあるナオキヴィッチを知っている執事は、その尋常でない行動を止めるのに必死だった。
「い、一体…?」
男爵も驚きを隠せない。そんな男爵をチラリと見ながら、ナオキヴィッチは男爵の隣に横になっていると思われる、ベッドが盛り上がっている部分に目をやった。…なんてことはない。すぐに忘れてしまえばいいこと。ナオキヴィッチはそんなことを考えていると、
「何ですか…?」
盛り上がっている部分から、騒ぎに気がついた人間が顔を覗かせた。立っているナオキヴィッチと視線が合う。
「キャーッ!」
悲鳴を上げる女性。
「…誰だ、これは?」
「それはこちらの台詞です!」
それはナオキヴィッチが見たことのない女性だった。女性は慌ててベッドの中に再び身を沈めた。
「一体これはどういうことなんだ…?」
ナオキヴィッチは怒りを込めて視線を、男爵へ投げつけた。男爵は急いでガウンに袖を通しながら、
「取り敢えず落ち着け、ナオキヴィッチ。」
と、隣室へとナオキヴィッチを連れて行く。

隣室へ入った途端、男爵はナオキヴィッチによって壁へとその身を押しつけられた。
「あんた、一体どういうつもりなんだ?」
片手で手にしていたステッキを男爵の顔の横に突き刺し、片手で男爵のガウンの襟元を掴んで怒るナオキヴィッチ。
「さっきコトリーナを連れて帰ったと思ったら…あれから数時間しか経っていないのにもう違う女と…!」
「違う!落ち着け!」
殺気漂うナオキヴィッチの態度に青ざめながら、男爵は両手でナオキヴィッチを押しとどめようとする。
「コトリーナはやっぱりお前みたいなエロ男爵には渡せねえんだよ!」
普段の冷静、丁寧な口調はどこへいったのか、ナオキヴィッチは乱暴に男爵へ話す。
「返してもらおうか…?」
「か、返すも何も…コトリーナはここにはいない!」
「いない…?」
嘘をついているのではとナオキヴィッチは疑った。
「本当だよ!ここへ連れてくる途中、僕とはやっぱり結婚できないって、馬車を降りてしまったんだ!」
どうやら男爵は嘘をついていないらしい。ナオキヴィッチはステッキを下ろし、ガウンから手を離し、部屋を出て行った。

あまりのナオキヴィッチの剣幕に、男爵はその場にしゃがみ込んでしまった。が、すぐに笑顔を浮かべた。
「やれやれ…。お子様な二人の可愛い恋愛騒動にすっかり巻き込まれってしまったようだ。」
そしてベッドの中に残してきた女性の機嫌を取りに、寝室へと向かった。

手ぶらで戻ったナオキヴィッチの姿を見て、ノーリー夫人は肩を落とした。だが、コトリーナが男爵との結婚を断ったと聞き、顔を輝かせる。
「それで、コトリーナちゃんは?」
「…探すよ。何としても。」
主の言葉を聞き、夫人は、
「そうですよ!こうなったら世界中歩いてでも探し続けないと!」
と励ました。

その夜、ナオキヴィッチは懐かしい物を手にしていた。
『…毎朝市場に行って花を買い付けるっぺ。』
それはここへ来たばかりの頃、録音したコトリーナの声が入っている録音機。
「あいつ、こんなに凄い訛りだったんだな。」
聴きながら思わず笑ってしまうナオキヴィッチ。最初はどうなることかと思ったが、まさかあんな素敵な女性になるとはナオキヴィッチも思っていなかった。そしてまさか自分が取り乱す行動を取るほど、コトリーナに夢中になることも。
「絶対探し出してやる。」
そう決意して、録音機に耳を傾ける。そして、
「…!」
録音機から流れてくるコトリーナの話に、ナオキヴィッチはあることを思った。








♪あとがき
教授、御乱心。

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ナオキヴィッチ、やるじゃない!

コトリーナ、とうとうエロ男爵のもとに行っちゃった。と思ったら、結婚をドタキャンしたんですね。
普段、冷静沈着なナオキヴィッチがあんなに取り乱すなんて、やっぱり最後の最後で本当の自分の気持ちに気づいて、手遅れになんなくて、よかった!
後は、コトリーナを無事に捜し出すだけですね。
コトリーナ、早く帰って来てね!

それししても ガッキー男爵、婚約者にドタキャンされてすぐに別の女性を連れてくるなんて、さすがですね!(笑)

コトリーナ待っていろよ!!

水玉さん、こんばんは。
凄いことになりましたよ。
コトリーナが行方不明に。
コトリーナは男爵の元へ向かう途中で馬車から降りてしまったようです。
ナオキヴィッチはコトリーナが出て行った後さり気なく生けてあった花を見ています。
コトリーナの好きな花が生けてあります。階段などに好きな花が。
そこで初めてコトリーナの気持に気が付いたのでは。
自分も好きだったんだという事に。
ナオキヴィイッチは団爵の許に。
男爵の部屋に入ったナオキヴィッチはベッドにいる姿を見てコトリーナかと思ったのでは。
でも別人でしたね。コトリーナでなくて安心したのでは。でもコトリーナに振られて直ぐに別な女性と一緒だとナオキヴィッチも怒りますよね。
でもコトリーナは何処へ。
琴子のテープを子聞いてナオキヴィッチは、コトリーナの訛りが酷かったんだなぁと。それが今では見事な貴婦人に変身をしたのですから。
テープを聴いて何か閃いたのかな。
コトリーナの居場所が。
コトリーナ、迎えに行くから待っていてよ。

 偉い、えらいぞ。ナオキヴィッチさん!! それでこそ男だ(笑

 こんばんは、暢気猫です^^ 階段を駆け上がるような急展開に目が離せません。にゃー、もう一話読みたいー!(笑

 ナオキヴィッチさんよ。言うのが遅すぎです! ……コトリーナがドタキャンですか、よっしゃ、恋の逃避行といこうじゃないか(蹴)
 ウェスト男爵さん。グッジョブ(親指ぐっ)しかし、そのあとに女性のほうへ戻られるとは……いや、そもそも結婚直前だったというのに口説かれた女性がいたとは。
 私はそちらのほうに吃驚です。

 ちなみに、もしも眠っているのが本当にコトリーナだったとしたら、私はナオキヴィッチさんよりも先にウェスト男爵を殴り飛ばしていたでしょう(笑)

 水玉さん! 「返してもらおうか…?」このシーンが好きです! きっとこのときのナオキヴィッチさんは表情が無茶苦茶怖かったと思います。
 青ざめながらもウェスト男爵は、難とか誤解を解くことに成功です。私には絶対に無理です。
 ウェスト男爵って、凄いですね。
 よし、ナオキヴィッチさん。ここまできたらもう男になるしかありません。頑張って!!


 ではでは、そろそろお邪魔しました^^ 続き、楽しみに待っています。

イケイケガンバレ

エライぞ、それでこそナオキヴィッチ!

早くコトリーナを見つけて、自分の想いを伝えてね!

今回のガッキーは、良い人?ですね!少し見直してたのに・・・・・最後はやっぱりでしたね!

はじめましてのご挨拶

はじめまして水玉さん
イタキス大好きな藤夏と申します。

今年のはじめからずっとこちらにはお邪魔しておりましたが、
なかなかコメントや拍手ボタンをおす勇気がでなくっていつも読むだけになっておりました・・・><

万華鏡、円舞曲、比翼の鳥etc…無知な私がどれだけ水玉さんの作品で
勉強になったかいうまでもありません。


そして、私の大好きな映画がモチーフになっているこの作品がUPされはじめて
PCの前で一人小躍りしながら「私の・・・」が終わるまでに絶対コメントを投稿するぞと決意して
本日にいたった次第です(勝手にすみません(笑)

ナオキヴィッチやっと、やっと!素直になりましたねー。コトリーナは果たしてみつかるのか!?!?
彼女を前にしたらもう冷たい言葉はかけないでほしいなぁ、、、
個人的にはナオキヴィッチを素直にさせたガッキー男爵に拍手をおくりたいです(笑)
早速ほかの女性と共にいつあたりはさすがですね^^;)

長くなってしまいましたが、またこちらにもちょくちょくお邪魔したいと思います。
これからも水玉さんの素敵で面白くて心あたたまる小説を待ってます。

男爵はやっぱりタラシでした~

コメントありがとうございます(^v^)

るんるんさん
そうそう。しかも数時間後に別の女性と(笑)
そして寝室まで乱入する、とてもジェントルマンとは言えない行動の教授。
いや~書いていてかなり楽しかったです♪

tiemさん
男爵と一緒に寝ているのがコトリーナじゃなくて、確かに安堵したでしょうね、ナオキヴィッチ。
自分の気持ちに素直になった今、もう迷うことはないでしょうね♪

暢気猫さん
男爵は社交界一のモテ男なので、女性には事欠かない(笑)
そしてもし、眠っているのがコトリーナだったら…連れ帰ってすぐにそういう関係!?ってこちらも吃驚です(爆笑)
「返してもらおうか」ありがとうございます!!!
この拙い文章力ではその凄みは出ない~と泣いていたので!
他にセリフはないのか~とか一人で色々考えて書きました!!!
それにしても、暢気猫さんを含めて皆さんから「男になれ」と励まされるナオキヴィッチって一体(笑)

kobutaさん
男爵はやっぱりこうでないと(笑)
やっぱり男爵の恋人は、地球上のすべての女性なんですよ(笑)
それにしても、やっぱり励まされるナオキヴィッチ…(笑)ヘタレになってしまった…。

藤夏さん
はじめまして!足を運んで下さった上、コメント、ありがとうございます!!
私、藤夏さんを取って食べようだなんて思ってないのでご安心ください(笑)
そして…この駄文で勉強!!もったいないお言葉です。でも、信用しないで下さい><だって時代考証とか本当に適当になってるので!!!
藤夏さん、この話の元の映画、お好きなんですか♪ごめんなさい!!!見てもいない私が勝手に使ってしまって><あらすじは一応読んだのですが、見ていないとやはり細かい点までは書けないので、ほとんど私が勝手に書いてしまっているので、映画のファンの方には申し訳ない思いでいっぱいです。
またお気軽に足を運んで下さいね。いつでもお待ちしております♪
プロフィール

水玉

Author:水玉
『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
そっと見守っていただけたら嬉しいです。

※当ブログに掲載されている文章及びイラストの無断転載・使用はご遠慮下さい。

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このブログについてのお願い
当ブログは、『イタズラなkiss』の二次創作をメインとしておりますが、時折管理人の趣味や日々の出来事についての記事も書いております。

原作者様や関係各位とは一切関係ありません。

二次創作については、いわゆる原作の隙間をぬった作品もありますが、主人公以外のキャラクターをメインとしたものや オリジナルキャラクターが出てくるものもございます。

そして、原作と違った時代(平安や明治やその他の時代を舞台にしております)、異なる設定(主人公を医者と看護師じゃない職業にしております)で書いてあるものが多いですが、原作を冒涜しているつもりは全くございません。

二次創作が苦手という方及び原作のイメージと合わないと思われる方はどうぞお引き取り下さいますようお願いいたします。

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