日々草子 私の美しい貴婦人 6

私の美しい貴婦人 6

「ごきげんよう、男爵様。」
舞踏会から数週間経った頃、またもやウェスト男爵がナオキヴィッチの屋敷にやってきた。
「やあ、コトリーナ。」
機嫌よくコトリーナへ挨拶を返す男爵。コトリーナはニコニコ笑いながら、
「おば様と一緒に、アップルパイを焼いたんです。お口に合えばいいのだけど。」
とパイを切り分け始めた。
「食べるよ、もちろん。可愛いレディの手作りパイにありつけるなんて、なんて幸せなんだろう。」
男爵の優しい言葉に、更に機嫌を良くするコトリーナ。そんなコトリーナを見ていると、最近ナオキヴィッチはイライラして仕方がない。
「先生は?」
コトリーナは、ナオキヴィッチにも訊ねた。
「俺はいい。甘い物は食べないから。」
素っ気ないナオキヴィッチの言葉に、コトリーナは見た目も明らかにがっかりとした様子を見せた。舞踏会の日から、どうもナオキヴィッチは冷たい。
「それより、ノーリー夫人にフルーツでも切ってもらって来てくれ。俺はそっちの方がいい。」
「はい。」
しょんぼりして、部屋を出て行くコトリーナを心配そうに見ていた男爵は、
「もう少し優しくしてあげればいいのに。」
とナオキヴィッチを窘めた。
「別に。食べないから食べないと言っただけですよ。」
ますます不機嫌になるナオキヴィッチを見て、男爵は肩を竦めた。

「ところで、今日は何の用ですか?」
「ああ、そうそう。」
ナオキヴィッチに言われて、男爵はポケットから箱を出した。
「ほら、これ。約束の品。」
「約束?」
不思議そうなナオキヴィッチを見て、男爵は呆れた。
「山猿ちゃんを立派なレディにしたら、この時計を君にあげるって約束をしただろう?」
そこまで言われて、漸くナオキヴィッチは思い出す。あの全国物産展のような言葉を話し、山から下りてきた猿のようだったコトリーナを貴婦人に育て上げたら、男爵の時計を手に入れるという話。
「僕は約束は守るから。」
時計を持たされ、ナオキヴィッチはすっかりそんな約束など忘れて、コトリーナを育て上げることに夢中になっていたのだった。素直に学ぶコトリーナと一緒に過ごすことに、楽しさを感じていた。
「それにしても…君は全く教育者として立派だよ。あの舞踏会、僕はどれだけの貴族たちにコトリーナのことを訊ねられたと思う?“あの令嬢はどちらの家の令嬢か?”とか、“もう婚約はしているのか?”とか。」
「そうですか。」
箱を開けて、時計の鎖を弄びながら、面白くなさそうに返事をするナオキヴィッチ。またイライラしてくる。

「先生、フルーツをお持ちしました。」
そこへコトリーナが入って来た。なぜだかコトリーナを見るとイライラがますます募る。
「コトリーナ。」
ナオキヴィッチは、コトリーナを呼びとめた。
「これ、何だか分かるか?」
ナオキヴィッチは、コトリーナの前に時計をぶら下げた。
「素敵な時計…。先生の?」
「そう。たった今、男爵からもらったものだ。」
「そうなの?先生にとても似合っていると思う。」
ナオキヴィッチに久しぶりに構ってもらって、コトリーナは嬉しい。そんなコトリーナの様子を見て見ぬふりをして、ナオキヴィッチは続けた。
「約束の戦利品だ。」
その瞬間、男爵が驚いた顔をした。ナオキヴィッチが何を言おうとしているのか分かったからだった。
「ナオキヴィッチ…。」
止めようとする男爵にも構わず、ナオキヴィッチは続けた。
「何の約束だと思う?」
「さあ…?」
「ナオキヴィッチ!やめたまえ!」
コトリーナは血相を変えた男爵に驚いた顔をした。ナオキヴィッチは対照的に顔色一つ変えずに話し続ける。

「お前を貴婦人に仕立て上げることができるかどうか、その約束の戦利品だ。」

「え…?」
言われた意味が一瞬分からず、コトリーナは不思議な顔をした。
「よく…意味が分からない。」
「だから、お前を貴婦人にできるかどうか、男爵と俺は約束をしていたんだよ。俺が見事にお前を貴婦人にしたらこの時計を手に入れるという約束を。」
「嘘…。」
真っ青になっていくコトリーナに、ナオキヴィッチは冷たく話し続けた。
「お前のおかげで、俺は前から欲しかったこの時計を手に入れることができた。礼を言うよ。」
「本当に…?」
「ああ。だからもう用はない。さっさと下町へ戻って花を売れ。」
つまりここから出て行けという意味だと、コトリーナは分かった。
「先生…。それが欲しかったから、私に色々教えてくれたの…?」
とうとうコトリーナは泣き出してしまった。男爵はそんなコトリーナが心配でたまらない。
「そうだよ。そうじゃなきゃ、誰がお前に時間なんて割くかよ。」
「本当に?本当にその時計のため?」
「しつこい。」
ナオキヴィッチの最後の一言を聞き、コトリーナは泣きながら部屋を出て行ってしまった。

「…どうしてあんな冷たいことを?」
コトリーナが開けっぱなしにしたドアを閉めながら、男爵はナオキヴィッチに訊ねた。
「別に。本当のことですしね。」
ナオキヴィッチは時計を箱へ戻しながら、本当の理由を心の中で呟いていた。

「どうせいつかあいつは、“お世話になりました”って出て行くんだ。そんなこと言われるくらいなら、こっちから先に言った方が気が楽だし。あいつは、俺のことを礼儀作法を教える教師以上には思っていないしな…。」

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コトリーナ、可哀想!

ナオキヴィッチ、なんて事言うの!
時計が欲しいから、コトリーナを貴婦人に教育することをOKしたなんて、そして早く下町に帰って花売りに戻れだなんて...。それを聞き、コトリーナはどんなに傷ついた事でしょうか...。
ああ、可哀想なコトリーナ!ナオキヴィッチ、もっと素直に!そして、もっと優しく!

ナオキヴィッチのバカ、愚か者!!

水玉さん、おはようございます。
可哀相過ぎます。
ナオキヴィッチはコトリーナが気になって仕方が無いのに、冷たい言葉を。
男爵の時計が欲しかったから、貴婦人に仕立て上げたのだと。そんな冷たい言葉を。
もう用は無いから下町に帰り花売りに戻れとは。
男爵たちの前でダンスをしたり、話をしていて自分がイライラしたからと言ってコトリーナには罪は無いでしょう。何故そんな冷たい言葉を。
コトリーナが出て行くという前に自分から言った方がいいと思ってなんて。
コトリーナどうするのかなぁ。
出て行ったら駄目だとコトリーナ。

あ~やっぱりナオキヴィッチも直樹と同じ性格ね。←当たり前か!!
本当にこのイライラの理由には気づかない、素直になれなくて
必要に以上にコトリーナを泣かす!!!
もう!!ふんっ!!
花売り娘に戻ったら、きっと後悔するくせに!!
おばかばかばか!!←裏で言えない分こちらで!
早く、本当の気持ちに気づいてね。お互い

それにしてもカタカナ苦手だわ・・・お馬鹿な私。

嫉妬ナオキビッチ

嫉妬ナオキビッチですね。
金ちゃんのように言ってくれる人はいるのでしょうかね。
バカたれが!!
自分で自分の首をしめて苦しむ姿がますます目に浮かぶようです。
最後の台詞に相当腹立ったから、許可しますよ!
直樹イジメ同好会の腕をならしてやってください!
出てった後から追いかけたって遅いんだよーだ。
(でも遅かったらほんとは嫌だけど・・・笑)
こっちにもヘタレ直樹がいるわ!!

ここはチラシ?(笑)

今宵もコメントありがとうございます。
…少し前まで某所にてほぼ同内容のコメントを頂いていたような(笑)「デジャブ!?」って思ってしまいました(笑)

るんるんさん
本当に可哀想なコトリーナ(涙)
この前まで優しかったのにね、ナオキヴィッチ。この態度の豹変ぶりはって感じです。
と、書いている私が一体どの口で言うか!って感じですが(汗)
るんるんさんのナオキヴィッチに対する怒りがとても伝わりました。

tiemさん
お!バカ(と言った方)第一号(笑)
本当にデジャブのようです(笑)
本当、tiemさんの言うとおり、コトリーナには何の罪もないのに。
どこかに言って性格矯正してこい、ナオキヴィッチ!って感じでしょうか?

ゆみのすけさん
ああ、ゆみのすけさんにおばかばかばかと言われ、ホッとする私が…(笑)
一体誰が私をこんな体に←自業自得じゃ
それにしても、ゆみのすけさんのコメント、かわいいです♪怒っているのに、読んでいるこちらは微笑んでしまいます♪
あ、私の方が絶対カタカナはダメですよ!ナオキヴィッチと打つのが…限界です(汗)

KEIKOさん
真打登場!(笑)ばかたれ!…言われてほほ笑む私が…(笑)
直樹いじめ同好会副会長の腕が…鳴ります!確かに!
頑張ろう!←ナオキスト様の標的決定(笑)
それにしても、本当に皆様のナオキヴィッチへの怒りのすごさ…!
ここ、本館ですよね(笑)
プロフィール

水玉

Author:水玉
『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
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