日々草子 私の美しい貴婦人 8

私の美しい貴婦人 8

コトリーナとウェスト男爵が婚約してから、ナオキヴィッチは家を空けるようになった。
というのも、何だかんだ理由を付けては男爵がコトリーナに会いに来るからだった。婚約者なのだから当然なのだが、それがナオキヴィッチは面白くない。

この日も、大学からナオキヴィッチが戻ると男爵が来ていた。
応接間の前を通ると、二人の話し声が否応なしに聞こえてくる。

「このウェディングドレスはきっとコトリーナに似合うよ。」
男爵の甘い声は、何度となく耳にしたことがある。今までこの声でどれだけの女性を口説いてきたことか。
「でも…私はスタイルがよくないから。」
不安そうなコトリーナの声。
「そんなことないよ!」
「そうかしら…?」
どこからどう聞いても、恋人たちの睦まじい会話だった。しかも聞きたくもないのに、なぜ自分が立ち聞きしてしまうのか、ナオキヴィッチは自分にも腹を立て始める。

二人の会話はドレスの話題から、自然と子供の話になった。
「子供は…そうだな。たくさん欲しいな。」
「そうですね。」
同意するなと突っ込むナオキヴィッチ。
「“サウンドオブミュージック”みたいに、家族で合唱団を結成できるくらい!」
ナオキヴィッチは、男爵とコトリーナ、そして二人に似た子供たちが舞台で歌を歌っている様子を想像してしまう。
「サウンドオブミュージックって、エーデルワイスの歌が出てくるお話ですよね?」
花を売っていた娘らしいことを口にするコトリーナ。
「そうだよ。そうだ!ハネムーンは、エーデルワイスを見に行こうか!」
どうやらハネムーンの行き先まで決まったらしい。

「ところでコトリーナ?」
再び男爵が甘い声を出した。
「僕たち、結婚するんだからその…“男爵様”という呼び方は他人行儀じゃないだろうか?」
「でも…。」
「君は僕の妻になるんだから、そろそろ“ガッキー”と呼んでくれない?」
そういえば、男爵のフルネームはガッキー・ウェストというんだったと、今になって思い出すナオキヴィッチ。
「ガッキー様…?」
恥ずかしそうなコトリーナの声。
「“様”はいらないよ。」
「ガッキー…。」
とうとう我慢が出来なくなったナオキヴィッチは、応接間のドアをノックせずに音を立てて開けた。

「ナオキヴィッチ!」
そこにはコトリーナを抱き締めている男爵がいた。慌てて男爵から離れるコトリーナ。その様子を見て、ナオキヴィッチの怒りは頂点に達する。
「ノックぐらいしたまえよ。」
「ここは俺の家ですからね。主人がどうしようが客にとやかく言われる覚えはない。」
男爵は肩をすくめた。

「そうだ、ナオキヴィッチに頼みがあるんだった。」
無言で睨み続けるナオキヴィッチに、男爵は機嫌良く話す。
「コトリーナの親は遠くに住んでいて、ここまで出てくるのに時間がかかるらしいんだ。」
「それで?」
「結婚式にコトリーナと一緒にヴァージンロードを歩いてほしいんだよね。君、保護者みたいなもんだし。」
「断る!」
怒ったナオキヴィッチを見て、コトリーナはオロオロして言った。
「あ、あの、ガッキー様…。」
「だからガッキーでいいって。」
「ガッキー…私、一人で大丈夫ですから。」
「そう?残念だな。」
そして帰り仕度を始める男爵。
「それじゃね、コトリーナ。」
男爵はコトリーナの手にキスをして、「エーデルワイス、エーデルワイス、可愛い花よ…」と歌いながら、ナオキヴィッチの家を後にした。

男爵を見送った後、部屋へ戻ろうとしたコトリーナをナオキヴィッチは呼び止めた。
「おい。」
「はい?」
振り返るコトリーナ。…数日顔を見ていなかったせいか、前より美しく見える。それがウェスト男爵の愛を受けているからだと思うと、ナオキヴィッチは面白くない。
「合唱団を結成するくらい、子づくりに励むのはお前の勝手だけど。」
“子づくり”という言葉を聞いて、顔を赤らめるコトリーナ。だがそんなコトリーナに構うことなく、ナオキヴィッチは続ける。
「…我慢できないからって、俺の家のベッドは絶対使うなよ。」
「べ、ベッド…って!」
恥ずかしさと怒りで顔を真っ赤にするコトリーナ。
「そんなこと…しないわよ!」
「あ、そ。それならいいけれど。何だかお前、すっかり浮かれているみたいだから突拍子のないことをしでかしそうでさ。」
「…ひどい!あんまりよ!」
「なら…さっさと出て行けよ。行くあても決まったことだし。」
追い打ちをかけるナオキヴィッチに、コトリーナは耐え切れなくなって自分の部屋へと行ってしまった。

そんなコトリーナの後ろ姿を見て、ナオキヴィッチは階段へと腰掛けた。
「…また泣かせた。」
言いたくもないことが次から次へと口から飛び出す、こんな状況に心底うんざりするナオキヴィッチ。
そんなナオキヴィッチの頭に、何かが当たった。
「痛え!」
何事かと顔を上げると、壺を持ったノーリー夫人が鬼のような形相で見下ろしていた。
「一体、あなたはどこの鬼姑ですか!」
「はあ…?」
「意地悪なことを沢山に口にして、いびって追い出すなんて、鬼姑のやることです!可哀想なコトリーナちゃん!」
「…橋田○ガ子の見過ぎだ。」
ナオキヴィッチの言葉を無視して、ノーリー夫人は言った。
「この…大馬鹿者!」
そして歩いて行ってしまった。
「どこの世界に主に大馬鹿者と言う人間がいるんだ。」
だが夫人の言うとおり、自分は世界一の大馬鹿人間だと、ナオキヴィッチは思っていた。

数日後。
コトリーナの部屋へ、ノーリー夫人が血相を変えてやってきた。
「コトリーナちゃん!今、男爵様の使いの方がいらしたんだけど…あなた、来週、男爵様の元へ行くって本当なの?」
「…はい、おば様。」
笑顔で答えるコトリーナ。
「だって…結婚式はまだまだじゃないの!」
「結婚式より先に、一緒に暮らそうと思って。男爵様…ガッキーも喜んでくれたし。それに…。」
「それに?」
「…私、先生にすっかり嫌われてしまったみたいだから。先生、私の顔なんて見たくないみたい。だから最近、大学に泊り込んでいるんでしょう?」
ナオキヴィッチがコトリーナの顔を見たくないのは、子供じみた嫉妬心からなのだが、それを夫人が口にするわけにはいかない。
「何をしたのか分からないけれど、嫌われちゃったんだから…出て行かないと。」
ナオキヴィッチと離れるのなら、早い方がいいとコトリーナは思っていた。それに、これ以上、ナオキヴィッチから冷たい言葉を聞かされ続けるのは耐え切れない。
「先生、本当に私のこと何とも思ってなかったんだ…それどころかあんなに毛嫌いされていたなんて。」
泣きそうになるのを必死で堪えながらコトリーナは、ノーリー夫人に笑顔を見せ続けた。

コトリーナの部屋を出た後、ノーリー夫人は、
「この…大馬鹿ナオキヴィッチ!!」
と、ナオキヴィッチの部屋に向かって忌々しく呟く。夫人はコトリーナが無理をしていることにも気が付いている。
「男なら…玉砕覚悟で好きだって言いなさいよ!この馬鹿ちんが!」
夫人は腹立たしく階段を下りて行った。







☆あとがき
というわけで、男爵のフルネーム、初公開(笑)
コメント(拍手コメントも含めて)を下さる皆様が揃って「ガッキー」と呼ばれているので、そのまま拝借しました♪

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comment

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大馬鹿 ナオキヴィッチ!!

「大馬鹿 ナオキヴィッチ!!」
ノーリー夫人が私の気持ちを代弁してくれました。(笑)
本当にナオキヴィッチって、子供みたいですね。
自分の気持ちに素直になれないばかりか、わざと相手に嫌われる事を言って...。
早く正直に自分の気持ちを伝えないと、手遅れになっちゃう...。
「橋田○ガ子」大うけです!

悶死

サー・ガッキー・ウエスト…。
衝撃のフルネームに、ベッドの中でケータイ握りしめて、しばし笑い悶えてましたョ。

さて、この「馬鹿ちん」はいつまで馬鹿ちんのままでクサっているおつもりなんですかね?
悪いけど、女ったらしでも男爵様の方が百万倍ステキだわ!
ここは思い切って、ウエスト男爵を選んで、合唱団作っちゃえ~、コトリーナ!!…ま、できっこないけど、彼女には。

大馬鹿チン?

水玉さん、おはようございます。
もうナオキヴィッチには、イライラしてきますね。
好きなんでしょう。何で取り返そうとしないで、イジワルな事ばっかり言うのよ。イジワルな言葉を言うということは好きな証拠なんだよ。
コトリーナまもなく家を出て行くよ。
ノーリ夫人が言うように大馬鹿だよ。
いつまで愚痴っているんだと。
早く取り戻しなさいよ。男でしょう。
ガッキーさんの家に行くよコトリーナ。

おなかいたい。

ちょっと水玉さんwww

ガッキー・ウェストに馬鹿ちん・・・・
ふ、腹筋が張り裂けそうです・・・!
お子ちゃまナオキヴィッチこそあれですね。
一回木から落ちた方がいいですね!
ヘタレだとときめくのに、お子ちゃまだとこのイライラ感!
何よりほんとにやっぱり水玉さん大好きです!

ご馳走様でした^^

 お早うございます、暢気猫です^^

 ようやくパソコンが(一時的に)復旧しましたー。インターネットにつながらないと不便ですね。やっぱり。
 あれ? また掲示板をかえられましたか? こちらもすっきりしていてとても見心地がいいです^^ あずき色は好きです。

 本を壁に投げつけるナオキヴィッチさんをもっと見たいと思う今日この頃です(笑)滅多に感情を表に出さないだけに、すんごく新鮮味があって美味しいんですよ。
 ……投げつける本はコトリーナのために買った教育書や童話だったりするのかな? それで、コトリーナさんが出て行った日には、焼却炉の中に放り込みそう(笑)それはそれで、一味かなと思います。

 ……ちなみにウェスト男爵がかの有名な浮気先生であることにしばらく気付かなかったことは秘密です。
 えーっと、競馬のあたりで気づきました(照
 次回が楽しみです。ウェスト男爵、悪乗りしませんように。早くナオキヴィッチさんが素直になれますように。

 ご馳走様でした。美味しかったです^^

 前回の返信
 そんなことはありません。こう見えて、私ってけっこう小説には煩いんです。ちょっとだけ、読者としての目利きには誇りを持っています^^
 そんな私が釘付けにさせられちゃうぐらいですもの。絶対に絶対にぜーったいに面白いです。凄いです。上手です。はい^^
 ではでは、長々と失礼しました。

お子様ナオキヴィッチを励まして下さる(?)皆さまへ

コメントありがとうございます♪

るんるんさん
あ、やっぱり(笑)ノーリー夫人と同じ気持ちでしたか^^…私もそうですが。
そして、小ネタ(と呼べるほどのものでもないですが)、気がついて下さってありがとうございます~♪
…すっかり気分は芸人です(笑)

アリエルさん
あーーーそっかそっか、サーの称号がつくんだね(笑)
それが名づけてみると、結構しっくりくるのよ、ガッキー・ウェスト(笑)私はかなり気に入ってます^^
バカちんも、いつまでもバカちんでいさせるわけにいかないしねえ…はあ。あ、合唱団受け入れていただいてホッとしました。…やり過ぎ?とちょっとヒヤヒヤしてたので。

tiemさん
あーこちらにもイライラしている方が(笑)
そりゃそうですね。はっきり言って男の風上にも置けないって奴ですもの!
…書くな、そんな男を私も(笑)
これ、傍で見ているノーリー夫人は相当イラついているでしょうね(笑)

茉奈さん
おお!そんなに!!!ありがとうございます!特にガッキー・ウェストへの素晴らしい反応!!
ヘタレの方がまだマシだったか(爆笑)
そしてそんな怒りの声を聞いて喜ぶ、これまた完全におかしくなっている私…。
そんな私を大好きだと言ってくれる茉奈さん!私も茉奈さんのこと大好きです~ていうことで、お宝セクシー写真、5枚セットを贈呈!(←だんだん増えて行く枚数(笑))

暢気猫さん
まず、私のコメントの返事を見て下さった上、さらにお返事、ありがとうございます!!
凄い嬉しいです!気がついて下さったんですね!!
上手ではないですよ~(^^ゞ…ただ視点は変わっているとよく言われますが(笑)ありがとうございます!褒めて下さって!
テンプレ、私、相当飽きっぽいんです。だから週1…いや凄い時は三日に一度で変えます(笑)この間の御借りしていたものは、割と長く使用させていただいていましたが…。なのでまた変わる可能性、大です!そして赤系が好きなんです♪
あと、癇癪お子様ナオキヴィッチ、新鮮と仰っていただけてとても嬉しかったです!!原作のイメージでは絶対癇癪など起こしそうもないのですが、ちょっと私が見てみたかった^^
でも競馬でよく気がついて下さいましたね!!そちらに私は驚きましたよ♪
プロフィール

水玉

Author:水玉
『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
そっと見守っていただけたら嬉しいです。

※当ブログに掲載されている文章及びイラストの無断転載・使用はご遠慮下さい。

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当ブログは、『イタズラなkiss』の二次創作をメインとしておりますが、時折管理人の趣味や日々の出来事についての記事も書いております。

原作者様や関係各位とは一切関係ありません。

二次創作については、いわゆる原作の隙間をぬった作品もありますが、主人公以外のキャラクターをメインとしたものや オリジナルキャラクターが出てくるものもございます。

そして、原作と違った時代(平安や明治やその他の時代を舞台にしております)、異なる設定(主人公を医者と看護師じゃない職業にしております)で書いてあるものが多いですが、原作を冒涜しているつもりは全くございません。

二次創作が苦手という方及び原作のイメージと合わないと思われる方はどうぞお引き取り下さいますようお願いいたします。

コメント及びメールなどでの苦情及び批判は公開、非公開を問わず、私へ告げることはご遠慮いただけますよう、お願い申し上げます。

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