日々草子 別冊ペンペン草 10

別冊ペンペン草 10



「おやすみ、入江くん。」
琴子はソファに枕を置き、横になった。
「…なぜそんな所で寝るわけ?」
ちゃんとベッドもあるのに、なぜ琴子がリビングに寝るのか、理由が分からない。
「…だって、毎朝ギリギリなんだもん。タクシー代だって馬鹿にならないし。」
琴子は布団の中から顔だけを出して、少し顔を赤くしながら答えた。
「時間に余裕を持って、さっさと起きればいいだけだろ?」
「…起きられないようにしているのは、どこの誰!?」
抗議する琴子。琴子が毎朝タクシーでギリギリ出社になるのは、ベッドの中で直樹が離してくれないから。
「お前の寝起きの顔は、構ってほしいって顔してるんだよ。嘘だと思うなら鏡で見てみろ。」
「そんな顔してないもん!とにかく、暫くここで寝る!おやすみ!」
琴子は顔まで布団をかけてしまった。

暫くその様子を見ていた直樹は、静かに話し出した。

「ごめん…。」
しかも話す声は、切なさを帯びている。思わず琴子は目だけを直樹にばれぬよう、布団から出す。

「…俺はずっと一人だったから。誰かと一緒に暮らすということがなかったから、お前という家族ができて楽しくて。だからつい無茶を言って困らせちゃったんだな…。」

切なさを通り越し、哀愁漂うその声は、琴子の胸に響き始める。

「どうやって人と接していいか分からないし。だからお前が傍にいるようになって、もう一人じゃないんだって、甘えていたんだな。…もう困らせたりしないよ。そうだよな。お前は毎日仕事に行かないといけない身だったんだよな…。」

絶対正しいのは自分だと確信しているのに、とても深い罪悪感に襲われ始める琴子。

「おやすみ…。もう邪魔しないから。」
直樹は寂しそうに言うと、リビングの電気を消し、寝室へと去った…。


ベッドに横になっていた直樹は、ドアが開く気配を感じた。
琴子が枕を抱えて、足音を忍ばせて寝室に入ってくる。
そして直樹の隣に潜り込んだ。

「入江くん…起きてる?」
そして琴子は、小声で話しかける。
「何?」
「ごめんね。入江くんがそんなことを考えていたなんて知らなかったの…。私、自分が遅刻しないようにすることも努力しないで、全部入江くんのせいにしちゃって。」
直樹の告白に琴子は心を動かされていた。
「…こんな私に甘えてくれるなんて、とても嬉しい。」
そう言って、背中を向けている直樹のパジャマの裾を琴子はギュッと握りしめた。

「あんまり悪戯しないなら…。」
そこまで言うのが精一杯なのだろう。きっと琴子の顔は真っ赤になっているに違いない。
直樹はクルリと体を琴子へと向けた。
「うん…琴子の仕事に支障をきたさない程度で我慢するよ。」
直樹の言葉を聞き、琴子は嬉しそうに直樹の腕の中へと潜り込んでくる。琴子を受け止めながら直樹は、
「悪いな…琴子。」
と思い、琴子の唇に自分の唇を近づけ始めた…。


「…本当にあなたって学習能力のない人なのね!」
翌日、松本裕子は琴子に呆れた言葉を投げつけていた。
「だって…。」
結局、『あまり悪戯しないで』という琴子の願いは聞き届けられず、今日も琴子はタクシーでギリギリ出勤、早朝会議は居眠り、編集長にまたもや大目玉を食らったのだった。
「だってもへちまもないでしょう!」
松本は、不自然に琴子の首に巻きつけられたストールの端を引っ張る。それをさせないよう、琴子は慌てて松本から体を離した。ストールの中の首筋には、めいいっぱい悪戯心を起こした直樹が残した印が、何個もついている。とてもじゃないが、他人に見せられない。

「あなたのメタボ先生、寝る前にマムシドリンク飲んでいるんじゃないの?親父と結婚してくれた、物好きな若い妻に逃げられないよう、必死なのよ!」
「メタボって…。」
琴子はストールの端をいじりながら、口を尖らせる。
「マムシドリンクより、あれよ、あれ!あれを飲ませないと!」
「あれって?」
「老後を穏やかに過ごすためには、皇潤にしないと!健康が一番なんだから!それに若い妻の隣で突然ポックリ逝かれたら困るでしょう?」
「ポックリって…。」
その後も松本はガミガミと小言を言い続けた。

「はあ…。」
漸く松本の小言から解放された琴子は溜息をつき、そこに置かれていた西垣マドレーヌの『愛はオホーツクの彼方に』を手に取った。
パラパラとめくっているうちに、琴子の目が大きく見開かれていく。

「ちょ、ちょっと…これって…!」
それはヒロインの相手役の男性が、自分の過去を語るシーンだった。しかもその語られる過去、それは昨夜、直樹が自分に語ったものと寸分違わない。

「入江くん…!騙したわね!」
コミックスを手に、琴子は真っ赤になって叫んだ。

「…あいつ、俺の作品以外はロクに読んでいないんだな。」
琴子が怒りに震えている頃、いつものように朝寝をむさぼっていた直樹は、ベッドの中で思い出し笑いをする。
「でも、それでいいか。少なくともあのマドレーヌ野郎のマンガなんて読ませたくないし。」

そして、ベッドサイドに置かれていた一枚の広告を何となしに手に取った。
「スポーツクラブ…か。」
それは近くにできた、スポーツクラブの広告だった。
「インドアな職業だしな。意識して体を鍛えないとまずいか。…琴子を満足させるためには。」
そして隣にポッカリと空いている、先程まで琴子が寝ていたスペースを愛おしそうに撫でる。

「それにしても…結婚って結構体力使うんだな。これはかなり鍛えないと、まずいかな?」






☆あとがき
甘甘の神様が、輪になってコサックダンスを踊っている感じがします…。
勢いで書いたから、後でちょこっと直すかも。
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甘甘大賛成!

騙される琴子も琴子だけど、そこまでして〇したい直樹も直樹だけどそれはそれで良いですね?

それ以上鍛えてどうするの?

がんばれ琴子!

がんばれ琴子

琴子、毎日毎日、入江君のお相手ご苦労さまです。
入江君、体を鍛えたら、琴子の体力はもたないと思うので、ほどほどにしてあげてね。
でも、ちょっと羨ましいかも!?

胸がドキドキします!!!

琴子にかまってもらうためには
何でもしちゃう入江君が
可愛らしくてしかたありません!!!w

次もすごく楽しみにしてます☆

ご馳走様でした^^

 お早うございます。今日もお邪魔させて頂きます^^

 ……うっ(真っ赤)こ、こりは……甘い。甘すぎる!! ホイップクリーム。果実とクッキーでデコレーションされ、更にイチゴソースで仕上げられた。
 甘いケーキと見せかけて。生地はなぜかレモンベースという慎ましさ!!

 ひとり者には目の毒じゃ(笑

 そういえば、ファーストキスはレモンケーキの味らしいですが。あれって、本当なんですかね?
 琴子さーん。気づいて!! 直樹さんの演技にきまっておるじゃろう!
 松本さん、ナイス突っ込み。……まあ、そこが琴子さんの可愛いところですな^^

 今回は甘甘で、なんだかによによしながら読んでしまいました。船津さんと直樹さんの師弟コンビも面白かったです。
 何よりも、五百円。せめて三千円しろよ!(笑
 ご馳走様でした。おいしゅうございました^^

コサックバンザイ!

甘甘大好物です♪(本物のケーキも)
この芝居がかった入江くんって原作でも紀子の実家に行った時やってましたよね。で、上手いこと琴子を乗せてこっそりべーって舌出してた入江くん…まさにあの顔が見えました。

ホント乗せ上手なうえ乗り上手!!…あっ下ネタ(;^_^Aが

前回の船津くんとのやり取りも、やっぱり船津くんらしい宛て馬ぶりに…むふふとひとり笑いしました。

しかし…入江くん、スポーツクラブで何処鍛えるんでしょ??
見た目を気にするマドレーヌさんと違って地道に持久力を付けるために、黙々と走ってそう……やっぱ、筋肉より持久力の方があれには必要な気が…

あっまた下ネタ?
糖分の取りすぎで脳がやられてしまったようです…すみません。

また、懲りずにおじゃまいたします。

コメントありがとうございます

コメントありがとうございます

kobutaさん
琴子を手に入れるためには、手段を選ばない、それが入江先生なんです(笑)
どこ鍛えるの?って(笑)、鍛えることが必要なのは、琴子の方もしれませんね。

りきまるさん
そりゃ、直樹はいいですよね。だって仕事場=家なんだもん(笑)
琴子は毎日毎日、お外で働く身。ちょっとは気づかってやれよ!と突っ込みたくなります。

maikoさん
珍しく、入江くんが可愛いといわれちゃった♪
ありがとうございます。確かにそうかも…。
甘甘は書いていて、かなりハマります…このワンパターンさがいいです♪

暢気猫さん
うわ!すごい分かりやすい比喩をありがとうございます!そうか…そういう甘さを感じていただいているんですね!
確かに…安すぎるだろ!500円(笑)
いまどき小学生だってもう少しお小遣いはもらっているだろうに…。

なおき&まーママさん
そりゃ、背筋と腹筋をばっちり鍛えるんです(笑)
そして一晩中、100メートル走をリピートしても大丈夫なようにね!(ペースを保ちながら長距離を走るのではなく、全力ダッシュを何度もする方が彼には似合っている気がします(笑))
そうなんです!!あの九州でペロリと舌を出した時の入江くんがちょっとおもしろくて、そんな風になればいいなあと思って書いたんです!気づいて下さってありがとうございます!!嬉しい!!
プロフィール

水玉

Author:水玉
『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
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