日々草子 私の美しい貴婦人 7

私の美しい貴婦人 7




「そりゃ、ずっと一緒にいられるなんて思っていなかったけど…。」
自分の部屋のベッドの中で、コトリーナは泣き続けていた。
「でも…もしかしたらこのまま先生と一緒に…って思って。だけど、先生が優しくしてくれたのは、時計のためだったんだ…。」
枕元で物語を聞かせてくれたのも、競馬場での失敗を慰めてくれたのも、美しいドレスやアクセサリーで夢を見させてくれたのも、全て時計のため…そう思うと涙が止まらないコトリーナ。
「いつかは花売り娘に戻らないとって思ってたけど、こんなに早くその日が来るなんて…。」
その日、コトリーナは一晩中泣き続けていた。

泣き続けた夜が明け、朝が来た。
コトリーナはナオキヴィッチと顔を合わせたくなかったが、ノーリー夫人が心配すると思い、無理して食堂へと下りて行った。
すると、ナオキヴィッチはいなかった。
「しばらく研究室に寝泊まりするって…。」
ノーリー夫人が説明する。勿論夫人は、二人の間に何かあったことは感づいていた。
「何かあったの?」
心配するノーリー夫人に、コトリーナは笑顔を無理に作った。
「おば様。私、元の街に戻ることに決めました。」
コトリーナの突然の言葉に驚く夫人。
「そんな、突然!」
「だって元々、先生にきちんとした言葉遣いを教えてもらうことがここへ来た目的だったんだもの。きちんとした言葉遣いを教えてもらって、花の売上を伸ばすため!もう目的は果たしたから、ここにいる意味もなくなったし!」
努めて明るく振る舞うコトリーナ。出て行けとナオキヴィッチに言われたのだから、仕方がない。傷はまだ浅い。今のうちにここを出て行く方がいい。それがコトリーナの出した結論だった。
夫人は一生懸命、コトリーナを説得したが、コトリーナの考えは変わらなかった。


ナオキヴィッチはそれからも屋敷には戻らなかった。コトリーナは下町へ戻る準備に没頭することで、ナオキヴィッチを忘れようとしていた。
そんなある日、ウェスト男爵がやってきた。
「そうか…街へ戻るんだね。」
コトリーナが街へ戻ることを知り、男爵は少しさびしそうな顔を見せた。
「男爵様にもいろいろお世話になりました。」
礼儀正しく、挨拶をするコトリーナ。そんなコトリーナを見て、男爵はいつもと違う真剣な表情を見せた。
「ねえ、コトリーナ。」
「はい。」
そして男爵は姿勢を正した。


その夜遅く、ナオキヴィッチが屋敷へと戻って来た。自室に入り、ぐったりと疲れた様子でナオキヴィッチは椅子に身を沈める。
「さすがに一度は戻らないとまずいからな…。」
ナオキヴィッチが屋敷へ戻らなかったのは、コトリーナと顔を合わせたくなかったからだった。だが、どんなに離れても、あの悲しい顔がナオキヴィッチの頭から消えない。そして溜息をついていると、ナオキヴィッチの部屋のドアがノックされた。
「先生…お帰りなさい。」
入って来たのは、今一番顔を見たくないコトリーナだった。
「まだ起きていたのか。」
なるべく顔を見ないよう、ナオキヴィッチは顔を背ける。
「あの…相談があって待っていたの。」
「相談?」
言いにくそうにしているコトリーナ。
「俺は疲れてるんだ。用があるならさっさと言ってくれ。」
また冷たくしてしまったと、ナオキヴィッチは後悔した。が、心とは裏腹に口から出る言葉は自分でも止められない。
「あの…私…ウェスト男爵様から結婚を申し込まれました。」
「何だって?」
ナオキヴィッチは思わずコトリーナの顔を見た。冗談を言っている顔ではなかった。
「私と結婚したいと、男爵様が…。」
ナオキヴィッチは信じられなかった。社交界の美女と次々と浮名を流している男爵。その男爵が美人とは言えないコトリーナと結婚したいとは信じられない。
「で、お前はどうするんだ?」
「どうしようかと思って…。」
どうやらコトリーナは迷っているらしい。迷うということは、コトリーナも男爵を結婚対象として考えている証拠。つまり男爵に好意を持っている…ナオキヴィッチはまたもやイライラしてきた。
「どうすればいいか分からないので、先生に相談したくて。」
「自分の人生なんだから、自分で決めろ。」
イライラが募り、またも冷たい言葉を投げつけるナオキヴィッチ。
「何でもかんでも人に訊くな。人に頼ることばかり考えるな。」
そして、
「疲れたからもう寝たい。出て行ってくれ。」
と、コトリーナを追い出してしまった。

「疲れているのに、迷惑かけてごめんなさい…。」
コトリーナは泣きたい気持ちを堪えて、ドアを閉めた。

「先生…結婚するなって言わなかった。ということは、先生は私のこと、何とも思っていない証拠よね…。」
ナオキヴィッチに相談したのは、自分をどう思っているのか、最後に確かめたかったからだった。もしかしたら、「お前になんて男爵夫人は務まらない、断れ。」とバカにした返事をくれるかもと、コトリーナは少し期待していたのだったが、見事にその期待は裏切られてしまった。
「先生にとって、私は時計のための、ただの生徒だったんだ…。」

翌日、コトリーナは男爵邸へ赴き、結婚を承諾した。

その事実は、またもやノーリー夫人を驚かせた。コトリーナ本人は、とても楽しそうにしている。
「男爵様は新婚旅行で外国に連れて行って下さるって。とても楽しみなんです!」
「コトリーナちゃん…。」
そして夫人の怒りの矛先は…当然ナオキヴィッチへと向かう。
「よろしいんですか!このままコトリーナちゃんを男爵様の元へお嫁に行かせて!」
ナオキヴィッチは本から目を離さずに返事をする。
「…本人が結婚したいと言うのだから、他人がとやかく言う筋合いはないだろう。」
「コトリーナちゃんは自棄になっているんです!それもナオキヴィッチ様が冷たくされるから!」
ここしばらくのナオキヴィッチのコトリーナへ対する態度は、夫人の目にもひどかった。
「大体どうして突然冷たく…。」
言いかけて夫人は気がついた。
「まさか…コトリーナちゃんがご自分に対して何の感情も持っていないことが面白くないから…?」
夫人の話に、機嫌を悪くするナオキヴィッチ。
「出て行ってくれ!勉強の邪魔だ!」
追い出されたノーリー夫人は、
「本当にお子様!嫉妬して好きな子に意地悪するなんて、子供のすることじゃないですか!知りませんよ!素直にならないと、後で取り返しのつかないことになっても!」
とドアの向こうの主へ叫んだ。

「もう取り返しのつかないことになってる…。」
ちっとも進んでいない本を閉じて、ナオキヴィッチは溜息をついた。

そしてコトリーナが結婚の支度のため、ノーリー夫人と外出している時、ウェスト男爵がナオキヴィッチに会いにやってきた。
「一応、結婚の報告にね。」
嬉しそうな男爵を見て、ナオキヴィッチは面白くない。
「コトリーナは美人でもないし、貴族の出でもない。そんな娘とよく結婚する気になりましたね?」
ナオキヴィッチの疑問に、男爵は意外そうな顔をした。
「コトリーナはとても可愛いよ。何といっても素直で優しい。そして明るい。結婚したら毎日が楽しくて堪らないさ。それに…。」
「それに?」
意味あり気に男爵は笑った。
「…若いから、きっと沢山子供を産んでくれるだろうしね。僕も男爵家の跡取りが必要だし。来年の今頃には可愛い赤ちゃんが見られるだろう。」
想像したくないことを想像してしまうナオキヴィッチ。どうやら帰った方が良さそうだと男爵は判断した。
「それじゃ、我が婚約者へよろしく伝えてくれ。あと少ししたら迎えに行くからと。」
そう言い残し、男爵は帰った。

「何が子供だ…!」
部屋へ戻り、ナオキヴィッチは手当たり次第、本を壁へと投げつけたのだった。
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さあ、どうするナオキヴィッチ!

ナオキヴィッチに冷たくされて、元の街の花売りに戻ることにしたコトリーナ。
そんな時、男爵にプロポーズされたコトリーナは、ナオキヴィッチに相談するも、相変わらず冷たく...。
とうとうコトリーナは、男爵のプロポーズを受ける事に。結婚の報告に来た男爵からコトリーナの事を聞かされ、イラつくナオキヴィッチ。どうするの?このままでは コトリーナは男爵夫人になっちゃうわ、いいかげん素直になりなさい!

本当にナオキヴィッチはおこちゃまですね。好きな子をいじめてしまうなんて。
ここで自分の心にちゃんと向き合わないと、一生悔やんでも悔やみきれない人生を送ることになりますよ。


ちょっとお姉さんぶってしまいました。(笑)

琴子ちゃんはかわいそうだけど、なんだか楽しくなってきた

まだまだいじめは続くのですね。(笑)
苦しめ~苦しむがいいナオキビッチ~(笑)
水さまの心の声が聞こえるようです。(爆笑)
そしてさらに読者の怒りを買う入江くんでした・・・。
誰にかっさらわれるかと考えていたんですが、(カモ公爵とかゴールド伯爵とかくると思ってたのに・・・笑)ニシガッキー男爵自ら御指名ですか!!(ニヤリ)
なんだか水さまにいじめられる入江くんを見ているのが楽しくなってきました・・・・。(爆)

嫉妬かなぁ?

水玉さん、おはようございます。
ナオキヴィッチは、これでいいのだと自分に言い聞かせているのでしょうね。
だから研究室に篭り忘れようと。
そんな時男爵とコトリーナが結婚をすると報告を。
コトリーナは辞めろと言って欲しかったのにね。
人に相談するな、自分で決めろとは冷たい言葉。
コトリーナは決めましたね。
男爵はナオキヴィッチに報告を。
後でコトリーナを迎えに来るのでと。
ナオキヴィッチは怒りに任せて、壁に本を投げつけています。ナオキヴィッチ手遅れになる前に、素直にならないと。コトリーナが行ってしまうよ。

癇癪起こしてる?!

手当たり次第に本を・・・て、あの直樹が?!
いやナオキヴィッチだけど(笑)
う~ん、やっぱり琴子、もといコトリーナはすごいなぁ。
↑(原作あるから安心してて、今回は敵前逃亡していないアタシです)

ウエスト男爵ったら、わざわざ焚きつけに来るなんて、あんたそれ自殺行為なのか、お人好しなのか、ただのもの好きなのか?!なんか、全部な気がするけどね。アタシ好きですよ、ウエスト男爵。もともとガッキーファンだしね(笑)

ンでも、ぼつぼつ重が腰ば上げて動がねぇことにゃあ、マんズで取り返し付がなぐなるべ、先生!

まったくもぉ~ナオキピッチのばかちんがぁ!!
本に当たっているひまがあったらとっとと素直になってコトリーナちゃんを引き留めないともっと辛い思いをするぞぉ!!
おっとついつい暴言を吐いちゃいました^^;;

『腰』ではないの、『ガッキー』なの

コメントありがとうございます。
何が嬉しいって、皆様、『ウェスト男爵』が誰なのかをきちんと分かって下さっていたことです(笑)
よかった…『腰男爵』とか思われなくて。

るんるんさん
男爵夫人って、なんかいいですよね。
でもコトリーナがあの人と夫婦…あ、ちょっと想像するとそれはそれで面白いかも!!
それにしても、今回の話はるんるんさんを始め、皆様、バカ息子に説教するお母様のようです(笑)

りきまるさん
いえいえ、正論です(笑)
本当におこちゃまナオキヴィッチ(笑)ヘタレ●●、バカ●●、ヒモ●●と散々言われたのに、こんどはおこちゃま…(笑)懲りない私~♪

KEIKOさん
カモ、ゴールド(爆笑)!!すごいお金持ちっぽい名前だ!
とりあえず、ここは男爵に御活躍いただこうかと(笑)
というより、KEIKOさん、そういうことを話すKEIKOさんも直樹いじめ同好会の会員ですから!(笑)
後日、同好会の会報をお送りしますね(笑)ちなみに今号の巻頭特集は『あなたが選ぶ直樹のヘタレ姿ベスト10』です←大ウソ(笑)

tiemさん
どこから見ても嫉妬でしょう!!
ちょっと原作で須藤さんに嫉妬した時の入江くんを思い出しながら書いてみました♪
素直じゃないナオキヴィッチは書いていてとても楽しいです。

アリエルさん
なんか、ガッキーを餌にしたら、マーメイド・アリエルが釣れそうだわ♪
ていうか、自殺行為→お人よし→物好きに爆笑!
うんうん、私も全部当てはまっているとおもう!特に『物好き』ってとこ!!
だども、こん先生さ、めっさ腰が重たいばい!

ゆんさん
あ、やっぱり『ばかちん』と言われて嬉しい私(笑)
本に当たるなんて、学者としては大失格ですよね!!
やっぱりおこちゃまなんですよ~。
全然暴言なんかじゃないですよ~。
もっと言ってやれ~とはやし立てる、鬼のような私を許して下さい(笑)
プロフィール

水玉

Author:水玉
『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
そっと見守っていただけたら嬉しいです。

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このブログについてのお願い
当ブログは、『イタズラなkiss』の二次創作をメインとしておりますが、時折管理人の趣味や日々の出来事についての記事も書いております。

原作者様や関係各位とは一切関係ありません。

二次創作については、いわゆる原作の隙間をぬった作品もありますが、主人公以外のキャラクターをメインとしたものや オリジナルキャラクターが出てくるものもございます。

そして、原作と違った時代(平安や明治やその他の時代を舞台にしております)、異なる設定(主人公を医者と看護師じゃない職業にしております)で書いてあるものが多いですが、原作を冒涜しているつもりは全くございません。

二次創作が苦手という方及び原作のイメージと合わないと思われる方はどうぞお引き取り下さいますようお願いいたします。

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