日々草子 別冊ペンペン草 7 ※挿絵に飛べます

別冊ペンペン草 7 ※挿絵に飛べます

「新聞は間に合ってます。」
直樹はそう言って、玄関ドアを閉めようとした。その隙間に手が入る。
「違うって!僕だってば!」
「…何の用ですか?」
「新婚家庭を邪魔しに!」
別冊ペンペン草(別ぺ)の人気ナンバー1漫画家の入江直樹の自宅に現れた人物。それは同じく別ぺの人気ナンバー2漫画家である西垣マドレーヌ(男性)だった。

「あ、これ。お土産のマドレーヌ。」
無理やり部屋の中に上がり込んだ西垣は、マドレーヌの箱を直樹へ押しつける。
「俺、甘いもの食べません。」
「奥さん、食べるでしょ?」
そう言って西垣は部屋をキョロキョロ見回した。
「奥さんは?」
「…買い物です。」
直樹はマドレーヌの箱をダイニングテーブルの上へ放り投げる。

「あ、お構いなく!お茶でいいから。」
「どうぞ。」
そう言って直樹が出したのは、ただの水。
「最近は東京の水もおいしくなったみたいですからね。」
西垣は黙って水を飲んだ。

「…結構キレイにしてるじゃん。」
相変わらず部屋を遠慮なしに、西垣は見回す。

「ふーん…あ、ここが寝室かあ。」
そして遠慮なしに歩き回る。
「ちょっと!」
寝室を覗く西垣を止める直樹。
「うわあ。ダブルベッドなんて置いてやんの!ここで琴子ちゃんと…ん!?」
西垣は叫んだ。
「ねえ!寝室…仕事場と一緒なの!?」
西垣の言うとおり、ダブルベッドの傍には直樹の机が置かれている。
「何か問題でも?」
寝室のドアを閉めながら、直樹は言った。
「だって…落ち着いて仕事できないし、琴子ちゃんだって眠れないじゃない!君が仕事していたら!」
その通りである。漫画家は締め切り前は夜中も机に向かう。寝室と同じ部屋だったら大変である。
「君さ、印税ガバガバ入ってるんだろ?もっと広い部屋に引っ越したら?」
西垣が言うのももっともで、この家は1LDKしかない。
「余計なお世話です。」
「だけど…。」

「ただいま!」
そこへ琴子が帰ってきた。
「入江くん、言われた筆買ってきたよ!あ、西垣先生!」
息を弾ませて琴子が顔を見せた。
「やあ、琴子ちゃん。すっかり新妻ぶりが板について。」
おだてる西垣。
「そんな!まだまだです!」
そして、そのおだてに乗る琴子。
「もうお帰りになるってさ。」
そして邪魔者を追い払う直樹。
「おいおい…。」
西垣は直樹を見る。直樹は澄ました顔をしたまま。

「あーあ。まったく儲かってるくせに!ありゃ節税対策もばっちりだな。会社組織にしてたりするんだろうなあ。」
追い出された西垣は、直樹のマンションを見上げて呟いた。

「ねえ、入江くん。」
その夜、ベッドに入った琴子が、机に向かう直樹に声をかけた。
「あのさ、私も手伝おうか?ベタくらいなら…。」
「お前は絶対手を出すな。」
直樹の一言に、琴子は「はあい…」とつまらなさそうに返事をする。
「…やっぱりもう少し、広い部屋に引っ越そうか?」
琴子が言った。
「入江くんが机に向かってお仕事しているのに、私だけ寝るのは悪いし…仕事部屋と寝室、二つ部屋があれば入江くんも集中できるでしょう?」
結婚した当初は、気を遣って、琴子はリビングのソファに寝ようとした。が、同じ部屋で寝ても仕事はできると直樹が言ってくれたため、こうやって同じ部屋に寝ている。

「いいよ、別に。」
琴子に背を向けたまま、直樹は答えた。
「お前、明日早いんだろ?」
「うん。ちょっと会議が…。」
「さっさと寝ろよ。会議中居眠りしないように。あ、お前は十分な睡眠を取っても居眠りするか。」
「…しないもん。」
これ以上しゃべって直樹の邪魔をするのも悪いので、琴子はベッドにもぐった。

「ったく…。」
夜中、直樹は寝相の悪い琴子に布団をかけ直しながら笑った。
「…広い家に引っ越すと、こいつの寝息が聞こえないからな。」
ずっと一人暮らしだったのに、結婚してからは琴子が同じ部屋にいないと、寂しさを感じてペンが進まなくなった。
だから広い家も借りたくない。どんな音楽もかなわない、直樹の仕事がはかどるBGMは、琴子の安らかな寝息だ。

そして、夜が明ける頃。
直樹は机の上にペンを置いた。仕上がった原稿を確認し、ため息をつく。今回も締め切りにはかなりの余裕を残して間に合った。
すると、両肩に手が置かれる。
「?」
「お疲れ様!」
いつの間に起きたのか、後ろから琴子が肩を揉み始めた。
「いつから起きてた?」
「ついさっき。見ていたらもう少しで原稿が上がるなって思って。」
不器用な琴子だが、肩揉みは上手だ。徹夜明けの疲れが癒されていく。
「気持ちいい?」
「ああ…。」
琴子は後ろから直樹の顔を覗き込んだ。お互い、どちらからともなくキスを交わす。
そして顔を離して笑い合う…。こういうことができるのも、寝室と仕事場が同じ部屋であることの利点だと直樹は思っている。が、他にも利点はもう一つ…。


「え!?」
琴子は突然押されて、すぐ後ろのベッドへと倒れ込んだ。
「な、何?」
押さえこまれた琴子は、自分を見下ろす直樹を驚いて見る。
「徹夜明けの疲れを癒して。」
「い、癒すって…。あ、あたし、今日朝早いって言ったよね?」
それには直樹はキスで返事をする。
「…どうせ居眠りしてるんだろ?」
「しないってば!遅刻しちゃうよ!」
「タクシー使っていいからさ。…どうせ使わなきゃいけなくなるとは思うけど。」
「…!」
途端に真っ赤になる琴子。
「…だから寝室と仕事場を別にするのは嫌なんだ。」
そう言って直樹はベッドへと潜り込んできた…。

結局、琴子は会議開始時刻ギリギリに会社にタクシーで乗り付け(とても歩ける状態じゃなかった)…会議は全て眠って過ごし、編集長に大目玉をくらった…。

「大変だな…会社勤めは。」
琴子が大目玉をくらっているころ、直樹はベッドの中で琴子が残していったぬくもりを感じながら、自由業の良さをしみじみと感じ、眠りについた。

琴子ちゃんの残り香を楽しむ入江先生



☆あとがき
ラブラブな二人が書きたいから、とっとと結婚させました(笑)
オチが決まってきた別ぺ…。
誰も聞きたくないとは思いますが、西垣先生はペンネームからわかるとおり、超甘党設定です(笑)
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こんばんは!

 こんにちは!

 『比翼の鳥』最終回を今朝読みました! ……パピーめ。パソコンを壊しよって!(恨
 ご馳走様です。今回も美味しかったです^^

 別冊ペンペン! もちろん、読んでましたよー(勉強はろくにしない癖に、こういうことはマメにチェックするやつなんです”笑
 自分もときどきしますね。飛躍(読者にこの間怒られてしまいましたが”照)
 一番ひどい話が。主人公とヒロインが生き別れの状態から小説が始って、色々あって、主人公死にかけます。ヒロインその場にいないはずなのに主人公の危機を気づいて遠くから魔術を使って助けます。
 主人公、感動の号泣。ヒロイン、早く助けにきてと牢屋から叫びます。
 普通に行けばそのあとは。
 よっしゃ、ヒロイン助けるぞー! 頑張るぞー!
 となり、最終的に魔王を倒し、ヒロインを助けて、二人はめでたく結婚。
 となるはずなのに。

 作者風邪気味。

 という悲劇がおこり。いざ治ったら治ったで、なぜか燃え尽きて書くのが嫌になり、強引に他の小説から主人公二人を持ち出し、強引にハッピーエンド強制終了させました。
 そ・し・た・ら。
 あっはっはっ。読者に殴られました(文章で)

 いえ、世間話兼下には下がいたことを自慢しに(蹴)

 別冊ペンペン、面白かったです^^ ご馳走様でした。有難うございました。

お熱-い 1LDK

人気漫画家の入江先生の住まいは何と1LDK!
以外にシブチンかと思ったら、なんと琴子がいないと
淋しいんですって!いいなー、琴子ったら、こんなに愛されて。
「会社勤めは大変だ!」って入江君、あなたが琴子を疲れさせた張本人でしょう(笑)
これからも、どんどん大変にしてくださいね(笑)

ありがとうございます

コメントありがとうございます。

暢気猫さん
とても面白そうなストーリーですね!!
ちょっと読んでみたくなりました!!
いえ、書いているうちに、飛躍したくなる気持ちはとてもわかります(だから時々やっているのですが)
別ぺ、読んで下さりありがとうございます。多分、もう少し続きます。
また遊びに来て下さると嬉しいです。

るんるんさん
シブチンに大笑いしました!!
きっと住まいにはこだわらずに、でもお金はしっかり貯め込んでいいると思います、入江先生(笑)
犠牲者は琴子ですね。でもこんな色っぽい姿を見せられたら…琴子はベッドから抜け出せないでしょう!
プロフィール

水玉

Author:水玉
『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
そっと見守っていただけたら嬉しいです。

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当ブログは、『イタズラなkiss』の二次創作をメインとしておりますが、時折管理人の趣味や日々の出来事についての記事も書いております。

原作者様や関係各位とは一切関係ありません。

二次創作については、いわゆる原作の隙間をぬった作品もありますが、主人公以外のキャラクターをメインとしたものや オリジナルキャラクターが出てくるものもございます。

そして、原作と違った時代(平安や明治やその他の時代を舞台にしております)、異なる設定(主人公を医者と看護師じゃない職業にしております)で書いてあるものが多いですが、原作を冒涜しているつもりは全くございません。

二次創作が苦手という方及び原作のイメージと合わないと思われる方はどうぞお引き取り下さいますようお願いいたします。

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