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2008.12.01 (Mon)

幸運の女神 第13話

その日、師長から呼ばれた琴子に告げられた話は琴子が想像もしていないことだった。
「相原さん、あなたの採血や点滴、包帯交換などは不器用で正直上手とは言えないわね」
その話から師長の話は始まった。
「あたしって、やっぱり不器用なところは治らないんだなあ」
心の中でため息をつきながら、何か注意されるんだろうと思っていた。


【More】

「東京でも言われていたでしょうから、私からあなたに今更とやかく言うつもりはありません。ところで、この間、小児科へ応援に行ったでしょ?」
師長の話は先日、小児科の看護師が人手が足りず、急遽外科から数人が応援に行った時の話になった。琴子もその応援メンバーの中に入っていた。
「その時のあなたの看護が、小児科の師長の目にとまったらしいの」
「えっ、私、小児科で何かやってしまいました…?」
「いいえ。特に問題はなかったようです。あなた、子供たちに人気だったんですって?」
琴子は子供好きだ。学生時代の実習の時も、小児科での実習は楽しかった。直樹に言わせると『精神年齢が子供と同年齢なんだろう』ということだったが。今回も子供とのコミュニケーションは上手くいったのではと自分でも思っていた。

「で、あなたさえ良ければなんだけれど、あなた、もう少しここで研修続ける気はないかしら?」
「!?」
師長の言葉に琴子は耳を疑った。
「実はね小児科の師長があなたの子供たちへの接し方を気に入ったみたいで。あなたさえ良ければなんだけれど、小児科で研修してみる気はないかって話しているの」
「…私をですか?小児科の師長が?」
「うちの病院は、小児科の実績は日本でも高いレベルを誇っています。その小児科で働く看護師の能力もかなりのものだと思うわ。その小児科で研修するのはここより大変かも知れない。でも、あなたにとってプラスになることは間違いないと思います。」

師長の話は、すぐには決められないだろうから、後日返事を聞かせてほしいということで締め括られた。
師長の部屋から出て、琴子は嬉しさを隠せなかった。
「あたし、看護師として少しは成長したのかな?少しは認めてもらえたのかな?報告しなくっちゃ!入江くんに…」
そこまで思って、琴子は足を止めた。
「…あ、もう入江くんに言う必要ないんだっけ…」
琴子は窓から広がる青空を見上げながらつぶやいた。
「…もう、入江くんに届いたかな」

その頃、直樹は自宅の書斎で厚い書類に目を通していた。疲れたので少し休憩しようと顔を上げた時、書斎のドアをノックする音がした。
ドアを開けて入ってきたのは裕樹だった。
「お兄ちゃん、これ届いてたよ」
裕樹が差し出したものは琴子からの手紙だった。
「オフクロにばれるとうるさいから、見つからないようにしといた」
「悪いな、気を遣わせて」
手紙を受け取り、直樹は裕樹にお礼を言った。琴子から手紙が届いたなんて紀子に知れたら、「何て書いてあったの?」「みんなの前で読んで」とか言いそうだ。裕樹は直樹一人でゆっくり読みたいだろうと、ポストから手紙を取り出して、直樹が帰宅するまで持っていたのだった。

「…何か用か?」
目的を果たしても、部屋を出て行こうとしない裕樹に直樹が声をかけた。
「お兄ちゃん、最近指輪してるんだね」
裕樹が直樹の指に視線を向けながらつぶやいた。
「…たまにはな」
「…最近、連絡ないけれど、琴子の奴、どうしてるんだろうね」
「あいつも忙しいんだろ。一人暮らしも初めてだからな。帰って寝るだけの生活なんじゃないか?」
「ふーん…」
これ以上、何も聞かないでほしいと直樹の視線が物語っている気がしたので、裕樹は部屋を出て行った。

再び一人になった直樹は琴子からの手紙の封を開けた。そして中を開いた瞬間、直樹は絶句した。
「どういうつもりだ、これ…?」
琴子からの手紙、封筒の中に入っていたものは、琴子の署名入りの離婚届だった…。
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