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2009.10.07 (Wed)

私の美しい貴婦人 5


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「どうして綺麗にお食事をした方がいいと思う?」
ノーリー夫人は優しくコトリーナに訊ねた。首を傾げるコトリーナに、
「それはね、綺麗に食べてくれると作った人も嬉しいでしょう?一緒に食べる人も気持ちいいもの。」
と優しく説明する。
「マナーって、難しく考えなくていいのよ。どうやったら他の人が気持ちよく感じてくれるかな?って考えれば、自然と身のこなしもつくものなのだから。」
「他の人…。」
そう言われて、ナオキヴィッチの顔を思い浮かべるコトリーナ。
「それじゃ、先生が私に階段の手すりを滑り降りるなって言うのも?」
「そう。コトリーナちゃんが怪我したら大変でしょう?落ち着いた行動を身につければ、怪我しなくてすむもの。」


それからのコトリーナは、ノーリー夫人の話を忠実に実行するようになった。周りの人が気持ちよく、心配をかけないように…するとあんなに苦手だったマナーがどんどん身について行く。


いつの間にかコトリーナは、身も心も素敵な貴婦人になりつつあった。


「先生、今日はこの本を勉強したい。」
「これは、お前には難しいよ。」
ナオキヴィッチは、コトリーナが出してきた本を横にどけた。
「大丈夫。先生が教えてくれたら分かるもの。」
すっかり訛りも取れたコトリーナ。
「それに…マツモー姉妹はこういう本も読んでいるから、教養があるんでしょう?先生と色々お話ができるんでしょう?」
コトリーナもマツモー姉妹のように教養を身につけ、ナオキヴィッチともっと沢山話がしたかった。
「無理。あの姉妹は頭がいいんだ。残念ながら、お前とは出来が違う。」
ナオキヴィッチの言うことは嘘ではなかった。マツモー姉妹は社交界でも有名な、才色兼備な姉妹だった。その辺のバカな貴族など、いとも簡単に言い負かしてしまうくらいに。


「でも…。」
まだ不満そうなコトリーナに、ナオキヴィッチは言う。
「いいか。無理して分からない本を読んで、知ったかぶりをしてもお前のためにはならない。それに会話っていうのは、話すばかりが必要ではない。」
「そうなの?」
可愛らしく首を傾げるコトリーナに、ナオキヴィッチは説明を始める。
「上手な聞き役がいれば、話は楽しくなるんだ。こんなに自分の話を丁寧に聞いてくれると思うと、どんどん話しやすくなる。だから分からない話に無理に入ろうとせず、黙って相手の目を見つめて聞いてあげればいい。」
そう、今のコトリーナのようにと思わずナオキヴィッチは口にしそうになった。慌てて喉まで出かかった言葉を我慢する。
「聞き役…。」
コトリーナはまだ不服だったが、でもナオキヴィッチの言うことなら絶対に正しいとと信じていたので、そのアドバイスに素直に従い、それ以上は無理にナオキヴィッチにせがまなかった。


そんなある日、またもやウェスト男爵がナオキヴィッチの屋敷を訪れた。
「この間のリベンジはどうだろうか?」
ナオキヴィッチに話を切り出す男爵。近いうち、盛大な舞踏会がとある貴族の屋敷で開かれるという。
「今度こそ、君が育て上げたレディを見せてほしいな。」
面白そうに言うウェスト男爵。確かに、競馬の時に比べて遥かに素晴らしいレディになったと、最近のコトリーナを見る度に、ナオキヴィッチは思っていた。


そして、その晩、コトリーナに訊ねてみる。
「え?どうしよう…。」
この間の競馬の時は、二つ返事で行くと騒いだのに、今度は不安そうなコトリーナ。マナーを身につけたものの、失敗したらどうしよう、あれだけナオキヴィッチやノーリー夫人に教えてもらったことが全て駄目になったら…そう思うと気軽に返事ができないコトリーナだった。


「今のお前なら、どこのパーティーに連れて行っても大丈夫だとは思うけど。」
そんなコトリーナを励ますナオキヴィッチ。それだけの自信がナオキヴィッチにはあった。
「でも…何か失敗して、また先生に恥をかかせたら…。」
「だから恥とは思ってないと言っただろう。それにお前の失敗の一つや二つ、俺がフォローしてやるよ。」
自分でも不思議だったが、なぜかナオキヴィッチはコトリーナを舞踏会に連れて行きたくて堪らなかった。
「じゃ…一緒に行きます。」
不安ながらも、コトリーナはナオキヴィッチを信じることにした。


当日。
支度をすっかり終えたナオキヴィッチは、コトリーナの支度が終わるのを今か今かと待っていた。
「さ!支度はできましたよ!」
ノーリー夫人に連れられてやってきたコトリーナを見て、ナオキヴィッチは息を呑んだ。
それは、初めて会った時の面影は一つもない、どこから見ても貴族の令嬢にしか見えないコトリーナの姿。


決して美人ではないが、可愛らしいその顔立ちは、今夜は一際可愛らしく見える。それは「優しい」と褒めたナオキヴィッチの言葉で自信をつけた、性格の良さが顔に滲み出ていたからだった。


「先生?どこかおかしい?」
黙ったままのナオキヴィッチが心配で、コトリーナが声をかけた。
「やっぱり似合わないのかな…?花売り娘がこんな立派なドレスやアクセサリーをつけても…。」
恥ずかしそうに俯くコトリーナに、ナオキヴィッチは、
「いや、違う。…よく似合ってるよ。」
と慌てる。似合っていると言われ、コトリーナはニッコリと笑った。その笑顔にまたもや見とれそうになるナオキヴィッチ。


舞踏会の会場は、大勢の人で既に溢れかえっていた。
「ナオキヴィッチ!コトリーナ!」
二人の姿を見つけたウェスト男爵が駆け寄ってくる。
「ごきげんよう、男爵様。」
優雅に挨拶をするコトリーナの姿を見て、男爵は競馬の時よりも驚く。
「すごいな!一体どこの貴族のご令嬢かと思った!」
競馬の時はオドオド、キョロキョロしていたコトリーナだったが、今夜はその時以上の人が集まっているのに堂々としている。
コトリーナの姿に驚いたのは、男爵だけではなかった。
「お姉様!ナオキヴィッチ先生が連れていらっしゃるご令嬢はどなた?」
「さあ…?ナオキヴィッチ先生、もしかしていずれかの名家のご令嬢とご婚約されたのかしら?
と、舞踏会に招かれていたマツモー姉妹も驚いていた。二人はナオキヴィッチが連れている貴婦人が、あの時何を話しているのか分からなかったコトリーナだとは全然気がつかない。


社交界の女性の注目を常に集めるナオキヴィッチの連れている女性は、マツモー姉妹だけじゃなく、その場にいる上流階級の女性たちの注目も集めていた。


「ナオキヴィッチ、コトリーナをお借りしていいかな?」
男爵は早速コトリーナと踊る許可をナオキヴィッチに求めた。
「コトリーナ、最初の曲は僕と一緒に。」
手を差し出す男爵。コトリーナはどうしようと不安そうにナオキヴィッチを見た。
「…行っておいで。」
ナオキヴィッチの言葉を聞き、コトリーナは安心して男爵の手に自分の手を重ね、踊りに行く。


「コトリーナ、ダンスも上手だね!」
ぎこちないステップだが、それでもかなり上手に踊るコトリーナを見て、またもや男爵は驚く。
「先生に教えていただきました。」
はにかむコトリーナ。この日までの間、コトリーナは毎日、ナオキヴィッチとダンスの練習に励んだのだった。それはコトリーナにとって楽しい毎日。
「すごいな。…どこから見ても貴婦人にしか見えないよ。」
少しステップを間違えそうになっても、慌てることのないコトリーナ。


一方、男爵と楽しそうに踊るコトリーナを見ているナオキヴィッチは複雑な心境だった。ああして立派に踊るコトリーナは、間違いなく自分の育て方が成功だった証拠。喜ぶべきところなのに、ちっとも喜べない。


コトリーナに興味を持ったのは、男爵だけじゃなかった。男爵と踊り終わったコトリーナに、他の男性もダンスを申し込む。うまく断れないコトリーナは次々と踊ることになった。
上品に着飾りながらも、どこか素朴で親しみやすさを感じるコトリーナの外見は男性たちの注目の的となっていた。

そんなコトリーナを見ているのが、なぜかナオキヴィッチは辛くなってきた。そしてとうとう我慢ができなくなり、自分は先に戻るから心ゆくまで楽しんでくるようにと、コトリーナへ伝言を頼み、ナオキヴィッチは会場を後にしてしまった。


コトリーナは何とかナオキヴィッチの元へ戻ろうとした。が、ウェスト男爵にまたもや捕まってしまい、今度は会話の中に入れられてしまった。
会話は最近の世相や経済など、難しくてコトリーナには全く分からない内容だった。が、ナオキヴィッチの教えどおり、真剣に話す相手の目を見て聞き役に徹した。
そのため、会話が一段落ついた時には、「あまりに上手な聞き手がいたから、楽しくて話が止まらなかった。ありがとう。」と感謝をされた。


嬉しくて堪らないコトリーナは、今度こそナオキヴィッチの元へ戻ろうと、ナオキヴィッチの姿を探す。だが、そこで聞いたのは、先に戻ったナオキヴィッチの伝言だった。

「せっかく先生に褒めてもらおうと思ったのに…。」
がっくりと肩を落とすコトリーナ。コトリーナが頑張ったのは、全てナオキヴィッチの褒めてもらいたい一心からだっただけに、すっかり落ち込んでしまったのだった。


「うん…?」
舞踏会から戻り、なかなか寝付けなかったナオキヴィッチは珍しく寝酒をした。いつの間にか眠ったのか…そして自分に圧し掛かった重みに気がついた。
「!?」
そこにはドレス姿のまま、眠りこんでいるコトリーナがいた。
「おい…おい!」
ナオキヴィッチはコトリーナを揺すった。
「え…?」
揺すられて目を覚ますコトリーナ。そこでベッドの上のナオキヴィッチと目が合う。
「先生!」
そう叫んで、コトリーナはナオキヴィッチに…頭突きをした。
「痛い!何をするんだ!」
ナオキヴィッチは思わずコトリーナの頭を叩いた。
「熱を測ろうと思って…。」
叩かれた頭を摩りながら、コトリーナは呟いた。
「熱?」
「だって昨日、途中で帰ってしまったでしょう?もしかしたら具合でも悪いのかと思って。」
どうやらナオキヴィッチが具合が悪くて、途中で帰ったと思っているらしい。
「…大丈夫だよ。体は何でもない。」
無愛想に言うナオキヴィッチを見て、コトリーナは安心した笑顔を見せた。
「よかった!」
「…お前、戻ってからずっとここに?」
着替えていないコトリーナを見ながら、ナオキヴィッチは訊ねた。
「だって先生が心配でたまらなかったんだもの!」
そんなコトリーナの優しさとは反対に、ナオキヴィッチの胸は痛くなる。


「お前、もう二度と俺の部屋に来るなよ。」
ナオキヴィッチは冷たく言った。
「…どうして?お掃除とかで今までも入ったことあるのに?」
「…貴婦人は男の部屋になんて入るもんじゃないんだよ。わかったな。」
そう言うと、ナオキヴィッチは話しかけるなと言わんばかりにまたベッドへと潜ってしまった。
コトリーナはナオキヴィッチの部屋を黙って出て行く。


「…先生にそんな冷たいこと言われるのなら、貴婦人になんてならなければよかった。」
部屋の外で悲しく呟くコトリーナ。


「…まいったな。もう山猿には見えないじゃないか。」
ベッドの中でナオキヴィッチも、呟いていた。
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*Comment

★貴婦人コトリーナ!

コトリーナ、ついに舞踏館デビューを果たしましたね。
ダンスも踊れるようになり、立派なレディになりました。コトリーナが他の男性と踊っているのをみて、ナオキヴィッチはコトリーナの事を意識し始めちゃいましたね。そして一足先に帰宅して...
コトリーナはナオキヴィッチが体調を崩したと心配して、熱を測ろうと頭突きを...まじめな顔して頭突きするコトリーナを想像すると笑みがこぼれますよね。
コトリーナを意識するナオキヴィッチは、それを振り払うように、わざとそっけなく...ナオキヴィッチ、素直になってね!
るんるん |  2009.10.07(Wed) 22:13 |  URL |  【コメント編集】

意識しだしたナオキヴィッチ。コトリーナが女性にみえるなんて。いよいよ恋がめばえたって感じですか?
しかし鈍いコトリーナ。ナオキヴィッチに同情します。(笑)
りきまる |  2009.10.08(Thu) 01:13 |  URL |  【コメント編集】

★鈍感かなぁ?

水玉さん、おはようございます。
お話更新ありがとうございます。
コトリーナは段々貴婦人へと変身を遂げてきます。
食事のマナーはノーリ夫人に。
ダンスの特訓もナオキヴィッチに教え込まれて見事に踊る事が。
話も聞き上手に成ればいいと。
そう教えれてコトリーナは男爵達の相手を。
ところがナオキヴィッチはそれが気に入らないようですね。だから舞踏会会場から一人で帰宅して御酒を。
コトリーナが気になる存在になってきているのですね。
コトリーナは先生が気になったから、部屋に入ったと。
でももうこれからは、部屋には入るなと。
可哀相な琴子。コトリーナは貴婦人にならなかったらよかったと。寂しそうな表情を。
ナオキヴィッチもう少し素直になりなさいよ。
コトリーナが可哀相じゃないのよと。
でも、ナオキヴィッチの心に気が付かないのもおかしいけどね。

tiem |  2009.10.08(Thu) 06:57 |  URL |  【コメント編集】

★恋に悩むナオキビッチ

ふふふ。自分で自分の首を絞め始めてるね、入江くん。(ニヤリ)
恋に悩むナオキビッチ。いいですねぇ。
今後の展開が楽しみです。
KEIKO |  2009.10.08(Thu) 07:17 |  URL |  【コメント編集】

★レディーになれたのにね

ナオキヴィッチ後悔しないようにね!

心のおもむくままにゴーゴー!
kobuta |  2009.10.08(Thu) 08:56 |  URL |  【コメント編集】

★ありがとうございます♪

コメントありがとうございます

るんるんさん
そう!真面目な顔で頭突きする感じなんです!すごい、伝わってる!嬉しいです♪
しかし、ナオキヴィッチ、レディを一人会場へ残して去るのは…マナーとしてどうなんだい?と聞いてみたい気も…(笑)

りきまるさん
山猿から人間へと変貌?を遂げたコトリーナ(笑)
コトリーナはナオキヴィッチは自分を教え子としか思ってないんでしょうね^^多分…。
それと、ナオキヴィッチもきっとまだ恋心には気がついていない…お子様同士だわ~♪

tiemさん
お子様だから、ナオキヴィッチはまだ恋心には気がついていないんですよ♪コトリーナも。
コトリーナはそんな鈍感なところが可愛いと思いません?^^

KEIKOさん
行儀作法や言葉は教えられても、恋は教えられないですものねえ…←ナオキヴィッチ先生。
恋のレッスンは、男爵の方が向いているのかも(笑)
さて、直樹いじめ同好会副会長の私の腕が鳴るわ~(笑)←どんだけSだ、私。

kobutaさん
自分の授業が正しかったことを素直に喜べばいいのに、ナオキヴィッチ。男心と教師魂?が複雑にぶつかっているといったところでしょうか?
心のおもむくままに行動できるのは、コトリーナの方が上手でしょうね^^
水玉 |  2009.10.08(Thu) 12:51 |  URL |  【コメント編集】

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